作品タイトル不明
173.【Sideシオン】術理の外側
「ぐっ……!」
左肩が燃えるように熱い。
何とか急所を避けることはできたけど、魔水の棘は私の肩を貫通していた。
私の周囲から魔力が消える。
今すぐ泣き叫びたいほどの痛みをぐっと耐えていると、徐々に視界が涙で滲む。
だけど激痛の引き換えに、必要な最後の情報を手に入れた。
やはり彼女の【魔力喰い】は不完全なものだ。
「捕まえた!」
背後からドゥエの弾んだ声が聞こえてくる。
首だけで振り返ってドゥエを視界に入れると、彼女の立っている地面にいくつかの亀裂があった。
恐らくそこから魔水を流して、壁まで移動させてから棘のかたちに変えたのだろう。
先ほど地団駄を踏んでいたのは、悔しさを表現していただけではなかったってことか。
【魔力喰い】でなければ、仮に私が見逃していたとしてもティターニアが見逃すはずなかった。
本当に厄介極まりない。
最初に私が捕まったときと同様にティターニアが私を介して風の刃を天井に向けて放つが、粘度の高い魔水が天井に張り付いていて風の刃は無力化された。
「アハハ! 同じ手が通じるわけないじゃん! それじゃあ、死ね! ギンパツ!」
ドゥエが左腕を再び鋭利な刃へと変えながら勢いよく距離を詰めてくる。
「こんなところで……死んでたまるかっ……!」
棘は私を貫いてから静止していたため、後ろに移動して無理やり棘を引き抜く。
これまで以上の激痛が左肩に走るが、それを無視して振り向けざまに右手で握っている杖を振るおうとする。
しかし、ドゥエは既に杖の間合いよりも内側に入り込んでいて、左腕の刃の切っ先が迫ってきていた。
その時の彼女は勝利を確信したような表情を浮かべていた。
「油断したね。詰めが甘い!」
切っ先が私に届くよりも先に、迫ってくる刃の側面に杖から持ち替えた短剣を打ち付けることで逸らす。
「――え?」
そのまま流れるように、すれ違いざまにドゥエの腹部から右の肩口にかけて短剣の刃を走らせる。
短剣の扱いを最も得意としているテルシェ直伝の短剣術だ。
近接戦闘に特化している人たちには及ばないまでも、私にもこれくらいはできる。
すぐさま【魔力喰い】の影響下から逃れると【時間遡行】を行使して左肩が貫かれる前の状態に戻す。
身体から左肩が貫かれるという事実は無くなったものの、痛みの感覚は覚えている。
幻痛というかたちで未だに痛みは感じるけど、これは仕方がない。
先ほどまでに比べれば断然耐えられる痛みだ。
「なんで……、なんで! さっきまで杖持ってたじゃん! なんで短剣に変わってるの!?」
人間であれば致命傷であるはずの攻撃を受けてもドゥエは痛がる素振りすら見せずに、私から反撃を受けたことが信じられないのかヒステリックに叫ぶ。
「さぁ、なんでだろうね?」
そんなこと答えるわけがない。
といっても、これに仕掛けなんてものは無い。
私の収納魔導具は、かの天才魔導具師が作った特別製だ。
北と南の大迷宮百層のボスエリアでも 使用できるように(・・・・・・・・) と作られている。
つまり、単純に杖を収納して短剣を出現させただけのこと。
「ふざっ、けんなっ!」
「ふざけてないよ。――これで必要な情報は全て揃った。ここからは殺し合いじゃない。一方的な殲滅だ」
「っっっ!! たまたま凌げたからって 調子(ちょーし) 乗んな!」
ドゥエが激昂すると、彼女の髪の毛が揺らめき始め、大量に束ねられた髪が魔水に変化し襲い掛かってきた。
『ティターニア、お願いがあるんだけど』
私は再び短剣から杖に持ち替え、脳内で術式を組みながらティターニアに話しかける。
『……ウチに出来ることなら協力しよう』
『ありがと。それじゃあ、ここ以外に在る氷の精霊とそれに 至る可能性のある(・・・・・・・・) 魔力を可能な限りかき集めて欲しい』
『何をする気か聞きたいところだが時間は無いか。どこに集めればいい?』
『ここの真上である地上に。あ、それと、いつでも第二階層と地上に転移できるように準備もお願い』
ティターニアとの念話を終える頃には、魔水はかなり近づいて来た。
