軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109.【sideフウカ】妖刀

「なんなのよ……。この状況は……」

撤退を決めたフィリーだったが、未だにフウカを撒くことができずにいた。

【認識改変】でフィリーの姿は当然、気配も感じ取ることができないはずだったが、フウカは驚異的な五感と【未来視】を最大限活用し、フィリーを逃さなかった。

現在の場所は勇者パーティの屋敷があったところから大きく移動しており、今は街の北西部の外壁付近となっている。

「このままじゃ家族が危ないんだ! いい加減観念しろよ、この犯罪者が!!」

一般市民の一人が フウカに向かって(・・・・・・・・) 罵声を浴びせながら、フウカを捕らえようと手を伸ばしている。

今声を上げた者以外にも四人ほど、同じくフウカを捕まえようとしている人の姿があった。

これもフィリーの【認識改変】によるものだ。

フウカを捕まえようとしている人間達は、今回の一件が彼女によるものだと認識を書き換えられている。

更には『フウカを捕まえなければ家族が危険な目に遭う』といった強迫観念が彼らを支配していて、なりふり構わずフウカを捕まえようと躍起になっていた。

「……邪魔」

フィリーによって動かされている一般市民を斬るわけにもいかず、フウカは一般人をあしらいながらの戦闘を余儀なくされている。

フウカならば一般市民を撒くことは容易だ。

しかし、フィリーが一般市民たちから付かず離れずの距離を維持している。

仮にフウカが一般市民たちの元を離れれば、フィリーが一般市民に対して攻撃魔術を放つため、離れることができないでいた。

これだけ聞けば、現状はフィリーが圧倒的有利な状況と言えるだろう。

――しかし、優位なのはフウカであった。

フィリーは既にフウカの認識を書き換えるほどの力が残っていない。できたとしても一回が精々だろう。

そこでフウカに纏わりつこうとしている一般人諸共魔術で殺そうと画策するが、未だフウカは当然、一般人も誰一人として死んでいない。

「彼女が東雲の人間で一番生かしてはいけない存在だったわ……。あのカタナを使いこなせているにしたって、あり得ないでしょう、こんなの……」

フィリーが先ほどフウカに斬られた肩口を押さえながら呟く。

これまで多くの戦場、多くの戦いを経験してきたフィリーでも、目の前で起きていることがすぐには受け入れられなかった。

爆発で吹き飛ばそうとすれば、その前にフウカが周囲の人間を投げ飛ばし爆発に巻き込まれないようにしたり、竜巻を起こそうとすれば赤銅色に染まった刀が空間を斬って魔力流入を物理的に妨害したりと、とんでもないことを平然とやってのけている。

