軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話:スライムは月夜を飛ぶ

夜が明けて、俺たちは街を出て馬車に乗り込んでいた。

昨日の深夜、三人組の暗殺者が宿で寝込みを襲ってきたので瞬殺している。

せわしない。

その際にオルフェとニコラを起こさないように細心の注意を払った。

睡眠不足は肌に悪い。娘たちの健康のためにも音もなく処理する必要があった。

一応、そいつらからも話を聞きだしたが、一人目以上の情報はない。

シマヅとヘレンのところにも、刺客が差し向けられているだろうが、あの子たちのことは一切心配していない。

オルフェとニコラは研究者よりの引きこもりだが、シマヅとヘレンは戦場を渡り歩くアウトドア派だ。

この程度の暗殺者に殺されるようなら、今まで千回は死んでいるだろう。

「この街に立ち寄って良かったね!」

「ん。ごはん美味しかった。スラにたくさん食べ物を【収納】してもらったから、向こうでも困らない」

「ぴゅいっ!」

向こうというのはグランリード領内に入ってからのことを言っている。

ここから先はすべて敵地だと思ったほうがいい。

食料の補給ができるかも怪しい。

だからこそ、大量に食料と水を【収納】しているし、俺とはぐれた際のことも考慮して、二人とも保存食と水筒を持っている。

【収納】がない二人の持ち運べる量は少ない。持っているのはニコラが作ったサイズ当たりのカロリーと栄養素は完璧で、保存性もばっちりだが、味は犠牲になっている保存食だ。

クッキー一枚で、成人男性が必要とするカロリーと栄養素すべてを賄える優れもので、遭難をしたときに役立つだろう。

「ぴゅいぴゅい」

オルフェに話かける。

「どうしたのスラちゃん?」

「ぴゅいっぴゅ!」

俺は触手を駆使して紙に文字を書く。

ペンを持つのが面倒なので、細い触手の先から魔物から抽出した色素を吐き出す。

『緊急事態だ。これより、マリン・エンライトとして話す。風の魔術で馬車の外に声が響かないようにしてほしい』

「スラちゃん、わかったよ」

ニコラがカーテンを閉め切り、オルフェが風の魔術を使い、音を漏れなくする。

そして、俺は【創成】を使い少年の姿へと変わる。

いろいろと考えがあって、スライム状態では言葉を話せない設定にしている。

さあ、準備は完了だ。話を始めよう。

「昨日、暗殺者からの襲撃があり、撃退して話を聞きだした。それも二度だ。一流どころだな。オルフェとニコラは至近距離まで近づかれても、暗殺者だと気付きすらしていない」

俺の言葉を聞いて空気が重くなる。

オルフェとニコラはぎゅっと拳を握っていた。

襲われたことにすら気付かなかったことを恥じており、さらに相手の危険性を理解している。

俺が居なければ二人とも死んでいた。

「相手はプロだ。戦いにおいて素人の二人が気付けないのは無理もない。……問題は奴らから聞き出した情報だ。レオンハルト少将はすでに死んでおり、とある神をあがめる連中がレオンハルト少将が立ち上げた青いバラの夜明けを乗っ取り、その神とやらの力をばらまいているらしい」

「それって、やっぱり【邪神】の関係だよね?」

「俺も、その線を怪しいと思っているが断定はできない。青いバラの夜明けは、王とレオンハルト少将の和解を認めていない。今は戦力をため込んでいるそうだ」

「……お父さん、かなりまずい状況だね。それだけのことができたってことは、ずいぶん前から根回ししているはず。もし、あの国で【邪神】が完全体で復活したら、大変なことになるよ」

つい先日、ヘレンと共に完全体となった邪神と戦ったが、オルフェとニコラは手も足もでなかった。

ヘレンの力で勝ったものの、あれは相性が良く、なおかつ事前に強力な対抗兵器を作っていたからだ。

今回は、まだ邪神の正体も知れていない。

……だが、妙な話ではある。グランリード王国内に【邪神】は封印されていないはずだ。

今まで、俺たちは【暴食】【嫉妬】【怠惰】【色欲】の【邪神】を倒している。そして、オルフェの心臓には【憤怒】が封印されていた。

残りの【邪神】は二体。【強欲】と【傲慢】

そのうち【強欲】は封印の地が判明しており、【傲慢】はとある種族が秘匿しており、封印の地すらわかっていない。

だが、状況は【邪神】がグランリード王国にいるように思える。隠匿されている【傲慢】なら最悪だ。なにせ、一切の文献が残っていない、弱点どころか、能力すらわからない。

情報なしに【邪神】に挑むのは無謀どころか自殺行為となる。

「レオナなら情報を集めているはずだが、俺たちも可能な限り情報を集めよう」

「わかったよ」

「ん。がんばる」

「そして、もう一つわかったことがある。レオナは王都に呼んでいたが、どうやら護衛を引き連れて拠点を移したようだ」

【収納】していたグランリード王国の地図を取り出す。

そして、王都から東にある森を指さす。

「探索に出していた偽スラちゃん……ごほんっ、俺の分身がレオナの所在を掴んでいる。レオナはここにいる。連絡を取りたいが、護衛が優秀なようで近づけないし、分身は言語までは操れず事情を説明できない。一応、苦労して手紙のようなものを作ったんだが、破られてしまったらしい」

