軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話:スライムはニコラの想いに頷く

ニコラの工房にやってきた。

そこには、すでに二体の強化外骨格が並べられていた。

全長は二メートル弱。人が着込むことを想定した兵器。

人型でありながら、限界まで空気抵抗を減らすために流線形の美しいフォルム。

「ぴゅい(やってるな)」

もう組み上げたのか。

分解して、俺が【収納】していた持ち出したものをたった半日でくみ上げたようだ。

床にはその図面が開かれ、ニコラは食い入るように図面を見ていた。

「だめ、どうやっても無理。性能を落とす以外の方法がない。でも、そんなの意味がない」

俺の思っていたとおりの壁にぶち当たったようだ。

だから、手を差し伸べよう。

「ぴゅい!」

「スラ、どうしたの?」

ニコラが問いかけてくるのを無視して、ぴょんぴょんと鎧のほうまでいき、鎧を包み込む。

「スラ、やめて。今はスラと遊んで……」

ニコラはそこまで言って何かに気付いたようだ。

「ちょっと待って、この硬さ。これなら……。シマヅねえがスラを纏えば……理論上はいける。なにより、隙間をなくせる。……液状のジェルなら……」

さすが、ニコラだ。

俺が鎧にまとわりついたのを見て、さっそく搭乗者にスライムを纏わせるという手に気がついたようだ。

アブソーバーとしての役割を果たしつつ、さらに外骨格と搭乗者の間の隙間をゼロにできるという効果があると気付いた。

なら、次だ。

「ぴゅいぴゅい」

強化外骨格から離れ、そして中身にはいる。こっそり先に帰らせていた分裂体も呼んで体を大きくし、強化外骨格内をスライムで満たす。

さらに、疑似筋肉の構成。

強化外骨格を動かしてみる。ちょっと力がいるがちゃんと動かせた。

これは思ったより面白い。

うごく鎧だ。

外骨格はいいものだ。こいつを俺の専用機にしたい。

「スラ、すごい。スラならGなんて関係ない十全に私の強化外骨格を操れる。でも、魔力総量が少ないのは問題、魔力は外部バッテリーを用意して、でも、複雑な操作はさすがに……」

俺に複雑な操作はできないと言ったか?

舐めてもらっては困る。この身はスライムなれど大賢者。

強化外骨格の魔術の回路に己の魔術回路を接続。エミュレート。だいたいわかった。

あとは操縦できるはずだ。

「ぴゅいっ、ぴゅ!(操縦、できるよ)」

魔力を込めて、オルフェの搭載した機能、魔力スラスターを点火。

強化外骨格が宙に浮かんだ。そのまま空中に停止。

「うそ、スラ、それ、偶然じゃなくてちゃんと操作してるの」

「ぴゅっへん!」

その言葉に応えるようにその場で宙返り、魔力スラスターを切って着地。

あまりにも華麗な操作に、ニコラが目を丸くしてる。

「ぴゅふー(しんど)」

動かすことはできたが、スライムのチンケな魔力じゃすぐに力尽きそうだ。

「……スラ、すごい。これならデチューンの必要がない。でも、魔力が足りない。魔力バッテリーを搭載するのはいいけど重量があがって燃費も取り回しが……バッテリー容量も疑問が。……たしか使い魔に主が魔力を供給する術式があったはず、スラの魔力のバックアップをオルフェねえにしてもらえばいけるかも、オルフェねえの魔力なら全力起動ができる」

どうやら、強化外骨格の操縦者として認められたようだ。

オルフェの魔力を受けられれば、ニコラの言う通り全機能を使用できる。

「一機はスラに使ってもらう。もう一基のシマヅねえに任せるほうは、スラの分裂体……ううん、スラを抉ってそれを材料に衝撃吸収ジェルを作り上げる。オルフェねえが強化外骨格を着たあとにジェルを流し込んで隙間をなくせば……いける!」

「ぴゅひぃぃぃぃ!?(えっ、抉る!?)」

あれ、俺の協力を得るのじゃなくて材料にする気満々。

そんな怖いことしなくても、言ってくれれば分裂体を作ってシマヅにまとわせるのに。

……いや、それでいいか。分裂体の操作よりもそっちのほうが性能が上がりそうだし、安定性がある。なにより、ニコラの成長につながる。

ニコラがにじりよってくる。

逃げ出したくなるが我慢。

抉られるのは気分がよろしくないので、必要そうな量を【分裂】。さらに、ニコラが欲しそうな素材にするために硬さと質感を調整して差し出す。

「ぴゅいっぴゅ(これで勘弁してください)」

「スラ、気が利く。……衝撃吸収ジェルを作る。これでシマヅねえならなんとかなる。明日、朝からスラとシマヅねえを呼んで性能実験。楽しみ。スラ……ちょっとその前に実験してみたい。私を包んで! さっき強化外骨格にやったみたいに」

