軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ2:大賢者と娘たち(中編)

娘全員の手伝いを約束した俺は、ニコラ、ヘレン、オルフェの手伝いを終えて屋敷の裏にある山へと移動する。

この山はまるまるエンライトの所有物だ。

簡単な実験や訓練などは室内や庭でできるのだが、派手なことをする際はここを使う。

山には認識阻害の結界を張っており、人はここに立ち入ることをひどく恐怖するため、一般人を巻き込むことがない。

そんな場所に呼び出したのは次女にして、キツネ耳美少女。

【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトだ。

「やっと私の番ね。待ちくたびれたわ」

シマヅは言葉とは裏腹に機嫌良さそうに微笑みかけてくる。

「訓練を手伝ってほしいとは聞いたが、いったいどう手伝えばいい?」

「見届けてほしいの。久しぶりに本気で戦える相手と試合をするから。それから万が一のときは治療も頼むわ」

シマヅが本気で戦える相手?

そんなもの、俺以外にいるとは思えないが。

シマヅは神獣の力がさらに増し、もはや人の枠から外れている。

邪神や、伝説級の魔物でもなければシマヅと対峙することすら難しい。

「「「「「ぴゅい!(参上!)」」」」」

……なるほど、シマヅの相手はこいつらか。

朝から見ないと思ったら、こんなところにいたのか。

「精鋭偽スラちゃんのスライムファイブか。強いが、シマヅの相手は厳しい」

「そうね。だから、奥の手を使ってもらうの。……さすがに今回は勝てる自信がないわね」

奥の手?

