軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

米と心

帰り道は一度の戦闘もなく集落へ無事戻ることができた。

バリケードをラッミスが押しのけて入ると、残っていたハンターたちから歓声が上がる。

「おおおおー! どうでしたか!」

「その担いでいるのはっ?」

詰め寄ってくるハンターたちへ、団長が腕を伸ばして制す。

全員が黙ったのを確認してから大きく息を吸い込み、待ちかねているハンターたちに大きな声で言い放った。

「こいつは指揮官だ。目的は達成したぞ!」

途端、集落が揺れているのではないかと錯覚するほどの歓喜の声で満たされていく。

俺たちは始まりの階層で起こった惨劇を詳しくは知らない。だけど、想像はつく。

清流の湖階層と同じく凄惨な状況を乗り越えてきた、彼らの平和を取り戻せた実感と喜びが爆発している。

ケリオイル団長は捕えた指揮官の女を牢屋に閉じ込めてくると、副団長、紅白双子を引き連れて監獄へと向かっていった。

彼らと入れ違いで現れたのは真っ赤なスーツが目立つ、始まりの会長だった。

「諸君、よくやってくれた! ハッコン、すまないが宴用の料理と飲み物を提供してもらえるだろうか。必要経費は全て私が出す」

「いらっしゃいませ」

もちろんだよ。自動販売機の本来の役割はそっちだからね。

今日はアルコールも出して大丈夫だろう。あとは酒にあう食べ物か。から揚げは外せないとして、焼きそば、たこ焼き、枝豆、フライドポテトとかになるか。そうなると、冷凍食品メーカーの自動販売機無双だな。全部取り揃えてあるからな。

お酒を提供する居酒屋に、このメーカーの自動販売機置いたら結構売れそうな気がする。

〈自販機コンビニ〉になることも考えたのだが、今日は何度も変化したので残り時間が微妙だな。止めておこう。

バリケード近くの広場に机や椅子が運び込まれて、俺が提供する料理が次々と並べられていく。お酒も行き渡り宴会が始まったのだが、俺は飲食ができないので飲食料品を取り出しては机に並べている。

新鮮なサラダが食べたいとヒュールミが言っていたので、俺が野菜の自動販売機になって何種類もの野菜を並べると、ラッミスが手早く調理してくれた。

野菜は幾つか余った状態で長机の上に置かれている。あと、料理を提供すると伝えると何を勘違いしたのか、大鍋を持ってきた人がいて必要がないことがわかり、ここに置いて宴会を楽しんでいる。

鍋、包丁、まな板、それに野菜があるのか。ちょっと暇だし、前から試してみたかったことをやってみるか。

まずは以前に取った機能なのだが全く出番のなかった〈お米自動販売機〉に変化する。

炊き立てのご飯を彷彿とさせる真っ白の体の上部には、十キロと五キロのお米が並んでいる。その下にはご飯が盛られたお茶碗の絵がある。

異世界で米ブームを起こす為に選んだ機能なのだが、異世界では米が食べられていないらしく、どうやって調理するのか理解してもらえなかったのだ。

だが、今なら〈念動力〉があるので自ら調理することも可能……だと思う。試してみる価値はある。

米の種類も商品の欄から選べるのだが、今回は五キロのコシヒカリ無洗米を選ぶ。

無洗米なら米を研ぐ必要もないので手間が省ける。

取り出し口から五キロの米を持ち上げて、鍋の隣に運ぶと地面に置いて上部を開く。そこにカップ用の自動販売機から拝借した紙コップを入れ、すりきり一杯まで米を入れる。

そして、それをお鍋へと移していく。

いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、ひーち、はーち、きゅう、じゅう。こんなもんでいいか。

