軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話:スライムは【色欲】の邪神に挑む

七罪教団に王子が殺された。

結局のところ、王子は七罪教団を利用しているつもりで、利用され続けていた。

哀れな最後だ。

王子の血を吸って最後の封印が解かれた扉が開く。

「これが邪神のプレッシャー、オルフェ、ニコラ、よくこんな化け物を三体も倒すことができましたわね」

「私たち二人じゃ無理だよ。みんなの協力と準備する時間があったの」

「全力全開の邪神は初めて」

三人とも汗が噴き出ている。

それほどまでに邪神の放つ禍々しい瘴気はすごい。

どすん、どすんと足音が聞こえる。

扉の奥からそれは現れた。

獣の毛に包まれた巨人だ。異様なのは三つの顔を持つこと。しわがれた老女の顔、牛の顔、羊の顔を持つ。

よくよく見ると体も人間とは言い難かった。

足は鳥類のようで、ヘビの尻尾が生えている。

手には巨大な槍を持っている。

【色欲】の邪神アスモデウス。今までみたどの邪神よりも醜悪な姿だった。

「おおおう、我らが神よ。やっと、そのお姿を」

そこで七罪教団の男の会話は途切れる。

男の腰から上がなかった。

三つの顔のうち、牛の顔が男を食べてしまったのだ。

あまりにもおぞましい光景にオルフェが口元を抑える。

七罪教団の増援がこのタイミングで隠し通路から現れた。彼らは【色欲】の邪神を見ると目を輝かせ、次に半分になった仲間を見ると青ざめ、逃げようとする。

老人の顔が口を開くとピンクの霧が吐き出される。

その煙を吸った七罪教団たちは恍惚とした表情でズボンが張り詰める。そして引き寄せられるように、【色欲】の邪神アスモデウスの前にくると、順番に食べられはじめた。

目の前で仲間が食われているのに、逃げようともせず。ただ恍惚としていた。

「オルフェねえ、あれ、やばい」

「あのピンクの霧を吸ったらおかしくなるみたいだね。病だけじゃなくて洗脳もできるみたい」

オルフェたちのところにピンクの霧は届いていない。

オルフェがさきほどから風の魔術を使っているからだ。

……そして、ヘレンとニコラもただ見物しているわけではない。

ヘレンは翼を広げて、魔力を限界まで高めている。

【色欲】の邪神アスモデウスはヘレンたちをまだ敵とすら思っていない。今は食事に夢中だ。

だからこそ、その隙をついて強力な一撃を叩きこもうとしている。

そして、ニコラもだ。機械杖に魔力を込めている。砲撃を放てる機械杖、火力により威力を引き出すための機構だが、ニコラはその杖に改良を加えて魔力でさらなる威力を与えるようにした。

ごりごり、ごりごり。

【色欲】の邪神アスモデウスの咀嚼音が響く中、ヘレンは両手を、ニコラは杖を向ける。オルフェはその間にピンクの霧を二人に近づかせないように気を配り続けていた。

「ニコラ、いいかしら」

「ん。いつでもいい」

最大火力を同時に叩き込むため、二人が頷き合う。

そして、渾身の力を二人が放った。

「【極光槍】」

「撃つ!」

ヘレンはかつて偽スラちゃんを屠った以上の圧倒的に大きく輝きが強い光の槍を放った。

ただの光の一撃じゃない。あの光は死の光だ。細胞の異常活性による自壊と変質の誘発の追加効果がある。平たく言えば全身を癌細胞に変えてしまう、死よりもむごい魔術だ。

光の槍は【色欲】の邪神アスモデウスの腹に大穴をあける。傷口が異常に膨れ上がり、さらにその異常が全身に伝播し始める。

がん細胞の異常増殖が始まる。

情け容赦ない、【医術】を極めたものしかできない技。

ニコラのほうは機械杖の砲撃を連射する。

いつのまにか機械杖を強化し、連射ができるようにしたようだ。貫通力重視の流線形の弾丸が【色欲】の邪神アスモデウスの体内に突き刺さり、体の中で止まる。弾丸にかえしをつけてあえて体内で止まるようにしているようだ。

