軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243 アサイラム案内(1)

シャイナにアサイラムを案内したいのはやまやまだったが、さすがに疲れの色が濃く見える。

ひとまず住居まわりだけを案内し、彼女にはゆっくり休んでもらうことにした。

彼女の部屋から離れてから、

「ほのかちゃん。どうだった?」

俺はほのかちゃんにシャイナの印象を訊いてみる。

固有スキル「感応」を持つほのかちゃんの人を見る目は確かだ。

以前不法探索者に騙されたことがあったが、あの当時はまだ固有スキルには目覚めてなかったからな。

固有スキルは基本的にステータスを得た時には既にあるもののはずなんだが、ほのかちゃんは山伏修行によって固有スキルに覚醒するという珍しい経験をしている。

厳密には、修行の最中に邂逅した天狗峯の神によって、眠れる力を引き出されたということらしい。(*1)

ともあれ、今のほのかちゃんは他者の感情をありのままに感じ取ることができる。

多文化共生の極みのようなアサイラムにおいて、ほのかちゃんは貴重な戦力なのだ。

そのほのかちゃんから見て、シャイナことシャイナレーゼ姫はどう映ったのか?

「気持ちに偽りはないと思います。窮地から助けてくれた悠人さんのためならなんでもするという気持ちでした」

「そこまで献身的なのもかえって妙な感じだけどな」

「悠人さんは自分のしたことに自覚がなさすぎです。シャイナさんが王族として強い責任感を持ってることも確かですけど」

「悪いことじゃないよな。ただ、その責任感を利用して自分に忠誠を誓わせるようなのは嫌なんだ」

「悠人さんがそういう人なのはわかってます。お母様があれだけ迫ってものらりくらりと逃げ続けた人ですからね」

と、くすりと笑うほのかちゃん。

「ま、まあ、問題なさそうならよかったよ。エキチカに潜れるほどの実力者で、王族や宮廷魔術師としてこの世界にない知識も持ってる子だ。アサイラムに協力してもらえるとありがたいね」

「シャイナさんは決して拒まないと思いますよ。好奇心旺盛な方のようですし」

ほのかちゃんによるチェックも問題なかったので、俺は翌日、シャイナにアサイラムを案内することにした。

「この拠点の案内をしていただけるのですね!」

一晩眠っただけで、シャイナは元気を取り戻したようだった。

探索者としての実力もあるから、体力や回復力が高いんだろう。

シャイナは、綺麗に櫛を通された青い前髪のあいだから、好奇心に輝く琥珀色の瞳を俺へと向けてくる。

ちなみに、ほのかちゃんには別件があり、今日の案内は俺だけだ。

「まず断っておくと、このアサイラムは基本的にボランティアで運営されてる。衣食住は提供するし、働いた分の手当ても出してるけど、べつに働くことを無理強いしてるわけじゃない。これから施設を見ていく中で、シャイナさんがやりたいと思ったことがあればやればいいし、なければやらなくても構わない」

手当てと呼んでるが、実質的には賃金なので、ボランティアと言ったのはどちらかといえば精神的な意味合いだ。

「働かざる者食うべからず、ではないのですね」

「そんなことわざを教えられたのか? でも、ここではそれは忘れてくれ。みんなそれぞれ抱えてる事情があるんだから、無理をしてまで働く必要はない。シャイナさんにここでの活動以外にやりたいこと、やるべきことがあれば、それができるように手助けもする」

たとえば、エリュディシアの王女として、異世界に連れてこられた同胞たちを助けたいと言うのなら、その手伝いはするつもりだ。

もっとも、シャイナが個人で動くより、アサイラムの活動の一環として動いたほうが効率はいいと思うけどな。

「俺は、自発的な協力でなければ意味がないと思ってる。危険が伴う活動もあるからな。そもそも、ここにいること自体がリスクでもある。もしここから出て、改めて雇ってくれる探索者を探したいと言うのなら、俺が止めることはない」

「クラシキ様は、お優しいのですね」

「そんなこともないと思うけどな。で、シャイナさんはどうしたい? もちろん、一通り説明を聞いてからでも……」

「――お手伝いさせてください」

「……いいんだけど。って、早いな」

言葉の途中できっぱりと言われ、驚く俺。

「ここの活動についてはまだうかがっておりませんが、クラシキ様のことは信じています。命を救われた身でもありますから、そのお礼をしなければ、王女としての沽券に関わります」

