軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

79 VSからくりドクター

さて、「鑑定」の結果をどう見るか?

「こりゃまた変わり種だな……」

Bランクの光が丘公園ダンジョンのシークレットボスだったホビットスモウレスラーがガチガチの近接ファイターだったのに対し、この「からくりドクター」は後衛――というか、支援職に見える。

もっといえば、非戦闘職の研究者って感じだ。

もちろん、Aランクダンジョンのシークレットボスだけあって能力値はそれなりに高いのだが。

ドロップアイテムは「導力炉」「レーザーブレード」「からくりUFOの設計図」。

「導力炉」は、道中で拾った「万能歯車」と同じく謎アイテム。

どの程度レアなのかはよくわからん。

一枠目にあるならそうでもないのかもしれないし、レベル2941のシークレットボスからのドロップと思えばそれなりにレアなのかもしれない。

「レーザーブレード」は……なかなかのロマン装備だよな。

レーザーの刃を射出することもできるようだから、剣関連のスキルのみならず射撃系のスキルも使えるかもしれない。

ただし、ドロップの二枠目はレア枠だ。

「トレジャーハント」があるとはいえ、入手できる確率は高くない。

「強奪」→「逃げる」のループで狙うことはできるが、今はそうゆっくりしていられる状況でもないんだよな。

三枠目は、「からくりUFOの設計図」となっている。

三枠目のアイテムは「盗む」や「強奪」でしか入手できない。

だが、「設計図」とある通り、単体では使えないアイテムなんだろう。

からくりUFOとやらがどんなものかはわからないが、対応するスキルが必要らしい。

そんなスキルはまだ持ってないが……目の前に持ってそうなのがいるんだよな。

「からくりドクター」のスキル欄には、「からくり作成」というそのまんまな名前のスキルがある。

おあつらえ向きに、「からくりドクター」はシークレットボスだ。

一度倒せば、「シークレットモンスター召喚」で呼び出せる。

となると、この「からくりUFOの設計図」も盗んでおきたいよな。

って、「からくり作成」を考慮に入れるなら、「レーザーブレード」も作れる可能性があるのか。

とりま、「強奪」してみて、「からくりUFOの設計図」が手に入ればよし、ダメなら「逃げる」でやり直し。

「設計図」の入手があまりに難しいようならどこかで見切りをつけるしかないだろう。

俺は手にしたロングボウに「弓術」の下位スキル「速射」、「強奪」、念のための「ノックアウト」を乗せて矢を放つ。

からくりドクターの喉笛に矢が的中。

《「レーザーブレード」を盗んだ!》

「そっちか」

一戦目と二戦目で「レーザーブレード」と「設計図」が揃うのが最良だ。

俺は「逃げる」でドクターから背を向けて逃げ出した。

堡備人海と布袋は召喚を解いて送り返す。

さっき呼び出したばかりで悪い気もするがしかたがない。

逃げタイマーの針を読みつつ、俺は背後をちらりと見る。

矢を喰らったドクターが、歯車の縁から飛び降りた。

「えっ、まさか、自殺した!?」

おい、いま死なれるとドロップアイテムの吟味ができないんだが!?

と、思ったのは早計だったらしい。

歯車の下から、大きな飛行物体が現れた。

透明な 風防(キャノピ) の中に、左右の手で操縦桿を握るドクターの姿。

パンを擬人化したヒーローが悪役を退治する国民的な幼児向けアニメがあるよな。

あれに登場する、悪役の乗ってるUFO。

あれを、いくらかからくりチックにアレンジしたような乗り物だ。

「あれがからくりUFOなのか?」

なにあれ、ちょっとほしいんだけど。

まあ、現実問題としてダンジョンの外であれに乗れるかというと難しそうだが。

あんなデカいもんをどこに置くんだって話もある。

「アイテムボックス」を5に上げればギリギリ収まりそうな気もするけど(「アイテムボックス」の容量はS.Lv×1.5メートル立方)、他のものが入らなくなりそうだ。

俺がUFOに目を奪われてるうちに、上や横にある歯車の奥から、からくり兵やからくり兵長、からくり突撃兵が現れた。

道中と違い、いずれもレベル2941にレイズされている。

これまでよりずっとキレのいい動きで、からくり兵たちが俺のいる歯車へと飛び移る。

「まずいな……」

逃げタイマーは残り7秒。

からくり兵たちが俺を取り囲むほうが絶対早い。

ステータスの圧倒的な優位はあるが、あの数にたかられて無事で済むか?

さらに、上空に舞い上がったUFOにも変化があった。

UFOの底が開いて、ミサイルポッドがにょきっと出る。

くぐもった発射音と発射煙。

十数発のミサイルが、でたらめな軌道で俺に迫る。

「くそっ、厄介な!」

「逃げる」をあきらめて迎撃するか?

