軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

現状の確認

「つまり、あれか。地上と繋がっている扉が開かねえから、物資もこなけりゃ、人員の補充もねえってことか」

「そういうこった。俺たちが、この階層に来た時は、もう酷い有様でな。戦闘の真っ只中に飛び込んで、集落内の魔物を何とか押し返したんだが」

焼きおにぎりを齧りながら、ケリオイル団長がカフェオレを豪快に流し込んでいる。

おにぎりにカフェオレという組み合わせに眉をひそめそうになったが、眉がなかった。それに、最近では弁当にコーヒーという組み合わせも珍しくない。

食べる姿を観察しながら、ヒュールミとケリオイル団長の言葉遣いって似ているな。と、どうでもいいことを考えていた。

「団長は食事を続けてください。説明を引き継ぎますので」

「わりいな、後は任せた」

フィルミナ副団長が変わってくれるのか。さっき渡した、たこ焼きを既に食べ終えたようで、口元についた青のりをハンカチで拭っている。

「では、続けますね。始まりの階層はハンターが多いのですが、初心者ばかりなので一斉に押し寄せてきた魔物に対処できず、尋常ではない被害が出ています。我々が来るのがもう少し遅ければ、壊滅していたかもしれません」

そうだよな。ここは初心者御用達の階層であって、実力者はもっと上の階層に進んでいる。本来、愚者の奇行団と園長先生のような強者は、この階層に見向きもしない。

「園長先生と孤児院の子供たちも無事で、ほんっと良かったよぉ」

ラッミスが園長先生と再会した時のことを思い出したようで、鼻をすすって涙ぐんでいる。

俺が食べ物を配っている時に、列に並んでいた園長先生と子供たちを見つけ、ラッミスが駆け寄って再会をひとしきり喜び合っていたからな。

正直、絶望的ではないかと思っていた、孤児院の子供たちが無事だった理由は、園長先生のおかげだった。

園長先生は始まりの階層を離れる際に、信用のおける元ハンター二人に頼み込んでいたのだ。自分のいない間、孤児院に滞在しておいて欲しいと。

何か不測の事態があったら、地下室に子供たちを匿って欲しいと、隠された地下室の場所も開閉方法も伝えてあったそうだ。

園長先生に言わせると、

「もしもの時の対策は、ハンターとして、子供を育てる身として当たり前の備えですよ」

と、穏やかに微笑んでいた。

対策をしていたとはいえ、子供たちの身を案じていたようで、転送陣で移動した後の園長先生の戦いぶりは鬼気迫るものがあったそうだ。愚者の奇行団は声を掛けることすら出来なかったと、肩を抱きながら紅白双子が語っていた。

一矢で何体もの魔物を貫き、孤児院まで続く道には、息絶えた魔物の血塗られた道が出来上がっていた。偶然、その光景を目撃した人々から情報が伝わり、それ以来、園長先生の発言には誰も逆らわなくなったらしい。

「入り口を塞いでからは、隙間から槍や武器で突き刺し、何とか追い払っているところです。この戦い方であれば、戦場に慣れていないハンターでも対応できますので」

だから、完全に通路を塞ぐのではなく、柵の様に組んでいたのか。

始まりの階層が最悪の展開を免れた要因の一つは立地だろう。集落から奥へと繋がる道が一本で、その道幅が狭いのも幸運だった。五メートルあるかないかぐらいか。

敵が来る方向が決まっていて、一気に押し寄せるには道幅が狭すぎる。そこさえ防いでしまえば、魔物からの侵攻が抑えられる。

「敵の脅威は取り除けたのですが、今度は食料問題が発生しまして。ここは、ダンジョンの観光で来る人々目当ての飲食店があるので、ある程度の食料は確保できたのですが、流石に一ヶ月も経つと、需要に供給が追い付かなくなり、困り果てているところでした」

