軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

68 ハイヒューマン様(笑)

「ぐっ、離せっ! 人間風情が! 俺の高貴な身体に触れてよいと思っているのか!?」

俺に取り押さえられた男が、顔だけをこっちに向けてそう喚く。

ちなみに俺もこいつも日本語だ。

「自分は人間じゃないみたいな言い分だな?」

「人間風情と一緒にするな! 俺は誇り高き――」

「ハイヒューマン様か?」

「なっ……」

「素性を隠すためにステータスを『偽装』してるんだよな? それにしたって、隠すならもう少しもっともらしい設定を考えたらどうなんだ? エルフとバレるわけにはいかないなら、普通に人間にしておけばよかったろうに」

「誇り高きエルフが、仮初めのものとはいえ人間などと名乗れるか!」

「たとえ嘘の身分でも『人間風情』では不満だったってわけか。それで、この世界にいもしない『ハイヒューマン』を名乗ってると? さすが、誇り高いエルフ様はやることが違うな」

この分じゃ、レベルその他のステータスもだいぶ盛ってるのかもしれないな。

「貴様ぁっ! 人間如きがエルフを愚弄するか!?」

「俺が愚弄してるのはエルフじゃない。選民意識に囚われたおまえだよ」

「おのれええええっ!」

猛獣のような唸りを上げるクローヴィス。

だが、その程度で抜けられるような押さえ方はしていない。

「はるかさん、怪我はないか?」

顔を上げ、俺ははるかさんに問いかける。

「ありがとう、悠人さん。しつこくて困ってたの」

「こいつは?」

「私と同じ世界からこの世界に流れ着いたエルフよ」

「知り合いなんですか?」

「ええ、まあ……」

はるかさんは歯切れの悪い言葉でうなずいた。

「俺はっ! ハルカフィア姫の婚約者だっ!」

組み伏せられたエルフの男がそう叫ぶ。

「婚約者? 本当ですか?」

「 元(・) 婚約者です。私が人間の男性とつがいとなる前の」

「それはそれは……」

はるかさんみたいな美人を人間の男に取られたら、頭に血が昇るのもわからなくはない。

もっとも、こんな男が婚約者では、はるかさんが逃げたくなるのも当然だろう。

……婚約者がいようといまいと、はるかさんの行動は変わらないような気もするけどな。

「誤解するな! そのことはついでだ! 俺はエルフとしての高尚な使命のために動いている!」

「高尚な使命?」

「そうだ! この不浄の世界を捨て去り、われらが森のある世界へと帰還する!」

「できるのか、そんなこと」

「それは貴様の知ったことではない!」

まあ、そりゃそうだけど。

「で、はるかさんはどうするんだ?」

あえて聞かずもがなのことを聞いてみる。

「私は元の世界に戻る気はないわ。ほのかはこの世界で育ったのだから」

「人間の血の混じった薄汚い娘などこの世界に捨ておけば――ぐががっ!?」

「口には気をつけろ、プライドだけのハイヒューマンさんよ」

ほのかちゃんを罵る言葉に、つい手に力がこもってしまった。

「はるかさんが協力しないと言ってるんだ。大人しく引き下がれ」

「なぜ人間如きに命令されねば――ぐあああっ!?」

「学習ってもんをしないのか、誇り高いエルフとやらは」

俺はクローヴィスの腕を手荒に引いて、その場に立たせる。

その背を突き飛ばしてから、

「――失せろ。もう二度とここに顔を見せるな。次はこの程度じゃ済まさない」

「に、人間如きが、俺に指図を……!」

「ブレイズランス」

その脇をかすめて、俺の放った白炎の槍が地面をえぐる。

「なっ……人間如きがこんな高度な術を!?」

「『鑑定』でもしてみろ。おまえの敵う相手かどうかわかるはずだ」

「くそっ、『鑑定』――れ、レベル3241だと!?」

クローヴィスが俺のステータスを見て絶句する。

クローヴィスが今見た俺のステータスは「偽装」によってでっち上げられた偽のステータスだ。

レベルは3241。魔法系スキルの充実した優秀な探索者に見えるだろう。

レベルランキングに登録されてないのが不思議なくらいのステータスだな。

最初はもっと控えめな内容にしてたのだが、「Aランクダンジョンもソロで潜るんでしょ? だったらそれなりのステータスにしとかないとかえって怪しまれるよ」「そうですね。万一黒天狗の正体が蔵式さんだとバレてしまった場合、ステータスがあまりに貧弱だといらぬ疑いをかけられます」と、芹香&灰谷さんに指摘されたのだ。

