軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:スライムは封印の地へたどり着く

二日の準備期間を経て出発することになった。

二日の間に、ヘレンは対邪神用のワクチン兵器を作り出し、ニコラは武器の選定と整備を終え、オルフェは新しい力を身に付けたようだ。

そして俺も強くなった。

魔物狩りをしていた偽スラちゃんたちを招集し、合体することで一気にレベルアップ。

さらには、合体・圧縮によって力とスピードを手に入れたスーパースラちゃん2に瘴気の力を組み合わせたスーパースラちゃん3の力を編み出している。

それでも慢心せずにさらなる強さを求めて、偽スラちゃんたちを狩りに行かせている。

数百体がかりでの超効率的な狩り、これを分身狩りと呼ぶ。俺にしかできない反則的な狩りだ。

ただ、偽スラちゃんたちはそこまで強くなく、記憶をたどると半数ぐらいが返り討ちにあっているし、けっこう魔物に逃げられている。

なので、単純に散らすのではなくスリーマンセルを作る。

三体一組で連携を取り、確実に魔物を狩っていくのだ。

当然、索敵範囲は減るが偽スラちゃんの犠牲が少なくなり、魔物に逃げられることも減りトータルではプラスだ。

偽スラちゃんたちの死は無駄にしない。

そして、今は家の外に出ていた。

「ヘレンねえ、オルフェねえ、馬車の準備はできた。いつでも出られる」

「私の準備もいいですわ。しっかりと必要なものをスライムさんに食べていただきました」

「私もいいよ」

姉妹たちの準備はできたようだ。

「ニコラ、オルフェ。もう一人、同行します。少し待ってください。もういいですよ」

ヘレンが合図をすると金色の髪でどこか気品ただよう少年と老紳士が現れた。

「紹介しますわね。ミラルダ共和国のへリンク・フォン・ミラルダ王子と従者のグランフ様です」

そういえば、ヘレンが研究所が襲われたときに視察に来ていた王族と共に逃げたと言っていたが、彼らがそうなんだろう。

「僕はへリンクと申します。あなたがたがヘレン様の姉妹。高名な【魔術】と【錬金】のエンライト様たちですか。封印の地の場所を知るのも、そして封印の地を閉ざす門を開けるのも王族だけです。僕の同行が必要です」

王族と聞いたから、威張るかと思ったが腰が低い。

巫女姫エレシアのようなまともな王族は俺の経験上は一割以下だ。封印の地のカギを知る者がまともで良かった。

「私は【魔術】のエンライト。オルフェ・エンライトよろしくね」

「ニコラは【錬金】のエンライト。ニコラ・エンライト、よろしく」

二人が挨拶をする。

平和な光景だが、王子は聞き捨てならないことを言っている。

「ねえ、待って。それってさ、王族に裏切者がいるってことにならないかな?」

オルフェも気が付いたようで直球で聞いた。

封印の地とやらが王族にしか入れないのなら、今の邪神の力を七罪教団が利用し病を蔓延させられているのは、七罪教団に協力している王族がいる証拠だ。

「残念ながらその通りです。……僕も誰が裏切ったかの察しはついています。確信に変われば皆様にも話したい。僕は彼を許さない」

ぎゅっと握り拳を作る。

ふむ、状況は思っていたよりさらに悪いらしい。王族までが敵に掌握されているなら他の国への働きかけもやりやすい。早く手を打たないと。

「状況はわかったよ。急ごう、みんな馬車に乗って」

そうして、俺たちは馬車に乗り込み封印の地へと向かった。

封印の地の道中、王子によって邪神についての情報が話される。

今回の邪神は【色欲】の邪神アスモデウス。

他の邪神の例にもれず能力は自らを象徴する言葉であり【色欲】。

どうやら【色欲】には二種類あるらしい、次々に感染し広がっていき熱病に浮かされ命をアスモデウスに捧げる死の病。

もう一つは心を冒しアスモデウスに惚れさせて傀儡にさせる能力。

文献ではそれに加えて、禁忌の力をもつらしいが、その力を見たものはすべて死んでいるため存在があるということしかわかっていない。

「厄介だね」

「ん。病のほうはヘレン姉さんの薬で対抗できるとはいえ、心のほうは防ぎようがない。どうやって精神に干渉するか気になる」

「単純に魔力の防壁が効くならいいんだけど……本当にただの魔術かな? たとえば視線だとか香りと五感に訴えるものだったら魔術の防壁でも意味がないし。私たちの誰かが【色欲】で操られたら終わりだね。特にヘレン姉さんが操られたら、ヘレン姉さんだけで私とニコラ、二人を圧倒できるし」

