軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヘブイ式尋問

「ところで、今、そやつは何処にいるのだ」

「大丈夫ですよ、熊さん。黒八咫が上空から見張っているので」

キコユが既に手配していたようで、見上げた視線の先には天空を優雅に舞う、黒い翼を広げた鳥がいた。

人並みに頭が良くて空から偵察も可能な黒八咫は重宝する存在だな。

ちなみに、キコユの心を読む能力は黙っていた方がいいとの結論に達したので、その能力を知っているのは俺と熊会長とヒュールミのみとなっている。

『ハッコンさん。今のところご飯を渡した相手で、他に冥府の王と繋がっている人はいないようです。ただし、意識的にそのことを考えないようにしていたら別ですが』

彼女の能力を明かさない理由のもう一つが、他にも内密者が紛れ込んでいないか探したかったからだ。

信じたいとは思っているが、愚者の奇行団だったシュイとヘブイは未だに接点がある可能性は捨てがたい。彼らが団を抜けたふりをしているだけ、と疑い始めるとキリがない。

そこで、キコユに二人の内面も探ってもらった。

『シュイさんは、ご飯のことばかり考えていました。ヘブイさんは、靴ばかり気にしていました』

汚れた大人の心を読ませて、申し訳ない!

一応、大丈夫ってことなのだろうか。二人の場合、欲望の心の声が大きすぎて参考にならない気もする。

キコユの力により親しい人物に敵側が一応いないことが判明した。

「場所がわかり次第、捕縛してヘブイとキコユに尋問を頼みたいのだが、構わないだろうか」

「はい、構いませんよ。幻覚と幻聴で情報を聞き出すか、心を揺さぶれば良いのですね」

「私も加護の力でお手伝いします」

キコユの能力については詳しい説明はしないで、ぼかしておくことにしてもらっている。

二人の了承を得たことにより、捕縛後の尋問方法が決定した。

後は捕まえるだけとなった。こういった場合は全員で取り囲んで一気に捕縛するのが妥当なのかな。

「捕まえる役目はまかしてもろてええかな。わいんとこの不祥事やさかい。キッチリ落とし前はつけさせてもらうで」

黒過ぎて表情が全くわからないが、声からは秘めた怒りを感じる。

闇の会長としては自分で後始末をしたいのだろう。

「それは構わないが、できることなら何があったかわからないように気絶させて欲しい」

「了解や。即効で昏倒させたるわ」

ギャグを挟まないぐらい頭にきているのか。

着ている金色のコートが闇の会長の中に吸い込まれたかと思うと、姿が沈んでいき地面に黒く丸い影だけがそこにあった。

これが闇人魔の能力なのだろう。そのまま裏路地の方へスーッと移動したかと思ったら、直ぐに足元へ戻ってきた。

「あのー、場所は何処でっしゃろ」

ああ、うん。まだ場所教えてなかったよな。

「ちょっと待ってくださいね」

キコユが人差し指と親指を丸くして口に入れ、指笛を鳴らした。

黒八咫が上空で一度旋回すると舞い降りてきた。

「お疲れ様。何処にいるか教えてね」

労わるように体を撫でながら、心の声を聞いているようだ。

「ありがとう、黒八咫。ええと、場所を伝えますね」

黒八咫に教えてもらった場所の特徴を伝えると一発で理解できたようで、闇の会長が今度こそ裏路地に消えていった。

「うちの偵察や情報収集を一手に担ってきた男だ。任せておいて問題はない」

同じ団に所属していた三人が一切の躊躇なく送り出したことが、闇の会長の実力の証明になる。

待つ間にまだ食事をしていない熊会長たちへ食事を提供しておこう。

暫く待っていると影のまま闇の会長が帰ってきたので場所を移すことにした。

大食い団を除いた知り合いが全員付いてくることとなったのだが、正直な感想を言えば尋問にそんなに人は必要ないと思う。

大所帯で人気ない道を進んでいるのだが、ちらほら木が生えているだけで人が出てくることはない。

要領よく捕まえたという話なので、何処かに縛って置いてきているのだろう。

五分程度で到着した場所は小さな丸太小屋で、全員が入るのには狭すぎる。

「ちょっと待ってやー」

影状態だった闇の会長が人型に戻ると、小屋の床の一部を持ち上げた。

この世界では床下収納ならぬ、床下部屋が流行りなのだろうか。

「この下の部屋は防音にも優れててな、何しても大丈夫やでー」

尋問に適した隠し部屋になっているようで、闇の会長が下りて行くと、みんな後に続いている。

薄暗い階段を下った場所には古ぼけた木製の扉があり、それを押し開けると中は学校の教室ぐらいの大きさだった。

でも、肝心の指揮官がいない。何もない殺風景な部屋なので見落としはない。どういうことだ。

「全員部屋に入ったようやから、出しまっせ。うおおおおぇ」

わざとらしい嘔吐をイメージさせる声を出すと、闇の会長の中から黒い縄で縛られた女性が出てきた。

あの闇の中って人も収納できるのか、便利な身体だな。

俺は異世界に肩までどっぷり浸かり過ぎてしまったようで、思ったよりも驚かずに済んでいる。

