軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

水辺と企み

結局池に向かうメンバーは、ラッミスと俺、ヘブイ、シュイ、ミケネ、双子の片割れ赤となった。

事前の情報だと地底湖っぽい水溜りがあるだけで、特に何もないらしい。なので、メイン戦力であるミシュエルとケリオイル団長は分岐路で敵の掃討を担当となったのだが、ミシュエルはこっちに着いてきたがっていたな。

人見知りを治す訓練だと思って頑張ってもらおう。戦闘に集中していると大丈夫なようなので、問題はないと信じている。

湖探索一行は通路を進んでいるのだが、さっきまでと比べると道が細くなってないか。先頭は三人横並びだったのだが、今は二人に変更している。そうじゃないと、動く際に邪魔になりそうだからだ。

「地面が土になっていますね」

ヘブイの呟きに全員の視線が足下に向けられる。

さっきまでは岩肌だったのだが、確かに土に変わっているようだ。ラッミスに運ばれながら、じっと地面を見つめていて気付いたのだが、微かに足跡が残っていた。

指の形がわかるので素足。だとすれば、緑魔の足跡か。大きさも一致する。

「足跡の凹み具合からして、数時間前に通った痕跡がありますね。それも、湖に向かっている足跡の数の方が多く、新しいですよ」

「ってことは、湖に敵が残っているってことっすか」

「そうなりますね。足跡の差異からして十二、いや、十三体でしょう」

ヘブイが自信を持って口にしているが、砂に残っている足跡は全て同じ形にしか見えない。本当に当たっているのだろうか。

「相変わらず、足跡から情報を読み取るのが得意だよな。んで、気持ち悪いぐらいの的中率だし」

赤が、屈んで足跡を調べているヘブイを見下ろし、怯えたような表情をしている。

「靴を愛するにはまず、履く足に対しての理解が必須です。これぐらい、基本中の基本ですよ。靴裏の方がより詳しく情報を得ることができるのですが」

変態も極めると技能へと変化するのか。敵の数が正しければ、ヘブイへの認識を改めないといけないかもしれない。

「緑魔の臭いがしてきた。密度が濃いから、十体以上いそうだ」

ミケネの嗅覚の性能は熟知している……ヘブイ恐るべし。

足音を忍ばせて、壁際を慎重に進む。緑魔十三体なら、この面子なら余裕で対応できるのだが、用心するに越したことはない。

湖に近づくと道が湾曲していて、湖側から通路の中が見えないようになっている。

俺たちは限界ギリギリまで近づくと足を止め、耳を澄ました。

緑魔らしき魔物の声が微かに聞こえてくる。結構いっぱいいるな、ぐらいの判別しか俺にはできない。

「さて、これからどういたしましょうか。私が姿を消して敵の様子を見てきましょうか?」

牢屋で住民の姿だけではなく気配を完全に消したヘブイなら楽勝なのだろうが、ここは少し試してみたいことがあるので、立候補させてもらおう。

「ま か せ て」

「ハッコン、何か考えがあるの?」

ラッミスが俺を下ろし、正面から見据えている。

「う ん お し て」

そう言って足下に車輪を出し、身体の色を変更して周囲と同化させる。これで準備万端だ。

ラッミスはすぐにピンときたようで、俺の横に回ってゆっくりと横にスライドさせた。

「と ま っ て」

丁度いい位置で止めてくれた。湖が良く見える。

思ったよりも広いな。母校の体育館が余裕ですっぽり入るぐらい余裕のある空間だ。天井がやたらと高い。始まりの階層の集落の天井と同じぐらいか。

通路と同様に壁に光る苔がそこら中に貼り付いているので、明るさも問題なし。

湖が半分以上を占めているので、陸地の面積はそれ程でもないな。水辺で呑気に休憩しているようだが、俺に気づいている様子はない。

緑魔が十体。倍近く身長があって筋肉量も上回っているのが三体。他には誰もいないようだ。さてと、じゃあこの映像を録画しておくか。

全体図と魔物の姿を撮り終えると「し ゅ う り よ」と発言すると最後の「う」を言う前に引き戻された。

録画した映像を〈液晶パネル〉で放映すると、全員が見入っていた。ヘブイは初めてなので真剣に観ているようだ。

「凄いですね、ハッコンさんは。数多くの商品を提供できて、このような能力まで有しているとは。これで、中古の靴を売って下されば完璧なのですが」

「ヘブイ、気持ち悪いっす」

同意するよ、シュイ。中古の靴を売る自動販売機なんて嫌すぎる。

「緑魔十に、大緑魔三か。この程度ならごり押しで余裕っしょ」

あの大きな個体は大緑魔と言うのか、そのままだな。ファンタジーの定番だとゴブリンとホブゴブリンといった感じか。

俺たちが初心者ハンターなら苦戦は必至なのだろうが、過剰な攻撃力特化のメンバーだからな。ゲームならタンクや壁と呼ばれる守り担当のキャラが一人はいるものなのだが、愚者の奇行団には一人もいない。