さて、ここからだが。普通に白米を炊いても面白くないので、炊き込みご飯にしよう。

具材で使えそうなのは、しめじは千切るだけなのでいけそうだな。あと、ゴボウも入れたいところだが、包丁が使えないので断念するか。大根も同じ理由で却下だな。

しめじだけじゃ、あまりにも寂しいから他に具材は……あー、以前おでんで利用した、お土産用の竹輪入れよう。

鶏肉も入れたいところだが、から揚げの衣を外して入れるのはやりすぎか。

今回は実験なので具材は寂しいが先に進めよう。あとは、これも前に使用したペットボトルのアゴ出汁を使って炊くか。水で薄めて、量もちゃんと測って調節をして完成だ。

さて、これをどうやって炊くか……。実際にガスを使って土鍋でご飯を炊くのは、よくやるのでやり方はわかるのだが、どうやって火にかけるかが問題だ。

ここから先は一人では無理か。助力を頼もう。

「ねえ、ハッコン。それって何?」

集中しすぎていて周りが見えていなかったようだ。聞き慣れた声を聞いて視線を向けると、ラッミス、ヒュールミが覗き込んでいた。

「何か黙々とやってるから声を掛けられなかったんだがよ、料理だよな?」

見ての通り料理だね。

「鍋に浮かんだ食材がどんどん入っていくから、魔法の儀式みたいだったよ」

そうか。第三者視点で見たら、不可思議な光景に見えるよな。

誰も手を触れていないのに、紙コップが浮かんで米を流し入れて、シメジと出汁まで鍋に飛び込んでいけば、ちょっとしたホラーかもしれない。

「り よ う り」

簡潔に答えておいた。

二人がいるなら手伝ってもらおうかな。俺じゃ、この後がどうにもならない。

「て お か し て」

「お ね が い」

「うん、いいよ。何すればいいのかな」

「おう、構わねえぜ」

二人が快く承諾してくれた。

〈念動力〉を覚えてから、何でもできるようになった気がしていたが、まだまだ仲間の助けが必要だな。自分の商品だけしか動かせないので調理となると厳しい。

手伝ってもらえるなら、あれが使えるな。久しぶりに〈ガス自動販売機〉になってみることにした。八本足鰐の腹の中、以来の出番だな。

銀色の古びた四角い箱から伸びるガス管の先には簡易コンロがついている。

「お い て」

「この変なのに置いたらいいのか」

「う ん」

結構大きな鍋なのだが、俺を背負えるラッミスには楽勝で軽々とコンロの上に置いてくれた。このコンロも俺が出した物だから商品扱いできそうだな。

前は〈念動力〉を得ていなかったのでコックを捻って火を付けられなかったが、今ならやれる。

コックを押してから捻ると、火花が散ってバーナーに火が灯った。

「お、これは火を出す道具だったのか。こんなこともできるなんて、ハッコンは芸達者だな」

ヒュールミが屈みこんで、コンロの火をまじまじと見つめている。

ただ火をつけるだけのコンロでも、魔道具技師である彼女の好奇心を刺激するようで、目を輝かさせて俺の体やコンロを観察している。

じろじろと見られると少し照れるな。

火を弱火にして暫く放置するか。あっ、蓋しないと。

「の せ て」

そう言って、空になったアゴ出汁のペットボトルを操り、鍋の蓋を叩く。

「これだねー」

「ありがとう」

よっし、米を炊くときの基本は初め弱火だ。これで火加減さえ間違えなければ、美味しい炊き込みご飯ができる……と思う。

我が家でやるときは三合だったから、これだけの量となると不安だけど、少々焦げてもそれが美味しかったりするから大丈夫だろう。

最後の方は手伝ってもらったけど、簡単な料理なら何とかなりそうだ。

「でも、ハッコン、何で急に料理始めたの?」

「そういやそうだな。食べ物なら幾らでも出せるだろ」

二人が疑問に思うのも当然か。何故かそれは決まっている……何でだ?

ただの思い付きでやってみただけだが、そうだよな、別に料理できなくても何も困らない。むしろ、炊事もこなせる自動販売機っておかしいだろ。

生前は自動販売機の商品を買い過ぎて、いつも金欠だったから安上がりの料理は得意だった。その時の習慣で料理がしたくなっただけなのかもしれない。

「あ、ぶくぶくなってるけど、これ大丈夫なの?」

っと、考え込んでいる間に火が通り始めたか。蓋が揺れて隙間から白い泡が膨らんでは破裂している。火加減はこのままでいけるか。

「う ん」

「こ の ま ま」

暫くしてから火を消して蒸していると、いつの間にか多くの人に取り囲まれていた。

「ひっく、良い匂いだな……」

「お、何やってんだ。食わしてくれよぉ」

「ハッコンの新商品か」

匂いに釣られて酔っ払いが集まってきたのか。

嗅覚が無いので匂いがわからないのが辛いが、これだけ引き寄せるということは炊き立ての香りが食欲を刺激しているってことだよな。

よっし、じゃあ、蒸らし具合もいい感じだし、配るとしますか。

「あ、お椀もってくるね」

「オレも手伝うぜ」

二人が用意してくれたお玉でご飯をよそっていく。

ちゃんとおこげもできているな。炊き込みご飯の美味しさは、ここに集約されているといっても大げさではないと思っている。

「くはあぁ、うめえなこれ!」

「あったかいし、旨いし、腹も膨れるし、最強じゃねえか」

お、大好評だ。大食いが多いハンターなのであっという間に残り僅かとなった。

まだ食べていなかった、ラッミスとヒュールミにも渡すと、二人とも美味しそうに頬張っている。

あ、何だろうこの感覚。今、凄く幸せだ。

自動販売機の商品を喜んで購入してくれた時も嬉しかったが、自分が手を加えて調理した物を食べてもらえるのが、こんなに嬉しいとは思わなかったな。

自動販売機の商品を喜んでもらえるのは自動販売機マニアとしての喜びが強かったのだと思う。自分の好きなものを好きだと言ってもらえる喜び。

今は自分が何かしたことに対しての称賛。

自動販売機の商品は多くの人々が関わって作られたものだ。それを売っているのは俺だが中身の味に自分が関わっているわけじゃない。

商品を勝手に売らせてもらっている、それだけだというのに自分の手柄の様に褒められることに罪悪感があった。企業努力を横取りして自慢しているだけの存在。

それが、ずっと心に引っかかっていた。

だから、無意識の内に自分の力で何かしたいと思っていたのかもしれない。

自動販売機として人々の役に立っている自覚はある。だけど、それは他人の力だった。

今も食材は自動販売機の力だが、それを使って料理したのは俺だ。たったそれだけのことだというのに、人々の称賛を素直に受け取れた。

「ハッコン、いつもありがとうね」

無邪気に微笑むラッミスと、周囲で顔をほころばせて食べているハンターたち。

たまに料理してみるのもありだな。そう思わせてくれる笑顔だった。