そうしたのは次への布石。【色欲】の邪神アスモデウスの体内で弾丸が弾ける。

あれは、砲撃でありながら爆撃でもある。体内で魔石を使用した高性能爆薬が破裂し内側から蹂躙する。

「ニコラ、追撃を続けて。手を緩めては駄目ですよ」

「ん。わかってる」

通常の相手なら初手のヘレンの魔術で終わっている。

がん細胞に侵された体で再生しようが、がん細胞が増殖するだけ。

二度ともとには戻れない。がん細胞を癒すことは理論上不可能。

ニコラの砲撃も人類が携帯できる火力の中では最高峰。

その二つの力を受けて無事であるはずがない。

だが、二人は手を緩めない。

それだけ邪神が危険だと理解しているからだ。運よく、ファーストアタックは取れた。だからこそ、ここで決めきる。

その様子をオルフェが風を操りながらじっと見ていた。

オルフェは攻撃には参加せずに、風でピンクの霧を防ぎつつ、同時に【色欲】の邪神アスモデウスを観察していた。

オルフェは複数の魔術を同時に使える。その気になればピンクの霧を防ぎながら攻撃を加えることができるがあえて、それはしない。

邪神がこのまま終わるはずがないし、攻め手がピンクの霧だけなんてありえない。彼女は邪神が次に打つ手から姉妹を守るために神経をとがらせ、探索魔術にリソースを割いているのだ。

