軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見極め

「いい運動になりましたね。その膨れた腹も少しは凹んだのではありませんか?」

ヘブイがにこやかに仲間を煽っている。

無数に転がる魔物たちの大半が愚者の奇行団の投擲により倒されている。狙われていたのはヘブイなので、とばっちりで死んだようなものだが。

敵の増援も一時的に尽きたようで、ヘブイもスポーツドリンク片手に休憩している。

「ぐぎぎぎぎ、くっそ、当たんねえな」

「投擲用武器の練習をするべきかなあ、白」

紅白双子は一発もヘブイに当てられなかったのが、相当悔しかったようで歯ぎしりをしている。

「毎回毎回、矢を避けられるのが納得いかないっす。結構、本気で射ているのに、何で躱せるっすか」

「魔法も避けるからくりを教えて欲しいところだけど」

シュイもフィルミナ副団長も腕に自信があるだけに、一発も命中しなかったことがかなり不満のようだ。

実はその理由はわかっている。攻撃を仕掛けている側がヘブイから少し離れたところに、攻撃を繰り返していたからだ。これはわざと外しているのではなく、おそらく、精神干渉系の魔法をヘブイがこっそり発動していて、その影響を知らぬうちに受けているからではないだろうか。

俺は自動販売機だからなのか精神干渉系の能力が効きにくいようで、その様子を正確に見て取れた。

仲間の攻撃を黙って見ていた団長は気づいてそうだけど。

「腹ごなしの運動はこれぐらいにしまして、団長、今後どうされるのですか?」

「この先の分かれているところまで、まずは移動だな」

地図によると、暫く進んだら三つに分かれているのだったか。今のところ、驚くぐらいに順調だが、こういう時に限ってアクシデントが発生したりするものだから、油断はしないようにしないとな。

と、警戒していた俺を嘲笑うかのように何事もなく分岐路に着いた。現実はそんなもんか。

「さーて、道が三つに分かれているが、どうするよ」

「ちょっと待ってください。地図で確認します」

フィルミナ副団長が地図を広げ、全員が覗き込んでいる。

真っ直ぐ道が伸びていて、確かに先で三方向に道が分かれているな。

「右はグネグネと蛇行していて、途中分岐が幾つかあるが、どれも少し進めば行き止まりになっているのか。面倒くせえな」

「仕方ありませんよ。初心者向けなので、無駄に道が入り組んでいたりしますから。真ん中の道は弧を描くようになって先に巨大な空間が広がっています。左は迷路状に無数の分岐地点があるようです」

指揮官が見つからなければ虱潰しにあたるつもりらしいが、運が悪ければターゲットと出会うまでにかなりの時間を必要としそうだ。

「真ん中の広場みたいな場所が本命っぽいが。お前らどう思う?」

「そこって、魔物が大量発生する場所だったよな、白」

「そうだね、赤。初心者の頃に、ここで一度死にかけたんだよなぁ」

紅白双子が遠い目をして天井を見上げている。若かりし頃の思い出が蘇っているようだ。今も充分若いが。

「魔物を統率しているなら、その広場が一番やりやすいんじゃないっすか」

「そうですね。私も、そこが怪しいと思います」

シュイとフィルミナ副団長は同意見か。この地図だと、ここなら敵を大量にストックできるし、指示を出すのも楽そうに思える。

「ただ、そこが当たりだとしても、全員で行ってしまうと外れた場合、指揮官を逃がすことになりませんか」

失礼な話だが、ヘブイが普通の意見を言うだけで違和感を覚えるようになってきた。

「ヘブイさんのおっしゃる通りですね。また二手に分けた方が」

「でも、その広場に大量の敵がいるとしたら、分けるのは危険じゃないかな」

「ミシュエルとラッミスの意見も間違いじゃねえな。大食い団はどう思うんだ?」

「んー、もっと近づけば臭いで判別できるかも?」

「風向きにもよるけどな」

真ん中の道の先に敵がいると仮定して全員で攻めるか、数人残して二手に分けるか。判断が難しいところだ。

「ハッコンはどう思う?」

あ、俺にも意見を聞くのか。限りある言葉で上手く伝えられるといいけど。

「こ こ で」

「ま も の が」

「お お く で て」

「く り ゅ と こ」

「あたり」

大食い団は首を傾げているが、他の人はそうでもない。意味が伝わったのだろうか。

「えと、ハッコンは、ここで少し待って、魔物がいっぱいでてくる道が当たりじゃないかって、言いたいんだよね?」

「いらっしゃいませ」

一発でラッミスが理解してくれたことが嬉しくて、前までの返事の仕方で答えてしまった。この調子だと、これからも彼女の通訳に助けてもらう場面がありそうだ。ごめんな、もう少し流暢にわかりやすく話せるように努力するよ。

