軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

動物楽園

「こちらの自己紹介は豊豚魔を片付けてから、させてもらうとしよう」

熊会長は俺を地面に置いたので、元の自動販売機に戻っておく。

「えっ、あれっ、形が変わりました?」

「詳しい説明は後でするが、そういう魔道具だと思っておいてくれ。自我もあり、会話も通じる頼もしい仲間だ」

「そうなのですね。初めまして、魔道具さん」

この子は見た目の割にしっかりとした話し方をする。六歳児ぐらいに見えるのだが、実際はもう少し年上なのかもしれない。

「いらっしゃいませ」

「わあ、お返事してくれたぁ」

無邪気な笑みを見せて、好奇心溢れる瞳が俺を見つめている。

こういう反応は子供らしいな。

「あ、ええと、熊さんは後ろの魔物をお願いします。こっちの魔物は黒八咫とボタンで充分ですから」

この二匹の動物で豊豚魔を相手にするというのか?

ボタンという名のウナススは見るからに強そうだが、あのクロヤタと呼ばれた三本足のカラスはどうやって攻撃するつもりなのだろう。

そんな俺の心配など嘲笑うかのように、クロヤタは上空から舞い降りてくるとボタンの背に乗っかった。そして、迫る豊豚魔に向けてその口を大きく開く。

「耳を塞いでください!」

「キュルクワアアアアアアアアアアアアアア!」

な、な、な、何だこの鼓膜があったら破れてしまいそうな、爆音の鳴き声は!

放たれた鳴き声は音波となり前方にいた豊豚魔たちを襲ったようだ。

耳を押さえ仰け反り、その手からは血が溢れ出ている。鼓膜が破れたのかもしれない。

平衡感覚を失いふらついている豊豚魔たちを跳ね飛ばし、角で貫くボタンがいる。その背には、クロヤタが羽で腕組みをしたまま乗っかり、胸を張っていた。

あんなに激しく動いているのに、よく振り落とされないものだ。

まともに動くこともできない豊豚魔に避ける術はなく、ボタンにあっさりと蹂躙されている。動けない相手だとはいえ、あの肥えた腹を容易く貫き、接触した相手を数メートルも吹き飛ばす力。

それに音波攻撃をする三本足のカラス。

この二体、突然変異の動物なのだろうか。人間にも個体差があるように、この世界では動物も強さに差があるのかもしれない。

十以上の豊豚魔がいたにも関わらず、三分もかからず倒しきった。もしかしなくても、助けに入らなくても余裕だったのでは。

熊会長も敵をあっさり倒した動物たちの活躍に、目を見開き驚いている。

「魔物を圧倒するウナススとキリセなど、聞いたこともないが」

「この子たちは特殊なのです。ある方の力で強くなった、とても優秀で優しい子たちです」

ある方というのが気になるが、その言葉を口にした時の優しい目を見ていると、悪い人だとは思えないな。

魔法か何かで強化された存在という認識でいいのだろうか。

こちら側の完全勝利となり、お互いの情報交換をするには死体が転がっているここでは落ち着かないだろうと、熊会長が移動することを提案したのだが、少女は頭を軽く左右に振った。

「この死体なら処理しますので、暫くお待ちください」

そう言って少女は背負い袋から丸い土の球を取り出した。ボーリング玉ぐらいの大きさで、愛おしそうに抱えている。

その玉を豊豚魔の死体に近づけると、すっと玉の中に死体と飛び散っていた血が吸い込まれていく。どう見ても玉の大きさよりも豊豚魔の死体の方が大きいのだが、そこは魔法や加護がある世界なので、突っ込むのも野暮な話か。

全部の死体を処理し終えると、少女は土の球を軽く撫でながら戻ってきた。

「その、土の球は一体……それに、お主のような少女が何故、こんな場所にいるのだ」

「お答えしてもいいのですが、皆様がどなたであるのか、お教え願えませんか。そこの魔道具さんも」

そういや、こっちは名乗っていなかったな。熊会長がどう判断して答えるのか期待させてもらおう。

「これは失礼した。清流の階層でハンター協会会長をさせてもらっている者だ。こっちはハッコンと呼ばれている。硬貨を入れることにより商品を得ることができる魔道具だ。人の魂が宿っておる」

素直に受け答えをすることにしたのか。じゃあ、俺も定番の挨拶をしておこう。

「いらっしゃいませ」

「なるほど。人の魂が魔道具に宿っているのですね……ふふ、あの方に少し似ています」

あれ、不思議がるどころか笑っている。あの方と似ているって、その人も自動販売機マニア……なわけないよな。どういうことだろう。

「では、こちらも改めて自己紹介させてもらいます。私はキコユと言います。そして、白いウナススがボタン。黒いキリセが黒八咫です」

「ブオー」

「クワッカ」

二匹が頭を振って返事をしている。少女の命令に従っていたことといい、かなり頭のいい個体のようだ。

「私たちはある情報と解決への糸口。そして、あの方の欠片に力を与える為にこの場所にやってまいりました。迷路階層は魔物が豊富で、宝箱から役に立ちそうな魔道具が見つかる可能性もありましたので」

