軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22・お小遣いが分譲マンション!?

自分の中で一応の折り合いをつけ、とりあえずやるべきことはやる、と決意した私は、顔を青くして項垂れている三人のうち、ひとまずは一番平静さと保っているっぽい家令に視線を向けた。

「ジョゼフ。 辺境伯家の予算の中で、私に充てられた経費は毎月いくらだったかしら?」

「奥様の私費、でございますか?」

突然の私の問いかけに、顔を上げ、やや首を傾けた家令に重ねて聞く。

「結婚式の翌日に話し合ったでしょう? 貴方はその場にいて確認もしてもらったはずですよ。 毎月、私が好きに使ってもよい経費があると。 後、私の今使っている金額も教えて頂戴。」

初夜のベッドで旦那様が私に行った『お給金』の事です。 あの時は正直、王都の家族の安全と、私の最低限の衣食住さえ間違いなく保障してくれればいいわぁ~と、額面までは見てなかったのだ。

「それでしたら、この程度でございましょうか……。」

私の意図を理解した家令は、胸のポケットから出した小さな紙にさらっと数字を書き込んで、ほかの二人には見えないように私に渡してきた。

「……首都圏郊外新築ファミリー向け分譲マンション一部屋分……」

提示された、目玉が転げ落ちるかと錯覚する金額に匹敵するものを口から出してしまうと、目の前の3人は何言っているかわからないと言った顔をした。

(そうね、此方の世界に分譲マンションは存在しないですもんね。)

そう思い、はっとする。

(ビジネスチャンスでは!? 王都に社交シーズンにしか使わないタウンハウスの代わりに、王宮の近くの一等地に億ションを作って分譲すれば……、タウンハウスの管理費よりは安いし、めちゃくちゃ流行るのでは!? いえ、国王陛下より高い場所に住むなんて不敬って言われちゃう? いや、王族に最上階を売れば……いや、その前に建築技術が追い付かないか……でも思い出したのはいい案だし、のちのために覚えておきましょう。)

そこまで考えながら、不審げな彼らを「何でもないわ」とあしらいつつ、その金額の下に書き足された、私の使った生活費を見る。

(こっちは納得。)

辺境伯家の最高級食材と最高級品の消耗品を使用した金額は、毎月王都の母弟妹に払われる慰謝料の半分程度。

前世の感覚ではそれでも目玉が飛び出るのだが、最高級品だし仕方がない。 それにしたって私、私費を全然使ってない。

(……しかしこの金額って……)

年に1シーズン、しかも厳選した社交と夜会以外は一切しない、引きこもり奥様のお小遣いが、新築分譲マンション一戸分とは、お貴族様とは恐ろしい生き物である。

公爵家に再度連れていかれた際、親兄弟に慰謝料と養育費で払えって契約させた月100万マキエ20年、なんて、可愛いものだった。

(あの時は結構吹っ掛けたと思ったんだけどね……。 そりゃ、あの狸爺も、喜んでサインするわけだわ。 ま、裏切ったら、アイツとアイツの息子の 急(・) 所(・) が(・) も(・) げ(・) る(・) けどね。)

われながらえげつない方法を選んだつもりだが、あんな家は嘘ついたらち〇こもげて後継ぎ絶えろと思っているので全然問題はない。

金額の大きさに少々動揺し、思考がかなり脱線してしまったが、私は気を取り直し家令に確認をする。

「ジョゼフ、この金額は一年分よね?」

私はいたって平静を装って確認するが、彼は穏やかにとんでもないことを教えてくれた。

「いえ、ひと月分の御予算でございます。」

(は? 毎月マンション買うとかおかしくない!?)

動揺したら負けである。 なんたって私は建前上は『3大公爵家の娘』なのだ。

「……では、王都に行った際の社交や夜会の際の被服費なども全部この中で賄うのかしら?」

それならまぁ妥当と思いついて口に出したのだが、帰ってきたのは否定の言葉だった。

「いいえ。 当モルファ家が、王都で出席する夜会、奥様は茶会にも呼ばれますでしょうが、辺境伯家は国防を担う家として、王都への滞在期間がどうしても短くなりますので、それらは王家主催、もしくは3公爵家主催のものだけに厳選してございます。 そのような事情ですから、それら社交は仕事として考え、辺境伯家の必要経費として予算が計上してございます。 ですから、こちらは奥様が御自由に使っていただいてよい私費でございます。」

私の問いかけに、今回はきっちりはっきりと答えてくれる家令だが、公爵家から追い出され、市井で母妹弟を養うために必死に働いて暮らしていた身としては、お小遣いがこの金額というのは浮世離れしているというか……。

(一時は公爵家の娘として育っていたし、半年の間に勉強もさせられたけれど……習っていたとはいえ、この金銭感覚は慣れない……。 貴族としての威厳を保つことは確かに必要だとは思うけれど、これはあまりに浪費しすぎなのでは? 領地で浪費することで、経済をまわすのは確かに必要……必要なんだけど……。)

パン一つ、鶏一羽、母の薬代に、弟妹の学費。

日々の暮らしに必要なものを買うために、朝早くから(夜は日暮れ前には帰ったけど)たくさん仕事をして、欲しいものを我慢して……と、苦労してきた身としては、貴族の金銭感覚がどうしても理解できない。

額を押さえてため息をついた私は、別の事を考えようと、家令にその紙を渡しながらブルー第三騎士隊長をみた。

「では、医療班の予算額はいくらかしら?」

「年にこれくらいかと……」

「……はぁ?」

ブルー第三騎士隊長殿から紙に書かれて差し出された金額は、私の一ヵ月のお小遣いの10分の1程度。

その少なさに、先ほど見せられた自分に充てられたお小遣いの額以上の衝撃を受け、褒められたことではないが、心からの本音が出てしまった。

一年の予算……ではどうやってやりくりしているのか?

怪我人の寝具や医療資材を用意する事も、救護室とは名ばかりの、あの粗末な小屋を立て直すどころか、日々の修繕すら出来ないその金額。 『騎士団医療班救護室』が、市井に放逐された時に住んでいた粗末な家よりさらにお粗末だったのも納得がいく。

が。

「騎士団は、この金額で医療班に何をしろと言うの?!」

また、本音がまろび出てしまった。 しかも大声で。

「……申し訳ございません。 おっしゃる通りでございます。」

そんな私の様子に、ますます顔色の悪くなったブルー第三騎士隊長殿。

(しまった!)

私は慌てて自分の発言を詫びる。

「いえ、ごめんなさい。 ブルー第三騎士隊長殿を責めているわけでは決してないのです。 ただあまりの少なさにびっくりしてしまって。 一応、念のために伺いますが、そのつど、予算の追加要求は旦那様にしているのですよね?」

「それはもちろんっ! しかしこれ以上は出さぬと。 使えぬ者に金を使うくらいなら、国境や砦の外壁の修繕や、兵舎の寝所や食事の向上、鍛錬の強化、武器防具の改善や修理、功労者への報償の上乗せなど……つまりは、働ける者の処遇を改善するのが当たり前だから、と。」

(うん、それは間違ってない、間違ってないけれども……いえ、間違ってる! 削る場所を間違っているわ。)

騎士のために手厚い心配り……元気に働いてくださる騎士様にそれだけ気を配れるのならば、何故同じレベルで働いて負傷した方を見ることができないのでしょう。

(ブラック企業……とは言い難いのかぁ……。)

旦那様は本当に残念な人のようだ。

深い深いため息をついた私は、目の前で同じく溜息をつく3人と、今後について話し合うことに決めた。