「眠り薬でぐっすり眠っとるから、卑猥なポーズさせたり、顔に落書きでも好きにしてや。ほな、この後は任せたで」

薬が良く効いているようで、床に投げ捨てられたというのに全く起きる気配がない。

「では、私の感覚操作で触覚や痛覚を消して、他の感覚も少し弄って夢だと錯覚させましょう。視覚も変更させて冥府の王が見えるようにしますか」

「触覚が消えているなら後ろに回って、体に触れていてもばれませんよね」

気を失ったままの女性を床に座らせて、闇の会長の影が体に纏わりつくことで、その体勢を維持している。

その後ろにキコユが回り込んで背に手を当てている。

「ならば、我々は出た方が良いか」

「それは大丈夫です。冥府の王の幻覚しか見えませんので」

改めて思うのだが〈感覚操作〉は便利な加護だな。精神力が下回る相手でなければ効き目が薄いそうだが、ヘブイはかなりの実力者なので大概の相手には通用するらしい。

あと単純で素直な性格な人も操作されやすいそうだから、ラッミスは注意した方が良いかもしれないな。

「では、始めますよ。聴覚は生きていますので声は控えてください」

静かになったのを確認すると、ヘブイが女性の額を軽く指で叩いた。

すると、起きたようでゆっくりと瞼を開き寝ぼけ眼で正面を眺めている。

だが、徐々にその目は見開かれていき、驚愕のあまり大口を開けているのだが、身体は全く動いていない。

「今、お前の夢に直接語り掛けている。我の顔は理解できるか」

「は、はい。冥府の王……様ですよ……ね」

よっし、上手くいっているようだ。怯えながらも感覚がないので夢だと解釈したのか、少しだけ、落ち着きを取り戻している。

「理解しているようだな。では、我らからの依頼をした時の状況と内容を、一言一句違わず復唱してもらおうか。その程度のことも覚えていないようなら、指揮権の変更も考えねばならぬ」

「は、はい!」

ちょっと強引な話の持って行き方にも思えたが、すっかり信じてくれている。この調子なら全て聞きだせそうだ。

「え、ええと、あれは二ヶ月ほど前でした。人間の姿で私の前に現れて、提案を持ちかけてくれました。言うことを聞いて手伝えば、ギャンブルで作った借金を全て返済して、更に一生遊べる金をくださると」

冥府の王は人間の姿にも化けられるのか、これは覚えておかないと。

しかし、目立たない外見で大人しそうにも見えるのに、ギャンブルの借金があったのか。人は見かけによらないな。

他の階層の指揮官も同様のことを口にしていて、昔から冥府の王の仲間だった者は誰一人としていなかった。

金や欲望を満たす代わりにここ一年以内で仲間になった者ばかりで、彼らから冥府の王の詳しい情報は得られていない。

「その提案の内容は」

「はい! ハンターとして防衛を手伝いながら、この指輪で魔物たちに攻める命令をしろと。これを付けている限り私が襲われることが全くないと仰っていました」

これも既に知っている情報だ。やはり、貴重な話を指揮官から聞くとはできなさそうだ。

現場の人間を雇うことで自分の尻尾を掴ませないようにしているのか。どうりで、有能な指揮官に一度も遭遇してない訳だ。

「思い出せることはそれだけか」

「は、はい。あっ、そうだ! 二週間ぐらい前だったと思います。新たに雇われた愚者の奇行団の団長たちと会いました。ある人物を探しているそうで、ダンジョン攻略には必須の存在だそうです」

おっ、これは新しい情報だ。団長たちはこの階層に寄っていたのか。

探している人物については心当たりがある。残りの団員二名だろう。

「その人物はこの階層にいたのか」

「い、いえ、特徴を聞いたのですが、この階層にはそんな人がいなくて。それを伝えると直ぐに帰っていきました」

ここでは見つからなかったと。一先ずは安心だが、彼らは階層を自由に行き来できるのであれば、先に団員を見つけられる可能性が高い。

それから幾つか質問をしていたが特に役立ちそうな情報は得られることなく、尋問も終わることになった。

「最後に一つ、その靴を脱いでみてくれないか」

おい、冥府の王の姿で何を言った今。

「えっと、靴ですか。夢の中なので体が思ったように動かなくて」

「それでは、わしが自ら徐々に香りが溢れ出すよう、慎重に脱がしてやろうでは――」

そこで言葉が途切れたのは、後頭部にシュイが蹴りを入れたからだ。

冥府の王の姿で蹴りの一発で倒れる姿は、中々に情けないものがある。

「えっ、冥府の王さ……ええっ! 誰よ、あんたたちっ!」

今の衝撃で〈感覚操作〉が切れたのか。

取り乱し叫んでいた女性だったが、床から伸びた影が人の形となり金色のコートを着込んだ時点で、顔面蒼白となり黙り込んでいる。

「お前さんはギャンブル好きで危なっかしいところはあった。けどな、わいは信じてたんやで。前に金貸した時、泣きながら二度とギャンブルはしないって口にした言葉を……ほんまに、信じてたんやで」

胸に詰まった感情を吐き出すように囁く言葉を聞いて、女性が力なく項垂れた。

後味の悪い結末だが、これで指揮官の問題は片付いたな。

残りは階層主によって木に変えられた住民を元に戻すだけか。