「【 敏捷力上昇(アジリティアップ) 】」

一般人を利用した作戦も意味を成さずジリ貧であるフィリーは、小細工を止めて逃げることに集中することにした。

フィリーが離れたことによって、簡易的な【認識改変】しか受けていなかった一般市民たちが正気に戻る。

「あれ? 何やっていたんだ、俺……」

「なんで、こんなところに居るんだ?」

「みんな、ここは危険。すぐにギルドに向かって。そこが避難場所になっているから」

すぐさまフィリーによる洗脳が解かれたと看破したフウカが、一般市民たちに声を掛ける。

フウカの言葉と周囲の倒壊している建物を見て青ざめる一般市民たち。

再びフウカがギルドに向かうように告げると、一般市民たちは我先にギルドの方へ走り出す。

それを見送ったフウカは、すぐさまフィリーを追いかける。

そもそもの身体能力はフウカに軍配が上がる。

仮にフィリーがバフで強化したとしても、フウカにも同様に氣によるバフがある。

単純な追いかけっこではフィリーがフウカに敵うことはない。

フィリーが目指していた西門に着く前にフウカが追いつく。

しかし、この結果はフィリーも予見していた。

急に立ち止まったフィリーが振り返ると、魔術を発動する。

「――っ」

フウカがすぐさま地面に刀を突き刺すと、人が容易に吹き飛ぶほどの突風が巻き起こる。

それに巻き込まれた周囲の建物を吹き飛ばされる。

しかし、フィリーの本命だったフウカは、体勢を低くして突き刺した刀にしがみつくようにして、風が治まるのをじっと耐えていた。

風が治まると、フウカは地面に突き刺した刀から手を放し、低姿勢でフィリーに肉薄する。

「まずは、一発」

「――っ!?」

フウカが呟きながら氣を右拳に集中させ、フィリーの腹部に全力で叩きこむ。

先ほどの突風で距離を取ることができると考えていたフィリーは反応が遅れ、まともにフウカの拳を食らう。

「がはっ」

フィリーはそのまま外壁に叩きつけられる。

「ぐっ……うぅ……」

あまりの激痛に顔を顰め、すぐに立つことができずに背中を外壁に預けた格好で座り込んでいる。

フウカは地面に刺したままだった刀の元へ戻ると、小さく息を吸い込んでから刀を引き抜く。

すると、フウカの右腕が何かに斬り刻まれたかのように大量の切り傷が生まれ、そこから血が流れ落ちる。

フウカは赤銅の刀を手に、傷や流れてくる血を無視して、警戒を緩めずにフィリーに近づく。

「喜んでいいよ。簡単には殺さないから。今まで弄んできた人たちの苦しみをその体に刻みながら、惨たらしく殺してあげる」

フウカが止めどない殺気を放ちながらフィリーに告げる。

そして、フウカがフィリーと距離を取るように後ろに軽く跳ぶ。

直後、フウカが居た場所に巨大な雷が落ちた。

「完全な不意打ちなのに躱すんだ。流石《剣姫》だね~」

【 天の雷槌(ミョルニル) 】を発動した術士と思われる中性的な顔をした少年が、近くの建物の上で独り言のように呟く。

その少年は真っ赤なローブに身を包んでいた。

少年の方に顔を向けていたフウカが、急に屈むと先ほどまで首があった場所を銀色の軌跡が走る。

銀色の軌跡の正体は飛んできた斬撃で、フウカが躱したことにより、その奥にあった建物が両断された。

