軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十六話:スライムは決闘を見届ける

神降ろしについての打ち合わせのために、聖上の屋敷に来ていた。

そして、いよいよ主役の登場だ。

「ぴゅい(来たな)」

極東の……ひいてはキョウの心臓たる現人神。聖上。

彼が部屋に踏み入れた瞬間に空気が変わった。

彼だけに許された、一段高い座につく。

「よくぞ、集まってくれた。感謝する。さっそくだが本題に入ろう。龍脈の淀みはもはや限界だ。……すぐにでも除去しないと大変なことになるだろう」

陰陽師たちが頷く。

俺ですら感じるほど、龍脈の淀みは大きくなっている。

そう遠くないうちに龍脈は破綻する。

「道は二つある。一つはキョウの龍脈ごと円環の儀によって閉じてしまう。こうすれば、キョウは死ぬが、淀みが外に漏れ出ることもない……余はこの道をずっと考えていた。邪神を宿した鬼を倒すことはできぬ以上、これが最善だと」

なんという力の技。

淀みを閉じ込めるためにキョウを捨てる。

だが、実際有効な手ではある、セイメイたちが協力すれば実現可能だ。

「だが、皆も知っての通りサイオウの姫……シマヅが帰ってきてくれた。シマヅがいれば神降ろしを執り行える」

陰陽師たちは落ち着いているが、武家や貴族たちはざわつき始める。

「聖上、恐れながら進言させていただく! サイオウ家による神降ろしは過去に失敗しております! 次、失敗すれば……このキョウだけでは済みませぬ。再考を!」

男なのに、おしろいを塗った貴族の一人が立ち上がりわめく。

席順からして、かなり高位の貴族のようだ。

それに同調するように、幾人かの貴族が賛同の声をあげた。

セイメイは、キョウを犠牲にする方策は貴族たち主導によって決められ動いていたと言っていた。

いまさら、撤回されてしまえば貴族たちのメンツは丸つぶれだ。

だからこそ、キョウが救われる可能性があっても、神降ろしを断固反対しているのだろう。

「余も思い付きで言っているわけではない。熟慮の上でだ。陰陽師側の検証も終えている。だな、セイメイ?」

聖上に話を振られたセイメイはこくりと頷いた。

「神降ろし、淀みを意図的に放ち、陰と陽にわける秘儀、陰と陽にわけるまでは確実に成功するでしょう。ただし、その後の陰を打倒することは難しい。ですが、今回は心強い味方がおります」

セイメイは立ち上がり、手の平をオルフェのほうに向ける。

「世界最強の賢者にして、かつて鬼を追い詰めたマリン・エンライト。その娘にして、【魔術】を受け継いだオルフェ・エンライトです。彼女と共に神降ろしを安定させるとともに、鬼の力を削ぐ術式を作り上げました。弟子たちと共に龍脈に仕掛けを施しているところです……前回より成功率は間違いなく高い。それこそ、キョウを犠牲にする方策よりも」

セイメイが断言したことで、貴族たちの気勢がそがれる。

【魔術】のエンライト。その名はここでも効力を発揮するようだ。

セイメイの言葉に説得力が生まれている。

だが、それで黙るほど貴族たちの物わかりは良くない。

「信じられぬ。本当に鬼に勝てるのか!? 前回、サイオウの姫は、負けたのだぞ! 陰の気を宿した鬼に一方的に敗北したせいで、力が満ちた鬼が世に放たれた。あの時の悪夢を繰り返すつもりか!」

そうだ、そうだと。周りが騒ぎ始める。

シマヅはじっと、姿勢よく座り黙っていた。

弁明一つしない。

そんな中、立ち上がるものがいた。

「刀工として何人もの剣士を見てきた俺っちが保証する。シマヅお嬢さんは勝つ! シマヅお嬢さんは、外で修行してきて、とんでもなく強くなって帰ってきた! 世界一の剣士だ。シマヅお嬢さんで勝てねえなら、誰も勝てねえ!」

