軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鈍器

圧倒的な差がある戦闘の火蓋が切られた。

数の差ならどう見ても魔物側が有利だ。押し寄せてくる魔物の群れは緑の津波を彷彿とさせる。

その津波を迎え打つのは、十人と一台。

後衛であるフィルミナ副団長とシュイは下がり、広場と通路の境目に陣取っている。敵に接近された時は通路に一旦後退して、対応する手はずになっている。

後衛の護衛は、ミケネ、ショートが担当する。そして、残りのメンバーは半円状に陣取り、後衛に敵を寄せないようにするという手筈だ。

それも五人で弧を描き、余った一人だけ陣に加わらず自由行動となっている。

敵の強さに応じてメンバー交代する予定で、まずはミシュエルが担当することになった。

「皆さん、お任せください。我が力、お見せしましょう」

黒で統一された鎧に竜の頭を模った大剣。そして、イケメン。

相変わらず、絵になる男だ。押し寄せてくる敵に怯むことなく突っ込む姿は、映画のワンシーンのようだ。

魔物の波に呑み込まれる直前、ミシュエルは大剣を抜き放ち、赤い刃を一振りした。

赤い軌跡が放射線状に広がり、赤に触れた魔物の体がいとも容易く切断されていく。鋭利な切断面からは炎が噴き出し、ミシュエルに辿り着く前に黒い消し炭と化している。

「派手だねぇ」

「仮、ではなく、正式な団員になっていただきたいです」

団長と副団長は目を細めて、ミシュエルの活躍を見守っている。

「ミシュエル、マジかっけーな、赤!」

「くうううっ、派手な攻撃って羨ましいっ!」

双子は心底感動しているようで、興奮しすぎて足を踏み鳴らしている。

気持ちはわかる。理想の英雄像にしか見えない。そりゃ、人気があって当たり前だな。

「あの脚甲は譲ってくれませんよね……っと、皆さん。私たちの出番ですよ」

ヘブイの指摘に全員が武器を構える。ミシュエルを迂回して何体もこっちに向かって来ている。

今回の戦いはサポートに徹しよう。攻撃用に瓶ジュースを取り出し口に十個ぐらい置いておけば、打撃武器としても投擲武器としても使えるだろう。

本当は常時〈高圧洗浄機〉になっておきたいのだが、時間制限があるので長時間労働には向いていない。

「ほっ、ふんぬっ、とうっ」

ラッミスは可愛らしい掛け声だが、その破壊力が衰えることはない。

しかし、どんな時でも全力を尽くすというスタイルは嫌いじゃないけど、破壊力過多だよな。

体力も無尽蔵かと思えるぐらい疲れ知らずなのだが、もう少し力の制御を覚えたら持久力も更に向上しそうだ。

今のところ危なげなく戦えているな。ラッミスも含めた全員が、まだ余裕があるように見える。

一人、敵陣のど真ん中で暴れているミシュエルは未だに攻撃を一発もくらっていない。初心者ダンジョンで高レベルのプレイヤーが遊んでいるような安定感だ。

大緑魔も一撃で脳天から真っ二つか。接近戦で負ける要素を見つけるのが難しいぞ。そうなると、遠距離攻撃なのだが。

俺の心配を後押しする様に、矢と火の球がミシュエル目指して飛来する。

ちらっと横目で確認したかと思うと、足元に転がっている緑魔の死体を蹴り上げて盾代わりにした。おー、ワイルドな戦い方もできるんだな。

剣術とか詳しいことはわからないが、剣捌きは綺麗で模範的な動きのように見えて、柄で殴ったり、蹴りで体勢を崩したりもしている。

基本が完璧でありながら、応用も利くという鍛え上げられた戦闘スタイル……のように思える。剣道もしたことのない俺の選定眼が当てになればの話だが。

おっ、仲間の魔物を押しのけてデカいのがやってきたな、将軍緑魔だったか。

ボディービルダーの世界チャンピオンの筋肉を更に増強したような筋肉の塊。腹筋は八つに分かれている。身長もミシュエルの倍近い。

普通なら、どう考えても勝ち目はないのだが、全く危機感がない。当の本人も落ち着き払っているから、たぶん大丈夫。一応、いつでも瓶ジュースを投擲できるようにはしておこう。

