軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七話:スライムは娘たちを見守ってる

オルフェと共に晩御飯をもって帰ると、ほぼ馬車ができかけていた。

ばらばらに分解した馬車を一時間足らずで完成させるとは……さすが【錬金】のエンライトといったところだろう。

ゴーレム馬車も表に出していなかった発明品の一つ。

馬車とはいいつつ、ゴーレムが馬車を引くわけではない。

ゴーレムの心臓部であるゴーレムコア、その出力をそのまますべて回転力に変えてギア駆動でタイヤを回す。

つまり、自走できるのだ。

ゴーレムコアは周囲のマナを取り入れて自動で魔力を得ることができる。

それだけで普通の馬車以上の速度で走れる。さらに、術者が魔力を注ぎ込むことで馬車の速度は跳ね上がる。

足回りも完璧だ。衝撃を吸収し地面にグリップする柔らかいゴムという素材を開発し、タイヤというものを作り上げた。さらに駆動部にバネを仕込んだサスペンションというものを作りタイヤで吸収しきれない衝撃も吸収してしまう。

つまり、永久機関かつ世界最速、悪路も踏破でき、乗り心地もいい夢のような馬車だ。

こんなものが出回れば流通の概念が変わる。

問題は、肝心かなめのエンジンという特殊なゴーレムコアを作れるのは超一流の錬金術士だけであり、タイヤもサスペンションも量産が難しいという点だ。

「オルフェねえ、おかえり。ゴーレム馬車の組み立てはなんとか終わりそう」

「よかった。明日からは楽に旅できるね」

「ん。ただ、擬装用に馬がほしい。動物にひかせない馬車は目立つ」

「魔法で走ってるって毎回言い訳するの面倒だしね」

超一流の魔法使いなら魔力で馬車サイズのものを短時間動かすことも可能だが自前の魔力だけで、それも長時間なんてできはしない。

そういえば……面白いものがあった。

「スラちゃんが急に何か吐き出した」

「あっ、いい考え。スラ、ナイスアシスト」

俺が吐き出したのは二つ。一つは昔実験で作った四足歩行ゴーレム。

二足歩行より四足歩行のほうが絶対強いだろうと、四足歩行でしかも両手が使えるケンタロス型のゴーレムを何体か作ったことがある。

そのプロトタイプで完全な獣型。

そして、もう一つはさっき食べたばかりの大型のシカの魔物、ホーン・バンブーの皮。

四足歩行ゴーレムにシカの皮をかぶせれば、擬装で馬車を引く動物の完成だ。

「スラちゃんはかしこいね」

「ぴゅい!」

「スライムが高度な知能を持つなんて珍しい。……無限に進化するとはいえ、思考力まで強化されることがありえるの?」

ニコラが疑わしそうに見ている。

顔を逸らす。

この子は勘がするどい。あまり調子に乗りすぎないようにしよう。

「相変わらず、オルフェねえの料理はさいこうー」

「ぴゅいぴゅい!」

たっぷり脂が乗ったカモのクリームシチューは絶品だった。

料理が趣味で、サバイバルにも長けているオルフェのポーチには各種調味料のほか、粉末にした牛乳なども入っている。

その限られた材料で、これだけのものを作るのは尊敬に値する。

【料理】のエンライトなんて娘は存在しない。なぜなら、さすがに手広くやっている俺も料理までは手を出していない。この子の独学だ。

内臓のほうは丁寧に下ごしらえをして、串焼きにしてる。塩をぬってたき火で焼いただけなのに、これがまた美味しい。

スライムに味覚があってよかったと神に感謝している。

美味しい料理があると会話が弾む、逃亡の旅の中に安らげる時間は貴重だ。

がさっと落ち葉を踏む音がした。

そちらを向く。

「たき火が見えて近づいたが、まさかこんなところで野宿してるやつがいるとはな」

「地獄に仏とはこのことっすね」

二人組の男がやってきた。

……俺の害虫センサーが激しく反応している。

一人は毛深い大男、もう一人はやせぎすの小男だ。

ろくに風呂に入っていないのか匂う。

オルフェとニコラは若干、警戒心を見せる。

「おいおい、そんなに警戒しないでくれ。俺たちちょっと道に迷っただけなんだ」

大男のほうが慌てて弁明する。

オルフェが口を開いた。

「そうなの? なら、向こうにまっすぐに一時間も進めば街道にでるよ」

「おっ、そうなのかい。いやあ、そんなに簡単に街道に出れるとはな。とはいえ、もう日が沈んじまっただろ。夜の山は危険だ。なあ、悪いが、たき火に当たらせてくれ。それと、俺たちにもそれを喰わせてもらえねえか。二日も何も食ってねえんだ。もちろん、金は払う」