二人の意見を取り入れて、俺のステータスは「Aランクダンジョンにソロで潜っててもおかしくない魔術師系の探索者」という線で「偽装」することになった。

数多くの探索者を知る芹香・灰谷さんに考えてもらったステータスだから、かなりもっともらしく見えるはずだ。

……でも、クローヴィスは自分のステータスをレベル4700と偽装してるくせに、俺のレベル(偽装)が3241なのを見て驚くとは……。

やっぱり、レベルのほうもかなり大きく盛ってるんだろうな。高すぎるプライドに見合うくらいに。

「そうか、ハルカフィア姫は下賤な男と交わるのが趣味なのだったな。前の男が野垂れ死んだあとは、レベルが高いだけのこの賤しい男に乗り換えたというわけか! とんだあばずれもいたものだ!」

「いい加減にしろ! はるかさんの苦労も知らずに身勝手な期待を押し付けるな!」

「……ちっ、しかしこれだけのレベルとなると……」

クローヴィスは一瞬考える様子を見せた。

これまでの傲慢一辺倒と違って、何かを計算するような気配だが……?

気のせいか?

「お、覚えていろ! 必ず後悔させてやるぞ、クラシキ・ユウト!」

完全に三下そのものの捨て台詞を吐いて、クローヴィスが逃げていく。

今のところ、はるかさんに強引に迫っただけなので、力づくで拘束するだけの名分がない。

はるかさんへの暴行を主張できなくもないが、被害者であるはるかさんもまた、警察に身元を聞かれては困る立場だ。

「大丈夫か、はるかさん」

「助かったわ、悠人さん。とんだ迷惑をかけてしまったわね」

「厄介そうなのにからまれたな」

はるかさん以外にもこの世界にエルフが来てるとは驚きだ。

「今日初めて現れたんだよな?」

「ええ。いったいどこから私のことを嗅ぎつけたのか……」

「心当たりはないのか?」

「ないわね」

「何が目的だったんだ?」

「彼が言うには、他にもエルフの生き残りがいて、ともに元の世界への帰還を目指しているのだそうよ」

「帰りたいなら勝手にすればいいんじゃないか?」

「彼らの考えている方策では、私の協力が必要になるみたいね」

「はるかさんは特別な存在だってことか?」

「血筋のおかげで、エルフの中でもとくに精霊との感応に長けてはいたわ。私を元の世界の精霊と感応させることで、向こうの世界への道標にしたいようね」

「そんなことができるのか」

「いえ、簡単にできることではないはずよ。なんらかの特別な儀式が必要になるわ。そこまでやったとしても、世界を飛び越えての感応なんて、私はまず生きては戻れないでしょうね」

「……つまりあいつは、はるかさんが人柱になって、自分たちを元の世界に戻せと?」

「はっきりとは言わなかったけど、そういうことね」

なんとも呆れた話だな。

「……そういえば、あいつもエルフなら、この世界への適応に問題があるんじゃないのか?」

以前より血色はよくなったものの、はるかさんはいまだにエリクサーを手放せない。

この世界の魔力が元の世界より薄いためだと聞いている。

「わからないわ。何か別の解決策を見つけたのかしら」

「それならその解決策をまずは教えろってんだ。最初からはるかさんを利用する気しかないじゃないか」

でも逆に、それを取引材料にしてくることもなかった。

とすると、はるかさんには使えない方法なのかもしれないな。

「これで諦めると思うか?」

「そうは思えないわね。彼、昔から執念深い性格だから」

それならなおさら、あいつのステータスを見破る手段を得ておきたいな。

クダーヴェが俺に使った「看破」というスキル。

あれがどうにか手に入ればいいんだが。