軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九話:スライムはヘレンと再会する

ヘレンを探すために彼女が消息不明になる七罪教団に襲われたものの、俺の活躍もあり撃退することができた。

その後は、オルフェが突き止めたヘレンが向かった先へと馬車を走らせている。

「ニコラ、顔が青いよ」

「……なんでもない」

ニコラは御者席ではなく、馬車内にいた。

先ほど、七罪教団の魔術士を殺してしまったことを悔いている。

抵抗しなければ殺されていたのだ。殺してもしょうがない。

それでもニコラは優しくて、繊細な子なので傷ついてしまっている。

「ぴゅい」

オルフェの腕から飛び降りる。

今のニコラを慰められるのは俺だけだ。

ニコラの膝の上に飛び乗り、スラすりすり。

「……スラ、くすぐったい」

「ぴゅい、ぴゅい」

スライムの愛されボディですりすりしているだけではない。

日ごろからせっせと、比喩ではなく道草を食べてため込んだ成分を調合してリラックス効果がある香りを調合して放出しつつ、スライムボディを人肌の温度にしている。人肌の温度が一番人を安心させられるのだ。

スライムの身では、優しい言葉はかけられない。

だから、少しでもスライムだからこそできることをやる。

「スラ、暖かくていい匂いがする」

ニコラがいつもより強く俺を抱きしめる。

ニコラの震えが伝わり、スライムボディが波打つ。

「ぴゅいぴゅい(いい子いい子)」

伝わらないだろうが、そういうニュアンスで鳴き声を上げた。

心なしかニコラの震えが止まった気がする。

「ニコラ、今日の運転は私がやるよ。体調が悪そうだし寝なさい」

「……大丈夫、ニコラはやれる」

「大丈夫そうに見えないから言ってるの。ニコラの仕事はヘレン姉さんと合流してからが本番だよ。今倒れられたら困っちゃう」

オルフェにそう言われるとニコラは俺のボディに顔を埋める。

微妙にすねてる。

「別に大丈夫だけど、オルフェねえがそう言うなら寝る」

それだけ言うと俺を抱いたまま畳んであった布団を広げると横になった。

オルフェに聞こえないぐらいに小さく『ありがと、オルフェねえ』と言った。

この子はいじっぱりだ。

「スラも一緒に寝よ。スラを抱いてると安心する」

「ぴゅい!」

初めからそのつもりだ。

先ほどから振りまいているリラックス成分の調合を睡眠に適したものに変える。

俺はできるスライムなので、ご主人様にはベストな抱き心地と最高の香りで快眠を約束する。

緊張の連続もあったのだろう。数分でニコラは眠りにつく。

安らかに眠るニコラの顔を俺はじっと見ていた。

ニコラが完全に寝静まったころを見計らってぴゅいっと抜け出す。

ずっと一緒にいてやりたいが、オルフェたちをヘレンのほうに誘導しないといけない。

スライム走りでオルフェの隣にまで移動する。

「スラちゃんは優しいんだね。ニコラを慰めてくれてありがと」

「ぴゅい!」

「えらいえらい」

オルフェが俺の頭を撫でてくれる。

褒められるためにやったわけではないが、とても気持ちいい。

撫で撫でには抗いがたい魅力がある。

これは使い魔に刷り込まれた本能という奴だろうか?

