軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.寄り道

翌朝、クレアたちはイーアスの関所にいた。

「おはよう、よく眠れたか」

ヴィークがクレアに聞く。

「ええ、今までで、一番」

クレアが意味ありげにリュイに目配せしながら答える。

「そうですね。私も楽しかったです」

「お、俺が誘ったんだからな……!」

リュイがヴィークを挑発するように微笑んで答えると、ヴィークは子供っぽい表情を覗かせた。

「ところで、厄除けの加護をかけましょう。クレア、こちらへ」

挑発しておいてヴィークを完全スルーしたリュイは、クレアを呼び寄せる。

「楽にしていてくださいね」

そういったリュイはクレアの背後に回り、首の少し下、肩甲骨の間ほどに手をあてた。

瞬間、クレアに柔らかい衝撃が走り、体が軽くなる。

体が不思議な色を纏っているのがはっきりと分かる。

「……すごいわ。わたし、こんなちゃんとした厄除けの魔法をかけていただいたのは初めて」

クレアの魔力でも厄除けの加護はかけられなくはないが、せいぜい一番下のレベルのもので、道中の災難は逃れられないだろう。

しかし、リュイの魔力はとても強く、道中に起こりうる盗賊の襲撃や犯罪行為には巻き込まれないで済むほどのものだった。

クレアは、いくら騎士とはいえパフィートの貴族階級4人が何の護衛も付けずに他国にいることを不思議に思っていたが、この加護があるというなら納得だ。

(青…いえ、もしかして白の魔力をお持ちの方なのかしら)

クレアは、ついリュイの顔をじっと見てしまう。

「クレアがお気に召してよかったです。では、クレアは私の馬に乗ってくださいね」

「はい。リュイ、何から何までありがとうございます」

クレアは微笑み、リュイの手を取った。

「おい、お前ら。……出発するぞ……」

拗ねたようなヴィークの声で、馬たちは駆け出した。

―――――

クレアは、パフィート国の王都までは馬車で1週間ほどかかると思っていたが、馬に乗って移動すると4日間ほどで到着するということだった。

1日目にイーアスの関所を出発したクレアたちは、その日のうちにノストン国の南の関所を通過し、2日目にはノストン国の南端の村フラターンまでやってきていた。

「クレア、疲れてない?」

「大丈夫よ、リュイ」

クレアとリュイは、この2日間で大分親しくなっていた。

リュイの家がパフィート国の伯爵家であること、ヴィークとは小さいころからの幼馴染だということを教えてもらった。

魔力が強く教会に縁がある家系だということ。

女らしい格好はあまり好きではなくて、男性と同じように振る舞い、騎士の訓練をしている時が一番楽しいということも聞いた。

「馬たちも休ませたいし、昼食がてら少し休憩するか」

「そうだな」

クレアとリュイの様子を窺っていたヴィーク達が馬を止めて言う。

5人は、村のレストランに入ることにした。

この先にはフラターンの砦があり、フラターンは交通の主要都市となっている。この辺りには、村と呼ぶには十分すぎるほどの店やレストランが並んでいた。

ノストン国内ではあまり目立ちたくないクレアは、人混みに紛れられるようその中でも一番大きなレストランを推薦した。

ちょうどお昼過ぎの時間、店内は程よく混んでいる中、クレアたちは食事を済ませた。

(きのこのシチューも、胡桃パンもとてもおいしかった。パフィート国に行ったら、レストランで働くのも楽しそう……! )

クレアがほくほくと夢いっぱいに思案していると、

「お待たせしました、食後のコーヒーで……」

飲み物を運んできた店主の手が、クレアの前で止まる。

(え、私? まずい、もしかしてお会いしたことがあったかしら)

クレアが焦ると、皆まで考え終わらないうちに、

「どうかされましたか」

すかさずヴィークが満面の笑みで割って入った。

「ああ、すまんね。……もしかして、お嬢さんは旧リンデル国の方ではないかな?」

「旧リンデル国……ですか?」

意外な言葉にクレアは驚く。

同時に、自分のことがばれてしまったわけではないことに安心する。

南の国境付近で目撃談、なんてあったら、行き先はパフィート国だと一発でばれてしまう。

「ああ。その髪色と、はっきりした目鼻立ちはリンデル国の王族の特徴にそっくりだなと思ってね。気を悪くしたらすまんね」

「リンデル国と言えば、美形の国だったものねー! 確かに、このお嬢さんは別嬪さんだ。お前さんが見間違うのも無理はないさ」

後ろからおかみさんが声をかける。

リンデル国は、昔ノストン国の南にあった四方を海に囲まれた小国だ。城下町だけの小さな国だったが、美しい自然や街を観光資源として栄えた国だ。

しかし、小さな島国だったゆえ、40年ほど前に敵国の襲撃を受けて一晩で滅亡してしまった悲劇の国でもある。

その生き残りはごくわずかで、王族はすべて死に絶えたと聞いている。

「いや、私が小さい頃にお会いした憧れの王女様によく似ていてね。すまん、忘れてくれ」

店主はクレアに謝り、行ってしまった。

ブラックコーヒーの香ばしい香りがテーブルを包む。

(いい匂い……)

その瞬間、クレアの頭にある言葉が頭によみがえった。

『……二番目のお兄ちゃんに、金庫に保管してある亡くなった母親からクレアへの超重要な手紙を捨てさせればOK!! 洗礼式は、ノストン国じゃなくて旧リンデル国領で行えっていう内容のね』

(あれ……何かしら……この前の不思議な夢にも、リンデル国の名前が出てきたような……)

クレアがもやもやしているところに、ドニが聞く。

「クレアは、リンデル島って行ったことある?」

「ないわ。今はパフィート国が敵国を追い出し、生き残った人たちを保護して観光地として再開発したのよね? 美しい街だと聞いているけれど、これまで機会がなくて」

クレアは、慌ててぼうっとした頭をシャキッとさせて答える。

「それなら、リンデル島に寄り道するのもアリだな」

キースがワクワクした表情で答える。

「そうだね。クレアがとても喜ぶ気がするけれど、どうする、ヴィーク?」

リュイが何か見透かしたような表情で言う。

「……るっさいな、リュイ」

ヴィークはリュイにブツブツ言ってから、続ける。

「いいじゃないか、寄ろう。悲しい歴史はあるが、我が国一番の美しい島だ。今夜はリンデルに泊まろう」

ということで、一行はリンデル島に向かうことにした。