「こっちも躱された。やっぱり物理的な不意打ちは意味がないみたい」

斬撃を飛ばした張本人と思われる少女が、長剣を肩に乗せながら呟いていた。

剣の少女も真っ赤な衣装に身を包んでいて、術士と顔が瓜二つだった。

「……《シクラメン教団》」

突如乱入してきた双子と思われる少年少女を見たフウカが呟く。

《シクラメン教団》とは《アムンツァース》と並んで、二大犯罪組織と数えられている片割れだ。

邪神の復活を掲げている組織で様々な犯罪に手を染めていると言われている。

そして、教団に所属している者の多くが、この少年少女のように真っ赤に染まった衣服を身に纏っている。

「へぇ、僕たちが《シクラメン教団》の一員だってよくわかったね~」

間延びした話し方をする少年が、あっさりと自分の所属を明かす。

「その服を見ればわかる」

「あはは! 確かに~」

「――派手にやられたね、フィリー」

フウカと少年が話していると、いつの間にかフィリーの傍に移動していた少女がフィリーに声を掛けていた。

「……言い訳の、しようも、ないわね。……悪いんだけど、回復魔術を、お願い、できるかしら?」

「しょうがないね。ここで死なれても困るし。――っ!」

少女がフィリーに回復魔術を掛けようとした瞬間、フウカが一瞬で距離を詰めようとした。

――しかし、フウカは動けなかった。

「っ!?」

フウカは突然全身の脱力感を感じていた。

そして、ついには刀を片手で持つことができなくなり、刀に引っ張られるように地面にへたり込んでしまう。

「びっくりした……」

フウカの殺気に当てられた少女が冷や汗をかきながら呟く。

「お姉ちゃん、大丈夫~?」

相変わらず間延びした声を発している少年が声を掛けながら、フィリーと少女の元へとやってきた。

「助かったよ、フレッド」

双子の会話を聞きながら、フウカは目を見開きながら自分の状態に混乱していた。

敵が増えて三人それぞれに意識を割いていたとはいえ、未来を視ることができるフウカが不意打ちを受けることはない。

だというのに、現在フウカは全身から力が抜けて、地面にへたり込んでいる。

双子の会話から、少年がフウカに対して何かをやったことはわかるが、その何かがわからないでいた。

「何をされたかわからないでしょ~」

混乱しているフウカに少年が声を掛ける。

フウカが殺気を籠った視線を少年に向けると怯むが、それは一瞬のこと。

すぐさま自分が優位だと思い直した少年が、ぺらぺらとネタ晴らしをしていく。

「【未来視】は異能の中でも取り分け強力なものだもんね~。《剣姫》がそれを有していれば、戦闘に於いては無類の強さを誇るだろうね~」

少年の言葉は正しい。

フウカの強さを下支えしているものは、驚異的な五感と身体能力だ。

【未来視】という異能も、それらがあるからこそ最大限活用することができている。

「でも【未来視】というのは、あくまで未来の 光景を視る(・・・・・) 能力でしょ~? つまり、視覚情報からしか未来の情報を読み取ることができないってことだよね~。だったら後は簡単だよ~。無色透明で、ついでに無味無臭の魔術であれば、未来を視ても知り得ないよね~。だから君は今地面にへたり込んでいるんだよ~。――デバフという支援魔術を受けたからね~」