スライムスリーは、俺と違い【収納】も使えずスキルも制限されているなか、頭を使い、知恵を巡らせて、そこらの葉っぱから紙を作り手紙を出そうとしたり、地面に文字を書いて護衛を誘導したり、いろいろとやったらしいのだが、すべて失敗。

娘相手なら、ぴゅいっという鳴き声だけでもモールス信号を利用して会話ができるがなかなか難しい。

せめて、レオナに怪しげなスライムがいると報告があがれば、スライムスリーが味方だと気付き迎え入れてくれるのだろうが、それも難しいようだ。

「じゃあ、目的地は王都じゃなくて、東の森だね」

「ん。ゴーレム馬車の目的地設定を変えておく」

ニコラがてきぱきと操作を弄る。

「そこで、もう一つ問題が発生する。俺たちは街で襲撃を受けた。つまり、俺たちの足取りは掴まれていると思ったほうがいい。そんな状態でレオナのところに行けばどうなると思う?」

「レオナの居場所が敵にばれちゃうね」

おそらく、レオナは身を隠している。

そうでなければ、王都から移動したことを手紙で伝えてくるはずだ。

それをしないということは、自分の位置がばれることを恐れている。だというのに、敵を引き連れたら元も子もない。

「じゃあ、父さん、どうする?」

「王都に向かう振りをする。そして、どこかの野営のタイミングで馬車を【収納】して、夜に紛れて俺がオルフェとニコラを抱えて飛んで距離を稼ぐ」

クリアボディで包めば、二人の姿を隠せる。

そして、飛行すればたとえ尾行されていても振り切れるだろう。

「了解。ただ運ばれているだけだと悪いから風の魔術で援護するね」

「ニコラは、とっておきのポーションを用意する」

話はまとまった。

なので、俺はスラちゃんに戻る。

オルフェの風の魔術が解除され、ニコラがカーテンを開いた。

あれから二日目の夜。

王都目前というところで森に野営する。

予定通り、馬車を【収納】し、俺は二人を運ぶためにたくさんの偽スラちゃんと合体して大きくなる。さらに【飛翔Ⅱ】で翼を生やす。

「なんか、スラちゃんに食べられるみたいで緊張するね」

「ん。でも、上に乗るのはそれはそれで怖い」

「ぴゅいっぴゅ!(はやくして)」

大きく開けた口に二人が入ってくる。

俺は気が利くスライムなので、スライムボディを変形して体内にソファーを作っており、オルフェとニコラがちょこんと座る。

体内から娘の匂いと温かさ、そして味が伝わってくるのは新鮮だ。

クリア化して魔力を込めて羽ばたく。

ステータスと魔力が上がっているおかげでこの重量でも飛べる。

天高く舞う。

「うわぁ、スラちゃん。月が綺麗だよ」

「空を飛ぶの気持ちいい」

オルフェとニコラが喜んでくれて何よりだ。

クリアボディは中身まですべて隠すが、中からは周囲の風景が視える。

オルフェの風が体を包み加速する。

これなら目的地まであっという間だ。

スライムスリーと交信し、レオナが動いていないことを確認して、一気にそちらに向かう。

スライムスリーの話では、一度も襲撃はなかったようだ。まだ、レオナの位置は敵にばれていないらしい。

空の旅はいいな。

陸路とは比べ物にならない速さだ。

ただ、魔力の消耗が大きい。オルフェの風があっても三人を運ぶとなれば一時間が限界。

飛行すること、三十分、深い森の中に着地する。

わざと派手な音を鳴らす。

すると、次々に武装した人間が現れた。こうやって人を呼んだほうが早い。

透明化をとき、口を開けるとオルフェとニコラが外に出る。

そして、オルフェが口を開いた。

「オルフェ・エンライトとニコラ・エンライトが妹に会いに来た。通してくれないかな?」

オルフェ・エンライトの名を聞いて、護衛たちがざわつく。

待ちに待ったレオナとの再会だ。

父として、どんな声をかけよう? そんなことを俺は今更考えていた。