軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

263.【sideフィリー】方針転換

わたくしたちが各地の迷宮を氾濫させた理由は、オルン・ドゥーラが力を取り戻したから。

オルン・ドゥーラは、わたくしたちにとって厄介な相手となる。

普通に考えるなら、十年前、黎明の里へ襲撃した際に殺しておくべきだった。

そんな相手を殺さずに記憶改変に留めたのは、殺すのに苦労するという理由もあるけれど、最大の理由はこの世界の魔力濃度を濃くする一助となるから。

彼は探索者として、この十年間で数えきれないほどに異能を行使している。

そして、そのほとんどが【魔力収束】。

その力はこの世界の魔力濃度を加速的に濃くする。

元々の試算では、魔力濃度が規定値を超えるまであと百年近くの時間が必要だと思われていた。

それがオルンとオリヴァーが迷宮探索の過程で何度も【魔力収束】を行使してくれたおかげで、たった十年で規定値を超えた。

これまでは邪神――オベロン様がこの世界でも問題なく活動できるように、この世界の魔力濃度を濃くすることに注力していたけれど、それを達した今となっては、利用価値の無いオルン・ドゥーラという存在は邪魔でしかない。

そこでわたくしたちはツトライルで彼の心を壊し、そのまま抹殺しようと考えていた。

それからゆっくりと、オベロン様を封印している封印装置である大迷宮を攻略するつもりだった。

わたくしたちの最高戦力である《焚灼》や《雷帝》も、《羅刹》と同様にその正体は人の身体に乗り移った悪魔と呼ばれている妖精となる。

彼らの力は大迷宮のフロアボスが相手でも後れを取ることは無い。

最深層である百層までは容易に辿り着ける。

しかし、そこに立ちふさがるのが百層のフロアボス。

単純な戦闘能力だけを比べれば、《焚灼》たちは百層のフロアボスよりも強い。

だけれど、百層のフロアボスは【魔力喰い】の能力を有している。

妖精にとって、この能力との相性は最悪。

それだけで妖精の天敵となり得る。

そのため、百層のフロアボスを斃せる可能性を持っているのは人間だけとなってしまう。

だからこそ、オルンを排除した後、《アムンツァース》も潰して、残った人間たちに大迷宮を攻略させるつもりでいた。

それなのに、オルンは抹殺しようとしていたこのタイミングで力を取り戻し、尚且つ《羅刹》を斃すほどの力を既に身に付けている。

教団の目的は、あくまでオベロン様を復活させること。

オルンであろうとも、オベロン様には勝てはしない。

それは間違いない。

だけれども【森羅万象】の異能を自覚した今のオルンは、時間が経てば経つほど、これまで以上の速度で成長していくことになる。

実際、《おとぎ話の勇者》であるアウグストは、戦闘能力に関しては素人と相違なかったというのに、【森羅万象】を発現してからはあっという間に人類最強まで上り詰めた。

そんな相手に時間を掛ければ、万が一ということもあり得る。

そのため今は、人々に大迷宮攻略を本気で取り組ませるように、生存を脅かして人間たちの危機感を煽る。

そして、戦力を一か所に集中させるのではなく、世界規模の広さで一斉に魔獣に暴れてもらうことで、オルンの身動きを阻害する。

彼の性格的に人々が犠牲になることは良しとしないだろうから。

そして、世界中で氾濫が起こった原因をでっちあげてオルンに押し付けることで、物理的だけでなく、社会的にもオルンを縛り付ける。

現在進行形で混乱の中に在り、多くの人々が不幸に見舞われている。

そのヘイトをオルンに向けて、彼が身動きを取りづらい状況を作り出すこと、それが当座の目的になるわね。

(……それにしても、やっぱり解せないわね)

オルン・ドゥーラの行動を受けて短期目標を再設定したものの、やはり違和感が拭えない。

彼は力を取り戻してスティーグを討った。

驚きはしたものの、この 結果(・・) そのものは不思議ではない。

力を取り戻せば、それも可能でしょう。

だけれど、わたくしにはその 過程(・・) が解せない。

第二農場(セカンドファーム) の存在については、オルンは当然、《アムンツァース》の連中にも知られていないはず。

彼はどうやって 第二農場(セカンドファーム) の存在を知ったのかしら?