支援魔術には大きく三種類に分かれる。

一つ目が対象の能力を引き上げるもの。――通称バフ。

二つ目が六種類の属性にも回復にも属さないもの。――通称無系統魔術。

そして三つ目が、バフとは逆で対象の能力を引き下げるもの。――通称デバフ。

支援魔術をメインに使用する付与術士でも、デバフを使用する機会はほとんどない。

その理由は単純。難易度が高いうえに、大した効果が期待できないためだ。

デバフはバフ以上に対象の魔力対抗力の影響を受ける魔術のため、対象の正確な魔力対抗力を把握しないといけない。

その上で術式を調整しないといけないため、戦闘中にこれを使いこなすのは至難の業だ。

「僕はデバフが得意なんだ~。つまり、《剣姫》にとって僕は天敵だったってわけだ~」

大陸最高の付与術士と呼ばれているセルマでも、デバフの使用頻度は無いに等しい。

だというのに少年は難度の高いデバフが得意だという。

この一言と実際にフウカに対して、立つことも困難なほどのデバフを成功させている時点で、相当な実力者であることを証明している。

「……もう終わった?」

少年がネタ晴らしを終えると、少女から冷めた声が発せられた。

「あ、うん。終わったよ」

少年も少女の機嫌が悪いと察すると、先ほどまでの間延びした口調を封印し、真面目に返答する。

「それじゃあ――」

「やめなさい」

少女が剣を構えてフウカに向かおうとしたところで、少年が語っていたうちに、少女の回復魔術でケガが治っていたフィリーから待ったがかかる。

「……敗者が指図しないでくれる? 厄介極まりない《剣姫》がここまで弱っている今が仕留めるチャンスでしょ」

フィリーにそう告げてから一瞬でフウカの元に移動した少女が、フウカの首に刃を振るう。

数舜後にはフウカの首が飛ぶことになり、『斬った』と確信する少女。

――その気の緩みが剣筋を鈍らせ、フウカの斬り上げた刀によって容易に弾かれた。

「――っ!?」

フウカは一の太刀で少女の剣を弾き飛ばし、二の太刀で少女を斬り伏せようとしたが、刀身が少女に届く前に少女の姿が消え、フィリーの傍に移動していた。

少年による【 空間跳躍(スペースリープ) 】だ。

「……ぁ……あぁ……」

フウカの殺気と間近に迫っていた自身の死を感じ、少女は体を震わせていた。

「だから、やめなさいと言ったでしょう。――彼女が手にしているカタナ、あれは恐らく妖刀よ。デバフだけでは彼女を止められないわ」

「妖刀って、キョクトウにあると言われてる、あの妖刀ですか~?」

妖刀とは特殊な力を宿した刀のことだ。

おとぎ話の時代に作られた刀が、数百年もの間、人間や魔獣を斬り続けた結果、その怨念によって力を得たと言われている。

異能を持った刀と言ったところだろう。

過去には数本存在していたらしいが、今では世界に一本しかない貴重な物で、キョクトウの国宝の一つでもある。

フウカの持つ妖刀は、通常では単なる切れ味の鋭い業物の刀だが、刀に内包されている妖力を解放すると刀身が赤銅色に染まる。

妖力を解放することで、使用者の身体能力を強引に引き上げたり、空間すらも斬ることができたりと絶大な力を発揮する。

これだけ聞けば良いものと思えるかもしれないが、当然デメリットも存在する。

妖力を解放した状態の刀を手放すことがあった場合、妖刀の怒りに触れ、反動を受けることになる。

それが一瞬であったとしても。

フウカは先ほどフィリーを殴るために刀を手放し、その後すぐさま握り直した。

実際に手放していた時間は数秒程度だが、それでもフウカの右腕は妖刀によってズタズタに切り裂かれ、大量の出血をするに至った。

短時間だったためこの程度で済んでいるが、最悪の場合は妖刀によって手足を斬り落とされていたかもしれない。

更に妖刀には過去に斬られた者の怨念が蓄積されていて、妖刀と相性の悪い者が使うと精神を病む恐れがある。

これらのことから人々に恐れられ、ここ数十年使用者が現れなかったため、キョクトウにて国宝として保管されていた。

幸いなことにフウカと妖刀の相性は良いため、怨念に苛まれることはほとんど無い。

何故国宝である妖刀をフウカが保有しているのか、それはキョクトウにおける内戦が大きく関係しているのだが、それはまた別の話だ。

フウカがふらつきながらも、切っ先を三人に向けながら構える。

「退くわよ。わたくしももう限界だし、このまま戦闘を続けても共倒れになる可能性が高い。彼女を確実に仕留めるには準備が必要よ」

フィリーが双子にそう告げてから、脳内で術式を構築する。

「逃がすと思ってるの? 三人ともここで斬り伏せる」

フィリーが【 空間跳躍(スペースリープ) 】を発動しようとしていることが分かったフウカは、跳ばれる前に斬り伏せるべく、刀を振るい飛ぶ斬撃を放つ。

赤銅の軌跡が三人を斬りつけるが、それは 偽物(・・) だった。

最後の最後でフィリーが使用した簡易的な【認識改変】によって出し抜かれる形となり、フウカがフィリーたちの居る場所に目を向けたときには、既に魔術が発動されていた。

【 空間跳躍(スペースリープ) 】によってフウカの視界から、三人の姿が消える。

この魔術によって飛べる距離は数十メートルほど。

外壁の上から見渡せばまだ見つけることができると考えたフウカは、地面を蹴って外壁を登ろうとした。

しかし、少年によるデバフの影響と、少女の攻撃を防ぐために妖力によって無理やり体を動かしたことが祟り、動くことができなかった。

再び地面にへたり込んでしまったフウカは相変わらずの無表情ではあるが、俯きながら余計に出血してしまうにもかかわらず右手で思いっきり刀の柄を握りしめ、刀を震わせていた。

しばらくそのままで居たフウカが、「……串焼き食べたい」と呟く。

先ほどまでの強烈な雰囲気は霧散していて、普段のフウカがそこには居た。

それから立ち上がり、既に刀身の色が鉛色に戻った刀を収納魔導具から取り出した鞘にしまう。

そして右腕に包帯を巻いて止血してから、ハルトたちのいる北門に向けて歩き出した。