軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

露天風呂

あれから、一度も集落に戻ることなく老大木魔を目掛けて突き進んでいる。

食事は俺とキコユが担当しているので満足してもらえているようだ。といってもキコユが提供するのは、生で食べられる野菜や果物なのだが。

女性が多いので遠征の場合トイレ問題が出てくるのだが、俺は災害用簡易トイレを提供できるので重宝されている。

食べることも大切だが、こういったことも馬鹿にできないぐらい重要なことだ。

そんなことまで考える余裕があるのも、今までの行程が順調だからこそ。魔物に対してこちらの人員との戦闘力に差があるので、今のところ一度も苦戦をしていない。

戦力過多に見えるが、これでもあの巨大ビルディングに匹敵する老大木魔を、正攻法で倒せるかは怪しいそうだ。

今までに老大木魔が倒されたのはたった一回で、その時の戦い方を闇の会長に訊ねたのだが、表情は読み取れないというのに不機嫌になったのが即座に伝わってきた。

「何十年前やったかな、確かに一度だけ老大木魔は倒されたことがあるんや……大火災と引き換えにやけどな。火の魔法を多用して燃やし尽くしたそうやで。その結果、この階層の全てが燃え尽きて、十年ぐらい魔物も人もいない寂しい階層になってもうてな」

だから、この階層では火気厳禁を徹底しているのか。

一度焼け野原となった苦い過去があるから、魔物に対して火を使用した者は厳しく罰せられる。

大火災の前例を聞いた今となっては、誰も森林で火を使おうとは思わないだろう。

実際、食事に関しても普通は保存食を携帯して、森の中で火を使って調理する者は一人もいない。自動販売機の温かい商品は、そのこともあって重宝されている。

そんな状況で木々を伐採しながら進む日々も四日目となった。こうなってくると、切実な問題が出てくるのだ。

汗と体臭。

彼らは肉体労働で汗もかなり流している。俺が渡す綺麗なタオルを水で濡らして、身体を拭いているようだが、それだけでは限度がある。

髪の毛もミネラルウォーターで軽く洗ったりはしているようだが、やはり全身さっぱりしたいと誰もが考えてしまう頃合い。

そこで、仲間たちはお手製の風呂を作ることとなった。

魔物が徘徊する場所で風呂に入ることは並の神経では考えられないことなのだが、圧倒的な実力でねじ伏せている一行には些細な問題らしい。

特にやる気になっているのが女性陣だったりする。風呂となる木をラッミスが引っこ抜き、ヒュールミが斬るべき場所を指示して、ユミテお婆さんが見事な剣捌きで木材へと加工している。

そうして、出来上がった木材を組み立てて木製の浴槽を作りだした。大きさも相当なもので、十人ぐらいなら一度に入れる立派な物だ。

出来上がったそれは木々を伐採してできた道の端に置かれ、余った木材で森側に足場も作ってある。そこで体や頭を洗うつもりのようだ。

更に木材での壁も制作済みで、周囲から見られぬように配慮もされている。

木製の浴槽に注がれるお湯は〈温泉自動販売機〉になった俺が担当した。こうして、火を一切使わない安全なお風呂が完成した。

「おっし、完成したな。お前ら、覗いたら婆さんに三枚に下ろしてもらうから、それを覚悟してやれよ」

ヒュールミが男性陣に釘を刺したのだが、誰もが平然と頷いている。

残っている面子が、熊会長、ヘブイ、お爺さん、闇の会長、大食い団の残り三名となっているので、正直、覗きをやりそうな人が全くいない。

というか人間がヘブイとお爺さんだけで、お爺さんは歳だし、もう片方は靴以外に興味がないので覗きの心配はなさそうだ。

「しかし、覗きを考える不逞の輩がいるかもしれませんので、私が見張りに立ちましょうか。神の名に誓って覗きはしないと誓いますので。ええもう、女性の裸体なんて微塵も興味ありませんから」

聖職者として立派な宣言だと思われそうだが、全員が胡散臭そうにヘブイを見ている。

女性陣の足元を見ながらの発言じゃなければ、もう少し説得力があっただろうに。

「見張りは大丈夫ですよ。ボタンと黒八咫がしてくれますから」

空から舞い降りてきた黒八咫が壁の上に着地すると、三つの目が俺たちを睥睨している。

眼光鋭く知的な瞳が、どんな些細なことも見逃さないと語っているようだ。

ボタンも女性陣が着替える場所の手前で座り込んでいるので、覗きの防衛としては完璧な布陣だろう。

「じゃあ、ハッコンも行こうね」

ラッミスがそう言って俺を抱き上げると壁の向こう側へ運んでいく。

あれっ、俺は同行するの?

