軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

制裁

俺に剣を向けられ、ラムダの目には怯えが滲んでいた。

しかし――。

その背後から笑い声が聞こえてくる。

「きひひっ。ラムダさん。もうこいつ、殺しちゃおうよ」

「俺たちがいれば、衛兵の一人くらい、楽勝だっての」

「そうだよ。とっとと水路の底に沈めちまおうぜ」

強盗団の連中はニヤニヤと余裕めいた笑みを浮かべていた。

ラムダはその声にあてられ、次第に落ち着きを取り戻した。

「そ、そうだ。何も臆することはない。こっちには夜戦のスペシャリストがいる。彼らが負けるはずなんてない……!」

自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いていた。

「ジークくん。やっぱり終わるのは君だよ。元Bランク冒険者としてのその慢心が、死を招くことになるんだ」

これまでに俺は一度たりとも、元Bランク冒険者だという肩書きを鼻に掛けたりしたことはなかった。

ラムダとは根本的に考え方が違うのだ。

「二度と生意気な口を利けないようにしてあげるよ。……ふふふ。その顔が恐怖に歪むのを見るのが楽しみだ」

「あんたが直接、手を下せばいいだろう。そいつらを使わずに」

「上の人間は、自分の手を汚したりはしないんだよ。覚えておくといい。とは言え、すぐに死ぬのだから意味もないけどね」

ラムダはそう言うと――。

「さあ。あの衛兵を殺してしまおうじゃないか」

と強盗団の連中をけしかけた。

「きひひっ。もう待ちくたびれちまったよ。俺のナイフがずっと、血を吸いたいって駄々をこねて困ってたんだ」

三人の中で一番小柄な男が、ナイフを舐めながら嗤った。

「じわじわと時間を掛けてなぶり殺しにしてやるよ。まずは指、その次に四肢、最後に首を掻ききってやる。次第に迫る死の恐怖に怯えな!」

小柄な男は地面を蹴ると、高らかに跳躍をした。

狭い路地の建物と建物の間を、バネのように高速で飛び回る。

縦横無尽に黒い影が走っていた。

「きひひっ! 俺様の動きに付いてこられないだろ! このままお前は何も分からず、気づいた時にはあの世だ!」

それまではランダムに飛び回っていたのが、突如、動きが変わった。

俺が立っているところに向かって、真っ直ぐに向かってくる。奴が間合いに入り、短剣を振り抜こうとした時だった。

キィン!

そのタイミングに合わせて、俺は盾でパリィした。

「なっ……!?」

小柄な男は完全に重心を崩され、隙だらけになっていた。

俺はすぐさま、奴の脚を剣で切った。

「ぐああああ!」

腱を断ち切ると、小柄な男はその場に崩れ落ちて悲鳴を上げた。

「自慢の脚も、これで二度と使えなくなったな」

と告げると、

「さあ。次はどいつが来るんだ?」

「「……っ!」」

あっさりと一人を仕留めたことで、残りの強盗団の連中に戦慄が走った。浮かべていた余裕の笑みはかき消えていた。

このままでは呑まれてしまうと思ったのだろう。

「うおおおおおおっ!」

一番大柄の男が大槌を手に襲いかかってきた。人の背丈ほどあるそれを振りかぶり、俺の脳天を目がけて振り落としてくる。

だが――俺はそれを片手で受け止めた。

ぴたり、と。

向こうがどれだけ力を入れても、びくともしない。

「――ふんっ!」

俺は力を入れると、大槌をひねり上げた。

柄の方を持っていた大柄な男の両腕は、本来は曲がらない方向にねじ曲げられた。

「ぐううううううっ……!」

大柄な男は走った激痛にもんどり打っていた。

両腕の骨が粉々に砕けただろう。

怪力も形無しだ。

「ひいいいいいいいいっ!」

その光景を見ていた最後の一人は踵を返して逃げ出した。

「みすみす逃がすと思うか?」

俺は足元に落ちていた短剣を拾い上げると、男を目がけて真っ直ぐに投擲した。剣先は右足を勢いよく貫通した。

「うぎゃあ!」

男は足を貫かれ、うつ伏せに倒れ込んだ。

俺は続けざま、大槌を宙に向かって放り投げる。回転しながら弧を描くと、遠く離れた男の頭蓋骨を陥没させた。

ピクピクとか細く震えている。

一応、まだ息はあるようだ。

「残りはラムダ――お前一人だけだな」

強盗団の連中を片づけると、俺はラムダの方を見やった。

「ひっ。ひいいっ!」

ラムダは青ざめた顔になると、その場に尻餅をついた。俺がゆっくりと近づくと、奴はズリズリと後退していった。

やがて、奴の背中は建物の壁にぶち当たった。

壁際に追い込まれる。

すると、奴は突如額を地面にこすりつけて叫んだ。

「ま、参った。僕の負けだ! 許してくれ!」

ラムダは俺の足に縋り付いてきた。

「じ、実は僕は奴らに脅されてただけなんだ。そうだよ。僕は被害者なんだ。ジークくんのおかげで助かった」

「勝てないと悟るや否や、強盗団に責任転嫁をして命乞いか。……ラムダ。あんた、本当にどうしようもないクズなんだな」

俺はため息をついた。

「残念だが、たとえこの場を乗り切ることができたとしても、もうすでにあんたお得意の弁舌で誤魔化せる状況じゃない。強盗団とあんたは利害で繋がっただけの関係だ。正直に話せば罪を軽くするとでも強盗団の連中に吹き込めば、連中は喜んであんたとの繋がりを露呈してくれることだろう。そうなれば、加担したあんたは一生牢獄の中。下手をすれば処刑ということもあり得る。もう詰んでるんだよ」

「た、頼む。僕のことを見逃してくれ。一生牢獄の中は嫌だ。お願いだ。ジークくん。僕に出来ることなら何でもする!」

「……何でも? あんた、今、何でもって言ったか?」

「も、もちろん。欲しいのは何だ? 金か? 女か? 靴でも舐めれば良いか? 君への忠誠の証として喜んでするよ?」

「そうだな。じゃあ……」

俺が考え込む仕草を見せると、ラムダはぱあっと表情を輝かせた。目の前に垂らした希望の糸を断ち切るように言う。

「自分の犯した罪としっかり向き合え」

「――っ!」

ラムダのこめかみに青筋が浮かび上がった。

「ば、バカにしやがって! お前だけは僕がぶっ殺してやる!」

怒りに我を忘れたように、剣を引き抜くと俺に斬りかかろうとする。

俺は右拳を握り込むと、奴の顔面に叩きつけた。

「べぶっ……!」

鼻の骨がひしゃげるような感覚があった。

ラムダは背後にあった建物の壁へと叩きつけられる。地面に倒れると、白目を剥き、口から泡を吹いて動かなくなった。

俺はそれを見下ろしながら告げた。

「あんたみたいな小物、剣を抜くだけの価値もない。……精々、冷たい牢獄の中で、自分の愚かさを悔いるんだな」