軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253.【sideソフィア】袂を分かつ時①

それから数日後。

空が茜色に染まり始めた頃、

「あ! ツトライルが見えてきたよ~!」

ツトライルを囲っている外壁が見えてきたところでキャロルが嬉しそうな声を上げた。

かくいう私も、嬉しい気持ちが湧き上がってくる。

私はお父様の右腕だったアルドさんに、半強制的に連れ出されたるかたちでツトライルを離れた。

その時に婚約が決まったとも聞かされていたから、私はツトライルには二度と戻れないと思っていた。

だけど、オルンさんを始め、仲間のみんなに助けてもらって私は帰ってこられた。

これが嬉しくないわけない。

「ね、ね、ログ! さっそく大迷宮攻略に行っちゃう?」

キャロルが待ちきれないと言わんばかりに、大迷宮に潜ることをログに提案していた。

それを聞いたログは少々呆れ気味な表情をしている。

「流石に今日は大迷宮には潜らないぞ」

「そうですね。旅の疲れというのはバカにできません。時間も遅いですし、今日はゆっくり休んで明日から大迷宮に挑みましょう。ね、キャロル?」

ログの意見に同意したルゥ姉がキャロルを宥める。

「んー、わかったぁ……」

キャロルはしょんぼりしながらも二人の意見に従った。

彼女がこんなにも早く大迷宮に潜りたいと思っているのは、ダルアーネで彼女の兄姉から受け取った魔導具を実戦で試したいからだと思う。

今もキャロルの耳に着けられているイヤリングがその魔導具で、彼女専用の魔導具らしい。

封入されている魔術は、キャロル曰く感覚の延長に加えて、魔力の感知と操作のサポートだとのこと。

(魔導具、か)

魔導具は動力源として魔石を使うことになるから迷宮探索は相性が悪いと思い込んでいた。

魔石を多く持っていると、それだけ魔獣を引き寄せてしまうから。

だけど、オルンさんの教えをよくよく思い出してみれば、『迷宮探索に持っていく魔導具は厳選した物だけにするのがいい』と言ってただけで、『持ち込んじゃダメ』とは言ってなかったんだよね。

ルゥ姉は異能と魔術を掛け合わせた精霊魔術というルゥ姉だけにしかできないモノを持っている。

キャロルとログもそれぞれ異能や自分の能力を上手く活用した独自の戦い方を確立し始めている。

対して私はまだ〝普通の魔導士〟の枠組みの中に納まったままだと思う。

私の異能である【念動力】には、 魔導具とのシナジーがあるんじゃないかな?

「どうした、ソフィア?」

私がそんなことを考え込んでいると、隣に座ってるお姉ちゃんが心配そうに私に声を掛けてきた。

「ねぇ、お姉ちゃん。魔導具について知りたいと思ったら、何から勉強するのが良いと思う?」

「魔導具? ソフィアは魔導具師になりたいのか?」

「ううん。そうじゃないけど、魔導具について知ることでもっと強くなれるんじゃないかって思って」

「確かに魔導具は便利だからな。魔導具について知るためには、前提知識となる魔術の基礎を知らないとな。それと、魔導具師はウチのクランにも在籍しているから、彼らに話を聞いてみるのも良いんじゃないか?」

魔術の勉強か。

特級魔術まで行使できるようになってるけど、まだまだ私の魔術の知識は浅い。

それこそ、オリジナル魔術の開発なんて今の私では不可能だし。

よし! まずは魔術の勉強を頑張ってみよう!

