軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

238.幽世③ 異物たる能力

「森羅万象……? それって大雑把に言えば『ありとあらゆるもの』って意味だよな?」

やはりと言うべきか、オルンは自分の異能の名称を聞いてもいまいちピンと来ていないようだ。

「そうだよ。私も昔のオルンや伝え聞いた話しか知らないから、その全貌を知っているわけじゃないけど、端的に言うなら、 人にできることなら(・・・・・・・・・) 何でもできるというものだよ。当然、色々と制約もあるらしいけどね」

「何でもできるって、滅茶苦茶だな……」

私の話を聞いたオルンが呆れたように呟く。

「そうだね。だからこそ、教団はオルンを危険視しているんだよ」

「その話が本当なら、あの男に『厄介極まりない』と言われたのも納得できる部分があるな」

オルンが力なく笑う。

今、オルンは何を思っているのだろうか。

その言動からは彼の心の中がどうなっているのか、察することができない。

でも、オルンが強い人間であることを、私は知っている。

「まだオルンは、自分の異能についてしっくり来てないと思う。それで構わないから私の話を聞いて欲しい。この話が最終的にはオルンの知りたいことに繋がるから」

「……わかった」

オルンが頷いたことを確認した私は話を始める。

「【森羅万象】は、他人の異能すら行使することができるんだ。オルンが自分の異能だと思っている【重力操作】は、《英雄》の異能である【引斥操作】がベースになっていると私は考えている」

オルンは驚きの表情をしているが、静かに私の話に耳を傾けていた。

「異能はね、人間にとっては異物なんだ。その人の構造を変えてしまうほどの。あ、でもそれは肉体的に変わるとかじゃなくて、精神的というか、能力的というか……」

私が適切な言葉を探していると、黙って聞いていたオルンが口を開いた。

「つまりは、短時間で行われる進化みたいなものだろ。本来魔力を知覚できない人間が、【魔力収束】や【精霊支配】、【魔力追跡】のような魔力に干渉する異能を発現ことで、〝魔力を知覚する〟という能力を得る、といった具合に」

「うん、そんな感じ。私が説明するまでもなかったかな」

「そこについては、既に察していたからな。異能が異物って言うのは初めて知ったが」

「そこらへんを話していくと、話が大きく逸れちゃうから後回しにするね。……それで何が言いたいかというと、異能を発現した者は、その異能を行使するための下地のようなものが作られるってこと」

私が話を再開すると、オルンも黙って私の話に耳を傾ける。

「――そして、私も異能者で、その異能は【時間遡行】。私は時間の流れに対してある程度適応できている。例えば、何時間が経過しようとも時計を見ないで誤差無く経過した秒数を言い当てることができるとかね」

「それは、凄いな。付与術士なら誰もが欲しいスキルだ」

オルンに褒められると純粋に嬉しいな。

付与術士は味方のバフの管理のために時間を正確に計ることが求められている。

上級探索者の付与術士でも、正確な時間を測定できるのは五分、長い者でも十分程度が限界って聞いてる。

まぁ、戦闘中にそれだけの時間を正確に計れれば充分だと思うけどね。

「ありがと。――ちょっと時間が掛かったけど、これで必要なことは話せたから、今話してきたピースを繋いでいくよ」

オルンの相槌を聞いて、私は話を続ける。

「ここを幽世って呼んだけど、私たちがここに来る前にいた世界は、カヴァデール・エヴァンスによって時間が巻き戻されている真っ最中なんだよ。それで、【時間遡行】によって 時間の流れに適応(・・・・・・・・) できる私たちだけが、意識を保てているってことだと私は考えてる」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 流石に理解が追い付かない」

私の仮説を聞いたオルンが頭を押さえながら混乱しているようで声を上げる。

でも仕方ないと思う。私自身も結構滅茶苦茶な仮説を立ててると思ってるから。

「さっきも言ったけど、オルンの異能は【森羅万象】で、子どもの頃に私と接点のあるオルンは【時間遡行】を行使できるようになっていたんだ。私と同じく時間の流れに適応できてもおかしくない。というか、これ以外、私とオルンだけがこんな場所に居ることを説明できないよ」

「…………。百歩譲ってシオンの言っていることが正しいとしよう。だが、じいちゃんが時間を巻き戻したって言うのは、どういうことだ?」

「カヴァデール・エヴァンスの異能が【等価交換】ってことは知ってるよね? 彼は紛れもない天才だった。『彼の喪失は世界の損失』だと言っても過言ではないほどに。だからこそ、彼の命と世界の時間の取引が成立したんだと思う」

