軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150 譲れないもの(5)アリス

シークレットモンスター赤ずきん改めアリスが無邪気に微笑む。

白いエプロンのかかった赤いスカートをつまみ上げてほのかちゃんたちに淑女の礼。

ちなみにだが、アリスは言葉をしゃべれない。

そもそも可愛く見える部分は人間を釣るための疑似餌で、本体はずきんのほうだからな。

「アリス! 後ろから援護してくれ!」

叫びながら前に飛び出す俺。

同時にレッドキャップゴブリンのカードを春原に投げつける。

カードから現れた赤いゴブリンに、アリスがすかさず身かわしリンゴを投げた。

「ちっ、厄介な!」

回避の上がったゴブリンに手間取る春原。

その脇を一瞬ですり抜ける。

そこに、後ろから攻撃リンゴが飛んできた。

アリスは気を利かせて俺にもバフをかけようとしてくれたんだろう。

AGIとLCKの高い俺には身かわしリンゴは意味がない。

一方、春原の足止めをさせたいレッドキャップゴブリンは回避率を上げて生存時間を伸ばしたい。

召喚モンスターに知性があるかは不明だが、レベルが高いモンスターやレアなモンスターほど状況判断が的確になる。

「サンキュー、アリス!」

俺は飛んできたリンゴを伝説の野手のように背面でキャッチ。

それを見たほのかちゃんが眼尻を吊り上げて、

「悠人さん! こんな小さな女の子を……! どうせ小さいなら私でもいいじゃないですか!?」

「魂は同じということでしたからね。この世界の悠人先輩も実は幼児趣味だったのではないですか?」

「どっちの俺もロリコンじゃねえよ!」

俺は無詠唱で紗雪にフレイムランスを放つ。

同時にほのかちゃん目がけて加速。

すくい上げるような斬撃を放つ。

が、ほのかちゃんはそれを半身になってやすやすとかわした。

俺の剣を見切ったのではなく、俺の思考を読んだんだろう。

でも、ほのかちゃんは後衛職だ。

DEXの高い俺に対してAGIの低いほのかちゃん。

俺の思考が読めたとしても回避が間に合うとは限らない。

今の俺は双魔剣という普段とは異質のスタイルで戦ってるからなおさらだ。

「きゃあっ!」

俺の魔剣がほのかちゃんを捉えた。

肉を斬る手応えに頬が引きつる。

実際には肉は斬れずHPが減るだけだが、斬った感触だけはリアルなのだ。

無詠唱で近距離からサンダージャベリン。

これも命中。

剣→魔法により最小単位のチェインが成り立つ。

「――ストームクルセイド!」

「きゃああああ!」

竜巻の魔法剣がほのかちゃんを呑み込み、そのHPを削りきる。

勇者のユニークボーナスの効果でほのかちゃんのHPが1になり、行動不能状態に陥った。

「悠人ぉっ!」

背後から春原が斬りつけてくる。

振り返って双魔剣で受ける俺。

レッドキャップゴブリンはもうやられてしまったらしい。

春原は俺を止めるのを優先したからアリスのほうは無事だけどな。

アリスには紗雪の魅了魔法が届かない距離を守らせてる。

「てめえ……よくもほのかちゃんを……!」

「……殺してはいねえよ」

「そういう問題じゃねえだろ!?」

「じゃあどういう問題なんだ? 俺は元の世界に帰りたい。おまえたちは俺は封印して元の俺に戻したい。大人しく封印されろって言うのか?」

「この世界の、何が不満なんだよ!? ほのかちゃんみたいな可愛い彼女がいて! 俺や紗雪みたいな仲間だっている! 『セイバー・セイバー』以外にも気心の知れた奴らだっている! 魔剣士としての力もあれば、高ランク探索者としての名誉だってある!」

ギリギリと、両手の短剣を押し付けてくる春原。

「元の世界とやらに、これ以上のものがあったって言うのか!? それは、俺たちを足蹴にしてまで取り戻さなけりゃならないものなのかよ!? なあ、頼むよ、悠人……受け入れてくれ。この世界を……俺たちの積み重ねてきた時間を……否定するなぁっ!」

春原の叫びとともに、俺の腹に衝撃。

春原の蹴りだ。

思わぬ衝撃に息が詰まる。

「ぐっ……」

「悪くねえだろ、これだって! この世界の悠人の記憶があるんだろ!? ならわかるはずだ! 俺たちの積み重ねてきたもんは、そんな簡単に切り捨てられていいもんじゃねえんだよ!」

春原の両手が閃き、白刃が踊る。

それを双魔剣で弾く俺。

直後、膝をローキックで砕かれた。

春原は左右の足を振り子のように入れ替え、もう片方の足で俺の顎を蹴り上げる。

「ぐぁっ……!」

仰け反りながら、俺は片方の魔剣を捨て、目の前にある春原の足首を掴む。

死に体になった春原の胴に、もう片方の魔剣を一閃。

さらに無詠唱のフレイムランスを叩き込む。

「ぐがあっ!?」

「ストームクルセ……」

「させません」

紗雪のヴォイドフレアが俺を呑む。

が、そのときにはもう俺はその場にはいなかった。

魔王のテレポートで転移した先は、紗雪の背後。

慌てて振り返ろうとする紗雪の背中を、俺は袈裟懸けに斬り下ろす。

「くふっ……!?」

無詠唱のサンダージャベリン。

そして、

「ストームクルセイド」

「きゃああああっ!」

嵐の魔法剣に吹き飛ばされ、紗雪がボス部屋の地面を転がっていく。

壁にぶつかって止まった後も、紗雪が起き上がる様子はない。

「紗雪ぃっ! くそがっ!」

春原が再び俺に迫ろうとするが、

「来い、影夜叉!」

俺が召喚したシェイドローパーがその前に立ちはだかる。

影夜叉は無詠唱・無威力の「ブラストノヴァ」を光源に三体に分身。

その手前でさすがの春原も足を止める。

ほのかちゃんと紗雪を無力化した今、影夜叉を止める手段はない。

「……もうあきらめてくれ」

俺は絞り出すようにそう告げる。