軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116.Sランク探索者による30層攻略

再び五人で大迷宮の三十層にやってきた。

それからしばらく、ソフィーたちが新しい武器を手に戦闘を繰り返す。

「すごーい! 今までのものとは全然違う! ししょーこんなにすごいものをプレゼントしてくれてありがとー!」

「どういたしまして」

キャロルが両手にある黒いダガーを見ながら、興奮している。

こんなに喜んでもらえると、贈ったこちらも嬉しくなるな。

「あの、オルンさん、一つ質問してもいいですか?」

ソフィーが遠慮がちに声をかけてくる。

「いいよ。聞きたいのは赤いナイフのことか?」

「あ、はい。黒い杖と団服の他に赤いナイフのようなものが何本も入っていたので、誤って入っていたのかとも思いましたが、誤りではないということですか?」

ソフィーは、俺が渡した収納魔導具から小振りのナイフを出現させ、問いかけてくる。

ソフィーが出現させたナイフは、その刀身が金属ではなく、赤く澄んだ宝石のようなものになっている。

「うん。それもソフィーの物だよ。それはまだ試作品だから今度使い心地を教えてほしい」

「それは構いませんが、その、私はナイフを使った近接戦闘ができません……」

ソフィーが肩を落とし、しょんぼりとした雰囲気を漂わせる。

「確かにナイフは投擲することもあるけど、基本的には近接武器になるだろうね。でも、ソフィーだったら手に持つことなく振るうことができるだろ?」

「手に持たずに、ですか? ……あ、【念動力】!」

「そう。【念動力】を使えば、手に持つことも相手に近づく必要も無い。離れたところから一方的に斬りつけることができる。それはソフィーにしかないアドバンテージだ」

「確かに【念動力】だったら、そのような使い方もできますね。私は相手の動きを封じることにばかり注目してました。ダメですね……」

ソフィーが自嘲する。

「そんなことは無いさ。でも、【念動力】は色々な場面で活躍できる優秀な異能だと思うから。一つのことに捉われずに色々な可能性を模索してみるといい」

「はい! わかりました!」

「そのナイフはさっきも言った通り【念動力】で動かすことを想定している。そしてナイフにはある仕掛けが施してある。その仕掛けが試作の部分に当たるんだけど、どんな仕掛けがあるのかはソフィー自身で確かめてみて」