どうしよう。

さすがに抱きしめられるならまだしも、娘にそんないやらしいことはやりたくない。

しかし、二コラの眼は本気だ。

あっ、服を脱ぎだした。下着姿になり、自分で強化外骨格に入り込む。ニコラは手招きしている。

「スラ、お願い。まずは自分の身で安全を確かめないと、シマヅねえに使わせることができない」

……覚悟を決めよう。

「ぴゅい!」

強化外骨格の中に入り込む、そしてニコラと強化外骨格の間に体を滑り込ませて隙間を埋めて、硬さを調整する。

「ひんやりして、ぷにぷになスラに全身包まれてる。ちょっと変な感じ、スラ、くすぐったい動かないで。……ん。体感してわかった。理想的な強化外骨格との一体感。いい感じ」

ニコラはそのまま、強化外骨格を軽く動かした。

「ん、いける。今の感じを再現できればシマヅねえなら問題なく操縦できる。スラ、ありがとう。さっき、スラにわけてもらった、スラの体でさっそく試作品を作る」

許可が出たので、慌てて強化外骨格の隙間から逃げた。

ニコラはささっと服を着て、さっそく図面を書き始めた。

娘の肌にぴったりと張り付く。

たぶん、人間では一生できない経験をしてしまった。

「ぴゅふぅぅぅぅぅ」

ちょっと、今日は眠れなさそうだ。

「スラ、今日の御礼にまたデートしよう。街で甘いもの奢ってあげる」

「ぴゅい!?(甘いもの!?)」

それはありがたい。一瞬で元気を取り戻す。

「それから、今日は一緒に寝て。スラをぎゅっとするとよく眠れる」

そう言って微笑むニコラの顔は可愛くて。

……いろんな罪悪感を押し隠して、俺はぴゅいっと元気に鳴いた。

ニコラの衝撃緩和ジェルの開発は深夜まで続いていた。

俺は、こっそり【分裂体】を外に放っていた。

とあることに気付いたのだ。

【分裂体】に魔物を狩らせて、死体を持ち帰り、あとで俺が食べれば楽してレベル上げと魔物の【吸収】ができる。

今は、まだ【分裂】できるスライム細胞の量は少ないので弱い魔物が精一杯だが、いずれはかなりの効率になるだろう。

ニコラは、さまざまな試薬と【解析魔術】を駆使して、スライム細胞を調べあげ、さらに加工していく。

「ねえ、スラ、ちょっと話を聞いてもらっていい。眠気覚まし」

「ぴゅい!」

娘の相談に乗るのも父親の仕事、喜んで話を聞こう。

「スラ、ニコラには二人の父親がいる。一人は大賢者マリン、今の父さん。もう一人は伝説と言われたドワーフの鍛冶師。ニコラの本当の父さん」

ニコラの実の父親は伝説の鍛冶師だった。

魔剣の専門家であり、最高の魔剣を作ることだけにすべてをかけていた。ドワーフのカリオス。鍛冶師や錬金術士で彼の名を知らぬものはいない。

「私はドワーフの里に住んでたころ、これから一生、父さんと同じように最強の魔剣を目指すんだって疑ってなかった。そのために父さんの技術を学び続けた」

そして、ニコラはカリオスの娘というだけでなく一番弟子だった。

俺と出会ったころは十二歳。そのときにはカリオスの技を受け継いだ天才。

「でも、ある日、全部が終わった。一匹の巨大な炎竜がドワーフの里に来た。大人も子供も戦ったけど歯が立たなかった。父さんも魔剣を持って戦おうとした。父さんの魔剣は竜を傷つけた。……でも、傷つけただけ。竜はあざ笑うように空を舞って、空から炎を噴いた。それで父さんは死んだ……強い剣があれば最強だと思ってた。でも、届かないと意味がなくて、父さんが死んだことより、父さんの剣が最強じゃないって思ったことが悲しかった」

カリオスの魔剣は竜の強靭な鱗を貫く威力を秘めていた。

竜の頑強さは想像を絶する。それを貫くカリオスの魔剣は凄まじい。

だが、それだけだ。天空を舞う竜に剣は届かない。一度距離を取られるとどうしようもない。

「ニコラも戦ってた。死んだ父さんの剣を拾って届かないのに剣を振って。父さんの剣が最強じゃないとおかしいって、泣きながら。でも、どうしようもなかった。ドワーフの戦士はみんな死んだ。みんな次々と食べられた……きっとニコラが最後だったのは運が良かっただけ。次はニコラの番、そう思ったとき今の父さんが助けてくれた」

