軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.懸念事項

1週間後の休日。

クレアは、王宮にやってきていた。

とはいっても、遊びに来たのではない。今日から、ここに住むのだ。

クレアはレーヌ家での家庭教師を続けたかったが、背に腹は代えられない。

ミード伯爵家に何らかの企みがある可能性が浮上した以上、レーヌ家に迷惑をかける事態になることを避けなければいけなかった。

昨夜は、イザベラとレーヌ男爵夫妻と夜遅くまでお茶会をしていたので、クレアは少し寝不足だった。

(……でも楽しかったわ)

「今日から、どうぞよろしくお願いいたします」

クレアは、出迎えてくれたキースとドニに深々と頭を下げる。

「こちらこそよろしくね! 今度、僕のパーティーにぜひ遊びに来てよ。お友達になれそうなカワイイ女の子をいっぱい紹介するよ」

「すまんな、クレア。こんな離れた部屋になってしまって」

ドニの存在を無視して、キースが申し訳なさそうにしている。

クレアに与えられたのは、ヴィークやリュイたちが暮らす棟から遠く離れた、王宮の東端の一部屋だった。

ヴィークは妃候補であれば王宮に部屋が持てると断言していたが、実際には、これまで王族の結婚相手としては貴族令嬢しか選ばれていない。

つまり、未婚の婚約者が王宮内に部屋が欲しいと申し出ること自体かなり異例のことだった。今回の決定には保守派の大臣たちがかなり難色を示したようだが、国を救った英雄の部屋を王宮内に置いて何が悪い、という国王陛下の後押しにより決裁が下ったらしい。

そのため、リュイの部屋の近くにしたい、というヴィークの希望までは叶えられなかった。

しかし、クレアはそんなことは全く気にしていなかった。

「そんな。こんなに広くて日当たりが良いお部屋、本当にうれしいわ。ご配慮いただき、ありがとうございます」

「王宮内だから、ヴィークも塀を越えなくても会いにこれるね」

笑ってウインクするドニに首を振って、クレアは澄まして答える。

「ヴィークの評判のためにも、勝手にこちらへ来ないようしっかり見張りをお願いしたいわ、キース」

「……だな。任せてくれ」

げんなりしたキースの表情を見ると、普段の苦労が容易に想像できた。

「ところで、ヴィークやリュイはお仕事かしら?」

「ああ。懸念事項があるらしく、王立学校へと行っている」

「学校へ?」

クレアは首をかしげる。今日は休日だ。

しかし、その理由は翌日登校するとすぐにわかるのだった。

―――――

翌朝。クレアが目を醒ますと、部屋には侍女がいた。

「クレア様、おはようございます。目覚めの紅茶と甘味でございます。この後、朝食をお持ちしてもよろしいですか」

クレアは、一瞬、マルティーノ家に戻ったのではという錯覚に陥る。

(……そうだわ……。昨日から王宮に)

「ええ。何か軽いものをいただけるかしら。それと、身支度は自分で出来るので結構よ」

こんな朝は久しぶりだが、公爵令嬢として長く過ごしてきたクレアに、違和感は全くなかった。

「……承知いたしました、クレア様」

“この部屋の新しい主人はヴィーク殿下の婚約者だが、貴族令嬢ではない”としか聞かされていない侍女は、あまりに慣れたクレアの振る舞いに意外そうな反応をする。

次の間に準備されていたフルーツとクロワッサンの簡単な朝食には、折りたたんだメモが添えられていた。

「……これは……」

「扉に挟まってございました。ヴィーク殿下の紋章入りの紙ですので、夜遅くにいらした殿下からの言付けかと」

侍女はそう言って、クレアに軽く会釈をしてから退出した。

「ありがとう」

クレアはそれを確認してから、小さなメモを開いて読む。

『明日は自分に加護をかけてから登校してほしい。理由は後で話す』

胸騒ぎがした。

―――――

「ディオン・ミードです。よろしくお願いします」

嫌な予感は的中した。

登校すると、あの夜会で出会ったミード家の長男が季節外れの転入生としてやってきていた。

(王立学校の懸念事項に加護って……このことだったのね)

クレアはぴりっとした緊張感に包まれて、ヴィークの方に目線をやる。ヴィークもクレアを見て、頷いた。

ランチタイム前、クレアとリディアはヴィークから使われていない講義室に呼び出された。

「報告が遅くなってすまない。昨日突然、ミード伯爵家から転入願いが出された。クレア以外にも、ミード家の長男の特殊な魔術に関しては警戒する貴族も多い。一旦止める方向に持って行くべく、昨夜遅くまで交渉したんだが、現時点では何も起きていないため難しかった。……心配をかける」

クレアは首を振る。

「心配しないで、ヴィーク。大丈夫よ、私は」

「今日は別の業務があって難しかったが、明日から調整してリュイを護衛につける」

ヴィークがそこまで小声で話した時、コツン、と靴の音が聞こえた気がした。

「誰だ!」

ヴィークが叫ぶのと同時に、講義室内に同席していた王立学校内での側近が廊下に走る。

「……誰もいません」

「そうか。……そんなはずはないのだが」

ヴィークは険しい顔で続ける。

「リディア、本当は俺が付いていたいところだが、今日だけはクレアのことを頼んでもいいか」

「もちろんですわ、殿下。ご安心を」

リディアは、魔力を手のひらに浮かび上がらせて、満面の笑みを見せた。