「…………」

私の考えを聞いたオルンはついに完全に言葉を無くしていた。

色々な感情がごちゃ混ぜになったような、複雑な表情で顔を伏せている。

それにしても、カヴァデール・エヴァンスが生きていたこと、そして、ずっとオルンの傍に居たことに私は驚いた。

彼は約十年前、オルンたちの里を教団が襲撃したその数日後に、自ら命を絶ったと記録されていたから。

……クリスは彼の生存も知っていたんだろうな。

オルンの件以外にも私に隠し事をしている可能性があるとわかった以上、クリスを問いたださないと。

しばらく静かな時間が流れて――。

「『自分の心の声にしっかりと耳を傾け。俺の答えはそこにある』か……。じいちゃん、ありがとう」

胸に手を置きながら、噛み締めるようにしてオルンは呟く。

オルンが口にした言葉には、万感の想いが籠っていた

「…………」

多分、今のはカヴァデール・エヴァンスからもらった言葉なんだろう。

オルンと彼には、私なんかには想像も付かないほど強い絆が結ばれているんだろうな。

それが凄く羨ましく思った。

子どもの頃は私とオルンの間にも絆があったはずだ。

だけど、今の私たちには、それが無いから。

「シオンも、ありがとうな。ここでお前に会えていなかったら、俺はきっと、腐ったままだった。じいちゃんの想いを踏みにじっていた」

オルンが、憑き物が落ちたような晴れやかな表情で真っ直ぐ私を見つめながら、感謝の言葉を向けてくる。

(その表情は反則でしょ……!)

耳まで熱くなってきたことを自覚しながら心の中でオルンに文句を言う。

「う、うん。オルンが前を向けたなら、良かった。……それで、オルンはこれからどうするの?」

動揺を必死に隠しながらオルンに今後のことを尋ねると、オルンの表情を真剣なものに変えながら口を開いた。

「……今後のことについて色々と考えはある。だが、【シクラメン教団:第八席】《羅刹》スティーグ・ストレム、アイツを叩き潰すことは決定事項だ」

オルンが底冷えするほどの怒りを孕んだ声で宣言する。

私たちが把握している教団の幹部は五人。

最低でも敵の幹部が八人も居るってことに驚いたけど、察するにそのスティーグというやつが、オルンの弟子や仲間を殺した実行犯の人物のことだろう。

「とはいえ、状況が良くないことに変わりはない。今の俺では、返り討ちに遭うのがオチだ。だから力を付ける。まずは俺の異能。これを使いこなせるようにする。いつまでここに居られるかわからないから時間勝負だな」

(うん。やっぱり、オルンはオルンだ。昔も今もオルンの根本は変わってない)

前向きになったオルンの姿を見て、私は自然の笑みがこぼれてしまう。

「シオン、協力してくれないか?」

「……え?」

心がポカポカしていて油断しきっていた私は、オルンに声を掛けられて間抜けな声を漏らしてしまった。

「俺の異能について知っているのはシオンだけだ。だから協力してくれると、嬉しいんだけど……」

「あ、うん! 私に協力できることなら協力するよ! ……だけど、私もオルンの異能については、教えられるほど詳しくないんだよね。異能って感覚的なものだから」

オルンに頼られて心を弾ませたけど、私にできることがあまりないことを自覚して肩を落とす。

「――だったら、俺が教えてやろうか?」

突然、オルンとは違う男の声が聞こえた。

私とオルンが驚きながら声のした方へと顔を向ける。

そこには赤いメッシュの入った黒髪の三十代前半の男が佇んでいた。

ここは幽世だ。

私とオルンが意識を保てているのは、【時間遡行】という異能を持っているから。

それ以外の人間がここに居られるわけないのに、この人は何者……?

「誰、ですか?」

オルンが警戒心を強めながら男に問いかける。

どうやらオルンの知っている人でも無いようだ。

「ははは! 突然知らない人に声を掛けられたら、そりゃ警戒するよな。一応先に言っておくが、俺はお前たちに敵意も害意も無い。その点は安心してくれ。そんで、俺の名前だが、――アウグスト・サンス。それが俺の名前だ」

「「――っ!?」」

男の名前を聞いた私とオルンは更なる衝撃に息を飲む。

でも、それは仕方ないことだと思う。

『アウグスト・サンス』、この名前を知らない人間は皆無と言って良い。

それは、《 おとぎ話の勇者(・・・・・・・) 》と呼ばれ、数百年前に世界を混沌へと陥れた邪神を討伐したとされている人物の名前なのだから――。