【魔力喰い】の影響下に入る前に魔術を発動させる。
「【 空間跳躍(スペースリープ) 】」
再び転移でドゥエの背後、第三階層の入り口付近へと戻ってきた。
直前まで私が居たあたりは魔水で覆われていている。
(これだけ広がっていれば、効率良く喰らってもらえるかな)
「相変わらず逃げてばっかじゃないか! それで私を殺すなんてよく言えたな!」
すぐに私の転移先に視線を移動させたドゥエが、次は両手の指先が魔水に変化してこちらに伸ばしてくる。
むしろ好都合。
私は周囲に存在する氷の精霊を操作して魔術を発動させる。
「精霊魔術――【 霜嵐(ボレアス) 】!」
一瞬でドーム内の地面に霜が降り、私の目の前に出現した魔法陣から白銀の暴風が吹き荒れる。
【 霜嵐(ボレアス) 】。
白銀の暴風に晒されたものは、表面に霜が降り内部まで完全に凍てつかせる広域殲滅魔術。
氷の精霊を流し込まなければ発動できないことなど色々と制約はあるけど、殲滅力は既存の魔術とは比較にならない。
「アハハ! だから無駄だって!」
とはいえ、当然ながら【魔力喰い】が反映されているドゥエには通じない。
白銀の暴風はどんどん虚空へと消えていく。
だけどこれで良い。
ドゥエの【魔力喰い】によって消えた魔力は、きれいさっぱり消えるわけではない。
では、どこへ行ったのか。
それは彼女の体に埋め込まれているであろう魔石の中だ。
そして、魔石に中に魔力を詰め込んでいる以上、その魔力量には上限がある。
先ほどのとんでもない威力のブレスが、上限を超えそうな魔石の中にある魔力を放出させた結果と考えれば筋は通る。
であれば、魔石内の魔力を飽和させればそれ以上魔力を消す事はできない。
魔術も普通に通じるようになる。
「……ぐ……うぅ……。……え? もう(・・) ……?」
しばらく【 霜嵐(ボレアス) 】を発動し続けていると、先ほどのようにドゥエが胸の辺りを押さえながら苦しみだす。
私の方も頭が徐々に重くなっていくのを感じる。
魔術を使い過ぎた際に起こる頭痛の前兆だ。
最近はこの頭痛とも無縁だったけど、これだけ長く維持させていれば仕方ないか。
「……ごめんね。苦しませずに殺してあげたかったけど、それは無理みたいだ」
苦しんでいるドゥエに謝罪をしながら新たな術式を脳内で構築する。
「まさか、あいつの狙いは……! これじゃあ、吐き出しても意味無い……。くそっ!」
ブレスとして内包されている魔力を吐き出したとしても、その魔力はドーム内に漂うだけで消えることはない。
このドーム内の魔力総量が【魔力喰い】の許容量を超えている以上、ドゥエの【魔力喰い】は無力化したも同然だ。
ダンジョンコアを破壊して正解だった。
それはドゥエも解っているのだろう。
苦しみながらも打開策を模索している。
「これじゃあパパの期待を裏切ることになる。せっかく役に立てる機会を貰ったのに。ヤダ……。ヤダ! 無能扱い(・・・・) されるのはヤダ! どうすればいいの……!?」
白銀の暴風に晒されながら半狂乱になるドゥエ。
その姿に多少なりとも同情の念が湧いてくるが、それでも公国に害を為す者を見逃すことはできない。
「魔石……。そうだ、魔石があれば……!」
何やら突破口を見つけてドゥエは不敵な笑みを浮かべる。
「足りないなら、増やせばいいじゃん!」
ドゥエはその言葉を最後に身体が膨らんでいく。
それはまるで風船のようで、ついには身体が破裂し、彼女の居た場所を起点に四方八方に魔水が巨大な波となって押し寄せる。
「ティターニア、真上の第二階層へ!」
それを見て、即座にティターニアに声を掛ける。
すぐに目の前の景色が変わり、第二階層へ転移したことを実感する。
『シオン、何故転移した? 魔力ならウチが用意する。アイツの許容量が増えたとしても飽和するほどの魔力を集めれば簡単に殺せるんだ。とっとと殺そう』
「まぁ、そうなんだけどね、でも、こんな絶好の機会は二度と訪れないだろうから、このまま私の 成長の場(・・・・) として使わせてほしいな」
『何を企んでいる?』
