軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148.ルガウの戦場

「フェリクス、前方の魔力で作られた足場を踏んでくれ」

地面と平行になるように【 反射障壁(リフレクティブ・ウォール) 】を発動してから、俺と並走しているフェリクスに声を掛ける。

フェリクスから「わかった」と返答を受けた俺は、フェリクスと一緒に【 反射障壁(リフレクティブ・ウォール) 】を踏み、上空へと跳びあがる。

最高点に到達してから【重力操作】で二人に掛かっている重力の方向を変える。

そうすることで、俺たちは地面と平行にルガウの方向に 落ちるように(・・・・・・) 移動した。

「先ほどのように転移は使わないのか?」

ルガウへと落下しながら向かっていると、隣からフェリクスが問いかけてくる。

「あんな長距離転移ができるほどの余力は残っていない。それに転移先の状況もわからないまま【 空間跳躍(スペースリープ) 】を使用するのはリスクが高すぎるしな。 落下(これ) でもすぐにルガウに着くことはできるから、今回はこれで行く」

「……了解した」

空を水平に落ち続けていると、しばらくしてルガウの外壁が見えてきた。

外壁の手前では攻撃魔術が飛び交っていて、所々で煙が上がっている。

正しく戦場と呼べるものだった。

さらに近づくとより詳細な状況がわかった。

【重力操作】による移動を止めて、攻撃魔術が届かない上空で魔力の足場に立ちながら戦場を見下ろす。

戦況についてはレグリフ領側が優勢だ。

帝国側は数人しか居ないはずなので、本来ならとっくにレグリフ領が勝利していてもおかしくない。

しかし、戦闘は今現在も繰り広げられている。

その戦力差を縮めているのが、西の大迷宮攻略パーティのディフェンダーであるフォルク・ヘイヤーの異能によるものだ。

彼の異能は【 土塊(つちくれ) 操作】。

その異能によって作られた大小さまざまな 土塊人形(ゴーレム) が何体も戦場に出現し、レグリフ領邦軍もそれの対処に追われていた。

「戦況は推測通りか。フェリクス、さっき話した通りでいいんだな?」

「問題無い。俺がお前に負けたのは事実だしな」

「わかった。なら俺は予定通り大剣持ちの帝国人と接触する。ゴーレムの術者の説得は任せるぞ。これ以上負傷者を出すことは許容できないからな」

「わかっている」

俺との会話を終わらせたフェリクスが一直線に木々が生い茂っている場所に降下した。

恐らくあの辺りにフォルク・ヘイヤーが居るのだろう。

俺は再び戦場の方へ視線を向ける。

(さて、《夜天の銀兎》の団員たちは……)

仲間の姿を探していると、真っ先にルクレを見つけた。

彼女がいる場所は障壁の魔導具で護られている最後方だった。

そこで運ばれてきた負傷者を回復魔術で癒している。

更には帝国側から攻撃魔術が撃たれる度に、必要最低限の迎撃とその術者が居る場所を【 閃光(フラッシュ) 】で領邦軍に知らせていた。

ルクレの後者の立ち回りは第一部隊で迷宮を探索しているときにもよくやっているものだ。

魔獣からの魔法による攻撃を受けた際、彼女は即座に【魔力追跡】を用いてその魔獣を捉える。

それから魔獣の居場所を仲間に知らせてセルマさんやレインさんの魔術で攻撃するというのが、第一部隊の定石の一つとなっている。

帝国側の魔術士も優秀ではあるが、個人である以上戦場で潜伏しながら攻撃魔術を発動するのがセオリーとなる。

しかしルクレが相手では、魔術を発動するたびに場所を捕捉されて領邦軍の魔導兵器による集中砲火を受けているため、回避に専念する時間がどうしても多くなってしまう。

領邦軍側が優勢でいられている要因の一つは確実にルクレの存在だろう。

迷宮探索でも頼りになる仲間であることは間違いないが、こういう戦場の方が彼女の能力が十全に発揮されるとも思う。

戦争では絶対に敵に回したくない存在の一人だな。

続いて戦場の中で一番大きい、全長が四メートルにも及ぶゴーレムと戦う第二部隊のメンバー五人を見つけた。

彼らは南の大迷宮の八十三層まで攻略していて《夜天の銀兎》の中でも上位の実力を有しているパーティだ。

魔獣に近い動きをしているゴーレムであれば、彼らが劣勢になることはまずないだろう。

その推測の通り連携を駆使して難なく撃退している。

ただ、ゴーレムは破壊されたとしてもすぐさま元の状態に戻って、再び暴れ始める厄介な性質を持っているようだ。

ゴーレムの術者が人間である以上無尽蔵に暴れると言うことは無いだろうが、時間が経てばこちらが不利になることは明白。

とっととこの戦いを終わらせる必要があるが、そちらはフェリクスに任せるしかないな。

フェリクスが手間取るのなら、最悪の場合は特級魔術などでフェリクスが降下したあたりを消し飛ばすことも考えないといけないかもしれない。

とはいえ、そんなことをすれば俺は確実にぶっ倒れるだろうから、できればフェリクスに対処してもらいたい。

そして最後に戦場から少し離れたところに居るウィルを見つけた。

ウィルは大剣を持った帝国人と対峙していた。

(フェリクスが言っていたのはアイツか)

