軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

72.自分たちの力で

第一部隊が九十三層に到達してから五日が経った。

この五日間は、探索支援部の人たちを交えてギルドへの報告内容を纏めたり、取材を受けたり、エディントンの爺さん以外のスポンサーの応接をしたりと結構忙しかった。

探索者としては到達階層が更新されることは嬉しいことなんだけど、勇者パーティや《夜天の銀兎》といった有名な探索者パーティは、その後に諸々の対応をしないといけないから、これは正直面倒くさい。

この五日間で一旦落ち着いたため、第十班の教導を再開することにした。

探索管理部のいつもの部屋に入ると、既に三人とも部屋の中に居た。

「三人とも、おはよう」

「あ、師匠! おはようございます! それと改めて九十三層到達おめでとうございます!」

「ししょー、おめでとー!」

「お、おめでとうございます!」

俺が部屋に入ってきたことを確認した三人からお祝いの言葉を言われる。

スポンサーや取材陣に言われるよりもよっぽど嬉しい。

「ありがとう。次はお前たちの番だな。上層のラスト、三十層の攻略だ」

この一か月間で第十班は一層から二十九層の攻略を終わらせている。

俺も同行しているが、見守っているだけで手も口も出していない。

この三人は、この一か月間でまた成長している。

全員まだ原石のような状態だから、これからも成長し続けるだろう。

「そのことで師匠に相談があるんです」

「相談?」

「はい。三十層の攻略は、僕たち三人だけで挑みたいんです」

「……三人だけ、つまり俺には同行してほしくないと?」

「いえ! そんなつもりでは! 師匠に同行してもらえるのはすごく心強いです。師匠に見守ってもらえていると思うだけで、安心して迷宮攻略に挑めています。ですが、いつまでも師匠に甘えていてはいけないと思うんです! このまま師匠に同行してもらいながら大迷宮を攻略していっても、それは本当の迷宮攻略では無いと思うんです……」

第一部隊の九十三層到達に触発されて焦っているのかな?

「う、自惚れでこんなことを言っているわけではありません」

ログに続いて、ソフィーが声を発する。

「この五日間、私たちは三人でどうやって三十層を攻略するかを話し合ってきました。先月の教導探索で先輩方と三十層フロアボスとの戦いも見ていましたので、初見ではありません。道中の魔獣やフロアボスの強さと私たち三人の実力を客観的に比較しても、問題なく攻略できると思っています!」

ソフィーが自分から発言するのは珍しい。

それだけ本気ってことか。

「あたしももう無茶しないよ! 二人から笑顔を無くすようなことはもうしない! ちゃんと二人と協力する! だからお願い!」

キャロルも真剣な表情で許可を求めてくる。

第十班は連携もマシになってきている。

それに三人の実力は既に中層でも通用する。

だけど、懸念点もある。

それは三人であること。

人数が少なければ、不測の事態に対処でき無いこともある。

それが一番不安だけど、いつになく真剣なこの子たちの意思を、俺が不安だからって理由で無視していいのだろうか?

(これ以上は過保護になるかな……)

「……わかった。三十層の攻略は三人だけで行っていいぞ」

俺が許可を出すと、三人の顔がパッと明るいものになる。

「ありがとうございます――」

「但し! さっきどうやって三十層を攻略するかを、三人で話し合ったと言っていたな? まずはその内容を教えてくれ。それが大きく外れている場合は、許可を取り消す」

「――わかりました」

それから三人の作戦を聞いた。

正直に言うと、俺はこの子たちを舐めていた。

作戦を立てたとは言っても、初めての立案だ。

作戦には多々穴があると思っていた。

しかし、その作戦はほとんど問題が無いものだった。

進んでいくルート、三十層で出現する魔獣ごとの対策など、俺がこの一か月間で教えた基本を押さえながらも、三人であるデメリットを加味している。

情報が比較的集めやすい上層だからこそ組み立てられたのかもしれないが、新人たちが自力で立案したとなれば、満点に近い点数を上げてもいいと思う。

俺がもしも第十班の立場で作戦を組み立てるとしても、ほとんど同じものになったはずだ。

「以上です。師匠、どうでしょうか?」

「……この作戦のベースを考えたのは誰だ?」

「わ、私です」

俺の質問にソフィーが答える。

怒られるとでも思っているのか、すごく怖がっているように俯いている。

今の俺、そんなに怖い……?

