軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.【side勇者パーティ:オリヴァー】歪み

現在、俺たちは大迷宮の七十六層に来ている。

ここは雪山エリアになっていて、非常に寒い。

七十六層はまだ雪が積もっているだけだが、下に進むにつれて吹雪なども吹き始め、魔獣と戦わなくても、対策しないと命を落とす場所になっている。

なぜ俺たちがここに居るかというと、魔石を集めるためだ。

先日の失態で、ギルドより強制送還に使用した大量の魔石を補填するよう指示を受けている。

大量の魔石を集めるなら九十一層が最適なのだが、先の魔石の納品が終わるまで深層への入場を禁止となった。

そのため仕方なく下層で、比較的多くの魔獣が現れる七十六層に来ている。

「おっらああぁぁ!!」

デリックが現れた 白熊の魔獣(スノーベア) の大群に単身で突っ込む。

「バカ! まだ後衛と離れすぎだ! 連携ができない」

デリックを追いかけながら注意する。

コイツは先日の失態以降、かなり荒れている。

鬱憤を魔獣にぶつけるべく、魔獣が現れると一目散に駆け寄って攻撃している。

「うるせぇ! こんな奴ら俺一人で充分なんだよ! 下層の雑魚魔獣なんかに負けるか!! おらああぁぁ!」

フィリーの支援魔術で上昇した身体能力で、強引にスノーベアを倒していく。

「オリヴァー、邪魔!」

背後からアネリの声が聞こえて振り返ると【 火槍(ファイアジャベリン) 】が迫ってきていた。

咄嗟に躱せたものの、下手したら大怪我だ。

「危ないだろうが!」

「だって、フィリーが撃てって言うんだもん!」

「射線には気を付けろと言ったはずですよ?」

「あれ? そうだった? ゴメン、フィリー」

俺にも謝れよ!

フィリーは、この前オルンが言っていた俺たちそれぞれの効果時間を把握してから、バフを切らせることは無くなった。

だけどフィリー曰く、アイツは本当の効果時間は言っていなかったみたいだ。

ギルド幹部が居た手前、ダミーの情報に置き換えていたんだろう。

余計な気の回し方しやがって。

フィリーの指揮についても様になってきているし、アイツの言う通り優秀な付与術士だと思う。

ただ、気になるのが、アネリがフィリーに心酔しているのではないかと思うほど、フィリーの言うことは何でも聞くところだ。

アネリは良くも悪くも自分に正直な奴だ。

人の言うことをあまり聞くようなタイプじゃない。

まぁ、フィリーの指示は的確だし、信用できる。

――ん? 信用できる? 信頼できる、よな? なんだ、この違和感。まぁいいか。

俺たちの連携は最悪だった。

デリックは一人で突っ込むし、アネリは誤射が多い。

ルーナに至っては、俺たちの戦闘には混ざらず、黙々と俺たちが討ち漏らした魔獣を討伐していた。

こんな状態で九十四層攻略なんてできない。

これは、抜本的な改革が必要かもしれないな。

大迷宮から帰還後、探索者ギルドに魔石を納めてから、屋敷へと帰る。

すると屋敷の前に、見慣れた家紋のある立派な馬車と、燕尾服を着た初老の男性が立っていた。

「オリヴァー様、お待ちしておりました。主がお呼びです。帰ってきて早々恐縮ですが、今すぐ準備を」

彼は俺たち勇者パーティの大口 出資者(スポンサー) である、フォーガス侯爵に仕える執事だ。

俺たちを呼んでいる理由は今朝の記事についてか?

先日フォーガス侯爵には、きちんと報告したはずだが。

というか、そもそもなんであの記事を握りつぶさなかったんだ?

あの人ならそれくらい容易だったはずだ。

「侯爵が呼んでいるのはオリヴァーだけか?」

「左様でございます」

デリックの問いを執事が肯定する。

俺だけ?

ますます用件がわからん。

「そういうことなら、俺は飯食いに行ってくるわ。オリヴァー、あのおっさんの接待よろしく!」

デリックはそう言うと一人で屋敷の中へと入っていった。

最近のデリックは度が過ぎている。

元々、自信家で他人を見下す傾向はあった。

だけど、それがここ最近は顕著だ。

ここまでひどい奴ではなかったはず。

いつからだ? オルンを追い出すと決める少し前あたりからか?

