軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21.引率者 VS. 40層フロアボス

集合場所である広場に着くと第九班、第十班のメンバーは全員揃っていた。

相変わらずローガンが敵意のある目を向けてきている。

とりあえず、ローガンは自由にやらせると決めているので、キャロラインに声を掛ける。

「キャロライン、今日はディフェンダーの動きを意識してみてくれ」

「えー、なんでよー。というかさ、そもそも連携って必要なの?」

キャロラインが不満げな声を上げてから、連携の必要性について聞いてきた。

そこから説明しなきゃいけないのか……。

クランで教えられたはずだろうに。

「あたしって強いよね?」

なおもキャロラインが話を続ける。

確かに周りの新人と比べれば、圧倒的に強い。

このまま順調に成長していけば、有名な探索者にもなれるだろう。

「多分、そう遠くない未来に、あたしがこのクランのエースになると思うんだ! だからあたしが魔獣を殺す。みんなはそのサポートをしてくれればいいと思うんだよ」

なんて自分勝手な……。

「良い訳ないだろ。《夜天の銀兎》のエースだったアルバートさんも連携を重視していたって聞いている。個人でできることには限界があるんだ。だからみんなパーティを組んで、迷宮探索をしているだろ?」

アルバート・センシブル。

彼は去年まで《夜天の銀兎》に在籍し、《夜天の銀兎》の絶対的エースと呼ばれていた探索者だ。

去年、《夜天の銀兎》で挑んだ92層のフロアボス、黒竜戦で命を落としてしまった。

彼の死をきっかけにクラン内で様々なトラブルがあったらしいが、話が長くなるためここでは割愛する。

「その結果仲間を庇って死んだんでしょ? それもディフェンダーを。バカだよあの人は。死んだらみんなから笑顔が無くなるってわかっていたはずなのに」

そう呟くように話すキャロラインから異様な圧力を感じる。

何かしらの闇を抱えていそうな子だな。これは部外者である俺が、踏み込んではいけない領域な気がする。

結局、ローガンだけでなく、キャロラインも好きに動くことになった。

……こいつらの実力なら大丈夫かな?

とりあえず、危なくなったらすぐに割って入れるように、準備だけはしておこう。

さてと、これから行く三十六層から五十層の特徴は――

「あ、あの、オルンさん……!」

「――ん? どうした、ソフィア」

今日潜る階層の構造や魔獣の特徴を思い出していると、ソフィアが話しかけてきた。

「その、私のパーティメンバーが失礼な態度をとって、ごめんなさい! あの、私は、引き続きオルンさんの指導を受けたいのですが、指導していただけないでしょうか……?」

ソフィアが真剣な瞳をまっすぐこちらに向けてくる。

この二日間のソフィアを見て感じたことは、頑張りすぎている節があるということ。

初めて出会った日も野良でパーティを組んでまで迷宮探索に乗り出していた。それもセルマさんに禁止されていたにもかかわらず。

彼女の真面目な性格は美徳だと思う。

ただ、それが若干空回りをしているように見える。

悪い方向に行かなければいいんだけど。

とはいえ、彼女のやる気に水を差すのも悪いし、今日は第十班の指示をしないためだいぶ余裕もある。

「勿論いいよ。どんなことを教えてほしい?」

「えっと、それじゃあ、私に足りないものは何でしょうか?」

足りないものか……。

既に新人に求められているレベルはクリアしてるんだよな。

だとすると、次の段階に進むために必要なものを教えればいいか。

「わかった。もう迷宮に入る時間だから、入ってから余裕がある時に教えるよ」

「あ、ありがとうございます!」

ソフィアがまぶしい笑顔を向けてくる。

これまで同様、セルマさんの号令から教導探索が開始する。

三十六層に足を踏み入れた俺は、周囲の警戒に意識を割きながらソフィアに話しかける。

「さて、まずはソフィアの魔術に対する理解度が知りたい。魔術について説明してみてくれ」

「は、はい! えっと……、まず前提として、空気中に存在する魔力を利用し、様々な現象を引き起こす力を魔法と言います。しかし、魔法は魔獣にしか使えません。――魔術とは 魔法を参考に(・・・・・・) 作られた技術(・・・・・・) のことです。魔力に術式を介する事で、本来魔法を使えなかった人間が、魔法に近い現象を引き起こすことができるようになりました」