大賢者マリン・エンライトのときは、娘に褒められて撫でられるなんて快感は絶対に味わえなかっただろう。

スライムになってよかったと思う。

馬車が止まった。

「スラちゃん、分かれ道に来ちゃったね。どっちがいいと思う?」

「ぴゅい!」

左のほうを向いてぴょんぴょんと跳ねる。ヘレンがいるのはこっちだ。

偽スラちゃんがすでにヘレンを見つけている。

……もっとも、オルフェの使い魔とわかってもらえず近づけば問答無用で撃ちぬかれるので、【気配感知】の範囲ぎりぎりで複数の偽スラちゃんを配置しているのだが。

「自信満々って感じだね。もしかして、スラちゃんはヘレン姉さんのいる場所がわかってるの」

「ぴゅいっ!」

「まさかね。だけど、ゴーレム鳩も距離が遠すぎてヘレン姉さんの魔力を見つけられてないし、スラちゃんの勘を信じよっか」

「ぴゅいっ!」

馬車が左へと曲がっていく。

この調子でいけば明日にはヘレンのいる場所にたどり着けるだろう。

一夜が明けた。

ニコラのほうを見る。たっぷり眠ったのと、俺のぬくもりとスライムアロマのおかげで顔色はだいぶマシになっている。

いつも通りとはいかないが、毎日スライムアロマで癒していけばいずれ本調子になるだろう。

今日もゴーレム馬車は軽快に進んでいた。

そして、昼を回ったころ整備された道はなくなり、ゴーレム馬車ではこれ以上進めないというところまで来た。

オルフェとニコラは引き返して街道に戻り別の道へと行こうかを相談し始める。

だめだ。ここで引き返されたらヘレンに会えなくなる。

オルフェの脚にしがみ付く。

「ぴゅいっ、ぴゅいっ」

そして、獣道のほうに引っ張る。

オルフェはしゃがみ俺の顔を見る。

「スラちゃん。昨日は冗談っぽく言っちゃったけど、本当にヘレン姉さんのいる場所がわかるの?」

「ぴゅい!」

「……ニコラ、どう思う?」

「スラは不思議な力を持ってる。今までもニコラたちを助けてくれた。信じていいと思う」

「そうだね。うん、スラちゃんを信じるよ。スラちゃん、案内をお願いできるかな?」

「ぴゅいっ!」

元気よく返事をする。

そして、先頭を歩き始めた。

狭く険しい道を歩き、森の中に入る。

獣道だが、最低限人が通れるように草を刈り、邪魔なものをどかしている形跡がある。

それも最近だ。

ここを通り街道に出ているのだろう。

「不思議な道だね」

「田舎というか、隠れ里って感じがする。オルフェねえ、止まって。数歩先に罠がある。足元をよく見て」

「細いワイヤーがあるね」

「足を引っかけないと発動しないタイプ。……他にもいくつかある。スラもオルフェねえもニコラが安全を確認したルートを歩いて」

「ぴゅいっ」

「わかったよ」

ニコラは罠にもかなり詳しく次々と罠を見抜いていく。

……仕掛けられている罠は狩人が仕掛けるような動物を狙ったものじゃない。対人用だ。

次々に誰かが仕掛けた罠を突破していく。

途中、血痕がいくつかあった。誰かが罠にかかったのだろう。

俺たちは森を歩き続ける。

オルフェとニコラに疲れが見え始めた。

俺と違ってヘレンがこの先にいるか半信半疑なことも疲れを増加させる原因になっている。

あと少しだから頑張ってほしいが、このままだと二人の限界が先に来そうだ。そんな心配をし始めたとき、ゴーレム鳩が鳴き声を上げた。

「あっ、ゴーレム鳩がヘレン姉さんの反応を見つけた。本当にヘレン姉さんがこの先にいたんだね」

「スラ、お手柄」

「ぴゅっへん!」

得意げな鳴き声を上げると、オルフェに撫でてもらえ、ニコラからは飴をもらった。

使い魔冥利に尽きる。

二人の足取りが目に見えて軽くなった。

「そろそろ森を抜けるね」

オルフェが言う通りうっそうと茂る森をようやく抜けた。

「うわぁ、村が見える」

森を抜けた先は谷で小さな村があった。

村の回りを守るように立っている村人たちと目があった。

明らかに敵意を向けている。何人かはこちらに弓を向けて警戒し、何人かが村の中へと人を呼びに行った。