「このナイフに、仕掛け……」

ソフィーがナイフを見つめながら呟く。

早速何かを考えているようだ。

もしかしたらそのナイフには俺が考えた方法以外にも活用法があるかもしれない。

そこはソフィーの発想に期待かな。

ソフィーたちが新しい武器の感触を確かめ終えてから、俺たちは三十層の入口へと帰ってきた。

「よし、それじゃあ弟子たちの要望でもあるし、全力で臨もうか。ルーナ、準備はいいか?」

「はい。大丈夫ですよ。連携についてはどうしますか? やはり曙光のものをベースに?」

「それでいいだろう。俺が付与術士と前衛アタッカー、ルーナが回復術士と後衛アタッカーで。ディフェンダーは必要ないと思うが、必要なら状況に応じて、ということで」

「了解しました。それで全力というのは……」

「文字通りだ。深層に臨むつもりでやってくれ」

「ですが、それだと……」

ルーナの懸念することはわかる。

俺たちが三十層の攻略に全力で当たれば、ソフィーたちに得られるものはほとんどない。

だけど、それでも俺は全力を尽くすと決めた。

「俺たちとの差をはっきりさせるには、これが一番良い。ま、全力は尽くすが、久しぶりにパーティを組むんだ。この攻略を楽しむ気持ちも忘れないよ」

「……わかりました。では、キャロルたちにSランク探索者の実力を見せてやりましょう」

ルーナとの打ち合わせを終え、ソフィーたちの元へと戻る。

「おかえり~。打ち合わせは終わった?」

「あぁ。待たせたな。それじゃあ、行こうか。しっかり付いて来いよ?」

「はい! 楽しみです。師匠とルゥ姉の活躍、しっかり目に焼き付けます!」

俺たちが三十層の攻略を始めて約十分が経過した。

俺たちは一度もまともに 戦闘することなく(・・・・・・・・) 最短ルートを疲れない程度の速足で進み、九割方踏破した。

「ね、ねぇ……、これ、どういうこと?」

ソフィーが戸惑いの声を洩らす。

いつもは反応するところだが、今は迷宮攻略に集中しているため返事はしない。

「わからない……。でも、ここまで魔獣に遭遇しないなんて明らかにおかしい」

「んー、魔獣を避けながら歩いているってこと?」

「いや、師匠たちが進んでいるのはフロアボスまでの最短ルートだ。師匠たちというより、 魔獣が(・・・) 避けていると言った方がしっくりくる……。だけど、どうやって……?」

