軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.後味の悪い結末

「ん? オルン・ドゥーラか。まさかお前もこの商会の悪事の情報を掴んだのか? 流石だな。やはり君を勇者パーティから脱退させたのは、間違いだったかもしれない」

フォーガス侯爵は、俺を視界に捉えると、まるで事前に決めていたセリフをなぞるかのように、スムーズに言葉を発する。

「…………お久しぶりです、フォーガス様。不躾ながら、フォーガス様が掴んだ悪事についてお教えいただけませんか?」

「ふむ、そうだな。この場にいる君には知る権利があるだろう。実は少し前からフロックハート商会の黒い噂を耳にしていてな。私が長年懇意にしている商会だ。恐らくはこの商会を妬み、ありもしない噂を流している者がいると考えて調べていたんだ。すると先ほど、この商会が本当に人身売買に手を出しているという情報が、私の部下からもたらされてな――」

「な、何をおっしゃっているんですか!? これは貴方様の指示じゃありませんか!」

フォーガス侯爵の発言を遮ったパスカルさんが、声を震わせながらフォーガス侯爵の指示だと主張する。

十中八九パスカルさんの言う通りなのだろう。

だけど――

「私がこのような非人道的な指示をしたと? 私を侮辱するのも大概にしろ! 人を人とも思わない行為を私が指示したなんて、そのような嘘がよく平気で吐けるな! こんな人間と親しくしていたなんて思うと私は自分が情けない」

「…………」

パスカルさんは信じられないものを見ているかのように、呆気にとられた表情をしている。

「この者はクライブ様の指示だと言っていますが、本当に嘘ですか?」

フォーガス侯爵と一緒にやってきた中央軍の鎧を纏った強面の男が口を開く。

(これはフォーガス侯爵がフロックハート商会を切ったと見るべきだろう。でも、これが侯爵本人の意志なのか、それともやむを得ずなのか、それによって話はかなり変わってくるな)

フォーガス侯爵と一緒に現れた強面の男は、『粛清者』と呼ばれている有名な軍人だ。

彼の名前はレスター・ハストン。中央軍第四師団の師団長を務めている。

中央軍は王家が保有する戦力で、第一師団から第四師団までの師団で構成されている。

各師団にはそれぞれ特色があり、第四師団は他の師団に比べ構成員の数は少ないが、その代わりにフットワークが軽く、諜報を主な活動としている。

その師団長が何故『粛清者』なんて大層な二つ名が付いているのか。

それは彼が、悪事を働く者であれば、相手が貴族であろうと容赦なく断罪するためだ。

王族からの信頼も厚く手を出しづらい存在ということで、貴族は彼のことを疎ましく思っている。

反対に民衆からはかなりの人気を博している。

諜報をメインにしているというのに、そのトップが有名というのも変な話ではあるが……。

ただ、逆に師団長を隠れ蓑に第四師団は活動している節があるから、情報操作の一環の可能性もあるけど。

そして俺は、レスター・ハストンのことが 好(す) かない。

確かにこの人は正しいことをしているんだろう。

これまでに相手が伯爵であろうと容赦なく断罪し、悪政を敷いていた領民を救ったという話もある。

だけど、この人がやっているのは断罪までだ。

事後処理に関しては、他人任せにしている。

目の前で悪事を働いているやつがいる。だから断罪する。それだけだ。

それ自体が悪いとは言わないが、断罪した後の方が、被害者が悲惨な目に遭ったという話も少なからず聞いているため、俺はこの人に対してあまり良い印象を持っていない。

これらのことから、今回フォーガス侯爵がフロックハート商会を切った理由は、レスター師団長に尻尾を掴まされそうになったためやむを得ず、という線も考えられる。

「勿論だ。私が指示したなんてことはあり得ない。パスカル、私を陥れようとしているのだから、きちんと証拠があるんだろうな」

「そ、それは……。全部口頭でしたので……」

「ふん、話にならないな。レスター君、これでも私が関与しているなんて妄言を信じるんじゃないだろうな?」

「……今回は空振りのようですね。しかし、いずれ罪を白昼の元にさらしてみせますよ、フォーガス侯爵。――お前たち、地面に伸びている四人と、フロックハート商会の商会長を児童誘拐の現行犯で拘束しろ」

「「「はっ!」」」

「ありもしない物を探すよりも他に、君たち軍人にはやることがたくさんあると思うんだがな」

パスカルさんは「嘘だ、何かの間違いだ」とブツブツ言いながらも、抵抗することなく軍人に拘束された。

眠らされていた少女も手錠を外され、軍人の一人に背負われている。

なんとも後味の悪い終わりだ。

結局フロックハート商会は児童誘拐の罪に問われ、間違いなく瓦解することになるだろう。

「……フォーガス様、一つだけお答えください」

俺はどうしても聞きたいことをフォーガス侯爵に聞くべく、中央軍の面々には聞こえないよう声を掛ける。

「いいだろう」

「今回の件は突発的なものですか? 俺がこの件に首を突っ込んだからですか?」

「ふん、随分と 自己評価(・・・・) が上がったじゃないか。曙光に居た頃は自己評価が低く、オリヴァーを立てることしか考えていなかったのにな。まぁ、それもこの感謝祭が終わるまでだろう。お前はオリヴァーに 勝てない(・・・・) のだから」

「……質問に答えてください」

「答えはノーだ」

『ノー』、つまりフロックハート商会を切り捨てることは、最初から決めていたということか。

でも、なんでだ?

俺が持っている情報では、フォーガス侯爵がフロックハート商会を切った際のメリットが見いだせない。

俺が勇者パーティを抜けてからの二か月間で、かなり状況が変わっているということか?

俺の質問に答えたフォーガス侯爵は中央軍と一緒に部屋を出ていき、俺とフウカだけが、部屋に残された。

「それじゃ、俺たちも外に出ようか。にしても、ただ屋台を回っていただけなのに、なんでこうなったんだ……」

愚痴りながら階段を登ると騒がしい声が聞こえてくる。

どうやら軍が本格的にこの商会の調査を始めたようだ。

見つかると面倒なことに巻き込まれそうなため、気配を消してすぐさま外へと出た。

「俺は一度自分のクランの本部に戻るけど、フウカはどうするんだ?」

「私も帰る。 見たいものが見れた(・・・・・・・・・) から満足」

……見たいもの? さっきの一幕にフウカが望むようなものは無かったように思えるけど。

まぁ、考えても仕方ないか。

「そうか。それじゃあ、ここで別れよう。――あ、さっきも言ったが、ここで見聞きしたことは他言無用で頼むぞ」

俺たちが黙っている理由は無くなったが、だからと言って自ら話す内容じゃない。

「ん、わかってる。それじゃあ、またね、オルン」

「あぁ、またな」

最後にお互い挨拶を交わし、俺たちはそれぞれ帰路に着いた。