「ハッコンがもう少し来るの遅かったら、あのバリケード破壊して打って出る予定だったんだよな、赤」

「そうだね、白。ちょっと奥まで行けば、魚の捕れる湖があるからね」

紅白双子は満腹になったようで、腹を擦りながら地面に寝っ転がっている。と思ったら寝息が聞こえてきた。腹が満たされて緊張が解けたのか。

愚者の奇行団と言えば、もう一人、シュイがいるのだが……食事の最中だ。

食べ終えた、食べ物の器や包装紙、それに空き缶と空になったペットボトルが、彼女専用の絨毯の様に取り囲んでいる。

もう、何人前食べたのかも不明だが、未だに食欲の限界が見えず、一心不乱に掻き込んでいる。

「ひひゃひゃへっふ! ひひゃひゃへっふ!」

口の中に物を入れながら叫ばない。何を言っているのかは不明だが、ソースで汚れた顔には至福の笑みが浮かんでいるので、喜んでいることだけは確かだ。

「シュイ姉ちゃん、もっと落ち着いて食べなよ」

「うんうん、お行儀悪い」

「んぐっ、すまないっす」

孤児院の子供たちに怒られて、バツが悪そうに頭を掻いている。

孤児院たちの子供たちが一人も欠けることなく、こうやって軽口も叩ける現状。何とか間に合ってよかったと、口があれば、ほっと安堵の息を吐いているところだ。

多くの被害者が出たのも知っているが、それでも見知った人たちが無事だったことを、純粋に嬉しく思う。

「まったく、シュイは食事が絡むと、我を忘れるところは変わらないのね。ハッコンさん、食事を提供してくださって、本当にありがとうございます」

シュイを咎めるような事を口にしてはいるが、目尻の下がった目で彼女たちを見つめている。声の響きにも隠しきれていない喜びが残っていた。

「よ か っ た ね」

年上に対する言葉遣いとしてはどうかと思うが、俺の使える言葉からのチョイスではこれが精一杯なので、勘弁してもらうしかない。

「ハッコンさんも、不完全とはいえ、会話できるようになって、良かったですね」

「ありがとうございま す」

たどたどしくても、会話が成立するというのは嬉しいものだ。会話ができなかった時期が長かっただけに、しみじみと実感する瞬間が頻繁にあったりする。今のように。

「くはあああっ、久々に満足した飯だった。マジでありがとうな、ハッコン」

ケリオイル団長が親指を立てて右腕を突き出し、白い歯を剥き出しにして笑っている。

当初は胡散臭い男というイメージが強かったのだが、最近は俺の前でも自然な姿を見せることが増え、団長に対しての警戒心がかなり薄れてきているのが自分でもわかる。

「食料事情が改善された今、始まりの階層の防衛がかなり容易になった。ヒュールミは転送陣の調査に集中してくれ」

「おうさ、まずは清流の湖階層と繋がるようにするぜ」

向こうと行き来できるようになったら、戦闘要員以外は即座に避難させる予定にしている。

「んでだ、ここの指揮は一応、俺に一任されているが、今後の方針となると独断で決めるわけにはいかねえ……っと、噂をすれば何とやらってやつか」

視線を横にずらし、顎でくいっとやり、あっちを視ろと言っているようだ。

釣られて視線を移動させると、鮮やかな赤で染まった女性用スーツを着た、女性がこちらに歩み寄ってきている。

この人って確か、始まりの階層のハンター協会会長だよな。

二十代後半でも三十半ばでも通用しそうな、年齢不詳な顔つきをしている。美人なのだが、一目で気が強いことが伝わってくる。

まつ毛が長く、きりっとした目元に、スーツの色に負けていない真っ赤な唇。癖の一切ない腰付近まで伸びた金色の髪。シャーリィに負けずとも劣らぬスタイルの良さ。

胸元に刺している万年筆は、会議の時に手にしていた物だろうか。足元はハンター協会らしいというべきか、真っ赤で頑丈そうなブーツを履いている。ハイヒールだと動きにくいからな。