いや、そもそもどうして今日スティーグが 第二農場(セカンドファーム) に居ると知っていたのかしら?

「――ねぇ、ベリア様」

自分の中にある疑問を解消するために、帰ろうとしているベリアに声を掛ける。

「なんだ、フィリー?」

「迷宮の氾濫を起こすために術理に触れた時、違和感のようなものはなかったかしら?」

「違和感?」

「えぇ。どんな些細なことでも構わないのだけれど」

「特には感じなかったが……。…………そう言えば、日付が 一致していなかった(・・・・・・・・・) な」

「日付?」

「今日は四聖暦六三〇年四月二十一日のはずだ。だが、術理に刻まれていた日付は五月十二日になっていた」

「……約一か月、正確には二十二日ズレていた、ということかしら?」

「そうなるな」

「…………二十二日前は……、三月三十日。……っ! これって、ベリア様が教団幹部を集めて計画を第二段階に進めると宣言した日じゃないかしら?」

わたくしの問いかけに、ベリアも自身の記憶を遡ってから頷いた。

「あぁ。確かにその日と合致するな」

あの日に何かあったというの?

いや、その逆ね。

術理が刻んでいる時間は外の世界を基準としているはず。

だとすると、四月二十一日に 何かがあって(・・・・・・) 、術理の世界の時間だけが三月三十日まで巻き戻った?

本来なら、わたくしたちは 四月二十一日(今日) ツトライルを襲撃して、オルンを殺すつもりだった。

仮にわたくしたちの作戦はほとんど成功していたとして、追い込まれたオルンが死ぬ間際に力を取り戻したことで、世界の時間を巻き戻した、とか?

異能を取り戻したなら、《白魔》と関わりを持っていた彼には【時間遡行】が行使できる。

いくら時間を巻き戻せる異能だとしても、何のリスクも無しに世界そのものの時間を巻き戻すことはできないでしょうけど、そこさえクリアできればわたくしの仮説の信憑性が増す。

この二十二日間に何が起こるのか知っているなら、今日、《羅刹》を襲撃した理由も説明が付く。

第二農場(セカンドファーム) の存在は、先ほどベリアが術理から長距離転移の記録を確認したのと同じ方法で知ることができたのかもしれない。

この推測が正しかった場合、今から《英雄》が王都を襲撃することも、彼は把握しているのではないかしら?

(ふふふっ、これは面白くなりそうね)

わたくしの推測が合っていようが間違っていようが、王都襲撃はこのまま実行するべきね。

オルンを社会的に縛るのであれば、彼の活動拠点としているノヒタント王国の王女であるルシラ・N・エーデルワイスに【認識改変】を施して、わたくしの手駒にしておきたいから。

「……悪い笑みを浮かべているな、フィリー」

つい考えていたことが表情に出てしまっていたようで、それをベリアに指摘される。

「あら、失礼したわね」

「それは構わないが、また悪巧みか?」

「えぇ、そんなところよ。そこでベリア様に一つお願いしたいことがあるのだけれど」

「お前にはこれまで助けられてきたからな。願いを聞くこともやぶさかでない」

「ありがとう、ベリア様」

「それで、俺に何をして欲しいんだ?」

ベリアに【認識改変】を行使しながら頼みごとを口にする。

「ノヒタント王国の王女であるルシラ・N・エーデルワイスを、――殺してきてくれないかしら?」

ルシラがこれで死ぬなら死ぬで構わない。

死んだ場合は、ナギサを使って抜いた彼女の記憶を元に人形を作れば良いだけの話。

もしもオルン・ドゥーラがそれを阻もうとするなら、ベリアにオルンをぶつけることができる。

その場合はベリアの処分も同時にこなせる。

どちらに転んでもわたくしには得しかないわね。

さぁ、ここからが本番よ、オルン・ドゥーラ。

情勢が一変した世界で最後に笑うのは、どちらになるのかしらね――。