「私はここで、〝術理の外〟に触れる」
『………………本気で言ってるのか?』
「流石に冗談でこんなこと言わない。さっきも言ったでしょ? 私はオルンに追いつくって。オルンは その先(・・・) に居るんだから、私もそろそろ踏み込まないとね」
『ウチと不完全な【魔力喰い】が同じ場所に同時に存在している、故に絶好の機会、か』
「ご名答」
『……やると言うなら止める気は無い。だが、失敗した場合はお前の命を代価に頂く。それで良いな?』
「ん、それで良い。失敗する要素は可能な限り消し込んだから」
『ならやってみろ。可能な限りウチも協力しよう』
ティターニアとの会話が終わったところで、タイミングを見計らったかのように地面が揺れ始め、更には亀裂がいくつも走る。
下に居るドゥエが無理やり地面を突き破ろうとしているんだろう。
「ティターニア、この上は溶岩地帯で間違いない?」
『あぁ。ダンジョンコアを失った第一階層は地獄そのものだ』
「それじゃあ、最後の仕上げといこうか! ――【 超爆発+連鎖(エクスプロード・チェイン) 】!」
高らかに声を上げてから、異能を行使して天井で爆発の連鎖を起こす。
天井であると同時に第一階層の地面でもあるそこを破壊したことによって、第一階層にあった溶岩や溶岩に飲み込まれていた瀕死の魔獣たちが重力に従い落ちてくる。
「ティターニア、地上へ!」
私が転移する直前、第二階層の地面が完全に破壊され、第一階層から第三階層まで吹き抜けのようになった。
当然、魔水の塊のようになったドゥエに溶岩や魔獣らが雪崩れ込むかたちとなる。
その先の光景は見られなかった。
普通に考えれば魔力でもない超高温の溶岩に触れた魔水は蒸発するはずだけど、どうなっただろうね?
地上に戻ってくるとやっぱり安心する。
今回の迷宮は連中が 農場(ファーム) と呼ぶ殊更異様な空間だったから、尚更その気持ちは大きい。
「やっぱり外の方が空気は美味しいね~」
グッと伸びをしながら感じたことを呟く。
『随分と余裕だな』
「ま、ここまで来たら腹を括るしかないからね。――それじゃあ、始めようか」
最後にティターニアに軽口を叩いてから、目を閉じて集中力を上げる。
目を閉じたことで私の周囲にティターニアが集めた氷の精霊をより近くに感じる。
そこに精霊ではない普通の魔力も一部混じっている。
恐らくこの魔力たちは氷の精霊に至る可能性のある魔力だろう。
私の異能である【時間遡行】は、対象の時間を巻き戻すことが出来る能力となる。
もう少し嚙み砕くと、対象を〝現在〟の状態から〝過去〟の状態に上書きすることが出来ると言える。
異能は私たちが考えている以上に 自由度(・・・) の高い力だ。
同じ異能でも解釈次第で別物になることもある。
そこで私は【時間遡行】を『対象の時間を移動する能力』と解釈すれば、〝現在〟の状態から〝未来〟の状態にすることも可能ではないか?と考えた。
だって【未来視】のように未来に干渉する異能もあるのだから。
しかし結果から言うと、この解釈は半分間違いで半分当たりだった。
私の異能は、物体に対しては時間を遡行することしかできなかった。
それに対して、魔力は未来の姿に変質させることが出来た。
つまり、現時点で氷の精霊に至る可能性の高い魔力は、私の異能で氷の精霊に昇華させることが可能となる。
何故魔力だけ【時間遡行】の枠を超えているのか、その理由は未だにわかっていない。
だけど、今重要なのはその理由ではない。
魔力を精霊に昇華させることが出来るということそのものが重要だ。
瞼をゆっくり上げてから、異能を行使して魔力を全て氷の精霊へと昇華させていく。
それに伴って、私の周囲の気温が更に下がり始め、地面や生えている草木に霜が降りる。
周囲に漂う魔力が氷の精霊一色になったところで、精霊の瞳を介して氷の精霊を操り、一か所に 収束(・・) させていく。
収束することで高密度になっていく氷の精霊は、徐々に無色透明から私の色である白銀色に変化していき、精霊の瞳を介さなくても可視化できるようになってきた。
その白銀色となった氷の精霊を更に収束する。
