軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖職者と会長

「これって、愚者の奇行団で治癒担当だったりするっす。治癒と光、精神に干渉する魔法が得意な変態っす」

「その説明では見ず知らずの人に誤解されてしまいますよ」

誤解も何も、男女の靴に埋もれていた奴が何を今更。

「でも、人の履いていた靴を集めるのが趣味なんだよね?」

こら、ラッミス。あんな変態に関わっちゃいけません。

「ええ、それは間違いありません。ですが、私は新品の靴には用がないのですよ」

穏やかな笑みを浮かべた顔で、そんな説明いらない。

「靴というのは男女問わず、生きる上で最も大切とも言える足を守る砦です。靴とは持ち主の人生を現す鏡なのですよ。靴を見れば、その人の歴史、経験、性格の全てがわかります。私はその人の歴史に触れ、想いを馳せたいのです」

饒舌な変態だ!

胸に手を当て、遠い目をしながら語るところが狂気を感じる。

「なので、使い古された……そうですね、年代の感じられる、かなり異臭のするブーツや、使いこまれ穴が開いていて、縫い目が綻びているものが最良の品でしょうか。特にハンターの方々が履く靴は、いい具合に熟成されていますからね」

「こだわりはわかったけど、それでも人の靴を盗むのは良くないよ?」

うむ、ラッミスらしい、まっとうな意見だ。これにはぐうの音も出ないだろう。

「盗みは人として最低な行為の一つですよ。神に仕える者として、そのような愚かな過ちを犯すわけがありません」

矛盾してないか。中古の靴が好きな変態だというのに、そこは認めずに嘘を吐くのか。

「そんな、嘘を……」

「ラッミス、それがな嘘ではないのだ。コイツの厄介なところが、好みの靴を履いている相手を見つけると、その場で直接交渉して買い取ろうとするのだ」

「うわぁ……」

始まりの会長の説明に、二人を除く全員がどん引きしている。

残りの二人は始まりの会長とシュイで、額に手を当てて、大きく息を吐いている。

「その人の歴史を覗き見させてもらうのですから、それなりの代価を支払うのは当然のことですよ」

ここだけ聞いたらまともな人っぽいのが嫌だ。つまり、要約したくないが、中古靴フェチということでいいのか。

「盗んでいる訳ではないのだが、そんな交渉を持ちかけられた住民が怯えて……迷惑行為として注意したのだが聞く耳を持たず、仕方なくハンター協会の牢に閉じ込めていたのだが、熱い靴談議に洗脳されかけた見張りが現れる始末でな。それで、本人も望んだので仕方なく、この監獄に閉じ込めたという訳だ」

何というか……ご苦労様でした。

「洗脳ではありませんよ。元々、彼には素質があっただけです。新たな扉を開くお手伝いをしたに過ぎません。まったく、監獄には使い古された履物が無数にあると期待していたのですが、意外と清潔で使い捨てだったのでがっかりですよ」

