軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139 時間切れ

「セイバー・セイバー」での探索は、若干の不協和がありつつも、問題なく終わった。

多少のすれ違いなんてものともしないだけの、絆と経験に基づく圧倒的な連携力。

ソロでしか探索してこなかったスキル世界の俺からすると、なんともまぶしい光景だよな。

それを見る俺の胸に浮かぶのは……羨望か憧憬か。

自分でもよくわからん。

ほのかちゃんに聞けば、それがどんな感情なのか、俺より詳しく教えてくれるかもしれないが。

「はあ……疲れたな」

力をセーブしながらの戦いはかえって疲れる。

青春真っ盛りの高校生の「仲間」としてテンションを上げてふるまいつつ、魔剣士以外の技能は極力抑えなければならない。

いや、魔剣士の技能ですら、ユニークボーナスの成長が進んだせいで、手加減が必要になってきた。

俺の気疲れに気づいたのか、ほのかちゃんが気を利かせて、探索後の打ち上げは短めになった。

気力は尽きかけていたが、俺はみんなと分かれたあとに手近な踏破済みのダンジョンから【ダンジョントラベル】を使って崩壊後奥多摩湖ダンジョンにワープ。

「……チャート作成を少しでも進めないとな」

四層の探索は、思うように進んでない。

夏休みに入ってパーティ活動が増えたせいもある。

だが、「セイバー・セイバー」のリーダーとして、パーティ活動をおろそかにするわけにもいかない。

俺は一人苛立ちと後ろめたさを呑み込みながら、仲間想いの高校生魔剣士を演じるしかなかった。

重圧になってるのは、ダンジョンの攻略だけじゃない。

俺’なら楽しめたはずの夏休みの思い出を、人生やり損なった俺なんかが潰してしまってる。

そのことへの後ろめたさがますます強くなってきた。

ほのかちゃん、紗雪、春原にいろんなことを隠してる――いや、ほとんど騙すに等しいことをしてるわけだからな。

パーティに若干のぎこちなさが生じてることには気づいてる。

だけど、俺にはどうしようもない。

早く四層を踏破することこそが、彼らに俺’を取り戻してやる唯一の手段でもある。

さいわい、ダンジョンマスターのユニークボーナスによって、四層が崩壊後奥多摩湖ダンジョンの最終階層であることはわかってる。

「ダンジョンのマップ構造、モンスターの位置、財宝の位置、ポータルの位置(隠しポータルを含む)を現在存在するフロアに限って破格の範囲で把握できる」ってやつだな。

過去にダンジョン崩壊が起きてるだけに、崩壊前より階層が深くなってる可能性も十分あった。

その心配がなくなっただけでもかなりマシだ。

だが、これが最後だと思うと、どうしても気持ちが 逸(はや) ってくる。

しかし、そんな俺を焦らすかのように、四層も三層と同じく時間をかけるしかないフロア構成になっていた。

四層からは、ダークゲイザー、レッドケープ、レッドキャップゴブリンが消え、キングローパーとアークサハギンが再出現するようになった。

即死耐性アクセサリが手に入った途端ダークゲイザーが出なくなるのは腹立たしいが、グリムリーパー対策にはなっている。

じゃあ、何が問題なのか?

問題は、フロアそのものにあった。

RPGによくある、水没した遺跡や、水路でできた迷宮。

崩壊後奥多摩湖ダンジョン第四層は、迷路のような水路と水位の上げ下げギミックの散りばめられた、とんでもなく複雑な構造のフロアだったのだ。

どれくらい複雑かというと……ダンジョンマスターで構造が把握できてるにもかかわらず、ギミックが複雑すぎて行ったり来たりを繰り返すくらいに、だな。

ゲームの水路系ダンジョンなら、宝箱の取り逃しくらいはあってもクリアできないことはない。

やりすぎるとゲームを投げられるおそれがあるからな。

だが、このダンジョンはもっと凶悪だ。

水位を何度も上げ下げし、浮き橋や跳ね橋、水流を利用した水車ギミックなんかをどうにかこうにか乗り切ってみれば、行き着いたのはスタート地点の前だった。

あれは心が折れそうになったな。

ゲームだったらコントローラーを床に叩きつけてたかもしれない。

ダンジョン探索用のマッピングアプリなんかもあるにはあるんだが、基本的にはフロアが平面の前提で作ってある。

単純なレバー操作の跳ね橋みたいなギミックはともかく、複雑な立体交差、それも水位によって通れる経路が変わるとなるとお手上げだ。

こういうパズルや謎解きが得意なのは、「セイバー・セイバー」では紗雪だな。

そのせいで俺’はマッピング能力をあまり磨いてこなかったらしい。

簒奪者、ダンジョンマスターの技能があっても、使うのはしょせん俺だってことだ。

ようやく水路迷宮を突破したと思っても、ところどころにオケアノスという巨大な水棲モンスターが潜んでいる。

こいつがほとんどフロアボス級の強さなんだよな。

おそらくは戦闘を回避して進むような想定なんだろう。

誰がそんな「想定」をしてるのかは知らないが。

さいわい、スキル世界にもジョブ世界にも、入るたびに構造が変わるようなダンジョンは存在しない。

それはこの崩壊後奥多摩湖ダンジョンも同じだ。

俺は睡眠を削って四層に通い詰め、水路迷宮突破の長く複雑なチャートを作っていく。

「左、右、登って左、水車の奥のレバーを下げる……ああ、くそ!」

まちがえた。

これで進行状況の半分がやり直しだ。

「……ダメだ。今日はここまでにしておこう」

そんな日々が何日も続いた。

足踏みを続けてるうちに、時間切れのときがやってきた。

俺はとうとう「セイバー・セイバー」の夏旅行の日を迎えていた。

ほのかちゃんが指折り数えて楽しみに待っていた日であり――俺が最後まで目を背け続けてきたその日を、な。