「義務感で言ってるなら……」

「いえ、義務感もありますが、私自身の意志です。私はあなたの力になりたいのです。そして、あなたのなそうとしていることを見届けたいと思います」

「そうか。心強いよ」

かえってプレッシャーのように感じなくもないが、そう言ってくれるのはありがたい。

変に恐縮するよりもどっしり構えて受け入れてあげたほうがお互いのためだ――と芹香に注意されそうなので、ゆったりした態度で受け止める。

「その『蔵式様』というのはやめてくれないか? どうもこそばゆくてな」

まあ、これくらいは要望してもいいだろう。

「ええと、では、『クラシキさん』でよろしいでしょうか? 『ユウトさん』とお呼びするのはほのかさんに怒られますよね?」

「え? なんでほのかちゃんが怒るんだ?」

クラシキという名前は異世界人には発音しづらいらしいので、名前呼びでも俺としては構わない。

「えっ、だって、ほのかさんはユウトさんの恋人なんじゃ……」

「いや、違うけど」

「そうなのですか?」

「恋人は別にいるからな」

「それでは……ほのかさんも報われませんね」

「悪いとは思ってるんだけどな」

ほのかちゃんの気持ちを知りながらアサイラムの活動に深く関わってもらってるのは、しかたない状況とはいえ悪いと思ってる。

それにしても、一日にして見抜かれるほどにほのかちゃんの態度はわかりやすいんだろうか。それとも、受け止めきれない俺の態度の問題なのか。

「あ、いえ。ユウトさんを責めているわけではありません。立ち入ったことを言ってしまい、申し訳ありません」

「いや、いいよ。やっぱりユウトのほうが発音しやすいみたいだな」

「そう、ですね。お名前のほうもあちらでは珍しい響きですが、発音しづらくはありません」

「じゃあユウトでいいよ」

「では、私もシャイナとお呼びください。年下ですし、『さん』も必要ありません」

「そういうことなら、シャイナと呼ばせてもらうか」

向こうの文化では、特別な場合に『様』に相当する呼び方をする以外は、基本的に名前を呼び捨てにするらしい。

欧米と似たような文化なんだろう。

「じゃあ、アサイラムを案内しよう」

「よろしくお願いします」

俺とシャイナがいるのは、居住区の入口にある広場の前だ。

天井は高めにとって、幻覚魔法で空のように見せかけている。

その「空」の下には、煉瓦を敷いた地面と大きな噴水があり、それを囲むようにベンチとブナの木が並んでいる。

広場からは六叉路が伸びていて、それぞれがゆっくり自然なカーブを描いて居住区の奥に消えていく。

「まず、今いるのが居住区だな。居住区は、異世界での出身国や種族ごとに分けている。ラマンナとエリュディシアは長年の敵国同士という話だから、離れた居住区を割り振ってるな。エルフや獣人たちは生活環境の好みが人間とは違うから、また別の区画を造ってる」

「……我々の世界の敵対関係を持ち込んでしまい、申し訳なく思います」

「そんなの、どこの世界でも同じだろ。シャイナに責任があることでもないし。ただ、俺としては、あっちでの敵対関係は一旦脇に置いてほしいと思ってる。アサイラムの中で派閥を作ってほしくないんだ。さいわい、今は人数が多くないこともあって、関係は良好みたいだけどな」

「わかりました」

「ただ、貴族と平民の別については、アサイラムでは配慮していない。元の身分によらず、ここでの扱いは平等だ。シャイナなら大丈夫だとは思うけど、王族だからという理由で特別扱いすることはないからな。理由は……わかるか?」

「この世界に身分の別はない、という以外に、ですよね?」

「ああ。この世界にも身分がある国もあるし、身分がないとされている国であっても貧富の差が大きかったりするけどな」

シャイナは少し考えてから言った。

「……私たちは、奴隷同然の立場に置かれていました。そこからの解放を願ったのに、元の世界の身分的な特権は保持したいと望むのは、理屈が通らないと思います」

「ああ、そういうことだ。俺は、人が人を虐げるような仕組みそのものと戦ってるんだ。それなのに、助けた人たちが自分たちの特権を主張するとしたら、いったいなんのために戦ってるのかわからなくなる。異世界の歴史や文化を踏みにじることになるのかもしれないが、主に俺のモチベのために、ここではわがままを通させてもらっている」

「立派なお志だと思います。王族である私が言うのもおこがましいかもしれませんが……」

「そんなことはないさ。人間、場所を選んで生まれてくるわけじゃないからな。自分が生まれなかった場所のことを思いやれる気持ちがあるのは大事なことだ」

「居住区にはどのくらいの人が暮らしているのですか?」

「二百人を超えたくらいかな」

異世界人探索者は月に数千人の規模で入ってきてるからな。

救い出せたのはごく一部だ。

もちろん、ギルドの中にも異世界人をまともに扱おうとしているところもあり、すべての雇用者が悪質なわけではない。

だが、凍崎の「作戦」の影響もあってか、総じて人の使い方が荒っぽい。

「逃げる」ポータルの感度の問題もあり、苦しんでいるのに救うことのできていない異世界人もまだかなりいるはずだ。

「収容人数に合わせて拡張するのは簡単だからな。もっとも、地下での暮らしが長引けば、やはり窮屈には感じるだろう」

ダンジョン内が物理的に「地下」にあるといえるのか、という問題はさておき、閉鎖空間であることに違いはない。

冷戦時代に核戦争に備えたシェルターが造られたが、まんまあのような感じの空間なのだ。

一応、内装やインテリアを工夫して圧迫感を覚えづらいようにはしてるんだが、建築やデザインの専門家がいるわけじゃないからな。

「地下とは思えないほどすごしやすい空間だと思いますが……」

「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ、他の施設を見ていこうか」