逃げ帰りたいところだが、ここにヘレンがいることはわかっているので引き返すわけにはいかない。

「オルフェねえ、どうする?」

「話してわかってもらうしかないと思う。怪我をさせるわけにはいかないしね」

この村人たちは何かを必死に守ろうとしているだけだ。攻撃するわけにはいかない。

問題はどうやって俺たちが味方だと理解してもらうか。

ヘレンに出てもらうしかないな。

多少、乱暴だがやるか。

ヘレンを監視するために放っていた。偽スラちゃんたちをヘレンがいる家へと突進させつつ、意識を共有し偽スラちゃんの視界へと切り替える。

スライムを見つけた、ヘレンが飛び出してきた。おおう、すごい剣幕だ。

絶対に偽スラちゃんたちを仕留めるという鋼の意志と鉄の強さを感じる。

偽スラちゃんたちに、俺たちがいる場所へ逃げるよう指示を出す。

そう、ヘレンをおびき寄せているのだ。

あっ、五匹用意した偽スラちゃんのうちに二匹が倒された。

白い光で貫かれ、白い光が触れた細胞は破壊され、細胞破壊が連鎖して物理的な破壊に対して無敵な偽スラちゃんたちを一撃で殺す。

相変わらず物騒な魔術を使う。

癒すためには人体のことを知り尽くすことが必要になる。

その知識を使えば逆に壊すことも可能だ。むしろ癒すよりずっと容易いだろう。

加えて、ヘレンは一人でも多く癒すために進んで戦場に足を運ぶ医師だ

……ヘレンは劣勢な戦場の中、けが人を背に守って生き延びるだけの強さを手に入れることを願い、そのための力を大賢者マリン・エンライトから与えられた。

エンライトの姉妹たちの中では、【剣】のエンライトであるシマヅに次ぐ力があるのだ。

偽スラちゃんを容易く屠るのも当然だと言える。

「ニコラ、手を上げて降伏しながら谷を降りよう」

「危ないかも」

「攻撃してきたら、私の魔術でなんとかする」

「ん。わかった。一応、自動迎撃モードで【フェアリー】は起動しとく」

オルフェとニコラが両手をあげて谷を降りていく。

村人たちがオルフェとニコラを攻撃する前に、ヘレンをおびき出せればいいのだが……。

あっ、偽スラちゃんがまた一匹やられた。

なんとか、ここに来るまでに全滅しないでくれ。

そんなことを考えていると、村人たちも近づいてくる。

一応、話は聞いてくれるみたいだ。

矢を放ってくる様子はない。

オルフェたちとの距離が十メートルぐらいになったところで、村人たちが口を開く。

「止まれ、この村になんの用だ!」

「私たちは行方不明になった姉を探しにきました。姉の名はヘレン・エンライト」

オルフェの言葉で村人たちの顔に驚愕が浮び、村人同士で話し合う。

素直に信じてくれようとしている。

もしかしたら、ヘレンが姉妹たちのことを村人たちに話していたのかもしれない。

これなら、ヘレンをここに誘導することもなかったかも。

あっ、偽スラちゃんがさらに一匹仕留められた。

残り一匹だ。偽スラちゃんたちに悪いことをしたな。

偽スラちゃんとヘレンはもうすぐそこまで来ている。

五、四、三、二、一、ほら、来た。村のほうからヘレンと偽スラちゃんが飛び出してくる。

ヘレンは長い金髪と碧眼、何より白い翼が特徴的な十代後半の美女だ。

【医術】のエンライトにして、エンライトの長女。

白翼族。その美しさから天使と呼ばれている種族だ。

「ぴゅひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(助けてええええええええええええええええええ)」

偽スラちゃんが鳴き声というか泣き声を上げている。

「待ちなさい。あなたは何かの端末のようですね。本体に情報を持ち帰らせるわけにはいきません!」

ほう、偽スラちゃんがただの子機だと見抜いたのか。

俺と偽スラちゃんのパスのつながり方は特殊で、まず見抜けない類のものなのに。

そのヘレンの動きが突然止まる。

オルフェとニコラに気付いたのか?