オルフェとニコラは相談している。

結論はごはんは食べさせてあげようということになった。

追い払おうとして襲われるのが怖いというのが大きい。

「いいよ。困ってるならごはんぐらい。私たちじゃ食べきれない分作っちゃったしね」

「こいつはありがてえ」

無遠慮にオルフェの隣にどすんと座る。

やつはいやらしい目でオルフェとニコラを見ている。

ああ、だめだ。酸ビームを吐き出したい気持ちがどんどん込み上げてくる。

とりあえず、オルフェの膝の上に乗ってディフェンス。

不埒なことをしようとしたら、全身を強酸ポーションで浸した毒スライムモードになって顔に張り付こう。

オルフェのほうは、少し腰を浮かして距離をとる。

ニコラの隣には小男が座って同じようにしていた。

「お嬢ちゃんたちは、なんでこんなところに」

「東の街へ向かう途中なんだ」

「ほう、なら、俺たちが案内してやるよ」

「その必要はないかな。頼りになる護衛もいるしね」

「ぴゅい!(えっへん)」

たとえ、ドラゴンが来ようと娘たちを守るつもりだ。

しかし、男たちは冗談かと思ったのか声をあげて笑う。

「そのちっぽけなスライムが護衛?」

「馬鹿言っちゃだめだよ、お嬢ちゃんたち」

スライムハートが怒りに染まる。

ぴゅいぴゅい(ぴきぴき)。

「なあ、お嬢ちゃんたち、俺たち今日寝る場所がないんだ。あれ、お嬢ちゃんたちの馬車だろ。あの広さなら俺たちも一緒に寝れるよな。頼むよ、虫とか蛇とか出るしさ、泊めてくれよ。お詫びに明日一日護衛してやるからさ」

オルフェとニコラをよほど甘ちゃんだと思ったのか、かなりの無茶を言ってくる。

調子に乗り過ぎだ。ここでオルフェが流されるようなら、強引な手に出るのもやぶさかではない。

「それは無理だよ。ごはんぐらいならいいけど。私たちはか弱い女の子だもん。男の人と一緒の部屋じゃ眠れない」

「俺たちはこう見えて紳士なんだぜ」

「信用できるほど、あなたたちのことを知らないんだ。何を言ってもそれはだめ」

そこからしつこく男は食い下がるが、オルフェはまったく聞き耳を貸さなかった。

お父さんは一安心。

男たちは離れた場所で眠ると言って去っていった。

一応、”保険”を男たちにつけておく。

スライムの体にはこういう使い方もある。

レベルが上がるにつれて、どんどん応用力が増していた。

男が見えなくなると、表情を崩してオルフェが俺をぎゅっと抱きしめる。

「スラちゃん、男の人怖かったよ」

「臭かった。ちょっと、一緒に食事をしたことを後悔」

「ごめんね。最初から追い払うべきだったね」

「私も同意したから同罪」

さて、保険が杞憂に終わればいいが。

そんなことを考えながら、焼きキノコを楽しみ馬車の中に入った。

オルフェはしっかり馬車のカギを締める。

ニコラが作った馬車は頑丈だ。カギさえ閉めれば、たとえ熊が全力で殴ろうが中には入れない。

ひとまず安全だろう。

「けっ、馬鹿な女だぜ。山賊にあっさり騙されるんだからな」

「兄貴、さっそく襲いに行きましょうぜ」

深夜になり、さきほどの男たちはエルフとドワーフの少女が野営していた場所に向かう。

欲にゆがんだ顔。股間のほうがしっかり膨らんでいる。こいつらの正体は山賊だ。とある村への襲撃に向かう途中で美味しそうな獲物を見つけて寄り道したのだ。

「俺、ドワーフのほうをいただいていいっすかね。銀髪で白い肌のドワーフなんて初めて見た。そそるっす」

「おまえロリコンかよ」

「へへ、ロリならなんでもいいってわけじゃねえっすよ。あんな上玉はじめてっす」

「ああ、エルフのほうもすさまじい美少女だ。高く売れるぜ。売るのは飽きるまで遊んでからだ。ありゃ、反応からして処女だな。処女のほうが高く売れるが、ちょっと我慢できそうにねえ」