まさか、邪神との戦いでも使わなかったもう一つの切り札か。

「おまえたち、あれは反動と消耗が激しすぎる代物だ。シマヅの頼みとはいえ、よく使う気になったな」

スライムファイブたちに問いかける。

「「「「「ぴゅぅ~ぴゅぴゅぴゅぅ~♪」」」」」

すると、五匹揃って、顔を逸らしつつ下手な口笛を吹く。

こいつら、何か隠している。

「シマヅ、どうやってこいつらを釣った?」

「お礼の品を用意したの。オルフェたちのお宝写真をね」

写真というのは、俺がかつて生み出した発明品だ。

娘たちの成長記録を残すのに、絵では不足がある。娘たちの可愛さを絵では再現しきれない。

だから、そのままの姿を残すために作った。

娘たちも写真を気に入っていたが、まさかお宝写真があるなんて。

「……どうして、おまえらはそう欲望に忠実なんだ」

「「「「「ぴゅいっぴゅ!(そんなのじゃないよっ!)」」」」」

スライムファイブは否定するが、そのボディから娘たちの写真がはみ出ている。

幼いころのオルフェがお気に入りのワンピースで満面の笑顔を向けているところ。

ニコラが大好物のチョコレートタルトを盗み食いして、頬を栗鼠のように膨らませているところ。

いつもは隙がないヘレンが、寝起きでパジャマがずれたあられもない姿で眠そうに目をこすっているところ。

レオナが鏡の前で胸を寄せてあげているところ。

どれも、貴重で可愛らしいシーンばかりだ。

スライムファイブの連中、うっかり見せてしまったよという顔をしているが、俺たちの【収納】でそういうミスはありえない。

あれは、俺へ自慢しているのだ。

ちょっとうらやましいじゃないか。

あとで没収してやろう……やめておこう。戦争になる。

「シマヅの写真はないんだな」

「私の写真を欲しがる子は、そういうのがなくても手伝ってくれるし、そもそも私が撮った写真に私のものはないわ」

「ぴゅいっ!(自分、シマヅ姉さんのためなら死ねます!)」

シマヅ押しの偽スラちゃんが、妙に気合の入った声をあげる。

スライムファイブはそれぞれに推し娘が違う。

奴らならシマヅのためならどれだけ苦しくても無償で奉仕するだろう。

ちなみに、スライムファイブたちからの強い要望で、彼らの仕事は娘たちの護衛とサポートになっている。

俺ほどでもないにしろ、強くて便利で可愛いので娘たちに喜ばれている。

そして、スライムファイブたちもそれぞれの推し娘たちの傍に居られてご満悦。

……もっとも、娘に不埒なことをすれば容赦なく断罪するが、それはスライムファイブたちもわきまえているようで、今のところ問題は起きていない。

「では、さっそく始めるわね。スライムファイブ、本気で来て」

スライムファイブが五匹同時にハイジャンプ。

どこからか、猛々しい音楽が流れ、不自然に雷音やらが鳴り響く。音源を探すと、一般偽スラちゃんたちが歌っていた。スライムファイブにやらされているのだろう。

スライムファイブは相変わらず、お茶目でフリーダムだ。

「ぴゅいっ(いくぞ、みんな)」

リーダーのスラレッドが掛け声を出す。

「ぴゅいむぴゅい(スラゴッドフォーメーション)」

スラブラックの合図で、五芒星を描く配置になり、魔力パスが結ばれる。

「ぴゅるぴゅぅ(全エネルギー解放)」

全スライムファイブたちが全力での魔力放出。

「ぴゅいぴゅる(五つの力を一つに)」

魔力パス越しに同調を開始。

「ぴゅーぴ、ぴゅるっぴ!(超スラ、合神!)」

スライムファイブたちが引き合い、一つに。

「「「「「ぴゅい! ぴゅぅうううぴいいいいいい!(完成! ゴッドスライム!)

」」」」」

裂帛の叫びと共に、一回り大きくなったスライム……ゴッドスライムが現れた。

その色は五色がマーブル模様になっている。

これこそが、スライムファイブの切り札。五体合神ゴッドスライム。

分裂体の限界までスライム細胞を圧縮したのが、精鋭部隊スライムファイブ。

本体よりもスライム細胞の密度が低い故に、俺のもつスキルすべては使えず、それぞれ個性つけして特性に合うものを取捨選択している。

だから、単純にスライム細胞の密度をあげ、スキルの数を増やせば圧倒的に強くなる。

そんなことをすれば、当然のようにもともと分裂体の限界密度だったものは破裂する。

しかし、あくまで俺が定めた限界というのは、常時、形を保っていられる限界にしかすぎない。

短時間であれば多少の無理は効く。

加えて、スライムファイブたちは専用術式を作り、無理やりスライム細胞の圧縮率をあげつつ、力で抑えつけるという手法を取っていた。

それにより、こんな無茶が可能になっている。

出力は本体である俺に迫り、五体のスキルすべてが使用可能。

……もちろんデメリットもある。無理やり力でスライム細胞を抑えつけているためひどく消耗するし、こんな無茶をすれば体へのダメージは大きく、秒単位でスライム細胞が死滅していく。