「では、私も実家に用事があるので、これで失礼させていただきます」

続いてルーナが屋敷にも入らずに、彼女の実家がある方向へと歩き出す。

「えっと……。私たちはどうしようか? フィリー」

「私たちも、オリヴァーさんと一緒に行った方が良いんじゃないですか?」

「えー、どうせネチネチ言われるだけだよ? まぁ、フィリーが行くって言うなら、一緒に行くけどさ」

フィリーは一緒に来ようとしてくれている。

でも、アネリの言う通りネチネチ言われることになると思うし、新しく入ったばかりのフィリーをそんな場所に連れていきたくはない。

「フィリー、ありがとう。でも、俺一人で行ってくるから、二人も夕飯を食べに行ってきなよ」

「え、でも――」

「大丈夫。これもパーティリーダーの務めだ」

そう言ってから、一人で馬車に乗り込む。

馬車に揺られて数分。

フォーガス侯爵の屋敷に着く。

相変わらず馬鹿みたいにでかいな。

執事の後ろを付いて行き、フォーガス侯爵の居る部屋へと案内される。

「よく来たな。大失態の勇者君」

部屋に入るなり、フォーガス侯爵に嫌味を言われる。

クライブ・フォーガス。

ツトライルを含めたこの辺り一帯を領地に持つ大貴族の当主だ。

外見は人の良さそうなおじさんって感じだが、かなりの腹黒だ。

とはいえ、これは貴族社会を生きていくためには必要なことだから、貴族なら普通だとオルンが言っていたな。

「今日はどういった用件ですか?」

「用件だと? 用件なんかこれしかないだろ」

そう言いながら、今朝の新聞をこちらに投げつけてきた。

「無様な結果を出したものだ。私がお前たちを支援した結果がこれか? 既に新聞にも書かれ、お前らの仕出かしたことは民衆に周知されているぞ? どうするんだ?」

フォーガス侯爵が怒った表情でこちらを睨んでくる。

(新聞はアンタが握り潰せばよかっただろ。この記事が出る前に正直に報告していたんだ。知らなかったはずがない)

そんなことを考えながら、フォーガス侯爵を注視する。

怒ってはいるが、腹に一物ありそうな表情をしている気がする。

この感じなら出資の停止はないか?

俺にとっては、それが一番重要だ。

他の貴族からも出資を受けているが、やはりフォーガス侯爵の影響力は大きい。

この人が出資を取りやめたら、他の貴族にも出資を止められるかもしれない。

それは死活問題になる。

「絶対に挽回して見せます」

「ふん、そう思っているなら良い。今、民衆の関心は、パーティから追い出したオルン・ドゥーラ、延いては《夜天の銀兎》に向かっている。お前とオルンが剣術のみで戦えば、お前の方が強いのだろう? 剣聖と呼ばれているくらいだからな」

何を当然なことを聞いているんだ?

オルンがどうやって黒竜を倒したのかは知らないが、俺があいつに負けたことは、 一度もない(・・・・・) 。

更に剣術だけなんて、負ける要素が見つからない。

「えぇ。一〇〇パーセント勝てます」

「民衆はお前よりもオルンが強いと考えているだろう。だからアイツを叩け! お前の本当の実力を世間に知らしめてやれ。お膳立ては私がしてやる。今はジッと堪えて、ギルドのために働いていろ。はっはっは!」

……それが必要なことなら、俺は 躊躇(ためら) わない。

俺は最強で居続けないといけない。

そうでないと、また大切な人たちを失ってしまう。

そのためにオルンが障害になると言うなら、俺はオルンを叩きのめす。

「……わかりました」

「ふん、良い目をするじゃないか。今日はお前の覚悟が知りたかった。問題はなさそうだな。もう帰っていいぞ」

「…………失礼します」

◇ ◇ ◇

「これで良かったのか?」

オリヴァーが退室し、静まり返った部屋でフォーガス侯爵が呟く。

「えぇ。問題ありませんわ」

声が発せられた空間が急に揺らめきだし、1人の女性が姿を現す。

「全く、圧力を掛ければ、あのような記事は出回らなかったというのに。案の定アイツらが付け上がって好き勝手書かせよった。これでは私の評判まで下がりかねん」

「ふふふ、人間というのは、追い込まれてこそ真の意味で成長するの。彼の本来の力を引き出すためにも、もっと追い込まないといけませんわ」

「悪趣味な女だな。私の手駒を好き勝手に弄りよって」

「あら、あのお方の考えに賛同している時点で、貴方もわたくしたちと同類ですわよ?」

「ふん、一緒にするな。私は自分が最後に勝っていれば良いのだ。であれば、世界を 支配(・・) している者に付くのは当然のことだろ?」

「そうね。貴方の神経は理解できないけど、あのお方の意志に反したことをしない限りは、負けることはないわ。では、わたくしもこのあたりで失礼するわね」

「あぁ、これからも私が勝ち続けるために働いてくれ」

その言葉を最後に、部屋から女性の気配が消える。

突如人気の無い路地裏に、先ほどまでフォーガス侯爵と話していた女性が現れる。

「ふぅ……、【 空間跳躍(スペースリープ) 】を発動するのは大変ね。支援魔術は、何でこうもめんどくさいのが多いのよ。やっぱり付与術士をしている人たちは、マゾヒストではないかしら? わたくしはこの役職を真面目に 全(まっと) うしている人の神経が理解できないわ。――それにしても、ふふふ、世界を支配している、ねぇ……。あのお方が成そうとしていることを、本当に理解しているのかしら? まぁ、あんな扱いやすくて、権力も持っている人なんて滅多にいないし、このまま利用させてもらいましょう」

「あー! こんなところに居た!」

女性が裏路地を歩きながら呟いていると、女性は知り合いと遭遇した。

「あら、アネリさん。どうしたんですか?」

「どうしたじゃないよ。いつの間にか居なくなってたから、探しにきてあげたんじゃない。それで? こんなところで何してるの、 フィリー(・・・・) ?」

「ふふふ、ただのお散歩ですよ」