三人の会話を聞きながら周囲に神経を尖らせていると、俺の警戒網に魔獣が引っ掛かった。

状況的に戦闘を避けるのは無理か。

「接敵。前方約三十メートル。ゴブリン四体」

「【 雷矢(サンダーアロー) 】でいいですか?」

三十層攻略を開始してから初めてルーナと言葉を交わした。

ここまではわずかな身振りや目配せでも充分に意思疎通が図れていたから、言葉を交わす必要が無かった。

「あぁ。三秒後に頼む」

俺の返答からちょうど三秒後にルーナが【 雷矢(サンダーアロー) 】を発動する。

雷の矢がルーナの周りから撃ち出され、真っすぐ前方に突き進んでいく。

光を発する鉱石が等間隔に設置されているとはいえ、洞窟の中のようになっている三十層では、三十メートルも距離があると肉眼では敵の詳細な位置を把握するのは困難だ。

雷の矢はある程度の当たりを付けて撃ち出されているが、このままでは全て外れる。

――だったら、進路を変えれば良い。

待ってもらった三秒の間に構築していた四つの術式に魔力を流し込む。

するとゴブリンの近くに灰色の半透明な壁が出現する。

四つの雷の矢が壁に触れるとその進路を変え、それぞれが無警戒のゴブリンの急所を貫く。

命中したことを目配せでルーナに伝えると、彼女が小さく頷いた。

「ふぅ、到着」

ボスエリアの前までやってきてから一息ついた。

先ほどのゴブリン以外は誘導できたこともあり、十分程度でボスエリアまでたどり着くことができた。

迷宮攻略に於いて重要なことは、如何に戦闘を回避して体力を温存できるかどうかだ。

特に深層となると道中の魔獣も相当な強さとなり、最後には強力なフロアボスが待ち構えている。

今回俺たちがどうやって魔獣を誘導していたのか、答えは単純。

魔獣が魔石に引き寄せられる特性を利用したのだ。

俺が【 空間跳躍(スペースリープ) 】で誘導したい場所に魔石を跳ばしたり、ルーナが【 囮の魔光(インダクション) 】を発動したりしていた。

「「「…………」」」

三人はまともに戦闘をせずにここまで来た俺たちを見て絶句していた。

「ボス戦はどうしますか?」

「あのイノシシなら負けることは万に一つもないだろう。でも、やるからには瞬殺したいな」

三十層のフロアボスは下層の終盤や九十二層、九十三層に現れる道中の魔獣と比べても明らかに弱い。

ソフィーたちに差を見せつけるためにも、ここは一瞬で終わらせたい。

「だとすると、パターンDですか?」

「それがいいだろう。D―7でいこう」

「わかりました」

ルーナの返答を聞いた俺は、教導探索で黒竜と戦ったときにも使った、加工された魔石のついたネックレスを首から掛ける。

そしてボスエリアへと続く扉を開けながら、ルーナに【 後衛能力上昇(リアガードアップ) 】を発動する。

氣によるバフはまだ安定してないため、自分にも【 全能力上昇(ステータスアップ) 】の【 四重掛け(クアドラプル) 】のバフを掛ける。

「三人とも離れていて」

ボスエリアに入ってからソフィーたちに離れるよう告げると、すぐさま壁際に退避してくれた。

「――【 囮の魔光(インダクション) 】」

三人が退避したことを確認してからルーナが精霊魔術を発動し、俺の前方に青白い光が発生する。

俺の首元にある魔石と青白い魔光に釣られ、イノシシが俺に向かって突進してくる。

それを確認した俺は既に構築していた術式に魔力を流し、魔術を発動する。

「――【 反射障壁(リフレクティブ・ウォール) 】、【 魔剣合一(オルトレーション) 】」

イノシシの進路上の地面に灰色の半透明の床を出現させてから、手に持つシュヴァルツハーゼを魔剣に変える。

突っ込んで来ていたイノシシが【 反射障壁(リフレクティブ・ウォール) 】に触れ、真上に数メートルほど跳ぶ。

「【 火槍(ファイアジャベリン) 】!」

ルーナが発動した数本の火の槍が、空中に居るイノシシ目がけて撃ち出される。

火の槍がイノシシを貫き、空中で爆発を起こす。

「……【 参ノ型(モント・ドライ) 】」

既にイノシシの上を取っていた俺は、大剣を形作ったシュヴァルツハーゼを思いっきり振り下ろす。

俺の攻撃を受けたイノシシが勢いよく地面に激突し、悲鳴のような声を上げる。

俺は振り下ろした勢いをそのままに、その場で一回転し、再び剣を振り下ろす。

「天閃……!」

収束していた漆黒の魔力が斬撃となってイノシシに迫る。

「【 超爆発(エクスプロード) 】!」

完璧なタイミングでルーナも魔術を発動し、天閃と【 超爆発(エクスプロード) 】それぞれに【 瞬間的能力超上昇(インパクト) 】を合わせることができた。

巨大な爆発と魔力の拡散による轟音がフロア中に響き渡る。

地面に着地してからイノシシの居た場所を眺めていると、徐々に煙が晴れていき、魔石とイノシシの牙だけがその場に残っていた。

「……凄い」

いつも元気いっぱいであるキャロルが、小さく一言だけ呟く。

ソフィーとログも目を見開きながら、言葉を失っている。

うん、これは良い衝撃を与えることができたかな。

(それにしても、やっぱりこれは……)

胸元近くまで上げた左手を握ったり開いたりしながら、心の中で呟く。

「お疲れ様でした。――どうしましたか?」

近づいてきたルーナが、俺の様子を見て問いかけてくる。

「いや、何でもないよ。ルーナもお疲れ様。最後の【 超爆発(エクスプロード) 】は完璧なタイミングだった。流石だな」

「ふふっ、十年近くパーティを組んでいましたからね。ここ最近は一緒に迷宮探索ができていなかったとはいえ、オルンさんと呼吸を合わせるのは朝飯前です。……その黒い大剣、黒竜を倒したときにも使用していましたよね? 形は少し違うようですが、それがオルンさんの新しい武器ですか?」

魔剣を見たルーナが質問してくる。

(そういえば、強制送還されたときにルーナに魔剣を見られていたな)

「まぁそんなところ。簡単に説明すると俺の異能である【魔力収束】で作った剣だね。詳しい理論なんかはまた今度説明するよ」

「【魔力収束】で剣を……。本当に汎用性の高い異能ですね」

ルーナと和やかに話しながら、ソフィーたちがやって来るのを待っていたが、未だに衝撃から立ち直れていなかったようだ。

「お前たちもいつまで呆けてんだ? 三十一層に行くぞ」

俺が声を掛けるとソフィーたちは我に返り、こっちに駆け寄ってくる。

そのまま五人で三十一層に進んでから帰路に就いた。