カネサダだ。

だが、彼の言葉は届かない。

貴族や武家たちは失笑を隠そうともしない。

「何を血迷ったことを」

「そんな小娘が世界一の剣士だと、笑わせるな!」

「所詮は刀工よ。剣の腕を見る目はないようだな」

「カネサダ、その娘に誑かされたか?」

「ありえる。落ちぶれたサイオウ家でも、自分の体を差し出すぐらいはできるからのう」

剣士としてのシマヅを甘く見るのも無理もない。

シマヅの容姿は、すらりとした美少女で強そうには見えない。

……とはいえ、貴族はともかく武家が一緒に笑っているのは情けなくなる。

隙のない立ち振る舞い。身にまとう剣気。これらをみれば、超一流の使い手であることぐらい、まっとうな剣士ならわかる。

少なくとも、ここにいる武家の面々はお飾りであり、剣士としては三流以下だ。

聖上がかすかに微笑んだ。何か、悪いことを考えている。

「なるほど、シマヅの力に疑問があるため、神降ろしには賛同できないと」

「いかにも!」

「このような小娘に極東の命運を任せるなど論外でございます」

「でっ、あるか」

聖上は、手でみんなをいさめる。

そして間を作った。場が静まってから口を出す。

「であるなら、シマヅの力が証明できれば問題あるまい。……名だたる武家の方々が揃っている。剣に自信があるものは、手を挙げるがいい。シマヅと戦ってもらう。立候補者全員に勝てば、神降ろしを行う。これでよろしいか?」

貴族と武家たちは一瞬、きょとんとした顔をしてから、再び笑い出し、武家の腕自慢たちは次々と手をあげた。

手を挙げたのは、二十名ほど。

「ふむ、思ったより多い。さすがに、これでは日が暮れてしまう。どうしたものか」

確かに一人ひとり相手にしていては時間がかかりすぎるだろう。

だが、その心配はない。

シマヅなら、そう時間はかからない。

「聖上、提案があります。……一度に二十人と私が戦えば数分で終わります」

ついにシマヅが口を開いた。

その一言で、立候補者全員の顔が憤怒に赤く染まる。

「貴様、我らを愚弄する気か!」

「俺一人で、十分だ」

「その暴言、万死に値する!」

武家たちは、実力はないくせに、プライドだけは一人前のようだ。シマヅは俺の頭を撫でてから立ち上がった。

「口でいくら言い合っても、時間の無駄よ。刀で語り合いましょう。聖上、中庭を使わせていただけますか? 今すぐ、この場で決着を付けさせてください」

「許可をする……だが、いいのか。あまりにも不利な戦いだ」

「大丈夫です。一目見れば実力は大よそわかるわ。この人たち全員と同時に戦うよりも鬼のほうがずっと強い。この程度、たやすく勝つぐらいでないと、鬼には勝てない」

シマヅのその言葉には一切の気負いがなかった。

できるから、できると事実を淡々と言っている。

「面白い。では、皆の者。庭に出よう。シマヅの力を見せてもらおうではないか」

俺は内心で笑う。

武家の連中は、おそらく【剣】のエンライトの強さは聞き及んでいるだろう。

だが、シマヅがその【剣】のエンライトとは気づいていない。

シマヅの実力を知ったとき、こいつらは一体どんな反応をするだろうか?