足場を蹴ってウィルたちの方へと向かうと、ウィルと帝国人が互いの距離を詰めた。

両者とも殺気を纏っていて、相手を殺すために武器を振るおうとしている。

「【 魔剣合一(オルトレーション) 】、【 弐ノ型(モント・ツヴァイ) 】!」

氣を活性化させながらシュヴァルツハーゼを二振りの魔剣に変える。

そのまま激突しようとしている両者の間に割って入り、それぞれの魔剣で双刃刀と大剣を受け止める。

「……オルン!? 何やってんだ! 危ないだろうが!」

「ごめん。だけど、ここでどちらかに大怪我をされたら困るから、少し強引に介入させてもらった」

ウィルが乱入してきた俺を確認して驚きと怒りの声を上げる。

全面的にウィルが正しいが、これ以上状況を悪化させないためにはこれがベストだと判断した。

「その胸の紋章、お前も《夜天の銀兎》の探索者か?」

ウィルに声を掛けると、反対側の大剣を持った帝国人が問いかけてきた。

「そうだ。お前らの大将は俺が倒した。お前らの負けだ。剣を引け!」

俺の言葉に帝国人だけでなく、ウィルも息を飲んだ。

「なっ!? 殿下が……。あり得ない! あの方が負けるなんて……」

俺の言葉に動揺して剣先が揺らぐ。

「信じようが信じまいが、もうじきゴーレムも動きを止める。そうなればどのみちお前らに勝ち目は無い」

俺がそう告げると、実際に動きを止めるゴーレムが現れ、その数は次第に増えていく。

それに伴って、領邦軍からは戸惑いの声が漏れ始めた。

フェリクスが早速フォルク・ヘイヤーを止めてくれたと言うことだろう。

これでひとまずは、これ以上大規模な戦闘が行われることはない。

「《英雄》はフォルク・ヘイヤーのところに居る。お前も一度戻った方がいいんじゃないか?」

隠しきれないほどに動揺していた大剣の帝国人に《英雄》の元へ戻るよう助言する。

ここに居られても領邦軍の恨みを買うだけで、それが再戦のきっかけになっても困るからな。

「で、殿下が……!? 情報提供感謝する」

俺の発言を好意的に受け取った帝国人が、フェリクスが居るであろう場所に向かって一直線に走り始めた。

その帝国人に念のため【 標的捕捉(マーキング) 】を発動する。

これで実質的にフェリクスの居場所が常時わかるはずだ。

今更変な動きをするとは考えにくいが念のために、な。

「ウィル、領邦軍の本部がある場所ってわかる?」

帝国人との話を終えてからウィルに声を掛ける。

「……あぁ、知ってる」

「よかった。だったら案内してくれない? すぐにでも話をしないといけないから」

「……わかった。こっちだ」

ウィルが淡白な返答をしてきた後、踵を返してルガウの方へと歩きはじめた。

俺は黙ってウィルの後ろを付いていく。

街の中に足を踏み入れてから辺りを見渡すと、比較的キレイな街並みを保っていた。

いくつか倒壊している建物が見えるが、恐らく軍関連の施設なのだろう。

至る所から人々のすすり泣く声なんかが聞こえるが、賊によって滅ぼされた あの日の俺の故郷(・・・・・・・・) のように血の匂いが充満している、ということは無かった。

フェリクスは本当に徹底して一般人には手を出していなかったようだ。

だからと言って住民の怒りや悲しみ、憎しみは消えない。

このストレスが厄介な方向に向かなければ良いが……。

そんなことを考えながら活気を失っている街中を歩いていると、とある建物に案内された。

その建物に入ると、そこではエディントンの爺さんが陣頭指揮を執っていた。

「やぁ、オルン君。突然敵のゴーレムが動きを止めて、そのタイミングで《英雄》と相対していたはずの君がここにやってきたということは、君がこの件に絡んでいるということでいいのかな?」

「はい。その認識で問題ありません。その件も含めてご報告したいのですが、その前に人払をお願いしたく存じます」

「……ふむ。……わかった。全員この部屋から出るように」

爺さんの一声で部屋の中に居た数名が部屋から出ていく。

俺と一緒にやってきたウィルも何か言いたげな表情をしながらも、口を開くことなく部屋から出ていった。

「では、報告を聞こうか」

「畏まりました――」

それから俺は、《英雄》が戦闘の過程で自分の考えを変えたこと、戦いの余波でクライオ山脈近くの雑木林一帯が見るも無残な状態になってしまったこと、帝国と《シクラメン教団》が手を組んでいる可能性が高いことなどについて簡潔に報告した。

「……君をこの領地に呼んで正解だったよ。オルン君、被害を最小限に抑えてくれてありがとう」

俺の報告を聞いた爺さんが頭を下げる。

「恐縮です。今後とも変わらぬお引き立てをよろしくお願い申し上げます」

「うん。勿論だよ。当主の座は退いたけどまだまだ派閥への影響力は持っているからね。儂にできる協力は惜しまないつもりだよ」

今回の一件はかなり危険が伴ったが、エディントン伯爵家にデカい貸しを作ることができた。

こんなことは二度と御免だが、結果だけを見れば俺個人としてもクランとしても大きな利益になったと考えて良いだろう。

「それでは我々は当初の予定通りツトライルへ戻らせていただきます。残りの迷宮調査については、そちらが落ち着いたころにもう一度お声掛けいただければと」

「わかった。本当はこれから行う帝国との交渉に護衛として同席してもらいたかったけど、仕方ないね」

「申し訳ありません。今回は団員の身に危険が及ぶ恐れがあったため私も介入いたしましたが、本来探索者は政治に関わるべきではありませんので、これ以上の協力は致しかねます」

爺さんにこれ以上の協力はできないと伝えてから部屋を出る。

これにて一件落着、とまではいかないが、ひとまずは俺たちがやるべきことは終わった。

義理も通したし、爺さんからの許可ももらった。

【 標的捕捉(マーキング) 】をしている帝国人にも不審な動きは見られない。

これ以上面倒なことに巻き込まれる前に、とっととツトライルへ帰るとしよう。