軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212.フウカの視ている明日

◇ ◇ ◇

オルンとオズウェルが戦闘を繰り広げている頃、黒竜を難なく討伐したフウカは機能を失っている迷宮の中へと足を踏み入れていた。

地上が陥没したことで空に大穴が空いているように見える丘陵をざっと見渡したフウカは、そのまま迷うことなく歩きはじめる。

フウカが進んだ先には、身を隠しながら身体を休ませていたルエリアとフレデリックが居た。

「……最悪の相手に見つかったものね」

目の前に現れたフウカを見て、ルエリアが弱々しく呟く。

「久しぶり。死ぬ覚悟はできているよね」

鞘に納まった刀を左手で握るフウカが淡々と口を開いた。

ルエリアとフレデリックが万全な状態であったとしても、真正面からぶつかればフウカに軍配が上がる。

疲弊状態の二人が勝てる相手では無かった。

「……虫のいいことを言っていることは百も承知よ。それでも言わせて。私たちが知っている情報は全て渡す。だからお願い。私の命だけで許して。フレッドだけは見逃して」

「何言っているんだよ、お姉ちゃん! 生き残るなら、僕じゃないでお姉ちゃんでしょ! お願い、お姉ちゃんじゃなくて、僕を殺して!」

「ふざけないで――っ!?」

姉弟のどちらが犠牲になるか言い合いをしていると、二人の間を斬撃が通り過ぎた。

そのまま二人の後ろに立っている木が縦に割れる。

「何で、どちらかを見逃す話になっているの?」

木を斬った張本人であるフウカが刀を鞘に納め、殺気を二人に向けながら更に口を開く。

「一年前のツトライルの感謝祭。あの時に貴方たちが私の邪魔をしなければ、フィリー・カーペンターを仕留められた。そうなっていれば、状況は大きく変わっていた。貴方たちのやったことは、見過ごすには深刻すぎる問題だってことは、理解している?」

「……えぇ。わかっているわ。あの時点でフィリーが死んでいれば、私が視える範囲だけでも、帝国と王国の戦争が こんなに早く(・・・・・・) 始まることは無かっただろうし、教団内のパワーバランスも大きく変化していた。私たちの罪は決して軽くないことは理解している」

フウカがどちらも見逃すつもりはないと察したルエリアが、彼女の問いに答える。

ルエリアとフレデリックは、諦観の表情を浮かべながら自分の死を受け入れた。

「そう。わかっているなら話は早い。せめて、苦しまずに殺してあげる」

そう言いながら、鯉口を切ったフウカが刀の柄に右手を添える。

「ごめんね、キャロライン……」

一筋の涙とともに、妹へ再会の約束が果たせないことに対する謝罪の言葉を呟いているルエリアの首元に、刃が迫り――――。

「………………どう、して……」

首元の薄皮一枚を切ったところで、フウカの刀が止まっていることに気付いたルエリアが、戸惑いの声を漏らす。

フウカはそのまま刀をルエリアの首元から離して、刀身に僅かに付着している血を振り払ってから納刀した。

「普段だったら、間違いなく殺していた。でも、今は状況が状況だから、 今の私(・・・) に貴方達の処遇を決める資格は無い。貴方たちの処遇は 明日決める(・・・・・) 。だから今日は、誰にも見つからないようにじっとしていて」

何故二人を見逃すのか、その理由をフウカは語るが、ルエリアにもフレデリックにも解るものではなく、未だに困惑の表情をしている。

そんな二人を無視してフウカが踵を返そうとしたところで、何かを思い出したかのように再び二人に声を掛ける。

「……わかっていると思うけど、私たちから逃げられるなんて思わないこと。クローデル伯爵領内であれば、移動しても良いけど、この領から出た時点で殺す」

「……つまり、明日《剣姫》が私たちの元を訪れるまで、この領内のどこかで身を隠していろってこと?」

フレデリックが、混乱しながらもフウカの要求内容を確認する。

「うん。その認識で大丈夫。今日は体力の回復に努めて。もしかしたら明日すぐに働いてもらうこともあり得るから」

伝えるべきことを全部伝えたフウカは、今度こそ踵を返して迷宮の入口へと歩き始めた。

◇ ◇ ◇

ハルトさんからフウカの居場所を聞いた俺が、迷宮に近づくと、タイミング良くフウカが迷宮から出てきたところだった。

「フウカ!」

彼女に声を掛けながら駆け寄る。

「オルン、《博士》は斃したの?」

俺に気付いたフウカがオズウェルとの戦いについて聞いてくる。

「……あぁ。邪魔者が入ったりもしたが、オズウェルは死んだよ」

「そう。お疲れ様、オルン」

そう言うフウカの表情は、僅かに目じりが下がり口角が上がっている、彼女には珍しい笑顔だった。

彼女が笑って労ってくれたことに、俺の中にある複雑な気持ちが少し軽くなった気がする。

「ありがとう。……そう言えば、俺はオズウェルの方に集中していたが、フウカは黒竜を討伐したんだよな? どうやって仕留めたんだ?」

「どうやって……? 普通に近づいて、普通に首を斬り落とした」

フウカはコテンと首をかしげながら、事も無げに答える。

「そ、そうか。まぁ、なんにせよ、黒竜の相手をしてくれて助かったよ。ありがとな」

俺が再びフウカに感謝の言葉を掛けると、彼女は首をフルフルと横に振った。

「気にしなくていい。私にとっても深層のフロアボスがどのくらいの強さなのか、それを計るのに丁度良い相手だったから」

フウカが所属している《赤銅の晩霞》は南の大迷宮で九十一層まで到達している。

九十一層以降が深層となるが、彼らは深層の探索をしないクランとして有名だ。

フウカにとっては初めての深層フロアボスとの対峙だったことになるのか。

事前に黒竜の情報をどれくらい持っていたかは不明だが、初見の相手であることも加味すると、フウカの実力は底が見えないな。

「……それじゃあ、ダルアーネに戻るか。ツトライルに帰るのは明日に延期になるだろうが、フウカとハルトさんは問題ないか?」

元々の予定ではルシラ殿下に各地の迷宮攻略の報告を終わらせて、すぐにツトライルに帰るつもりだったが、その前に今回のトラブルが発生したため、こっちに協力した。

事態は収束したが、まだ混乱は残っているだろうから、もう一日だけダルアーネで過ごすことになると考えて、フウカに確認を取った。

「うん、問題ない」

フウカの方も問題がないことを確認した俺は、これからの予定を考えながら、フウカと一緒にダルアーネへと向かった。