そう、精神に働きかけると言っても実はいろいろと手段がある。

それがわからないうちは対策は立てれない。

「オルフェ、それは私のことを過大評価していますわ。オルフェも強くなっています。せいぜい、五分の勝負といったところでしょう」

ヘレンは謙遜しつつ、オルフェとニコラが力を合わせても五分と言い切る。

オルフェは研究専門であり、戦う者ではない。

とはいえ、強力な魔術もいくつかあり、切り札に【憤怒】の邪神サタンの力を引き出すことまでできる。

そのオルフェを相手にこれだけのことが言えるのだから、どれだけ規格外かわかろうというものだ。

戦場を駆ける医師なんて芸当ができるのは、どんな戦場であろうと生き抜くだけの力があるからだ。ヘレンは見た目は優しいお姉さんだが極限まで鍛え上げられているし、【医術】を使った攻撃的な魔術を使いこなす。

人の体を知り尽くし癒す術を持っているということは効率的な破壊の仕方を知っているということ。

癒すことに比べて壊すことは圧倒的に容易い。

「ヘレン姉さんをどう守るか考えないと」

「安心しなさい。私は魔力による精神支配だろうと、五感に働きかけるものだろうと効きません。……私は戦場も、死の病が蔓延する地獄にも足を踏み入れても生き延びてきました。精神力には自信がありますし、ありとあらゆる抗体が体の中にあります。何物も私を侵せない」

鋼の精神といかなる病にも屈しないからこそどんな場所にも治療が続けられる。

「でも、相手は邪神だからね。注意はしたほうがいいと思う」

「もちろん、用心はしっかりしておきます。ヘリンク王子、邪神の情報を可能な限り教えてください」

「うむ」

他にも邪神の姿形などの伝承について聞く。

女、牛、羊の頭を持ち爬虫類の肉体とサソリの尻尾を持つ異形の存在。

聞くだけでおっかない。

姉妹と王子たちは対策について語り合う。

それを聞きながら、体内でいろいろと薬を調合する。

この二日、ヘレンの手伝いをしながらいろいろとくすねていた。

それを、大賢者の遺産にあるものと組み合わせて新たな薬にする。

スライムボディは体内で調合ができる。それもチートクラスの精度で思うがままに。

大規模な設備と数々の魔術が必要な作業も容易い。

「ぴゅふふふふ」

いい感じで仕上がった。

切り札というのは、最後まで取っておくから切り札足りえる。

だから、オルフェたちにも秘密だ。

外を見る。

この国に入ってからずっと空気が重苦しく感じていた。

この国を救えるとすればきっとオルフェたちだけだろう。

丸三日馬車を走らせた。

二日目の夜は抜け出して偽スラちゃんたちと合体した。

日数が少ないこともあり狩りの成果はあまり良くなく、【吸収】したのはすでに持っている因子ばかりだったので新たなスキルは得られなかった。

だが、しっかりとレベルとステータスはあがっている。

少しでも邪神との戦いの前に強くなっておきたかったので、偽スラちゃんを一度回収した意味はあった。

「ここだ。ここが封印の地につながってる。ここで止めてくれ。あとは徒歩での移動だ。僕が案内する」

「ん。わかった」

王子に従い馬車を抜け出し、王子の先導のもと鍾乳洞を通っていく。

ここが封印の地への道だということだ。

幸い、七罪教団と遭遇することはなかった。

洞窟の最奥で立ち止まる。

巨大な門があった。大仰な紋章が刻まれて封印されている。

王子が門に触れるとひとりでに扉が開く。

強烈な瘴気が漏れ出てくる。

オルフェ、ニコラ、ヘレンが顔を歪める。

確信したのだ。この先に解放された邪神がいると。

「いこう、ニコラ、ヘレン姉さん」

オルフェが拳をぎゅっと握りしめ王子に代わって先頭を歩く。

さあ、決戦はもうすぐだ。