「将軍緑魔がお相手か。久方ぶりの戦いだ」

「グオルギアアグルウウウ!」

何か意味のありそうな叫び声を上げて、将軍緑魔が手にした大剣を振り上げた。刃が潰れて切れ味は悪そうだが、破壊力としては充分な無骨な作りの大剣。

あれを叩きつけられたら、俺の頑丈を上げた鉄の体でもダメージが通りそうだ。人があれをまともに受けて無事で済むとは思えない。

距離があり仲間たちと魔物の争う音が、そこら中から響いているというに、将軍緑魔が振り下ろした大剣の風を切り裂く音が、ここまで届いた。

ミシュエルは竜の大剣を頭上に掲げ、正面から受け止めたように見えたのだが、切っ先を地面に刺して身体の側面に這わせる。

刃同士が激突するが、斜めに傾けられた刃の腹を将軍緑魔の大剣が滑り降り、地面と衝突した。威力があり過ぎるが為に、刃こぼれをした大剣の刃が地面にめり込んでいる。

「力だけが圧倒的な戦力の差ではないのですよ」

そんな隙をミシュエルが見逃すわけもなく、またも一振りで将軍緑魔の首が飛んだ。

やはり、ミシュエルの実力は格が違う。始まりの階層が初心者向けだとはいえ、この強さは異常だな。

「ミシュエルは凄いよね。うちもあれぐらい強くなれたら、もっとみんなの力になれるのに」

大丈夫だよ、ラッミス。

殴られて吹き飛ばされた緑魔が密集地帯に飛んでいき、激突した魔物たちを薙ぎ倒しているのを見て、ツッコミを入れたくて仕方がなかった。

みんなの戦いに見惚れている場合じゃないな。俺も活躍しないと。

瓶ジュースを二本〈念動力〉で浮かばせて、背後から近寄ってきていた緑魔二体に投げつけた。器用さが上がっているおかげで頭に命中して、緑魔がその場に倒れた。

筋力が上がっているので以前に比べて投げつけた速度も上がっているおかげで、緑魔を倒すぐらいの威力は確保できているのか。

「グギャギャギャ」

おっ、後方から大緑魔が奇声を上げながら突進してきた。

二本の瓶ジュースを投げつけて、一本は棍棒で弾かれ、もう一本は額に当たったが少し顔をしかめた程度か。注意を何とか逸らすぐらいはできそうだ。

一度足を止めたが、すぐさま立ち直って駆け寄ってくる。

それでも、相手に少しはダメージが通っているので足止めとしては役に立つ。基本の自動販売機形態だと、これ以上を望むのは酷かもしれない。

さて、どうしようか。商品を入れ替えてみよう。二リットルのダイエットなコーラと棒状キャンディーをミネラルウォーターと交換した。

今までは棒状キャンディーは専用の自動販売機でしか販売できないと思っていたのだが、普通に商品入れ替えで置けることに最近気づいた。人間――自動販売機、やってみないとわからないものだな。

キャップを開けてキャンディーを放り込む作業にも慣れてきた。手際よくこなすと、飲み口を将軍緑魔に向けた。

「ブグギャギャギャ!」

将軍緑魔だけでなく、周辺の緑魔にもぶっかけておく。

目を押さえて暴れ狂っている魔物たちを眺めながら、さりげなく〈玉貸機〉に変化する。

パチンコ玉をジャラジャラと流しながら、〈結界〉で全て吹き飛ばす。

これだけ敵がいるので殆どのパチンコ玉が命中したのだが、これだと緑魔でも倒すには至らない。それでも、それなりには痛いようで動きは止まっている。

予定通りなので、第二段階へと移行するか。

「ハッコン、暫く後ろの敵を任しても大丈夫?」

「いらっしゃいませ」

咄嗟の返事だと、この返し方が楽でいい。というより、自然と口から出る。

今までなら無理をしてでも、全部の敵に対処して俺を傷つけないようにしていたラッミスだが、こうやって任せてくれるのは信頼の証だ。

それに応えるのが男だよな。

このまま、パチンコ玉での牽制をしておけば時間稼ぎにはなるが、決め手にかける。足元に転がったパチンコ玉も再利用して、範囲内にあれば再び弾き飛ばすというのもあり。

だが、俺は別の方法を考えていた。パチンコ玉だけではなく、これを組み合わせることで新たな攻撃方法を創造する。

「ガギュガアグアアア」

パチンコ玉の横殴りの雨を無視して、大緑魔が突っ込んでくる。

この程度の威力だと強引に来られたらどうしようもない。相手も俺の攻撃は脅威にならないと考えているのだろう、口元に笑みを浮かべているのがイラッとするな。

顔だけをカバーしたまま、あと二歩も進めば攻撃範囲に入るぐらいの距離まで詰めてきている。パチンコ玉を踏みつけて転んだら面白かったのだが、思惑通りに事は運んでくれないようだ。

相手は武器を手にしていないので、かなり至近距離まで近づかないと拳が届かない。殴られたところで〈結界〉で弾けばいいだけの話なのだが……あの勝ち誇った顔を歪めてやるか。

俺の攻撃にかなりイラついていたのか、パチンコ玉を完全に無視して拳を振り上げている。防御無視か、完全に舐められているな。

自分がやられるとは微塵も考えていない大緑魔の頭に、自動販売機の上にそっと置いておいた二リットルのペットボトルを操り叩きつけた。

「グンッギィ……」

目の前で白目をむいて、仰向けに倒れる大緑魔。本当に倒せたのか疑問が残るので、これがオスかどうかは知らないが、無防備に晒された男の急所をペットボトルで何度も殴りつけておく。

たまたま近くで俺の戦いぶりを横目で見ていた、紅白双子の顔色が悪い。男として痛みが想像できてしまうのだろう。

普通ならジュースの詰まった二リットルペットボトルの一撃程度で沈む相手ではないが、このペットボトルは中身をキャンディーで噴き出させた後の物だ。

空になったペットボトルに足元に幾つも転がっているパチンコ玉を〈念動力〉で拾って、中に詰めていなければ、ここまでの威力は出なかった。

これ、鈍器として充分通用するな。新たな攻撃方法の一つとして今後も活用させてもらおう。

よっし、これで俺も接近戦用の武器が手に入った。ラッミスの背後から襲い掛かってくる敵は俺がお相手しようじゃないか。