大体正解だな。

より正確に言うならば、術式とは『魔力を現象へと変える手順』のことだ。

つまり、魔法と魔術は本質的には同じものとなる。

より詳細なことを言っても混乱するだろうから、これ以上は割愛する。

要するに名称が違うだけで、実際にはどっちも同じってことだ。

「ちゃんとわかっているな。それじゃ、魔術の発動手順は?」

「……魔術の発動手順は、術式構築、魔力流入の2段階に分かれています」

「それじゃあ、二つの段階について解説を」

「……術式構築とは、各魔術の基本式に威力や効果範囲といった付加設定を加えて、術式を作ることです。次に魔力流入は、完成した術式に魔力を流し込むことです」

これだけ理解できていれば、合格点を上げてもいいだろう。

正直ここまで答えられるとは思っていなかった。

普通の魔術士なら、『脳内で複雑な計算をして、導き出した答えと空気中の魔力を合わせることで、魔術が発動する』程度の認識だろうからな。

魔術は非常に複雑だ。

新しい魔術を開発しようと思っていなければ、その程度の認識でも問題ない。

「かなり理解していたな。正直驚いた」

「え、えへへ。ありがとうございます」

「それじゃ、ソフィアが更に上のレベルに行くために、必要な考え方や知識を教えるよ」

「よろしくお願いします!」

魔獣との戦闘なんかもあって、ソフィアとの会話は途切れ途切れになってしまったが、それは仕方ない。

にしても、ローガンが静かだ。セルマさんには叱らないように言ったが、小言くらいは言われたのかもしれない。

話と戦闘を繰り返しているうちに、四十層のボスエリアに着いた。

これまでのフロアボスはアンセムさんとバナードさん、引率者の 回復術士(サポーター) ――名前はキャシーさん――の三人で戦っていた。

上層のフロアボスに引率者全員で挑んだら、一瞬で倒してしてしまう。

新人たちにフロアボスと戦っているところを見せるため、これまでは三人だった。

四十層からは中層となり、フロアボスの強さも一気に上がる。

三人でも問題なく倒せるが、アタッカーも付与術士もいないとなると、攻撃力が不足気味になる。

それに今日はボス戦が二回ある。

そのことから四十層と五十層のフロアボスは5人で討伐することになっている。

「オルン、よろしく頼むぜ!」

俺の横に立ったバナードさんが声を掛けてきた。

「はい。とはいえ今回はサポートがメインですけどね。俺の見せ場は五十層なんで」

「打ち合わせの時に言ってたあれ、本当にできるのか? 剣士としてのブランクもあるんだろ? つか、ブランクが無かったとしてもできるとは思えねぇんだが……」

「問題ないですよ。それじゃ、とっとと終わらせちゃいましょう!」

引率者五人がボスエリアに入る。

新人たちもそれに続く。

ボスエリアは巨大なホールのような空間になっている。

新人たちは壁際で固まって待機しながら、引率者の戦闘を見ていることになる。

ホールの中心には身長五メートルほどの四本腕の巨人が仁王立ちしていた。

巨人は全身の筋肉が隆起していて、天然の鎧のように硬いのが特徴だ。

「打ち合せはしたが、このパーティでの戦闘は初だ。各自ロールに準じた動きを心掛けるように! 【 力上昇(ストレングスアップ) 】、【 生命力上昇(バイタリティアップ) 】、【 敏捷力上昇(アジリティアップ) 】」