右目の奥が痛み始めた。
更に収束する。
氷の精霊が周囲の空間を歪ませ始める。
更に収束する。
視界の右端が徐々に赤色に浸食され始めた。
更に収束する。
「……ぐっ…………っ!」
自分に降りかかってくる苦痛を全て無視して、更に収束する。
世界に穴が空く(・・・・・・・) 。
そして、氷の精霊が〝外〟と接触した。
「――――」
到底理解できない膨大な情報が一気に頭の中に叩きこまれたかのような感覚に思考が止まる。
『気を抜くな。飲み込まれるぞ』
「――っ!? 危ない危ない……」
真っ白になっていた頭の中にティターニアの声が響いてきたことで我に返る。
即座に氷の精霊の収束を解くと、空間の歪みが徐々に無くなっていく。
氷の精霊も可視化できない無色透明へと戻って、地上に転移してきたときと同様、私の周囲に漂っている。
しかし、これは先ほどまでとは一線を画すものとなっていた。
〝外〟と接触したことでその中に含まれる情報量は、先ほどまでとは比べ物にならないほどに膨大なものになっている。
「これが、 術理から外れた魔力(・・・・・・・・・) ……」
相変わらずその情報を読み解くことはできない。
だけど、それは私の意図した働きが可能であるということが本能的に解った。
『ひとまずは成功だな。念のため言っておくが、〝それ〟は徐々に元の魔力や精霊に戻っていく。だが、それまではこの世界を崩壊させる可能性を秘めている。慎重に扱うように』
「ん、わかってる。――さて、と」
ティターニアの言葉に返答しながら右目や鼻から流れている血を適当に拭い、未だ主張を続ける頭痛を無視して思考を切り替える。
私が思考を切り替えた直後、まるで間欠泉から熱湯が噴き出すかのように、少し離れた地面から大量の魔水が噴き出した。
【魔力喰い】の範囲から逃れるように周囲の精霊と共に後ろへ跳ぶ。
地面に大きく空いた穴の中から五メートルを超える大きさの 化け物(ドゥエ) が現れる。
多種多様な魔獣の組み合わせたキメラのような魔水の塊は、異形の化け物としか形容できない見た目であり、先ほどまでの可愛らしい少女の面影は全くなかった。
恐らくは魔石を取り込むために第一階層の魔獣を大量に飲み込んだのだろう。
「こロス。コろス。コロす!」
既に自我は崩壊していて、あの男の命令のみが彼女を動かしている。
いくつもある化け物の顎が開かれると、それらに高密度な魔力が集まり、無数のブレスとなって私に迫ってきた。
ここら一帯を消滅させるには申し分ない威力のブレスに対して、私の周囲を 魔力の結界(・・・・・) で覆ってから異能を行使する。
(これが魔力結界か。これで私も胸を張って魔力操作の極致に至ったと言えるかな。精霊を使っているからズルをしている感は残るけど)
結界に触れたブレスが轟音と共に爆散し、結界で覆われた場所以外が一瞬にして消し飛び巨大なクレーターへと変貌する。
その直後、クレーターは時間が巻き戻るようにして、ブレスが爆散する以前の状態に戻る。
「……ごめんね。君がどれだけ望んでも、死んであげるわけにはいかないんだ」
彼女に声を掛けながら 普通の魔力(・・・・・) を構築した術式に流し、氷の槍を打ち込む。
これまでと同様、氷の槍は化け物に届く前に虚空へと消えた。
「有効範囲自体は変わってないか、良かった」
『で、これからどうするの? 【魔力喰い】は魔法も喰らう。当然結界も奴が直接触れれば無意味よ』
「大丈夫。私の魔法は【魔力喰い】にも干渉されないはずから!」
化け物が魔獣の長い首のような腕を私に振り落とそうとしていた。
私は回避行動を取らずに、〝術理から外れた魔力〟を操作しながら異能で時間に干渉する。
「――【 凍獄之箱庭(フィンブルヴェトル) 】」
この世界に於いて魔力とは、ただそこに在るだけの存在で、魔力単体では意味を為さない。
魔力が術式を介すことで、初めて魔術という現象を引き起こす。
しかし、〝外〟に触れた魔力は一時的に世界の術理から外れた存在となった。
そのため〝それ〟は世界の術理ではなく、魔の理に 法(のっと) って現象を引き起こす。