「久方ぶりだな。ハッコンと呼ばれる魔道具。貴様のおかげで助かった、礼を言う」

ヒュールミとは方向性の違う男っぽさを、この女性から感じる。

「ハッコンとヒュールミは知っていると思うが、始まりの階層のハンター協会会長だ」

「会長だと清流の会長と被って面倒だろう。始まりの会長とでも呼んでくれ。本名は伏せさせてもらう」

地位の高い人だと、名前が知れ渡るのには不都合があるのかもしれない。

「今後の方針なのだが、転送陣が清流の湖階層と繋がり次第、ここを放棄して全員移動させる。清流の会長から許可は貰えているようだからな」

あっさりとこの階層を捨てると断言した始まりの会長に、声が聞こえる範囲にいた全員が一斉に振り返っている。

「丁度いい、皆、聞いてくれ。この階層に留まるのは得策ではない。食料を提供してくれる魔道具のハッコンがいれば、防衛を続けることは可能かもしれない。だが、彼もいずれは清流の湖階層に戻らねばならぬ。そうだな」

「う ん」

「食料を定期的に運んでもらえばいいと考える者もいるかもしれないが、転送陣は不完全な状態だ。一時的に復旧することは可能かもしれないが、いつそれが使えなくなるとも限らない。ならば、使用可能な内に、皆を安全な場所に移動させておきたい。ここを手放すのは身を切られる様に辛い。だが、キミたちの命と天秤に掛ければ、おのずと答えは決まる」

熊会長と同じ考えか。この階層のハンター協会会長も人命を優先するまともな人のようだ。

生存者は清流の湖階層と同じぐらいだと言っていたので、それぐらいの人数なら受け入れ準備はある。復旧するには人手が足りていないと熊会長が零していたので、歓迎されるだろう。

「それも、転送陣が復旧してからの話だ。今はこの階層を守りきることだけを考えようではないか。あと少しの辛抱だ、共に乗り越えていこう!」

「おおおおっ!」

野太い男たちの声が集落を満たした。

始まりの会長は男性陣からの人望が特に厚いようだ。女性も呼応して拳を振り上げているが、男性陣の勢いに完全に押されている。

「ここの会長はな、ハンターに厳しくも優しい……つまり、アメとムチの使い分けが巧みで、野郎どもにはそれが効果的で、熱心な信奉者がいたりするんだぜ」

ケリオイル団長が口を近づけ囁く。その説明がすとんと胸に落ち、現状に納得がいった。

このノリ、アイドルのコンサートにいるファンに似ている。

説明を終え、各自が思い思いの場所に散らばっていく。

俺たちの役割は食料提供と、集落内に隠れている人や要救助者がいないか捜索。防衛は今の人員で充分補えるそうなので、今回は戦闘に参加せずに済みそうだ。

となると、本来の自動販売機としての活躍が期待されるのか。商品欄を厳選しておいた方がいいかな。

この階層は少し寒いぐらいの気温なので、温かい食べ物とスープ類が喜ばれる。かき氷やアイスの出番はない。カップ麺も売り上げが期待できる。

って、代金を全くもらっていない。これって、始まりの会長に請求するべきなのだろうか。熊会長に支払いを求めるのは、違うしな。

「っと、ハッコンだったか。すまなかった、支払いがまだだったな。取り敢えず、金貨五枚で構わないか。ハンター協会が半壊していて手持ちがこれだけしかないのだよ。後で瓦礫を排除して金庫を掘りだすまで、待ってもらえないだろうか」

丁度それを聞きたかったので、ナイスタイミングだ。

「い い で す よ」

飲食料品の提供だけなら、それだけで充分だ。好きなだけ飲み食いしてくれて構わない。

これで、商品を大盤振る舞いしても損はしないことが確定した。何か新商品と機能を追加しても良さそうだ。ここでは自動販売機業務に専念できそうだな。