「うん、そうだね。参考になったよ。ありがとう、お姉ちゃん!」

「どういたしまして」

私が感謝を示すと、お姉ちゃんは幸せそうに微笑んだ。

そうこうしている内に馬車は《夜天の銀兎》の敷地内までやってきた。

御者に感謝の言葉を告げながら馬車を降りた私たちは、そのまま本館へと入る。

レグリフ領へ出張に行っていた期間よりも短いはずなのに、すごく懐かしい気持ちになる。

私は《夜天の銀兎》に帰ってこられたんだ……。

先頭を歩いていたお姉ちゃんが私たちの方へ振り返った。

「みんなお疲れ様。移動の疲れもあるだろうから――」

「――うそ……。ホントにドンピシャなんだけど……」

お姉ちゃんが話をしていると、近くから驚いたような女性の声が聞こえてきた。

声の聞こえた方を見ると、そこには知っている人がポカンとした表情で立ってた。

「エステラ? なんだ、出迎えに来てくれたのか?」

お姉ちゃんがエステラさんに親し気な声をかける 。

「あー……、うん。まぁ、出迎え……かな? と、とりあえず、みんなおかえり!」

エステラさんが歯切れ悪そうにしている。どうしたんだろ?

「それで、帰ってきて早々で悪いんだけどさ、みんなわたしに付いてきてもらえる?」

「……? あぁ。わかった」

エステラさんの態度を疑問に思いながらも、特に断る理由もない私たちは、エステラさんの後に付いて行く。

エステラさんに連れられてやってきたのは、総長の執務室だった。

私、ここに入るの初めてなんだけど……。

というか、ほとんど新人と変わらない私みたいな団員が入っていいの?

エステラさんは私のそんな疑問なんて露知らず、扉を開けて中に入っていく。

「総長、オルっち、みんなを連れてきたよ。オルっちの言う通り、わたしが本館の出入り口に到着したタイミングでセルマっち達が帰ってくるんだもん。驚いたよ。オルっちって、もしかしてエスパー?」

……オルっち?

「まぁ、似たようなものですかね」

エステラさんの質問に答えた男性の声は、すごく聞きなじみのあるものだった。

私たちも部屋の中に入る。

部屋を見回すと、そこには数人の人がいた。

私たちを連れてきたエステラさんとこの部屋の主である総長の他に、第一部隊のレインさん、ルクレーシャさん、ウィルクスさん。そして、 オルンさん(・・・・・) 。

(え!? なんで、オルンさんがここに居るの!? オルンさんは王女様の密命を受けて別行動してたんじゃないの!?)

「全員揃ったな。みんな、突然呼び立ててしまいすまない。至急、みんなに伝えておきたいことがあってな」

「それで、何か事件でもあったんですか?」

口を開いた総長の言葉に、レインさんが質問を投げかける。

「事件と言えば、ある意味で事件だな」

「 ヴィンスさん(・・・・・・) 、ここからは俺が話します」

総長が疲れたような表情でレインさんの質問に答えようとしたところで、隣に居たオルンさんが口を開いた。

オルンさんの言葉に総長は「わかった」とだけ言うと、説明をオルンさんに託した。

(それにしても、オルンさんがいつもと違う感じがする。何が違うんだろう?)

そんなことを考えながらオルンさんを見て、違和感の正体が分かった。

服装だ。

《夜天の銀兎》に加入してからオルンさんはクランの団服を着ていた。

だけど今は違う装いをしている。

それと、オルンさんは総長のことを普段『総長』と呼んでたはず。なのに、さっきは名前で呼んでいた。

何でだろう。

すごく嫌な予感がする……。

「勿体ぶるような話では無いから、端的に言う。――俺は今日を以て《夜天の銀兎》を脱退する」

………………え?

「…………悪い、オルン。聞き間違えたみたいだ。もう一度言ってもらえるか?」

そう言うウィルクスさんの声は明らかに震えていた。

私含めて、他の人も信じられないと言った表情をしている。

だってそうでしょ。

オルンさんが《夜天の銀兎》を脱退する? どうして?

