軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98.武術大会⑤ オルン VS. フウカ

◇ ◇ ◇

戦いが始まってからまだ一歩も動いていないというのに、どんどん疲労が蓄積されていくのを感じる。

(やばいな……。どう攻めても負けるビジョンしか見えない……)

戦いが始まってからしばらく経つが、俺は攻めあぐねていた。

フウカは涼しい顔で、淡々と俺が次に行おうと思っている行動に対応するように体勢を変える。

このままでは、先にへばるのは俺の方だな……。

だけど、収穫が無かったわけではない。

今までのいくつもの駆け引きで、フウカの【未来視】についてある程度知ることができた。

まず、どの程度先が視えるのかについて、これは恐らく数秒。長くても十秒先は視えないだろうということ。

そして次に、フウカが視ている未来は 確定された(・・・・・) ものではない(・・・・・・) ということ。

もし不変の未来が視えているのであれば、わざわざ俺の動きに対処すべく行動することは無いだろう。

俺が行動を変えようとするたびに、フウカも対処法を変えてくる。

これがブラフだったらお手上げだから、これに関してはそう思うしかない。

そもそも俺の考えが間違っていれば、俺に勝ち目はないわけだしな。

かなり時間はかかったが、俺の知りたかった情報は揃った。

(やっぱりこれしかないか……)

俺の強みは順応性や対処能力の高さだ。

この二点なら俺はほとんどの人に負けていないと自負している。

最強の剣士であるフウカにも。

魔術は使えないんだ。

普段魔術に割いているキャパシティも、全てこの攻撃に充てろ。

いくら未来が見えようと、フウカだって人間だ。

限界は必ずある!

覚悟を決めて、フウカに肉薄する。

当然未来の見えているフウカは、俺の行動に最適な対応を取ろうとする。

――その兆候が見えた瞬間、行動を変える。

(フェイントは意味がない。全て本当にその行動を起こすつもりで動け!)

十メートルほどの距離を詰めるまでに何十何百と行動を変える。

俺の思考すら追い越して、脊髄反射のように早く動くことができている。

剣の間合いに入り、都度行動を変えながら振るった剣は――。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

俺の剣はフウカの首筋の直前で止まっている。

もし俺が剣を止めていなかったら、確実にこの刀身はフウカに届いていた。

フウカは目を見開いたまま動けずにいた。

俺の想定通り、いくつもの未来を一瞬のうちに視たことによって、情報処理が追い付かず思考停止に近い状態になっていた。

「…………こんなやり方があったなんて。動けなかった」

フウカが普段と変わらない淡々とした声音で呟く。

だけど、その表情は信じられないと語っているように見受けられる。

「はぁ……はぁ……。虚を突けたようで良かったよ。これは俺の勝ちでいいのか?」

限界近くまで頭を働かせたため、魔術を発動しすぎたときと同様の頭が重くなったような感覚に襲われる。

これ以上無理に頭を働かせれば、間違いなく頭痛を引き起こす。

「うん。真剣勝負だったら私は死んでいた。――私の負け」

『え、決着……!? しょ、勝者、オルン選手です!』

フウカの降参宣言で決着がついたことが、司会者によって観客に知らされる。

当然、この過程にも結果にも満足の行っていない観客が多く、先ほど以上にクレームの嵐だった。

気持ちはわからなくもないが、こっちは真剣に取り組んでいるってのに、好き勝手言いやがって……。

正々堂々と戦って勝ち目が無かったんだから仕方ないだろうが。

俺が今回勝てたのは、ルールが定められた戦いだったから。

こんな戦い方は武術大会じゃなかったら無理だ。

いつも魔術に割いているキャパシティを、全てフウカに剣を届かせるためだけに割くなんて、普段だったら怖くてできない。

もしもこの場以外でフウカと戦うことになったとしたら、如何に早く離脱できるかに注力していただろう。その時の状況にもよるけどさ。

それに多分このやり方は、今回の一回きりの不意打ちみたいなものだ。

次には対策されるだろう。

「……なんで本気を出さなかったの?」

剣を引いたところで、フウカから質問が来る。

「……どういう意味だ?」

フウカの質問の意図が分からず、質問に対して質問で返してしまった。

「この前は 少し(・・) 本気を出してた」

「この前っていつだ? 共同討伐の時か?」

俺の質問にふるふると首を横に振る

じゃあ、いつだ?

「フロックハート商会で戦った時。普段より動きにキレがあった」

あぁ、あの時か。

フウカの言う本気ってのは【重ね掛け】のことを言っているのか。

「あれはオリジナル魔術によるバフだ。魔術禁止のこの大会では使えない」

「……? 魔術? 解除(・・) に必要なのは、氣を使った言霊でしょ?」

フウカが首をコテンとかしげながら指摘してくる。

また『キ』か……。

それに解除? 何のことを言っているんだ?

どうにもフウカとは話がかみ合わないことがある。

「……そっか。なんで 黒竜を倒した(・・・・・・) のかわからなかったけど、そういうことだったんだ」

俺が疑問符を浮かべていると勝手に納得された。

「今のオルンに言っても仕方ないけど、覚えておいて。私は貴方の剣。もし世界を敵に回すことになっても、私は貴方と共に戦うから」

……世界を敵に回す? いきなり何を言っているんだ?

頭の疲労も相まってフウカの発言の意図が理解できない。

それだけ言うとフウカは控室の方へと歩いていった。

『少々呆気ない決着ではありましたが、これで決勝戦を戦う二人が決まりました! まずは、《勇者》オリヴァー・カーディフ選手! 対するは、《竜殺し》オルン・ドゥーラ選手です! 試合開始は明日の午前十時からとなります! 明日ついに、ツトライル最強の探索者が決まります! 皆さまお見逃しなく!』

司会者の煽りによって、再び沸き上がる観客たちの声を聞きながら、俺も控室へと戻った。

こうして俺は決勝へと駒を進めた。

次はオリヴァーとの戦いだ。

動き自体はデリック同様――いや、それ以上に知っているが、【魔力収束】の使い方など俺の知らない行動もある。

フウカ同様に簡単に勝てる相手ではないな。