それからも様々な意見が出たのだが、最終的に俺の意見が採用されることになった。

分岐路から少し下がり、まずはミシュエルとショートが先頭に立ち、前衛を担当することになった。後衛はシュイで残りは休憩している。

「ハッコン、商品に矢ないっすか? 矢って結構持ち運ぶ時に邪魔で重いから、売っていると、かなり楽になるっす」

「ざんねん」

唐突にそんなこと言われてもな。シュイが物欲しそうに指をくわえて、こっちを見ているが無い袖は振れない。

未だかつて、矢を売っている自動販売機を見たことがない。こればっかりはどうしようもないな。

そもそも、武器の自動販売機があるのかという話だ。もし売っているのなら、この世界では需要があるだろうけど、平和な日本でそんな物を商品として売ったら、警察のお世話になることになる。

そういえば、アメリカには銃の自動販売機があると知って、銃大国は怖いなと本気で信じかけたことがあるのだが、実際は拳銃のレプリカが飾っているだけで、銃を無くす為の募金を集める自動販売機だったという話だ。

生前は貯金をして、海外の珍しい自動販売機巡りをする予定で色々調べていたのだが、その願いはかなうことはなかったな。まあ、珍しい自動販売機や新商品を見つける度に買っていたので、お金が全然貯まっていなかったが。

諦めて立ち去るシュイの背中が寂しげだ。申し訳ないが、そこまで万能じゃない。

自動販売機の商品をこの世界の物に入れ替えることが可能なら、商売の幅が広がりそうだが、それは贅沢過ぎる望みか。

新たな活用方法を模索しつつ、戦闘を眺めているのだが、やっぱり真ん中の通路から敵が溢れてくる。時折、左右からもやってくるが真ん中とは比べ物にならない。

どうやら本命は真ん中の通路で間違いなさそうだ。ただ、敵が大量に湧いているとはいえ、そこに指揮官がいるという保証はない。難しい決断を迫られそうだな。

「んー、やっぱ真ん中で当たりみたいだぜ。ハッコン、前に大穴を塞いだ時の方法で、左右の通路を塞ぐってのは可能か?」

俺の脇に立つケリオイル団長の発想は悪い考えではないと思う。

でも、この通路では無理だ。通路の高さが五メートル程度しかないので、巨大自動販売機になることができない。無理やり変化したら体が潰れるか、天井が崩落するかの二択だ。

普通のサイズでコンクリート板を出すことは可能だが、このサイズだと相当な数を出さないと無理なので現実的じゃない。それにポイントの消費量も心配だ。

「ざんねん」

「無理か。いい案だと思ったんだが。となると、他に埋め立てる方法も思いつかねえな。敵が手ぐすね引いて待っているとしたら、全員で向かわないとやべえか。真ん中に突っ込んでみるか」

メンバーを分けるつもりはないようだ。

俺も真ん中が怪しいと睨んでいるが、万が一のことを考えると何かしらの対策をしておいた方が良いと思う。

「それでは光魔法の応用で、右と左の通路には土砂で崩れたような幻影を作りだしましょうか。継続時間を上げれば半日ぐらいは維持できると思いますが」

ヘブイの能力って派手さは全くないが便利だよな。一チームに一人欲しい人材かもしれない。変態なことを除けば。

「あれ、お前の魔法ってそんなに長時間いけたか?」

「ええまあ、無理をすれば。その代わり、魔力の大半を持っていかれます。残りの魔力は治癒用にとっておきたいので、他の魔法はもう使えないと思ってください」

精神干渉系の魔法は広範囲に影響を与えるから、集団行動では使えないそうなので、特に問題は無いだろう。

「おう、わかったぜ。んじゃ、ヘブイ頼むわ」

「かしこまりました」

幻影を見せる魔法は設置型で、尚且つ発動までに時間が必要らしく、終わるまでやってくる敵を討伐しながら待つことにした。

大体、三十分ぐらい経過しただろうか。左右の道に幻影を設置し終えて、満足げに額の汗を拭うヘブイがいた。

左右の通路には本物にしか見えない土砂がみっちりと詰まっている。お見事としか言いようがない。

「ヘブイのおかげで後顧の憂いは消えた。さーてと後は、この先に指揮官がいることを祈るしかねえな」

これでけりがつくのが理想的ではあるが、こればかりは本当に運だと思う。

敵側の立場になって考えると、集落から距離が近い方が襲いやすく、情報の伝達もスムーズにいく。多くの魔物に対して一度に指示を出すなら、それだけの魔物を確保できるスペースが欲しいだろう。

真ん中の通路の先は、その条件に当てはまる。

司令官がいるか否か。そして、どれだけの戦力を整えているのか。不安はあるが、このメンバーを見ていると負ける気がしない。

油断は大敵だが、頼れる仲間がいる心強さはありがたいな。

まあ、どれだけ敵がいようと窮地に陥ろうと、ラッミスは俺が守ってみせる。