「《夜天の銀兎》を抜けると言ったんだ」

「ど、どうしてだ……!?」

お姉ちゃんが狼狽しながらオルンさんに問いかける。

「色々と理由はあるけど、最大の理由は俺の記憶が戻ったからだ」

「記憶が、戻った……? オルンくんって記憶喪失だったの? ボク、初耳なんだけど」

「あぁ。と言っても、俺自身無自覚だったし、失っていた記憶は幼少期のものだから、ここ最近の話ではない」

「幼少期の記憶が戻ったことが、どうしたらクランの脱退に繋がるんだよ」

「それは、俺が本来所属している組織に戻るためだ」

「オルンが所属している組織……?」

「《アムンツァース》だ」

「「――っ!?」」

オルンさんの発言にオルンさん以外が息を飲む。

もう私は理解が追い付かないでいた。

オルンさんが《アムンツァース》に所属していた……?

あの探索者殺しの犯罪者組織に……?

私たちが初めて挑んだ南の大迷宮の三十層攻略の時に襲ってきたあの人たちと同じ……?

「そ、それは変ですよっ!」

ログが声を荒らげる。

「だって、《アムンツァース》の人たちは師匠を殺そうとしていたんですよ!? あの時は何とかみんな無事でしたけど。師匠も言ってたじゃないですか! 『全員死んでいた可能性もある』って!」

「それは、敵の工作によるボタンの掛け違いのようなものだ。あの時は敵に上手く嵌められたな」

「嘘……。嘘だよ! そんなの信じない! だって、ししょーの言ってることがホントだったら、あたしたちは敵ってことになっちゃうじゃん! そんなの嫌だ!」

キャロルが首を横に振りながら声を上げる。

「確かに、《アムンツァース》は探索者の敵だった。あの組織がこれまでやってきたことは、到底赦されることではない。でも、それは俺のせいでもあるんだ。俺が十年前に敵に負けて記憶を奪われたから」

「十年前に……、負けた……? もしかして、オルン君って……。嘘……。でも……、それじゃあ……」

レインさんが身体をガタガタと震わせて声を漏らしていた。

「レインさんが今何を思っているのか、なんとなくは察しているつもりだ。だから言わせてほしい。――レインさんのせいじゃない。里のみんなを殺したのはアイツらの罪だ。レインさんが気に病む必要は無いよ」

オルンさんはそんな彼女に優し気な声を掛ける。

だけど、レインさんは大きく見開いた目から涙を流しながら、信じられないものを見てしまった時のような、ずっと隠していたものを暴かれたような、そんなひどい怯えようだった。

「やっぱり、そうなんだ……。それじゃあ、オルン君のご両親は……。……ごめん、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい――」

レインさんはその場にへたり込んで、謝罪の言葉を何度も零している。

そんなレインさんにオルンさんが近づくと、腰を落として彼女の肩に優しく手を乗せる。

「大丈夫。俺は本当に気にしていない。悪いのはレインさんに片棒を担がせたアイツらだ。レインさんに悪意が無かったことは分かってるから」

「こんな私を、そんな簡単に、赦さないでよ……。私が悪いんだから……。……オルン君が赦してくれても、やっぱり私は……、私を赦せない……!」

「……だったらこうしよう。この先俺はレインさんの力を頼る場面が来るかもしれない。だからその時は力を貸してほしい。これ以上、自分を責めても、みんなが帰ってくるわけじゃないんだ。むやみやたらにレインさんが傷つくだけなんて、それこそ俺は嫌だから」

「オルン、くん……。ありがとう……。ごめんなさい……。その時が来たら、私は何でもやるよ……。だから遠慮なく私を使って……」

私たちはオルンさんとレインさんのやり取りを見ていることしかできなかった。

この二人にしか知らない何かがあることは分かるけど、それが何なのかは私には見当もつかない。

……でも、こうして近くで二人を見ていると、どこか似ているような気がする。

なんで、そう思うんだろう?

二人とも髪の色が黒で、瞳の色も青系統で似てるからそんなことを思ったのだろうか?

髪色と瞳の色は遺伝しやすいって聞いたことがある。

偶然、だよね?