「これだけ、打ち込めば倒せたはず」

ヘレンが肩で息をしながらつぶやく。

ヘレンとニコラの攻撃で土煙が出来、視界が塞がれている。

次の瞬間だった。

ヘレンとニコラの体が弾き飛ばされる。

いや、オルフェが風に乗せて動かした。二人がもといた位置にピンク色の槍、肉の槍が突き刺さっていた。

煙が晴れた。

「くけ、くけけけけけえええ」

「カウカウカウカウ」

「めええええええええええええええ」

【色欲】の邪神アスモデウスは健在だった。

老女の顔も、牛の顔も、羊の顔も笑っている。

「私たちの攻撃が効いていないわけではないようね」

やつらの足元にはどろどろに溶けた肉が大量に零れ落ちていた。

おそらくは、がん細胞に侵された細胞を切り捨てたのだろう。

そして、残された健全な細胞だけで再生を行った。

「ん。これだけ派手に吹っ飛ばせば再生にも魔力とエネルギーを使う。続ければ勝てる」

ニコラはそう呟き、砲撃を続ける。

俺はニコラに特製の弾丸が詰まったポーチを届ける。

「ありがと、スラ」

すでに、もともと装備していたポーチの中身は空だ。

予備のポーチはあと二つ。

【色欲】の邪神アスモデウスは肉が吹き飛ばされながらも笑い続け、何本もの肉の槍を伸ばしてくる。

「させない!」

その槍が切り落とされた。

オルフェの風だ。

依然として、オルフェはピンクの霧を風で防いでいる。それと並行して風の刃を生み出す魔術を使った。

彼女の役割はヘレンとニコラを守ること。

オルフェがいるからこそ、二人が全力で攻撃を加えられる。

「私たちの魔力と物資があるうちに力尽きてくれると嬉しいですわね」

ヘレンが放った光の槍が再び、【色欲】の邪神アスモデウスを貫く。

だが、貫いた傷口の肉が溶けて、どろどろと体液をしたらせながら叫び声と共に、【色欲】の邪神アスモデウスが突っ込んで来る。

……ヘレンの攻撃が効いていないのではない。さっきの一撃で学習し、がん細胞が広がるまえに即座に切り捨てているのだ。

ヘレンの体がオルフェの風に運ばれたおかげで巨体の突進は回避できた。

奴が壁にぶつかる。

頑丈な石壁を容易く砕き、貫き、勢い余って隣の部屋まで突っ込む。

なんて威力だ。

あんなものを食らえば即死だ。

ピンクの霧が勢いが増している。あれを吸い込めば、一発で終わりだ。

「ぴゅいっぴゅ」

そんな中で俺は動き始めた。

オルフェが切り落とした奴の肉の槍を食べる。

これぐらいでは、奴のスキルは得られないが解析するのは十分だ。

……なるほど、やってくれる。

肉槍には、【色欲】の病がたっぷりと塗られている。

貫かれるどころかかするだけで、あいつの操り人形に早変わりだ。

「オルフェ、ニコラ、この狭い部屋ではこれ以上の相手は不利ですわ……一度上に逃げますわよ」

「ヘレンねえさん、そんなことできるの?」

「やりますわ!」

ヘレンが両手を天井に向ける。そして、光の槍を放った。光は天井をぶち抜き光が差し込む。

「うわあ、めちゃくちゃ強引だね」

「今はそんなことを言ってる場合じゃないですわよ」

隣の部屋に突っ込んだ【色欲】の邪神アスモデウスが戻ってきた。

ヘレンがニコラを抱きしめて自前の羽で飛び、オルフェは俺を掴み風の力で舞い上がる。

ヘレンが空けた天井の穴を俺たちは目指す。

「くひひひひいいいいいぃぃぃ」

「カウ、カウ、カウ」

「メエエエエエエエエエエエエエエエ」

三つの顔が俺たちを見た。肉の槍が幾本も生えてくる。

「ぴゅいっぴゅ!(スラレーザー)」

高圧水流を放ち、肉の槍を叩き落とす。

オルフェも並列魔術で火炎球で灰にしていく。

だが、数が多すぎる。

俺たちは善戦しているが、ヘレンはすでに魔力をかなり消耗しているし、ニコラはバックファイアでヘレンを傷つけるのを恐れて迎撃できない。

肉の槍の一本がニコラのふとももを貫いた。

「ニコラ!」

オルフェが叫び、風の刃でニコラの足をふとももを貫いている槍を切り捨てる。

ニコラは目を見開き自分の体を抱きしめる。

ヘレンは唇を噛んで、急ぎ天井を目指し、俺たちも追いかける。

そして、ついに地上に出た。

邪神はあの巨体だ。この程度の穴は抜けれない。しばらく時間が稼げるだろう。

「ニコラ、大丈夫!?」

オルフェが駆け寄る。

ニコラはがくがくと震えていた。

ヘレンは、ニコラを貫いた肉槍を引き抜き、消毒と止血を即座にする。

「ヘレンねえ、オルフェねえ、ニコラを殺して、さっきから頭に邪神の声、なり響いてる。もう少し、したらニコラは邪神に操られる」

虚ろな目でニコラはそう呟く。

オルフェがその場に崩れ落ちる。

邪神の能力に人は抗えない。普通なら、この時点でニコラは諦めないといけない。

ニコラの言う通り、完全に操られる前に殺すのが最善だ。

だが、そんな真似はさせない。

「スラちゃん、いったい何を!?」

地道な訓練で身に付けたスラ触手でニコラの体を包み、オリハルコンコーティングをする。口の中に突っ込んだスライムボディはゴムのようにして舌を噛めなくした。

「スライムさん、気が利きますわね。これで治療に専念できますわ」

俺が行ったのは、ヘレンがニコラの治療をする環境を整えることだ。

「ヘレン姉さん、まさか。邪神の病をこの場で治すの?」

「ええ、やってみせますわ。七罪教団と違って、この子が即座に操られていないのは事前に飲んでいたポーションで得た抗体のおかげだと考えられますわ。薬が効くのであれば私なら治療できるはず」

覚悟と確信をもってヘレンが断言する。

地面が揺れて、割れた。

【邪神】アスモデウスが天井を砕いて地上に現れた。奴の背にはさきほどまで存在しなかった漆黒の被膜の翼がある。

ニコラが暴れ始め、苦悶の表情を浮かべる。

「……早くしないとニコラが壊れてしまいますわ。オルフェ、スライムさん。お願いがありますの。私を治療に集中させてください。ニコラを助け、あの邪神を殺しうる術を見つけますわ」

「いくらヘレン姉さんだって、無理だよ」

その言葉にヘレンは微笑みで答える。

「無理なんかじゃない。私は絶対に家族を救いますわ」

そうして、胸元に隠してあった俺が姉妹全員に渡していたエンライトのペンダントを取り出す。

「【医術】のエンライト、ヘレン・エンライト。これよりエンライトを示します」

姉妹たちがエンライトの名を歌い上げるとき、それは絶対に成し遂げるという誓いだ。

ヘレンは必ず、ニコラを救い不死身と思える【色欲】の邪神アスモデウスを倒すための突破口を見つけ出すだろう。

そのことはオルフェにもわかってる。

「わかった。じゃあ、私とスラちゃんが全力であれと戦うね……絶対にヘレン姉さんの邪魔はさせないから。いこっ、スラちゃん。私一人じゃきついから、スラちゃんも手伝ってね」

「ぴゅいっ!」

そうして、俺とオルフェは地上からはい出た【色欲】の邪神アスモデウスに向かう。

ヘレンがニコラを救うまで、なんとかもたせて見せよう。