軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87 あいつに頼もう

ほのかちゃんはキューブを手のひらに乗せると、目を半ば閉じて、神経を集中する。

「魂が……まるで凍りついたみたいに動きません」

「わかるのか?」

「人の心は常に振動しているんです。よい揺れもあれば悪い揺れもあるのですが、その揺れがほとんどなくなっています」

「クローヴィスの『人間物品化』は人間を物に変えてしまうスキルだ。人格を否定し、魂のない物とみなすってことなんだろうな」

「酷いスキルです。でも、完全に物にされてしまったわけではないみたいです。凍りついているだけで、魂がなくなってしまったわけではありません」

「よかった」

本当にただの「物」になってしまったのなら、ダンジョンフラッドを起こしたり、ダンジョンそのものを生み出したりするための生贄にもできないはずだ。

生きていない、魂もないただの「物」では、生贄とは呼べないからな。

クローヴィスはエルフ以外は劣った種族だと主張する。

でも、本当に人間が「下等生物」だと信じてるなら、ことさらに強調する必要もないだろう。

それも、「下等生物」であるはずの人間に向かって。

クローヴィスは、自分の歪んだ優越意識を満たすために、見下すための何かを必要としてる。

常に何かを見下していなければ、自分が優れていると信じることができないのだ。

ある意味、これほど哀れな奴もいない。

そんなクローヴィスの自己矛盾を、「人間物品化」というスキルも抱えている。

人間をただの物品だと決めつけているにもかかわらず、「従魔術」などでその「物品」を使役できるのもおかしいし、「物品」でしかないはずのものを対価としてダンジョンを生み出せるのもおかしい。

本当に、心の底から、他人のことを便利な道具としてしか見てない人間は、クローヴィスのような中途半端な情緒を持ってない。

たとえば――そう、それこそ……

「悠人さん、この方のお名前、わかりますか?」

ほのかちゃんが手のひらのキューブを真剣に見つめながら聞いてくる。

「ちょっと待ってくれ。……ああ、皆沢さんだな。皆沢和輝さんだ」

俺はキューブを「鑑定」してそう答える。

「人間物品化」でキューブにされていたのは八人。

その中でいちばんレベルが高かったのは皆沢さんだ。

クローヴィスはいちばんの手札をあの局面で手放したことになる。

ダンジョンを「生み出す」ためには出し惜しみができなかったのか?

それとも、はるかさんを手に入れたことで物品化した人間たちが不要になったのか?

いずれにせよ、残りの七人のためにも早くクローヴィスを追いかけないとな。

「皆沢さん! 聞こえますか!? 皆沢和輝さん!」

ほのかちゃんの呼びかけに、キューブがかすかに震えはじめた。

ほのかちゃんからキューブに何かが伝わり、同時にキューブからほのかちゃんにも何かが伝わってる。

魔力……とは違うな。

音叉と音叉が共鳴し合うような感じだが、物理的に何かが震えてるわけじゃない。

俺もほのかちゃんに合わせ、

「皆沢さん! 聞こえるか!? 蔵式だ! あなたは人間だ、思い出してくれ!」

キューブがさらに震え、

「きゃっ!」

突然大きくなったキューブに、ほのかちゃんが驚いた。

いや、大きくなったんじゃない。

人間に戻ったんだ。

「おっと!」

俺は不自然な体勢で倒れそうになった皆沢さんを受け止める。

皆沢さんはラガーマンのような筋骨たくましい探索者だが、ステータスを発揮すれば問題なく支えられる。

「う……くっ、こ、ここは……?」

「よかった……」

と、ほのかちゃん。

「皆沢さん、俺です。蔵式です。わかりますか?」

「あ、ああ。ひさしぶり……でもないか。パラディンナイツに入ったと聞いた。どうしてここに? いや、そもそもここはどこなんだ?」

「意識を失う前のことは覚えてますか?」

「そ、そうだ! 俺はフラッドの鎮圧のために鬼子母神堂ダンジョンに潜って……! ボス戦のさなかにグリフォンが乱入してきたんだ! 強力な感電攻撃をくらって動けなくなったところにあの男が……!」

「『感電耐性』は?」

「状態異常耐性スキルなんて持ってないよ。あのダンジョンに感電攻撃を使うモンスターは出ない。感電を無効化するアイテムは装備してなかったんだ」

そういえば、普通の探索者はスキルではなく装備で状態異常対策をするんだったな。

貴重なSPを状態異常耐性スキルに使うのは(普通の感覚では)もったいない。

クローヴィスは感電攻撃を使うモンスターがいないダンジョンを選んでフラッドさせ、感電対策をしてない探索者にサンダーグリフォンをけしかけたんだろう。

フラッドを起こせば、そのダンジョンよりランクが上の高レベル探索者を引っ張り出せる。

フラッドを鎮圧しようと動いてる最中なら、おのずと不意も打ちやすい。

……それにしても、手回しがよすぎないか?

