軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミスダンジョンコンテスト その1

「ミスダンジョンコンテストを開催しようと思っています!」

二ヶ月近く清流の湖階層を離れていた間に完成した、ムナミ親子が営業する新築の宿屋に連れてこられたかと思えば、唐突にそんなことを切り出された。

ムナミの顔が俺の体に触れる直前まで接近している。あれだな、目立ったところのない素朴なイメージがあったけど化粧映えしそうな顔だ。

そういや、ダンジョンの女性って化粧してないな。稀に口紅を塗ったりするぐらいだろうか。

「ムナミ近づき過ぎ!」

「ごめん、ごめん。で、集落に人が集まってきたことだし、新しい住民との親睦を深める為にもここで一発、大きな祭りでも開催したいわけよ。そこで考え出したのがミスダンジョンコンテストってわけ」

なるほど。以前大食い大会を開催して盛況だったから、良い考えだとは思う。

地方でやるイベントの定番だよな、大食い大会とミスコンは。それは異世界でも発想が似ているようだ。

熊会長も暫くはのんびりしてくれと言っていたから、それぐらいの余裕はありそうだ。

「い い か も」

そう、ここは乗り気で肯定してはいけない。「そういう考えもあるよね、まあ、いいんじゃないの」というスタンスで通すべきだ。

ここには、ムナミ、宿屋の女将さん、飲食店の店主数名、ラッミス、ヒュールミがいる。ミスダンジョンコンテストは男性陣にとって得しかないが、女性にとっては差別の対象だと思う人もいる。

なので、商売的にはありだと思うよ。というスタンスを貫かなければならない。

「それでね、少し手伝って欲しいの。前回の大食い大会は負担ばっかり掛けちゃったから、こちらからハッコンに金貨一枚……いえ、二枚支払います。それで、優勝者はハッコンから好きな商品を五十回分無料で購入できるってことにしたいんだけど、どうかな?」

それならこっちはぼろ儲けレベルの黒字だ、断る理由はない。ミスダンジョンコンテストにも興味があるから、協力は惜しまないよ。

しかし、ミスダンジョンコンテストって長いな。短く略して、ミスダンコン。

なんだろう、深い意味はないのだが違う種類のコンテストに思えてしまう。このままでいいか。

「いらっしゃいませ」

「ありがとう、ハッコン助かるわ!」

交渉成立となった。この異世界は美人が多いのでかなり期待できるな。

優勝候補はパッと思いつくだけで数名いる。だが、その人たちが参加するとは限らない。どうなるか楽しみにしておこう。

「ミスダンジョンコンテストか、シャーリィさんが優勝候補かもしんねえな」

「あー、そうだね。見た目もそうだけど、人前に立つの慣れてるから」

ラッミスとヒュールミがあれこれと意見を交わしている。

二人とも出る気は全くないようだが出ればいいのに。冗談抜きで優勝を目指せるだろうに。

「二人とも、他人事みたいに話しているけど参加してもらうわよ」

「はああああああああああああっ!?」

あ、二人の声が重なった。

見物する気満々だったようで本気で驚いているな。二人がムナミに詰め寄っている。

「いや、出ねえぞ、そんなもん!」

「うちもやだよ、恥ずかしい!」

「うーん、ここでの食事代一週間無料にするけど?」

「いーやーだー」

こういう時は同じ発言をするのか。流石、幼馴染と言うべきか。

「えー、ハッコンも二人の活躍見たいよね?」

くっ、そこで話を振ってくるのか。これはどう答えるのが正解か。

ラッミスは目を見開いて俺の言葉を待っている。ヒュールミは少し怒っているように見えるけど頬がほんのり赤い。

俺がここで肯定したら二人の性格だと出てくれる気がする。だけど、冷静に考えると二人を衆目に晒して競わせるのはちょっと嫌だな。自動販売機なのに独占欲があるのもおかしな話だけど。

否定すべきか肯定すべきか。ここは――

「ざんねん」

どっちとも取れる発言で誤魔化すことにした。普通に受け取るなら、二人が出られないのが残念という意味になりそうだが、俺の残念は「いいえ」という意味も含んでいる。

これで二人は自分の都合のいいように解釈してくれるだろう。後は二人の判断に任せるよ。

「それってどっちの意味なのかな」

「ハッキリしろよ、ハッコン」

あるぇ、詰め寄られたぞ。都合よく事は運ばないか。

「まあまあ、二人の活躍が見られなくて残念って意味だよきっと。でも、無理強いは良くないわよね、仕方ないかなー。そういえばぁ、シャーリィさんが優勝したら「感極まってハッコンさんに抱き付いて熱い口づけをしてしまいそうだわ」と言ってたけどぉー、二人は不参加決定っと」