この子は危険を承知で迷路の中へ進んだのか。この動物二匹を引き連れて。

さっきの戦いぶりを見た限りでは、かなり強い個体なのは理解できる。上空はクロヤタ、地上はボタンが担当しているので、そう簡単にはやられないと思う。となると、この少女も何かしらの力が備わっているのだろうか。

「私の力は微量な冷気を操ることと、気配を消して移動することぐらいですよ」

へえーそうなんだ。完全に気配を殺せるなら、戦闘を任せて自分は隠れていれば済むのか。

「ええ、そうなのです。黒八咫とボタンにはいつも助けられてばかりです」

この子はさしずめ動物使いといった感じなのだろうか。

「動物使いではありませんよ。この子たちは自分で考えて理解する知能があります。私は一方的に助けてもらっているだけです」

「キコユよ。お主、誰と話をしておるのだ」

熊会長が訝し気にこっちを見ている。誰って、俺と会話……えっ、そういや今、声を出していないのに、キコユは返事していなかったか?

そう思いキコユを見てみると、俺の体に手を添えた状態で笑みを返した。

「私は触れた相手の心の声を聞くことができますので」

マジですか……。念話の逆バージョンみたいな感じなのかな。

「マ、ジ、ですよ」

屈託なく笑いながら俺の質問を肯定した。

「って、勝手に心の声を読んでは失礼でしたね。すみません」

手を離すと深々と頭を下げている。

「い い よ」

切り返しと冷静な対応、この子は見た目より年上な気がする。フィルミナ副団長も見た目と年齢が違っていたから、同じように人型の別種族で年齢が異なることも考慮しておこう。

「こちらの事情をお話するのは問題ありませんが、私の質問にも答えていただけませんでしょうか」

何か目的があると口にしていたから、ハンター協会の会長であることを知っての交渉なのか。

「ああ、それは問題ない。こちらが提供できる情報ならだが」

「はい、ありがとうございます。どうせなら、ご飯を食べながらお話しませんか」

食事なら俺の出番だな。一ヶ月もずっと迷路にいたのなら、食料があったとしても保存食ばかりだっただろうから、美味しそうなものを選んで食べてもらおう。

「お礼に食べ物はこちらから提供しますね。少し待ってください」

えっ、いや、俺が出すつもりだったのだけど。

キコユは荷台の中から大きめの植木鉢を取り出すと、その中に抱えていた丸い土を入れている。

何をしているのかさっぱりなんだが、興味があるから黙って見守っていよう。

更に荷台から口を紐で縛った袋を取り出すと、種を取り出して埋め込んでいる。そして、土の上に手を添えると、土が変色している。湿っているのか?

って、今から植物を育てるつもりじゃないよな。え、ここから数日待ったら熊会長飢え死にする……んっ!?

土からあっという間に芽が出て、驚いている間に蔓が伸びて実がなり、パンパンに膨らんだサツマイモが幾つも連なっている。あっという間に五十以上の実がなったぞ。

テレビで植物の成長を早送りで流していた番組と似た映像がリアルタイムで見られるとは。これって、加護の力なのだろうか。急成長とかありそうだよな。

「これは、一体どういうからくりなのだ」

「この畑さんの欠片は、先程のように魔物を養分として取り込むだけではなく、種を植えて水を与えると、このように急成長させることも可能なのです」

説明しながら簡易コンロを設置してその上に、砂利を敷いた土鍋のような物を置いている。そして、サツマイモにしか見えない植物を砂利の上に並べて、火を焚いて蓋をした。

ところで、畑さんの欠片ってなんだろう。

「焼き上がるまで暫く待ってくださいね。ボタンと黒八咫はもう食べていいからね」

二匹は生のままでがつがつと食べている。しかし、生野菜だというのに美味しそうに食べるな。俺が生身なら涎が垂れそうな食べっぷりだ。

「食事しながらと言いましたが、火が通るまでに時間がかかりますので、私たちが何者であるのか、それと目的をお話します。信じられないような話だと疑いになることでしょう。ですが、全て真実です」

少女がそう口にすると食事をしていた黒八咫とボタンが食べるのを止めて、彼女の隣に並び座っている。

一体、少女が何を伝えようとしているのか。俺は一言一句逃さないように意識を集中している。

「これは、とても優しい畑の物語です」