あの形態でいられるのはおそらく、三分。

そして、その三分が終わればスライムファイブ全員は数日まともに戦えなくなり、死滅したスライム細胞の補充が必要となってしまう。

「いくぞみんな、合神時間は三分しかない」

「ふっ、それだけあれば十分ですよ」

「我ら五人の力が合わされば砕けぬものなどない」

「シマヅ様にいいところを見せないと」

「俺たちの絆パワー、見せつけてやるぜ!」

合神しても、思考はそれぞれ個別にある。そのため、役割分担と並行思考ができる。

体を制御するスラ、魔法を制御するスラ、周囲の警戒・解析をするスラ、これらの思考の連携を図るスラ、ローテーションで休んでいるスラ。

これもまたスライムゴッドの強みだ。

「こいつら合神形態だと言葉を話せるようになるんだな」

知らなかったよ。

スライムが普通に言葉を話すとなんかきもい。

「ふう、思ったとおり強大な力ね。相手にとって不足はないわ。……手加減はしない」

シマヅから、神獣のオーラが噴き出る。彼女が黄金に彩られた。

刀を抜く、ニコラが造り上げた世界最高の刀が黄金の光を照り返した。

物理無効のスライムといえど、切断の概念を叩きつけるあの刀で斬られればただではすまない。

「「「「「ぴゅひいいいいいいいいいいいいぃぃぃ」」」」」

ゴッドスライムが情けない悲鳴をあげる。言葉が話せるようになったのに、反射的にスライム語が出たらしい。

この戦い、俺の見立てでは五分五分だ。

シマヅは、三分防御に徹して時間稼ぎをすれば確実に勝てるだろうが、これは訓練であり、そういうことはしない。

じっくり、観戦させてもらおう。

戦闘開始してから、二分三十秒が経った。

あまりにも激しい戦いで山の地形が変わり、湖が一つ増えた。

……観戦しているのが俺でなければ流れ弾で死んでいたな。

「「「「「ゴッドフィニッシュ」」」」」

ゴッドスライムが、土、火、風、水。四属性の最上級魔術を同時に放ちつつ、オリハルコンを纏った触手の槍を数十本、逃げ場を塞ぐように放つ。

オーバーキルなんてものではない。

神スライムというのは伊達ではないようだ。

シマヅの剣が黄金に輝く。

すべての神気を集めるように。

「いいわ。燃えるわね!」

突きだ。

まっすぐに、光の帯が放たれる。

面での攻撃を行ったゴッドスライムと違い、点での攻撃。

故に、出力ではゴッドスライムが勝っていても、貫ける。

ゴッドスライムが攻撃に回していたオリハルコン触手で緊急防御。

何本ものオリハルコン触手が砕けるが、本体に届くまえになんとか、光の帯を止めた。

しかし、それはシマヅにとって前座に過ぎない。

逃げ場のない状況から道を作るための一撃だったのだ。

黄金の帯が通り抜けたわずかな隙間に飛び込みながらの突進突き。

わずかに残ったオリハルコン触手を貫いて、スライムゴッド本体に命中。

斬撃の概念でスライムゴッドの体に負荷がかかり……。

「「「「「ぴゅひいいいいいいいいいい、ぴゅいぴゅぅーーーー(ぴゅいいいい、やられたー」」」」」

もともと合神限界が近いところにダメージを受けたことでスライムファイブ五体に分離して、落ちていく。

「ふう、なんとか勝てたわね」

シマヅが着地し、誇らしげな顔で笑いかけてくる。

激戦で、衣装はぼろぼろであられもない格好になっていた。

スライムゴッドは負けたとはいえ、ぎりぎりまでシマヅを追い詰めていたのだ。

目を回して、伸びているスライムファイブたちにはあとでねぎらいの言葉をかけてやらないとな。

あいつらのおかげでシマヅはいい訓練ができた。

「いいものを見せてもらった。アドバイスをしようと思ったが……文句のつけようがない。百点だ」

「そういってもらえたのは初めてよ。うれしい」

シマヅが俺の腕に抱き着いてくる。

あの日の宣言依頼、シマヅは大胆になった。

「……いつまでもそんなはしたない恰好をするな。嫁の貰い手がなくなる」

ローブをかけて、ぼろぼろの服で露出していたシマヅの肌を隠す。

「父上がもらってくれるからいいわ」

「何度も言うが、俺は娘をそういう眼では見られない」

「わかっているわ。でも、私はただ待ち続けるだけよ。私も父上もこの先、長い時間があるもの」

エヴォル・スライムとなった俺も、神獣と化したシマヅも不老不死となっている。

たしかに時間はいくらでもある。

……多少シマヅが行き遅れても問題ないか。

「とりあえず、風呂に入ってこい。泥と血だらけだ」

傷は神獣の治癒力で癒えているが、泥と血は落としたほうがいいだろう。

「そうね、一緒に入りましょう。父上」

「娘は成長すれば、父親と入らなくなるものだ」

「あら、スラさんだったころ父上は……」

「オルフェといい、おまえといい、なぜ、そう過去のことを持ち出すんだ」

これはスライムになって、調子に乗った俺への罰なのだろうか。

「ふふふ、数少ない父上の弱みは有効活用しないと。それから、極東から檜を仕入れたの。今度ニコラに檜風呂にしてもらうわ」

「それは楽しみだな」

「できたら、みんなで入りましょう」

きっと断れば、またスラちゃん時代の悪行で脅される。

……そろそろ、スラちゃん時代のお茶目で脅されないための方法を考えないと洒落になってないな。

早急に手を打とう。

まったく、世界を救ったあとでこんなことで頭を悩ませるとはな。

父親というのも大変だ。