その現象の総称を――魔法と呼ぶ。
私が発動した魔法によって、世界の時間が凍てついた。
『これは……、矛盾を起こさないためにこの世界全てに干渉したのか!?』
「…………これ、きついね……。気を抜いたら、一瞬で落ちそう」
私は魔法で世界の時間の進みを限りなくゼロに近づけた。
完全な停止は今の私でも不可能だが、この中を自由に動けるのは私だけ。
停止はできなくとも、この状況下で私に敵う者は存在しないだろう。
それなのにティターニアは時間が停止した世界でこれまでと変わらずに存在していた。
やっぱり(・・・・) 妖精は……。いや、今は余計なことを考えている余裕は無いか。
私が再び上に視線を向けると、私に振り下ろしていた腕が停止しているように見えるけど、ほんのわずかに私に近づいてきている。
そんなに永い間、この状態を維持させるのは無理だからとっとと終わらせよう。
私が右腕を上げると、周囲に玉霰を少し大きくしたような直径一センチ程度の氷の塊が無数に空中に現れる。
そのまま右腕を振り下ろし、杖を化け物に向けながら魔法を発動する。
「――【 霏霏(ストレイフ) 】」
空中に現れた玉霰が亜音速で化け物に向かって一斉に撃ち出される。
当初空中に存在していた玉霰だけでなく、次いで生成された玉霰も順次撃ち出していき、攻撃の手を緩めない。
しかし、時間の歩みが遅い状況でも【魔力喰い】は健在のようで、次々と玉霰を飲み込んでいく。
それでも【魔力喰い】に限界があることは知っている。
魔法を使わなくても勝てた戦いだ。
術理の外に触れた私に負ける要素は完全に無くなっている。
しばらく玉霰を撃ち込んでいると、ついに【魔力喰い】の許容量を超えたのか、玉霰が化け物に届き始めた。
精霊の瞳を介して、化け物の体の中にある大量の魔石の位置を全て確認し、その全てを撃ち抜いた。
化け物の中から魔石が無くなったことを確認してから、時間への干渉を解く。
すると徐々に世界の時間が元の状態へと戻り始める。
「……はぁ……はぁ……はぁ……、……勝った……!」
これまでにないほど速く鼓動を打つ心臓を手で押さえて落ち着かせながら、化け物の身体がドロドロと溶けるように形を失っている光景を見て、この戦いに勝ったことを実感していた。
『全く、無茶しすぎだよ。そんな無茶をしなくても勝てる戦いだったのに』
「あはは……、返す言葉も無いね。でも、……その分収穫の多い戦いだったから、私的にはプラスかな。――このまま無事に済めば、だけど」
『どういう意味?』
「そのまんまの意味。無茶しすぎたからね。もう限界なんだ……」
『…………そうか。このまま死んだら、笑い者としてウチが語り続けてやるから安心しろ』
「それは、いや、だなぁ……」
『それが嫌なら絶対に死ぬな。後のことはウチに任せろ』
「ん、わかった……」
その言葉を最後に私の意識は闇の中へと消えていった。
◇ ◇ ◇
目の前で倒れるシオンを魔力で受け止めてゆっくりと地面に寝かせる。
彼女は〝外〟に触れ、超越者となった。
あり得ない、というのがウチの素直な感想だ。
今生きている人間で、外の理に至っているのはオルン・ドゥーラと東雲風花、ベリア・サンスの三人。
それ以外に至れる可能性がある人間はオリヴァー・カーディフ、それとかなり低いがフィリー・カーペンター、その二人だけだと思っていた。
ウチの中でシオン・ナスタチウムは、かなりのポテンシャルを秘めているが、それでも術理に収まる存在だった。
それなのに、精霊の瞳を自身に同化させるなどという死の危険を冒し【精霊支配】に近い能力を得て、強引に外の理へと至った。
やはり人間という生き物はウチの理解の外側に居る存在だと再認識させられた。
それでもシオンが心強い存在になってくれたことは間違いない。
『……それでも、 この結末(・・・・) は変わらないのか。シオン、お前の存在が鍵になるはずなんだ。だから一日も早く目を覚ましてくれ。そうしなければ、――お前の最愛の人間は 慟哭の末に(・・・・・) 世界を滅ぼすぞ(・・・・・・・) 』