覚えている。

竜というのは災害だ。滅多に食事に人里に降りてこないが、一度降りてくると、村を三つ四つ襲って人間を喰らい尽くす。

狡猾にして用心深く頭もいい。倒すのは至難と言われている。

その当時、いくつもの村や里が襲われた。

ドワーフの里というのは優秀な武器と技術者を算出する国の宝。国家の危機ということで、俺に声がかかり救援に向かったのだ。

「今の父さんは、空を飛んできて竜に魔法を放つと、竜は傷ついて逃げて行った。最強の魔剣でどうしようもなかった竜に容易く届いて追い払った。悔しかった。父さんの魔剣が魔術に負けたようで……父さんの魔剣が負けたまま竜が逃げていくのを見るしかないのが悲しくて、ニコラは泣いていた。今の父さんは、そんなニコラになんで泣いてるか聞いてきた」

ああ、そうだった。

たった一人の生き残り。悲壮な覚悟で剣を振る少女。

その少女は、涙を流して竜ではなく俺を睨んでいたんだ。

だから頭を撫でて理由を聞いた。

その答えは覚えてる

『どうして、最強の剣じゃなくて、あなたが竜を追い払った? 倒すのは父さんの剣じゃないとダメなのに!』

ニコラは、父のことを、父の魔剣を誇りに思っていた。

だから、まるで父の魔剣より、俺が強いように思えて悔しかったんだろう。

「今の父さんはすごかった。ニコラから父さんの剣を取り上げると、魔術で弾丸として放った。その魔剣は逃げる炎竜に追いついて貫き、重傷を負わせた。それで今の父さんはこう言った。『俺もすごいが、カリオスの魔剣もすごいだろ? あの魔剣じゃないと竜を貫けなかった!』」

ニコラは薄く笑う。

あのときは本当に助かった。

俺の魔術を持ってしても、高位の竜を傷つけるのは難しかった。

あの魔剣があったから逃げる竜に重傷を負わせた。もし、あのときに竜を軽傷で逃がしていれば、あと一つか二つ、遠く離れた別の村が犠牲になっただろう。

「今の父さんは竜を追い払ってくれただけじゃなくて、父さんの名誉を守ってくれた。それからニコラに謝ってくれた。竜に逃げられてごめんって。仇をとってやれなかったって。……ニコラは、そのとき今の父さんに言った。その必要はない。いつか、自分で仇をとるから。ただ、強いだけじゃない。竜に届く魔剣をいつか作るって。……そう言うと、今の父さんは困った顔して、弟子にならないかと聞いてきた」

このまま、この子を放っておくのが心配だった。

何より、才能があった。

この子なら、俺の【錬金】を受け継げる確信があった。

「ねえ、スラ。ニコラは、初めは今の父さんのことを、父親なんて思ってなかった。父さんから教わった技術だけじゃ竜を殺せる魔剣は作れない。だから、今の父さんから技術を盗んだらさっさと出ていこうと思ってた。……でも、今の父さんも本当の父さんで、オルフェねえたちも優しくて、みんな大好きになって、いつの間にか本当の家族になってた」

「ぴゅい!」

透明な微笑み。ニコラが本当の家族だということを疑ってはいない。

みんなを慕ってくれている可愛い末っ子だ。

「ねえ、スラ。ニコラが作ってる強化外骨格は、父さんとドワーフの里を奪った竜を殺すために作り始めた。竜殺しの魔剣で恨みの結晶。そのはずだった。でも、今はそれよりもみんなを守るために形にしたい。だから……絶対に間に合わせる。スラも応援して」

「ぴゅい!(任せて)」

ああ、もちろんだよ。

そうか、ニコラの強化外骨格は仇を討つためだけの道具だと思っていたが、いつの間にかそうじゃなくなっていたのか。

ニコラの手元にある、スライム細胞が激しく点滅する。

魔力を加えて素材を変質させているみたいだ。

その他にも薬剤の投与など、ありとあらゆる手を使い、スライム細胞はまったくの別物、強化外骨格に最適化したものになっていた。

ニコラが微笑む。

「ん。やっとできた。これなら、大丈夫。ねえ、スラ。父さんはがんばってがんばり抜いたオルフェねえの前には現れてくれた。もし、これだけがんばって駄目なら、父さんは私の前にも来てくれるかな」

そう言うとニコラは机に突っ伏す。

限界まで頭を回転させていた反動だ。

緊張の糸が切れて、意識が途切れたのだろう。

ニコラの寝顔を覗き込むと、安らかで可愛い顔をしていた。

「ぴゅいぴゅい(約束する。ちゃんとおまえの頑張りは見てる)」

ニコラを苦労してベッドまで運ぶ。

そして、毛布をかけてやる。

それから、俺も布団の中に入る。

すると、ニコラが無意識に抱きしめてきた。

「父さん」

寝言でニコラが俺を呼んだ。……生みの親の可能性もあるが、なんとなく俺のほうだと思った。

スラすりすり、頑張ったご褒美にたっぷりすりすりしてやる。

明日は、外で本格的に性能実験だ。

ニコラがこれだけ頑張ってるんだ。きっとうまくいくだろう。

そう信じて、俺もニコラに抱き着かれながら眠りについた。