いや、体勢が悪すぎる。

堡備人海と布袋を送り返したのは失敗だったか。

「ええい、気合いで避けるしかない!」

逃げエリアの外縁に沿ってジグザグに走り、飛んでくるミサイルを斜めに避ける。

何度か幸運回避も出て、直撃だけは避けられた。

近くに着弾したミサイルの爆風は喰らったが、ステータス差のおかげかHPは一割も削られてない。

……いや、直撃しなかったのに1万以上ものダメージを喰らったというべきか。

爆煙を切り裂いて、からくり兵たちが迫ってくる。

一斉に突き出された槍は、まさに 槍衾(やりぶすま) と呼ぶのがふさわしい。

だが、今の俺にとってはこっちのほうが対処が楽だ。

「逃げる」都合上、こっちから攻撃はできないものの、「槍技」「槍術」といった武器スキルは、攻撃を回避する上でも役に立つ。

「う、お、お、お、おおおっ!」

数秒間、からくり兵たちの槍をかわしにかわす。

《「逃げる」に成功しました。》

《経験値を得られませんでした。》

《SPを得られませんでした。》

《お金を得られませんでした。》

《320911円を落としてしまった!》

暗転後、ボス部屋の外にワープした俺は、額に浮いた冷や汗をぬぐう。

「ふう……これは何度もできないな」

あのからくりUFOには、まちがいなく他の攻撃手段もあるだろう。

ドロップアイテムが「レーザーブレード」なんだから、光線兵器があってもおかしくない。

予備動作なしで即着弾するレーザーなんて、幸運回避でしか避けられないぞ。

2941にレベルレイズされたからくり兵たちは、能力値もさることながら、所持スキルのレベルも軒並み上がってるはずだ。

「鑑定」する余裕がなかったが、あの動きは「槍術5」と見て間違いない。

他にも未知のスキルが増えてる可能性もある。

「そういえば……」

俺は「アーカイブ」のスキルを使って、からくりドクターのステータスを再確認する。

「やっぱりそうだ。地味に『妨害魔法』も持ってるな」

スキルレベルは3だが、こちらの足を一瞬でも止められると厄介だ。

俺は精神力(能力値の)が高いから、状態異常はそう滅多にはかからないはずだ。

また、麻痺や石化や感電や即死といった致命的な状態異常は、耐性スキルで対策済みだ。

でも、状態異常が完全に効かないわけじゃない。

短時間だけ足が重くなる「鈍足」とか、一瞬だけ目がくらむ「眩惑」とか、弱いが故に対策もない状態異常もあるからな。

そのすべてを無効化しようと思ったら、「魔法相殺」のようなスキルを使うしかない。

だが、そうすると逃げタイマーがリセットされる。

「『命令』『データリンク』で他のモンスターに一斉攻撃させることもできるんだろうな」

さっきはからくり兵たちばかりが現れたが、からくりドローン、からくりドローンスワーム、からくり戦車といった、道中にもいたモンスターが出てくる可能性は高い。

数にものを言わせて弾幕を張られでもしたら、逃げながらすべてを回避するのは無理だろう。

「なるほど、数か……」

これまでの戦いでは、あそこまで大量のモンスターと同時に戦うことはなかったからな。

久留里城ダンジョンは道中の道幅が狭めだったからなおさらだ。

一対一、一対少数の経験を積むには有益だったが、最後の最後で対多数戦を強いられるとは思わなかった。

いや、俺がソロでなかったら、前衛で壁を作ってUFOを魔法で攻撃する……みたいな、ごく普通の連携になったんだろうけどな。

シークレットボスではない通常のダンジョンボスだったら、ボスは「からくりジェネラル」だった公算が高い。

取り巻き数体を連れた物理攻撃特化のボス……というのが灰谷さんからの情報だ。

ボスがシークレットになる条件はわからないまま。

「シークレットモンスター召喚」のある俺にとって、シークレット化は基本的には歓迎だ。

でも、心の準備くらいはしたいよな。

本音を言うとこのダンジョンの締めは武器スキルでやりたかったんだが、次の課題が見つかったと思っておこう。

現状の俺のスキルの中で多数相手にいちばん効果がありそうなのは、

「『幻獣召喚』か……うーん、広さはあるけどな」

あの 幻竜(バハムート) ――クダーヴェにとってからくりドクターが「食いでのある」相手かというと疑問だな。

ドロップアイテムを吟味しようとしてるから苦労してるのであって、まともに戦って負けるほどとは思わない。

「逃げる」場合でも、時間をかけることさえ厭わなければ、「逃げる」を試す→危なそうならキャンセルして敵を掃除、というループを、安全に逃げられるまでくりかえせばいいだけだ。