悪びれないなこの人。

「これ、ヘブイって言うんすけど、能力は有能なだけに厄介で。唯一にして最大の欠点がどうしようもないっす。愚者の奇行団の良くない噂の八割がこれのせいっす」

「いえいえ、私ごときにそれ程の影響力は無いですよ」

照れながら手を振って謙遜しているが、決して褒めてはいない。

この聖職者っぽい人の名前はヘブイというのか。性癖はあれだが、それ以外はまともらしいので戦力にはなるのだろうが……あまり、ラッミスに近づけたくないなぁ。

「ヘブイ、お前は魔物が集落内に押し寄せて来てから、ずっとこの場所に籠っていわけではないのだろう。靴をそれだけ集められたのだから」

「ええ、何度か集落内を散策しましたが。それが何か」

「助けを求める住民はいなかったのか? 愚者の奇行団の一員と言うことは、それなりの実力者と見て間違いない筈だ。死にゆく住民を見捨てて、ここに籠っていたのかっ」

軽い口調で受け答えをするヘブイに、始まりの会長が静かな怒りをぶつけている。

個人的にはヘブイが住民を見捨てたとしても、咎められることではないと思っている。自分の命を最優先にするのは人として当たり前の行為だ。

ラッミスなら必ず助けに入っただろうが、それを強要するのは間違っている。心情としては助けてやって欲しかったと思うので、始まりの会長の気持ちもわかるのだが。

「私は自分の手に余ることはやらない主義です。私の両腕はそれ程大きくありませんので」

静かに言葉を返すヘブイを見て、始まりの会長も冷静になったようで、頭を豪快に掻き「くそっ」と悪態を吐く。

「そうだな、すまない。住民を見殺しにしても、自分の命を最優先に考えるのは間違いではない。それに、多くの住民を見捨てる決断をしてきた、私が言えた義理は――」

「あ、いえ。見殺しにはしていませんよ。魔法を解きますね」

ヘブイがそう口にして、胸の前で両の指を絡ませて印を組むと、格子の一本一本が蛍光灯にでもなったかのように輝き、入り口の階段付近まで光が走っていく。

すると、ここまで誰もいなかった格子の向こう側に、突如人が現れた。

老若男女問わず、数十人もの人々がホッとした表情で視線を向けている。

「幻覚と気配を霧散させる魔法を併用して、隠れていただいていました。もっと、多くの人を救いたかったのですが、不徳の致すところです」

彼は刑務所から極悪人を放出して魔物たちの的にさせ、その間に生き残りの住民を監獄に匿っていたというのか。立て籠もるには最も適した建造物だと判断して。

「監獄には備蓄が結構ありましたので何とか耐えられましたが、そろそろ限界でした。助けに来ていただき感謝の言葉もありません」

ヘブイが頭を下げている。

印象が二転三転する人だな。性癖さえ除けば、立派な聖職者に見えてしまう。

「気配を一切感じなかった。この人、侮れないですよ、ハッコン師匠」

ミシュエルはかなり高性能な気配察知が使えた。だというのに、彼の能力から隠し通せる程の実力があるってことか。

「皆、無事だったか。ヘブイ、貴様を誤解していた。この通りだ許してくれ」

さっきのヘブイよりも腰を深く曲げ、始まりの会長が体と言葉で謝罪の意を示している。

自分の非を素直に認め、頭を下げることが出来る上司。こういう人は意外と少ない。

熊会長を加えて二人しか会長を知らないが、ここのハンター協会の職員は上司に恵まれているようだ。

「お気になさらないでください。日頃から何故か誤解を招きやすい体質ですので」

それは誤解ではなく、間違いなく日頃の行いだ。

この人は靴フェチさえ除けば、まともな人間だと思う。そもそも、どんな性癖でもオープンにすると大抵引かれる。靴フェチだって黙っていれば無害なのだが、彼は曝け出しているから変態扱いされるのだろう。と、思うことにした。

「住民を救った礼は、詫びも兼ねて私にできることなら何でもしよう。魔道具、武具、金となると、ハンター協会を掘り起こしてからとなるが、何か要望があるなら言ってくれ」

何でもとは大きく出たな。俺に対しても十二分な支払いをしてくれることになっているので、恩賞には糸目をつけない方針のようだ。

ヘブイは首を傾げて悩んでいたようだが、何かを思いついたようで、ぱんっと手を打ち鳴らした。

「要望ですか……そうですね、では、会長が履いているそのブーツを是非」

うん、見直したのが台無しだ。

その後、生存者を連れて皆が待つ広場に戻ると、歓声を上げる人々に取り囲まれた。そこまでは良かったのだが、人々が落ち着くと始まりの会長は一度その場から姿を消した。

暫くして戻ってきたのだが、

「二言は無い」

と、口にして苦渋に顔を歪めながら、始まりの会長はブーツを脱ぎ、新たなブーツに履き替えた。

そして、脱ぎたての靴を渋々だがヘブイに手渡した。

「貴方の蒸された足の臭いも、確かに全て受け取りました。今晩は楽しめそうです」

春風が吹き付けてきそうな爽やかな笑顔で酷い台詞を口にしている。

あっ、気の強そうな始まりの会長が若干涙目だ。あんな表情もするのか。

「ご安心ください。会長自身はタイプでもなんでもありませんので、あくまで靴だ――」

話の途中で鈍い音がしたかと思うと、ヘブイが受け身を取ることもなく、うつ伏せに倒れた。

倒れ伏したまま、びくびく痙攣しているヘブイの頭の横に巨大な氷の塊がある。あれが、ヘブイの頭に激突したようだ。

「病気はまだ治っていませんでしたか」

「治癒役が戻ってきたのはありがたいが、こいつの場合は素直に喜べねえんだよなぁ」

愚者の奇行団、団長、副団長が俯き肩を落としている。こういった状況に慣れているようで、紅白双子が手際よく、ヘブイを縛り上げた。

「会長、靴返しておくぞ」

「いや、報酬の約束を違える訳には」

「いいんだって。コイツに靴を渡すと……」

律儀に約束を守ろうとする、始まりの会長にケリオイル団長が耳打ちをすると、顔色が一気に青ざめた。

そして、渡す予定だったブーツを抱きしめると、そのまま、走り去っていく。

何を言われたのか非常に気になる。少なくとも、靴を収集して眺めるだけでは終わらないようだ。

そういえば、靴の自動販売機って見かけたことがない。海外ではあるようなのだが、何故か自動販売機大国である日本にはないのだ。探せばあるのかも知れないけれど。

ボウリングシューズの自動販売機は近所のボウリングセンターにあったが、心当たりのある靴の自動販売機は、あれぐらいか。

あっ、靴なら珍しいところで、靴磨きの自動販売機があったな。ヘブイに見せてやったら喜ぶかもしれない。

目が覚めてブーツを失ったことを知ってへそを曲げたら、変化して試してみるか。