表情を緩めてソフィーに近づくと、その頭を撫でる。

「凄いな。ここまでしっかりした作戦だとは思わなかった。もっと自信を持っていいぞ」

するとソフィーは顔を真っ赤にさせながら、表情が綻んでいるように見える。

「あー! ソフィーだけズルい! ししょー、ちゃんとあたしが考えた部分もあるんだよー!」

キャロルが撫でてほしいオーラを出しながらアピールしてくる。

「はいはい。キャロルもがんばったな」

苦笑しながらキャロルの頭も撫でる。

「えへへ~」

二人の頭を撫で終わったあと、不満げな顔をしているログに近づいてから、頭をポンポンとすると、幸せそうな表情に変わった。

「その作戦なら大丈夫だろう。よくここまで情報を集めたな。改めて三人で三十層に挑むことを許可する。ただ、予定通りに迷宮攻略ができるとは思わないことだ。どんなことにも想定外というものはある。決して過信はしないでくれ」

「「「はい!!!」」」

三十層攻略は明日に行うこととなり、今日は一日フリーに変更となった。

ちなみにセルマさんが別の領地にいるスポンサーのところへ行っているため、しばらく第一部隊全員での迷宮探索はしない予定だ。

(今日は【 魔剣合一(オルトレーション) 】の改良に充てようかな。――あ、あいつらに渡す例の物を作る方が優先か。じいちゃんのところに行って作業場を借りよう)

「あ、あの、オルンさん、少しよろしいですか? その、オルンさんにお聞きしたいことがあって」

これからの予定を立てて外へと向かっていると、背後からソフィーに声を掛けられた。

「どうした?」

「その……、オルンさんの異能は、【魔力収束】なんですよね?」

「……そうだよ。周囲の魔力を一点に集めることができる。それがどうした?」

「あの、オルンさんは、どうやってその異能を使えるようになったんですか?」

ソフィーは異能に興味があるのか?

まぁ、異能は持っているだけでアドバンテージがあるからな。

興味の無い人はいないか。

異能が何なのか、それは未だ解明されていない。

先天的なものなのか、後天的なものなのかも、明確にはわかっていない。

今の通説は、異能は先天的なもので、何かのきっかけで自分の異能を自覚できるというものだ。

俺は小さいころから魔力というものを知覚していた。

そして、理由はわからないが、魔力に干渉できる気がしていた。

試しにやってみると、魔力流入の際の魔力操作とは違う感覚があって、いつの間にか、自分の意思で魔力を任意の場所に集めることができると理解していた。

「そうだな……。言葉にするのが難しいんだけど、異能者には、全く根拠も無いのに、何故かそれができると思うことがあるんだよ。そして試すと実際にそれができて、自分の異能を理解するんだ。もしかして、ソフィーにもその感覚があるのか?」

「感覚というか違和感というか、その、ふとした時に物に何か影響を与えられそうな感じがするんです……。でも、試しても何も起こらないので私の勘違いかもしれませんね……」

ソフィーが苦笑しながら自虐する。

「異能にはわかっていないことが多いんだ。なんたってその人だけの特別な力だからな。もしかしたらソフィーの場合は、まだ感覚が掴めていないだけかもしれない。その違和感は無視しない方がいいと思う。焦らなくて大丈夫。ゆっくり違和感の正体を探っていこう」

ソフィーの頭を撫でながら、励ましの声を掛ける。

「あ、ありがとうございます。ちょっと心のモヤモヤが晴れました……!」

ソフィーが笑顔を向けてくる。

うん、やっぱりこの子の笑顔はすごく可愛い。

セルマさんが溺愛しちゃうのも分かる気がする。

翌日、俺と第十班の三人は大迷宮の入り口付近へとやってきた。

「これをお前たちに。お守りだ」

三人に昨日作った色の付いたプレートネックレスを渡す。

ソフィーが赤、キャロルが緑、ログが紫とそれぞれの瞳の色を模している。

これには仕掛けがあるけど、その仕掛けが起動しないことを祈る。

「わぁ! ししょー、ありがとー!」

三人とも喜んでいるみたいでよかった。

「どういたしまして。それじゃあ、三十層を攻略してこい。そして、三人で無事に帰ってくること。お前らの報告を楽しみに待ってるよ」

「「「行ってきます!!!」」」

そして三人は俺に背を向けて、大迷宮の中へと入っていった。