庭園に出た。

シマヅを取り囲むように、二十人の武士たちが構えている。

それを遠巻きに、観客たちが見ていた。

全員、刀ではなく木刀を持っている。

死人がでないための配慮だ。

ほっとした。

シマヅの身を案じていたわけじゃない。シマヅがうっかり人を殺してしまう可能性が随分と減ったことに安堵した。

「私の準備はいつでもいいわ。かかってきなさい。十分に連携して、策を練って……じゃないと、すぐに終わるわよ?」

シマヅが剣を抜きもしないで、忠告をする。

武士たちは、その忠告を受けずにいきり立っている。

自分が誰よりも早く倒すのだと。

「いらぬ、一人でもいいぐらいだ」

「いかにも、その減らず口を叩き斬ってくれる!」

彼らにとって、敵はシマヅではなく他の武士たちだ。自分たちが負けるなどみじんも思っていない。

手柄の奪い合いだと思っている。

おろかだ。

武家たちも、それぞれが準備ができたと告げる。

聖上が息を吸い込んだ。

「はじめ!」

決闘の開始が宣言された。

決闘の開始直後にシマヅが消えた。

そうとしか思えない神速の踏み込み、たった一歩で前進し、突きを見舞う。

超高速の踏み込みからの平突き。

シマヅが得意とする剣技の一つ。

それは基本動作でありながら、必殺の域に達している。超高速の突進突き。躱された後の連携まで考慮された技。

反応どころか、視認することもできずに一人の武士の胸を打った。その武士は吹き飛ばされ、そのまま気絶する。

「まずは、一人ね」

シマヅの奴、インパクトの瞬間に力を抜いて威力を落とした。

怪我をさせないための気づかいをするだけの余裕がある。

そして、これは極めて冷静な戦略だ。

まずは超速の突進突きで包囲網から抜ける。

いくら、シマヅと言えども全方位からの攻撃は対処が難しい。

そして、包囲網を抜ければ、あとは端から一人ずつ倒していけばいい。

一方向からのみ対処をするのなら、相手の数の利は生きない。

圧倒的な速度差があるからこそ成立する戦法だ。

「かこめええええええ」

「少しでも持ちこたえろ!」

武士たちは今更になって焦り始めた。

今までは、誰よりもはやくシマヅを倒すために、急所を狙い一撃必殺の木刀を叩き込もうとしていたのに、いつの間にか守勢に回って、時間を稼いで、その間に他の武士たちが囲む戦略に切り替えた。

だが、甘い。

「その程度の腕で時間を稼げるとは思わないで」

受けるというのは、ある程度拮抗した実力がないとできない。

しかも、攻めとは違い万が一すらない。

つまるところ悪手だ。

シマヅのキツネ尻尾がたなびく。風のように走りながら木刀を叩き込んでいく。

次々に武士たちの数が減っていく。

五分もかからずに、残り一人になる。

その一人はゆらりとした動きで木刀を構えて、ニヒルに笑う。

「ようやく、雑魚はいなくなったようだな。貴様の実力は一目見てわかった。こいつら程度の雑魚では、準備運動にもならないとな。……だから待っていた。いざ、尋常に勝負!」

なるほど、少なくともシマヅが強いことはわかる程度に実力はあるのか。

周りの貴族や武家たちも、かなり彼には期待しているようだ。

「あの、コジロウならば……」

「コジロウは極東にて最強」

「小娘め、調子に乗るのもそこまでだ。コジロウには勝てまいて」

コジロウというのか、よほどの強者なのだろう。

だが、残念だ。

「そう、でも……私から見たら、あなたも倒れている人たちも一緒よ?」

シマヅが無防備に歩いて近づく。

男が木刀を上段に振り上げ、振り下ろすことすらできずに倒れた。

常人には、シマヅが何をしたかも視えていないだろう。

たしかにコジロウは二十人の武士たちの中では飛びぬけた力を持っている。

だが、シマヅから見れば誤差の範囲にすぎないのだ。

「これで、私の強さを認めていただけたかしら?」

どこか、誇らしげにシマヅが貴族や武家たちに告げる。

誰もが押し黙っている。

シマヅは圧倒的すぎた。

二十人を相手にして、息を乱さず、汗一つ書いていない。

ぱちぱちぱちと拍手が響く。

セイメイだ。彼が拍手をすると、周りも慌てて拍手をし始めた。

聖上が満足げに口を開く。

「皆の者、サイオウの姫の力は本物とわかっただろう。さすがは【剣】のエンライト。当代、最強の剣士と言われるだけはある」

【剣】のエンライト。

その名が聖上の口から飛び出した瞬間、いっきに貴族や武家たちがざわつき始める。

エンライトの姉妹たち。その中でも【剣】のエンライトの名はとくに知れ渡っている。

各地の戦場に顔を出し、一人で戦況をひっくり返す。

もはや、誰もシマヅの力に疑いを持つものはいない。

聖上は、貴族や武家たちの顔を見渡してから、口を開く。

「サイオウの姫の力に疑問があるから神降ろしが許容できないと言った。だが、こうして彼女の力は証明された! よって、神降ろしを決行する! 異存はあるまいて!」

誰も反論はできない。

聖上も役者だ。

この流れを作るために、あえて【剣】のエンライトであることを伏せて、言質をとってから実力を披露する場を作り、最後に【剣】のエンライトであることを明かした。

こうして、神降ろしの決行が決まったのだ。

あとは、鬼を倒すだけ。

きっと、シマヅならうまくやってくれるだろう。