ずっとやってれば、どこかでその程度の隙は作れるだろう。

でも、今は多重フラッドの件があるからな。

大急ぎでトンボ帰りするほどではないにしても、ここでの吟味にあまり時間をかけるのは問題だ。

フラッドの危険が無視できるほどに小さいなら、芹香が俺に声をかけるはずがない。

ギルドや協会で組織的に動くほどではないが、無視できない程度には危険がある。

芹香はそう判断してるってことだよな。

思いついて、スマホを開いてみる。

政府の出した警報がプッシュ通知にずらりと並んでいた。

パラディンナイツのギルドチャットには、灰谷さんがフラッドの状況を逐次流してるようだ。

千鳥ヶ淵ダンジョン、葛西臨海公園ダンジョン、 雑司ヶ谷(ぞうしがや) 鬼子母神(きしもじん) 堂ダンジョン……

都内の複数のAランクダンジョンがフラッド中となっている。

「しかたない。次の『強奪』でダメなら設計図はあきらめよう」

からくりUFOは魅力的だが、現実問題としてあれをダンジョン外で乗り回せるとは思えない。

目立つ、航空法に違反する、あんなデカブツを置く場所がない――問題だらけだよな。

むしろ、先に「レーザーブレード」が盗めてよかったんじゃないか?

ここでUFOへのロマンを優先して地元でのフラッドを防げなかったら元も子もない。

ロマンを捨てよう。

物欲を捨てるんだ。

なまじ、からくりドクターのドロップ枠なんか見てしまったから、いらぬ欲をかくことになったんだ。

俺はあいつのドロップ枠なんか見なかった。

そういうことにしておこう。

俺は堡備人海と布袋を召喚し直し、歯車ひしめくボス部屋に再度足を踏み入れた。

ノータイムで矢を放つ。

「弓術」の下位スキル「速射」を「弓技」の下位スキル「ショット」で補強、「狙撃」「ブルズアイ」「強奪」「ノックアウト」のフルコースだ。

今回は初手のダメージを重視して「先陣の心得」(戦闘開始後S.Lv×10秒間攻撃力・魔力が1.5倍になるが、その後S.Lv×10秒間攻撃力・魔力が2/3になる)も発動してる。

《「からくりUFOの設計図」を盗んだ!》

「やったぜっ!」

見事、「設計図」を引き当てた。

物欲を捨てて臨んだのがよかったのだろうか。

いや、馬鹿を言っちゃいけない。

今回は布袋がパーティにいるからな。

俺と布袋、二人分の「トレジャーハント」が利いてるのかもしれない。

一戦目と二戦目でドロップがかぶらなかったのは偶然だろうが。

「設計図」を盗んだ矢は、からくりドクターの右目を射抜いていた。

目を押さえ、ふらふらと後ろに下がるドクター。

歯車の下にあるUFOに飛び乗るつもりだろう。

「させるか!」

すかさず「クイックドロー」でロングボウをからくりランスへと持ち替える。

そのからくりランスを――「武器投げ」「槍投げ」「投擲」「ブルズアイ」。

からくりランスがドクターの額に激突して砕け散る。

「武器投げ」は武器がオシャカになる代わりに火力が高い。

俺はさらに「クイックドロー」。

取り出したのはまたもからくりランス。

道中でからくり兵から死ぬほど手に入れたからな。

俺の「アイテムボックス」にはからくりランスが数十本も眠ってる。

ワンパターンで申し訳ないが、二本目も同じく「武器投げ」だ。

今度は命中前に「クイックドロー」し、三本目のからくりランスを「武器投げ」。

「鑑定」でからくりドクターの残りHPを確認し、「クイックドロー」からくりランス「武器投げ」四投目。

スリーストライクアウトではなく、デッドボールを頭に四発だ。

野球なら大乱闘不可避の暴投で、ドクターのHPがゼロになる。

そのまま後ろに倒れ、黒い粒子となって消えるからくりドクター。

「……あ、からくり兵を湧かせて狩ればよかったか」

せっかくレベルレイズできる機会だったのに。

まあ、今回は時間がないけどな。

からくりドクターに雑魚を呼ぶスキルはなかったから、あの湧きはこのボス部屋のほうのギミックなんだろう。

状況が落ち着いてからまた来れば、もっと余裕を持ってSPを稼げるさ。

《ダンジョンボスを倒した!》

《ダンジョンボスに経験値はありません。》

《SPを1,830,062獲得。》

《15,587,300円を獲得。》

《「導力炉」を手に入れた!》