探索者協会が、どのダンジョンにいつ、どの探索者を送り込むかを読み切るのは難しいと思うんだが。

そもそも、クローヴィス一人では同時に複数のダンジョンでフラッドを起こすのも難しそうに思える。

「そのあとの記憶はないんですか?」

「……すまない。気づいたらこの状況だった」

皆沢さんから得られる情報はなし、か。

「人間物品化」で物品化された人間はアイテムボックス内では仮死状態になるとあったから、望み薄ではあったんだが。

「ほのかちゃん、『感応』ではるかさんの居場所を見つけることはできる?」

「すごい速さで動いてます。都心とは逆のほうに向かったようです」

「距離とかは?」

「すみません……ある程度近づかないとわからないと思います。ああ、お母様……」

ほのかちゃんが肩を落とす。

「クダーヴェ」

俺は境内を興味深そうに眺めていた竜に話しかける。

境内にはさっきまでダンジョンから出てきただいだらがいたが、俺がクダーヴェを召喚したときに一目散にいなくなった。

「気配探知」で、ダンジョンに逃げ込んだことまでは把握してる。

『なんだ?』

と、金色の目で見下ろしてくるクダーヴェ。

とくに威圧したわけではなさそうだが、視線がこっちを向いただけで、ほのかちゃんはもちろん、皆沢さんまでもが身を硬くした。

「俺とほのかちゃんを乗せて、さっきのエルフを追跡してくれないか?」

『むう。俺様は構わぬのだが、その娘には耐え難かろう』

「俺が抱えてれば……」

『問題はそれだけではない。俺様から溢れ出す覇気を捉えられれば、足の速いサンダーグリフォンに逃げられるおそれもある』

「それはそうだな……」

ついでに言えば、この巨体でレーダー網の張り巡らされた日本の上空を飛ぶのも避けたいところだ。

こんな怪獣映画も真っ青の召喚獣を持ってるなんて知られたら、もう普通の生活を送らせてはもらえないだろう。

芋づる式にはるかさんやほのかちゃんの正体までバレかねない。芹香にも迷惑をかけるどころの話じゃない。

「でも、他に空を飛ぶ方法なんて……いや、ひとつだけあったな」

まだ「あった」と言うのは過言だろう。

ひょっとしたらできるかも……というレベルにすぎない。

でも、試してみる価値はある。

「『シークレットモンスター召喚』――からくりドクター!」

俺の前に魔法陣が広がり、ソシャゲのレア確定演出のように光が溢れた。

その中から現れたのは、久留里城ダンジョンで戦ったシークレットダンジョンボス・からくりドクターだ。

「うおっ!?」

と、皆沢さんが驚いている。

「そ、その恐ろしいドラゴンといい、蔵式君は召喚系のスキル持ちだったのか?」

「悪いですけど、今は詮索はなしでお願いします」

「そ、そうだな。すまん」

「悠人さんはこんなこともできるんですか……」

ほのかちゃんも感心してくれてるようだが、今は反応してる時間が惜しい。

「よし、おまえの名前は『源内』だ」

ちょっと安直なネーミングか?

考えてる時間がないのだからしかたがない。

が、からくりドクターはとても満足そうにうなずいた。

《「源内」は、命名により新たな力を手に入れた!》

Status──────────────────

源内

からくりドクター

レベル 2941

HP 235280/235280

MP 360320/360320

攻撃力 26469

防御力 23528

魔 力 104653

精神力 109017

敏 捷 112315

幸 運 29410

・固有スキル

【NEW!】スキル付与1

・生得スキル

からくり作成 命令 データリンク 操縦5 アイテムボックス5 妨害魔法3

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Skill─────────────────

スキル付与1

自身の所有物に任意のスキルを付与することができる。

スキルの付与には、そのスキルを取得するのに要するのと同じだけのSPが必要となる。

付与できるスキルは、自身が取得しているものに限られる。

付与したスキルのスキルレベルは、そのスキルのスキルレベルと「スキル付与」のスキルレベルのいずれか小さいほうが上限となる。

ひとつの所有物に付与できるスキルの数はS.Lv個まで。

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《召喚したモンスターとの絆により、スキル「スキル付与1」を取得しました。》

よさそうなスキルだが、それは今は後回しだ。

「源内、大急ぎでこれを造ってくれないか?」

俺はアイテムボックスから「からくりUFOの設計図」を取り出した。