セルマさんがメンバーに声を掛けた後、アンセムさんとバナードさんに 支援魔術(バフ) を掛ける。

ちなみに、俺は自分で状況に応じてバフを掛けたいため、セルマさんのバフは不要であると伝えている。

バフを受けた二人はこれまでのフロアボスとの戦いのときよりも身軽な動きで、巨人の正面から接近する。

俺は自身に【 力上昇(ストレングスアップ) 】、【 技術力上昇(テクニカルアップ) 】、【 敏捷力上昇(アジリティアップ) 】のバフを掛けてから、相手の死角に回り込む。

攻撃をしすぎて巨人の注意が俺に向かないように注意をしながら、関節などの比較的柔らかい部分を斬りつける。

ディフェンダーの二人は巨人の攻撃を盾で防ぎながら、攻撃ができる余裕もある。

俺たち前衛が下半身を中心に攻撃し、上半身部分にはセルマさんとキャシーさんが魔術で攻撃する。

上級探索者五人の前に、巨人は手も足も出ずにいた。

戦闘開始から五分と少し、巨人を難なく討伐した。

魔獣は死ぬと、肉体を黒い霧のようなものに変えて、体内にあった魔石だけがその場に残る。

その時に稀に一部が黒い霧に変わらず、その場に残ることがある。

それは魔獣素材と呼ばれ、武器や防具、魔導具、はたまた探索者には関係のない道具として、職人の手によって生まれ変わる。

しかし、フロアボスの場合は、討伐すると部位はランダムになるが、魔獣素材が必ず残る。運がいいときは死体がそのまま残ることもある。

巨人の魔石や魔獣素材の回収をディフェンダーの二人に任せて、俺は新人たちの元へ戻る。

「後ろからチクチクと、消極的な攻撃でしたね。貴方が居なくても結果も内容も変わらなかったんじゃないですか? 本当に前衛アタッカーなんですか?」

戻るなりローガンが嫌味を言ってきた。

元々俺は今回の戦いではサポートがメインだったし、思っていたよりもあっけなく終わった。

確かに俺自身、今回の戦闘に参加しなくても良かったと思っている。

「そうかもな」

俺が素っ気ない返事を返すと、ローガンは小さく舌打ちしてそれ以上は何も言ってこなかった。

◇ ◇ ◇

「お、おい! アンセム! なんだったんだ今のは!?」

バナードと一緒に討伐した巨人の素材を確認しながら収納していると、バナードから戸惑いの声が発せられた。

バナードの戸惑いも理解できる。今回の戦いは 一方的だった(・・・・・・) 。

俺たちはAランクの探索者だ。

大迷宮の八十七層まで到達している。

しかし、相手はフロアボス。

例えセルマさんの付与魔術があったとしても、こんなにあっけなく倒せるような相手ではなかったはず。

それを可能にした最大の要因は――オルン・ドゥーラだろう。

剣の速さも力も俺のパーティの前衛アタッカーの方が上だ。

剣士としての実力だけを見れば、オルンはギリギリAランクに届くかどうかといったレベルだろう。

しかし、オルンの動きはそんな低次元の話で済ませて良いものではなかった。

今回のオルンは本人が言った通り、サポートに徹していた。 完全に巨人の(・・・・・・) 行動を封じることで(・・・・・・・・・) 。

魔獣も生物だ。必ず予備動作というものが存在する。

これは推測になるが、オルンはその予備動作から、次に相手がどんな攻撃をするかを予測していたように感じた。

そして、相手の次の攻撃の急所となる部分を先に攻撃することで、その 悉(ことごと) くを封殺していた。

その結果、巨人は大した攻撃もできず、あっけなく俺たちに倒された。

こんな一方的な戦いは初めてだった。

「本当になんなんだろうな。あれで数年のブランクがあるとか、信じられない」

オルンは昨日、『身体能力が低くても、それは技術と経験で補うことはできる』と言っていた。

今回の戦いはまさにそれを体現しているかのようだった。

その上で、打ち合わせの時に言っていた例のことが本当にできるのであれば、オルンは彼自身が掲げている理想の剣士像にかなり近づいていることになるだろう。

また、五十層のボス戦では驚かされることになりそうだな……。