「ちょっと待って」

いつの間にか手にしていた紙にムナミが何かを書きこもうとしたところを、ラッミスに止められた。

「ん、何かなーラッミス」

「う、うちもミスダンジョンコンテスト出るよ!」

顔真っ赤にさせてラッミスが参加を希望した。

俺に対しての独占欲と依存があるから、相棒が他人に奪われることを警戒しているからの行動か。これで惚れられているなんて思うのは素人考えだ。

何度もそんな素振りを見てきた気もするが、思い込んで恥をかくのは自分だからな。なんせ自動販売機ですから俺。

色恋沙汰について真剣に考えるのは人に戻ってからだよな。

「はい、ラッミスは参加決定っと。ここでの人気はかなりのものだから、優勝候補筆頭かもしれないわね」

ムナミは楽しそうだな。思惑通りに進んでいて笑いが止まらないといった感じだ。

「オ、オレも参加するぜ。最近、男を魅了する魔道具の開発もしていてな。それの情報収集を兼ねて現場の空気を直に経験しておくのも悪くねえだろ」

そっぽを向いて耳まで真っ赤にしながらヒュールミも参加を決めた。

おー、ヒュールミも出るのか意外だな。二人が出るなら全力で応援しないと。

「はーい、二人とも参加ね。うふふふふ、面白くなってきたわぁ」

ムナミ、もの凄くゲスい顔をしてますぜ。シャーリィさんの話、嘘だろ。

話が決まってからの行動が早かった。熊会長からの許可も速攻で降りたようで、幾らか出資もしてくれたそうだ。他の会長たちからも共同出資という形で渡され資金は潤沢らしい。

こんな状況だからこそ、楽しめるイベントは必要だと会長たちは考えたようだ。

そしてチラシの製作となったのだが、ここで俺がフォルムチェンジしたのがコンビニに置いてある〈コピー機〉だ。

学生時代に利用した人も多いのではないだろうか。俺も目ぼしい自動販売機マップや情報を何度かコピーさせてもらった。

その〈コピー機〉でチラシを大量に印刷して集落中に貼りまくっている。

俺の脇にも大量に置かれていて、買い物に来た人に〈念動力〉で配るのを忘れない。

「おっ、美人が集まるのか! マジ楽しみだな必ず行くぜ」

いつものように買い物に来たカリオスに勧めてみたら、予想通り過ぎる反応だった。こういうお祭り騒ぎが好きそうだなとは思っていたが。

「お前は彼女がいるだろ」

「そ、それとこれは別だろ。ほら、劇に役者を見に行くような感覚だ」

ゴルスの的を射たツッコミに、しどろもどろになって返している。

むしろ、道具屋の彼女に参加してもらったらどうだろうか。髪を上げると美人だったから、結構いい勝負できそうなのだが。

カリオスが言い訳をしながら立ち去っていくと、今度はツインテールお嬢様スオリがやってきた。

相変わらず、黒服の人たちがそこら辺に潜んでいるのだろう。

「ハッコンさん、お久しぶりですわ。この度、面白い企画を立ち上げたそうで、聞き及んでいますわよ」

集落中に広まりつつあるようで、にわかに活気づいてきている。

スオリはいつものオレンジジュースを買いに来たついでに情報収集したいのかな。

「わらわにもチラシいただけますかしら」

こっちが目当てだったのか。はいはい、幾らでも持って行ってくれ。

一枚を抜き取るとスオリの前まで運んだ。

「なるほど、女性であれば年齢は問われないのですね。優勝賞品はハッコンさんから無料で五十回分購入できると。一週間後に開催……わらわの商会からも幾らか出資させていただきますわ。では、当日を楽しみにしていますわよ」

彼女もここの住民として協力してくれるようだ。お金は幾らあっても足りないぐらいだからな。感謝しておかないと。

「ハッコンさん、先日はアレを大量に卸していただき、ありがとうございました」

今度はシャーリィか。イブニングドレス姿が凶悪に色っぽいですね。

豊かな胸元とすらりと伸びたおみ足を、今日も惜しげもなく晒している。

「そういえば、ミスダンジョンコンテストを開催されるそうで。私も参加予定なのですが、大丈夫でしょうか」

「いらっしゃいませ」

やはり参戦するのか。これは二人にとってかなりの強敵だぞ。

一筋縄どころか普通にやったら勝ち目はない。若さをアピールしていくしか手はないかもしれない。

「こういうお祭りごとは楽しいですよね。一住民として協力させていただきますわ。もし優勝した際に何処へ接吻して欲しいか考えておいてくださいね。ハッコンさんに口があれば良かったのですが」

妖艶に微笑み唇を舌で舐めて踵を返すと、思わず目がいってしまう豊かなヒップを揺らしながら去っていった。

あの話は本当だったのか。その唇でキスしてもらえるのか……それはそれでありのような……いや、俺は二人の味方だからな! そう、惜しいなんて思ってはいけない!

見物側としてはシャーリィさんの参加は喜ぶべきなのだが、ラッミスとヒュールミの優勝が遠のいてしまう。何とか勝たせてあげたいが、商品に何か力になれる物がなかっただろうか。

まだ日数があるのだから、じっくり調べておこう。