違った、凄まじい集中力で俺だけを見ている。大方、偽スラちゃんから伸びるパスをあらかじめ注視していたのだろう。

「あなたが本体のようね。……本体がいるなら雑魚はどうでもいいですわ。死になさいな」

「ぴゅい?(あれ?)」

ヘレンが俺に向かって手をかざす。

あっ、これ、駄目な奴だ。

俺は即座に魔術を使う。水魔術の応用技だ。

三体の邪神を吸収してようやくまともな魔術を使えるようになった。

間に合ってくれ。

「ぴゅいーぴゅぴゅう(ミラーコーティング)」

スライムボディの前面が鏡のようになった。白い光が俺を捉えるが、鏡が光を屈折させる。

だがっ、百パーセントは曲げれなかった。わずかに光りに触れたスライム細胞が崩壊し、崩壊が連鎖する。

慌てて崩壊に巻き込まれたスライム細胞をパージ。

危ない、危ない。

「ぴゅいっぴゅぴゅぴゅ!(僕は悪いスライムじゃないよ!)」

善良なスライムに何をするんだと怒ってみる。

駄目だ、やっぱり伝わってない。

かなり、気が立っている。あの子にしては珍しく余裕がない。

ヘレンは次の魔術を組み上げる。あの子はかしこい子だ。

一度通じなかった攻撃はしてこないだろう。次はどう防いだものか。

「ヘレン姉さん、やめて」

「スラをいじめちゃだめ」

攻撃に備える俺の前にオルフェとニコラが現れる。

ヘレンが魔術を止めて、茫然とした顔になる。

「オルフェ、ニコラ」

心の底から嬉しそうに笑って駆け寄って来る。

「どうしてこんなところに来てしまったのですか! ……でも元気そうで良かったわ。ずっと心配していましたの」

二人に抱き着いた。長女だけあっていつも妹たちのことをヘレンは心配しているのだ。

「心配したのは私たちだよ。ヘレン姉さんの研究所が襲われたと聞いて慌ててやってきたんだから」

「ヘレンねえを助けに来た。来る途中に薬をたくさん作るための材料を選別して下ごしらえしてある」

二人がそう言うと、いっそうぎゅっとヘレンは強く抱きしめた。

「本当は二人を怒らないとだめなのでしょうが、嬉しくて褒めるのを我慢できませんわ。ありがとう、オルフェ、ニコラ」

うんうん、美しい姉妹愛だ。

何より、ヘレンが元気そうで良かった。

「ヘレン姉さんはどうしてこんな村に」

「……研究所が襲われて逃げてきましたの。視察に来ていた王子と一緒に。後でちゃんと話しますが、ここでないとダメな理由がありまして。ここの村に身を寄せつつ、いろいろと手を打っているところです」

街に行けないか。

それを聞くだけでだいたい色々見えた。

七罪教団は病で大量虐殺をするだけでなく、その病を使って権力者たちを意のままに操ろうとしているのだろう。

自分たちにしか治せない病があり、救われるものを選別できる。

そうなれば、やりたい放題できる。

……治せないはずの病を治せるヘレンは邪魔だし、薬の痕跡はどんな手を使っても潰したいだろうな。

「難しい状況だね。私も全力で手伝うから、ゆっくり聞かせて」

「【医術】【魔術】【錬金】が揃った。ニコラたちにできないことはない」

たしかに三姉妹が揃えば、ほとんどのことは対応できるだろう。

だが、最悪の想定が正しければ【剣】と【王】の力も欲しいところだ。

そこまで事態はまずいところまで来ている可能性がある。

「心強いですわね。……オルフェ、あと、こちらのスライムさんはあなたの使い魔でしょうか?」

「うん、スラちゃんって言うんだ。スライムだけど賢くて強いんだよ」

「ぴゅっへん!」

いつものドヤ顔をする。

スラちゃんになってからドヤ顔が楽しくて仕方ない。

「オルフェの使い魔でしたのね。気付かないで昨日から何匹か、この子のお友達を殺しちゃいました」

「あっ、それでスラちゃんはヘレン姉さんの居場所を。お友達を使ってとっくにヘレン姉さんを見つけてたんだ。それならそうと教えて欲しかったな」

オルフェがヘレンから離れて、しゃがむとつんつんと俺の体をつつく。

「ぴゅい……」

俺だって伝えられるなら伝えたかった。

「スラちゃんがすごいってわかってたはずなのに、もっと信じてあげられなくてごめんね。……ヘレンねえさん。スラちゃんを抱きしめてえらいえらいってしてあげて。スラちゃんはそうされるのが大好きだから」

オルフェが俺の体を持ち上げて、ヘレンに差し出す。

ヘレンは戸惑いつつも俺を受け取って、まるで卵でも扱うかのように丁寧に抱きしめる。

ぴゅふっ!? これは。

「この子、可愛いですね。それにいい抱き心地」

「ねっ、可愛いでしょ」

「ぴゅいぴゅぅぅぅぅ」

極楽だ。

ヘレンは姉妹の長女だ。そして……一番育ってる。なんてボリューム、なんて柔らかさだ。

「オルフェ、ニコラ、とりあえず村に案内しますわ。力を借りるにもいろいろと教えないとダメですし」

「うん、そうだね」

「ヘレンねえごと、この国を救う」

そうして、俺たちは村の中へと入った。

ヘレンが元気そうでなによりだ。

ヘレンが無事なら、あとはヘレンの仕事を手伝うだけ。そう、この国を救うのだ。

オルフェとニコラだけじゃない。俺も全力で取り組ませてもらおう。