そもそも、盾を持った団員が一人もいないのを疑問に思い、拙い言葉遣いで質問したことがあるのだが、ケリオイル団長は渋い顔をして、ゆっくりと口を開き答えてくれた。

「守り担当と言うよりは……防御特化の団員ならいるぜ。ハッコンは会ったことないだろうけどな」

八人いる愚者の奇行団で、まだ会ったことのない残りの二人のどちらかなのか。

その後は言葉を濁して追及されるのを避けていた。その反応はヘブイについて触れた時とよく似ていたと今更ながらに思う。

つまり、ヘブイ程ではないが問題があるということなのだろう。

愚者の奇行団を名乗る割には、他のハンターと比べても問題の少ない良識のある一団だと思っていたのだが、残りのメンバーが濃そうだ。

「じゃあ、一気に殲滅しよっか。ねっ、ハッコン」

ラッミスに話しかけられて我に返った。考え込むと周りが見えなくなるのは直さないとな。全員が問題ないと判断したのであれば従うまでだ。

「いらっしゃいませ」

久しぶりに、この言葉で返事をすると、ラッミスとシュイ、そして赤がニンマリと笑った。比較的付き合いの長い連中には、こっちの方が馴染んでいるようだ。

「んじゃ、いっちょやりますか」

赤の合図と共に全員が突っ込んでいく。

寛いでいた魔物が慌てて立ち上がるが、態勢を整える前に眉間に矢が突き刺さり、大緑魔一体、緑魔二体が射抜かれた。

真っ先に魔物に跳びかかったのはミケネで、大口を開けて喉笛に噛みつき肉を齧り取る。獣じみた戦い方だが、野蛮でありながらも洗練された動きで、一撃離脱を繰り返している。

赤は白がいないせいか前の戦いよりも動きが大人しい。それでも、堅実な槍捌きで敵を貫いているのだが。

ヘブイは精神干渉系の魔法を今回は使っていないようで、敵に取り囲まれている。そんな状況でも慌てることなく、飛びかかってくる緑魔を一振りで打ち砕いていく。

格下相手とはいえ、淀みない動きで蹴散らしていることから、接近戦での純粋な戦闘力も相当なものなのだろう。

「みんな、強い、ねっ!」

仲間に感心しながら振り向きざまに放った裏拳は、緑魔の顔を陥没させるだけでは終わらず、そのまま頭だけが体を残して壁にぶち当たり、肉片を飛び散らせた。

ラッミスも劣ってないよ。一撃必殺という言葉がこれ程似合う者もいないなと、感心しながら戦いぶりを見学していた。

ものの数分で魔物が全滅したので、時間が余った俺たちは湖周辺を調べている。

澄んだ水を湛えた湖で、シュイが言うには飲むことも可能らしい。水の中に魔物が潜んでいるという定番の展開もないそうで、安全な休憩場所の一つだそうだ。

「予想より早く片付いたので、軽く水浴びでもされたらどうですか?」

何も発見できずに戻ろうとしたところで、ヘブイがいきなりそんなことを口走った。

分岐路で敵の対応をしている味方がいるのに何を言っているのだと、文句の一つも口にしようとしたら、先にラッミスが口を開いていた。

「みんなが待っているから、早く戻らないと」

「ですが、始まりの階層に来てから、体も碌に洗ってないのではありませんか。体を清潔に保つことにより、痒みや不快感が消え、集中力も増しますよ」

「ああ、それいいかもしれないな! 俺は賛成だぜっ。団長も三時間以内に帰ってくればいいって、言ったじゃねえか」

ヘブイの提案に赤が乗り気だ。あの弛みきった下心満載の表情を見れば、何を期待しているのか手に取るようにわかる。

「いやっす。赤の考えはお見通しっす」

シュイが胸元を両腕で隠すようにして赤を睨んでいる。ラッミスはその姿を見て、ようやく何を考えているのかを理解したようで、半眼で赤を睨んでいた。

「じゃあ、ボクは水浴びさせてもらうね!」

人間のやり取りを無視して、ミケネが上着と靴を脱ぎ捨て湖に入り、体を沈めて全身を擦っている。顔を洗う姿があまりにも可愛かったので録画をしておいた。

その姿が本当に気持ち良さそうで、赤たちがじっとミケネを見つめている。

「お前らは入りたくなかったら別にいいんだぜ。俺も頭と足洗うか」

赤が靴と服を脱ぎ捨て、下着一枚で湖に飛び込んでいった。

はしゃぎながら水浴びをするミケネと赤を、シュイとラッミスが羨ましそうに視線をチラチラ向けているな。

集落では桶に温泉を溜めて、濡らしたタオルで体を拭くぐらいはしていたのだが、澄んだ水で洗えるという誘惑は、かなり魅力的なようだ。

あと一押し何かあれば参加しそうな雰囲気なのだが。

「お二人とも、私がここで周囲を見張っていますので、水浴びをされたらどうですか。別に裸にならずとも、靴を脱いで足を水に浸して、髪を洗うだけでも違うと思いますよ」

「そ、そうっすね。ラッミス、行く?」

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ行こうか。ハッコンは……水浴び無理だよね。じゃあ、ちょっとだけ水浴びしてきていいかな」

「い っ て」

「ら っ し ゃ い」

快く二人を送り出すと、すぐさま〈高圧洗浄機〉に姿を変えた。

ヘブイが慈愛すら感じる優しい笑みで二人を送り出すと、すーっと横にスライドして、その場にしゃがみ込んだ。

「やれやれ、こんな場所に脱ぎっぱなしにしては、誰かに盗まれるかもしれませんね。私が大切に保管しておかないと……ふぅぅ、ラッミスさんとミケネさんのは、どんな匂いがするのでしょうか。乙女の体臭は独特の臭気がしますからね。想像しただけで、昂りますねぇ」

「ざんねん」

予想通り過ぎる展開に呆れつつ、最大出力で水流を放った。

「あぶっ、あぶぶぶぶぶ」

顔面に命中してよろめいたところに放水を続け、湖まで押し続けると見事に水没した。

心も体も綺麗にリフレッシュしてくれ。ついでに煩悩も洗い流してくれ。