「タオルとか体洗う道具を出してもらわないと。それに風呂上がりの一杯は大切だよ」

ああ、なるほど。以前、共同浴場でも女性の脱衣所で物品の販売を担当した実績がある。その時はシャンプー、トリートメントが飛ぶように売れたし、風呂上がりの牛乳やスポーツドリンクも大好評だった。

それに俺は自動販売機なので風呂場に存在していても何ら不思議ではない。

壁の向こうには木製の足場があるので、そこでみんなが着替えを始めようとしていた。

先にお風呂に入るのはラッミス、ヒュールミ、シュイ、お婆さん、キコユ、スコとなっている。

普通の一般的な男性なら、お風呂シーンを想像するだけで興奮しても仕方がないメンバーが取り揃えられている。

立派な胸部を所有している、ラッミス。

全体的にバランスのいい身体つきの、シュイ。

寂しい胸もそれはそれで需要のある、ヒュールミ。

一部の特殊性癖の人には人気が出そうな、キコユ。

熟女というには熟れすぎているが、そっち系のマニアも存在するらしい、ユミテお婆さん。

お風呂に入る動物担当、スコ。

選り取り見取りのラインナップだ。

「久しぶりの風呂か楽しみだぜ……って、ちょっと待てよ」

黒衣を脱いで内部に着込んでいた薄い布切れに手を掛けようとしていたヒュールミの動きが止まり、目を細めて何故か俺を凝視している。

「つい違和感なく勢いで脱ぎかけたが、何でハッコンがここにいるんだ」

「えっ、だって、タオルとか泡が出て綺麗になる液体とか使うでしょ?」

既に下着一枚のラッミスが首を傾げている。

そうだね。何もおかしくないね。

風呂上がりに冷たい飲み物も提供するよ。ほら、コーヒー牛乳とか最高だよ。だから、何も不自然じゃないよ。

「いや、そうじゃねえよ。それなら、先に買っておけばいいだけだろ。ラッミス、忘れているだろ。ハッコンの中には人間の男の魂が宿っているんだぞ」

ちっ、そこに気づくとは流石と言っておこうかヒュールミ。

別に女性の裸体が気になる訳でもないし、こそっと録画して後で楽しもうなんて思いもしていない。ええ、もう、全く。

「あっ、そうだった……でも、ハッコンに見られるなら、うちは平気だよ」

そう言って下着姿で堂々とメリハリのあり過ぎる体を晒している。

スコは全く気にもせず全裸――まあ、上着を一枚脱いだ姿でお湯を浴びて俺から購入したシャンプーで全身を洗っている。泡だらけの姿も可愛らしくてグッドだ。

お婆さんも俺の存在なんて気にも留めてないようで、全裸で商品を購入してスコの隣に並んで座っている。

「二人とも何しているっすか。一応、敵のいる森の中っすよ。時間そんなに掛けてられないっす」

シュイも一糸まとわぬ姿で声を掛けてきたのだが、何故か俺の前にすっとラッミスとヒュールミが移動して視界を遮られてしまった。

「お、おう、直ぐに脱ぐぜ」

「うんうん」

シュイは踵を返し、お湯を一回浴びただけで浴槽に入ろうとしたところを、お婆さんに止められて、全身泡だらけにさせられている。二人が邪魔で良く見えないが。

「えと、じゃあ、脱ぐよ」

「まあ、オレもハッコン相手なら別に平気だけどよ……」

あれ、何で顔を赤らめてこっちをチラチラ見ながら下着に手を掛けているのだろう。

な、何だこの駆動音の高鳴りは。照れながら服を脱ごうとする姿というのは、ここまで心が揺さぶられる効果があるというのか。

別に自動販売機が興奮したりはしないのだが、しないのだがこのシチュエーションは危険すぎる。久しぶりに自分の中の男の本能が目覚めそうな気がしなくもない。

下着姿になったヒュールミと既に最後の一枚となっているラッミスが下着に手を掛けた。

「あれっ、あっちの方、赤くないっすか!」

最後の砦を取り払う直前、シュイの叫ぶ声が響き、全員が指差す方向に視線を向ける。

ああもう、惜しいところでっ! じゃない、赤いって何が。

遅れて俺もそちらに目を向けると、確かに赤い光が飛び込んできた。

あれは、森が燃えているのかっ!

どういうことだ、誰かが森に火を放ったとでもいうのか。いや、森に入ったハンターは俺たちだけだし、後から追ってきたとしても誰にも抜かれていない。

異変中に森に入ったハンターがいたとしても、凶暴化した森の魔物たち相手に無事でいられるとは思えない。どういうことだ、何故、森が燃え盛っているんだ。