男たちは、エルフとドワーフの姉妹を襲い、金品と馬車を奪い、さらに犯しつくし、飽きたら売るという計画を立てていた。

男たちはこれからのことを考え、興奮の絶頂だ。

だから、気づかなった。

捕食者が近づいていることに。

冷たいものが大男の頭にかかった。そう思った瞬間、顔が燃えるように熱くなる。どろどろと溶け始めた。

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」

「あにきぃぃぃぃ、あにきの顔がああああああああ」

空からべっとりと大きくて半透明の塊が落ちてくる。

それは溶けかかった大男の頭を包み込み、溶かし、吸収している。捕食しているのだ。

小男はわかった。すべてはあのスライムの仕業だと。

「よくも兄貴おおおおおおお」

剣を構えて男はスライムに切りかかる。

その剣はスライムを切り裂いた。だが、それだけだ。剣はスライムをそのまま素通り。大男を切り裂いてしまった。これが致命傷となる。

どんな剣の達人も、水を切ることはできない。

スライムが小男の顔に向かって飛びつき、その体を喉と鼻に流し込む。

引きはがそうとしても、つかめないものをはがしようがない。

やがて、鼻と口を塞がれた小男は窒息死してしまった。

彼らは知らなかった。あの姉妹には過保護な父親がいたことを。そして、彼らはその逆鱗に触れてしまった。

スライムは二人の死体を【 吸収(たべて) 】しまう。

夜食を食べすぎて重くなった体を引きずって、スライムは愛しい娘たちが安らかに眠る馬車に戻った。途中で道草をぱくぱく匂い消しの成分を取り入れる。スライムは娘への気遣いを忘れない。

『必殺、スラ分身。なかなか便利だ』

スライムの体は粉々に砕けようが一か所に集まる。

その際、粉々になったパーツの一つ一つに五感と思考力が存在しており、一番大きなパーツが主導権を握りすべてのパーツの五感、思考を把握している。

逆に言えば、小さな自分の破片を敵に張り付けることで、監視するなんて芸当もできる。

俺はあの男どもの服に、スラボディからわずかな欠片をくっつけて、言動を聞いていた。

この頑丈な馬車に忍び込むことはできはしないだろうが、喚き散らかされて二人を起こされるのも、怯えさせるのも可哀そうだ。

何より、可愛い娘たちの親切を仇で返す害虫どもを生かしてはおけない。

なので、奇襲でちゃっちゃと倒した。

そして【吸収】したのだが……。

『人間でも、ちゃんとスキルを得られるんだな』

得たスキルは、【言語Ⅰ】。耐久力もしっかり上がっている。

「す、ら、い、む」

たどたどしいが、一音一音、声帯を変化させながら話せるようになった。

さらに、体の変形が前よりスムーズ。

人間を食べるのは抵抗があるが、あの子たちを守るために害虫を駆除したあとは、その死を無駄にはしないようにしようと決めていた。

……人間に化けるには人間を食べるのが一番はやい。

当たり前と言えば当たり前だ。

液状になって鍵穴から、にゅるっと馬車に入り込む。

オルフェとニコラ、二人の可愛い寝顔を楽しんでからオルフェの毛布に入り込んだ。

オルフェがぎゅっと抱きしめてくる。

『俺が守ってやるからな』

可愛い娘たちを狙う害虫は、これからも始末してやる。

お父さんはお前たちを見守ってるぞ。だから、安心してお休み。

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種族:フォビドゥン・スライム

レベル:6

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅰ

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 フォレスト・ラット素材 ピジオット素材 ホーン・バンビー素材

ステータス:

筋力F 耐久F 敏捷E 魔力F+ 幸運F 特殊EX

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