軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70.一章エピローグ

それから数か月。

私とトラヴィスは二人で休暇をとり、トキア皇国へと来ていた。

「おいしい! 本場の味……なつかしい!」

広場の屋台でグルナサンドを買い口いっぱいに頬張る私を見て、トラヴィスが笑っている。

「なつかしい、って変な感じだな。一度目の人生での味か」

「そうよ。こればかり食べていたの」

「今もだけどな」

そう言うと、トラヴィスは私の口の端についたベリーソースを指で拭ってくれる。そのままなめようとするので、私は「まって……!」と声をあげ慌ててハンカチを差し出した。恥ずかしいので本当にやめてほしい。ついでに、私の反応を見て楽しむのもやめてほしいです。

『セレスティア、かおがあかい?』

「赤くない」

口を引き結んで肩の上のリルを睨むと『ごめんね』と言ってしっぽを振ってくれた。かわいい。フェンリルって嘘だよね?

トキア皇国の王都にあるこの広場で、二人で昼食をとるのはかなり楽しい。

ちょうど休日の今日はたくさんの人々で賑わっている。屋台に並ぶ男性、大道芸人に夢中になる子どもたち、道端で話す人々の笑い声。

それを眺めながら噴水の端に腰かけて、幸せを噛みしめる。

「レイも一緒に来られたらよかったのだけれど」

「友達の家でパジャマパーティーがあるから行けない、って断られたんだっけ?」

「ええ。トラヴィスと一緒に旅行に行こうって言うまでは、予定は空いているって言っていたのに」

若干、気を遣われた気がしないでもない。でもそこには気づかないでおく。

レイは、無事大神官様の養子になった。大神官様が後ろ盾になってくださったおかげで家に連れ戻されることもなく、神殿近くの大神官様のお屋敷で楽しく暮らしているみたい。

ちなみに、黒竜討伐で悪いことをしたノアは神殿の特別な部屋に半軟禁状態になっている。聖女を危険に晒したということで罪に問われるところだったのだけれど、それは私が止めた。

彼は私がループしたせいで不幸にしてしまった人。王妃陛下から離れたことで状況を冷静に見られるようになってきたらしい。でもしばらくは部屋から出られない。いくら正気でなかったとはいえ、反省してほしいと思う。

いつか謝罪があれば聞いてもいいけれど、ノアの実家のデパートには絶対に行かない、これだけはバージルとともに固く誓った。

「この後はトキア皇国の大神殿か。あそこはすごいんだ。ルーティニア王国の神殿の何倍も聖女と神官がいて、珍しい能力の持ち主もたくさんいる」

「楽しみ」

ふふふ、と笑うとトラヴィスは「まぁ、その中に入ってもセレスティアは規格外すぎるな」と呟いた。

この後は大神殿に行って夜を待ち、星空を見る予定だった。

「正直、サシェの町でさんざん見たしもう星はいい気がする、俺は」

「そうかもしれないけれど……実は、トキア皇国の大神殿からの星空は最初の人生でもトラヴィスと見たの。それでどうしても確かめたいことがあって」

トラヴィスの想いを知るうちに、私はあの大神殿からの星空が見たくなっていた。最初の人生で出会った彼は、どんな気持ちで私をあの場所へ案内してくれたのだろう。そこに行けば、答えがわかる気がして。

私の考えをまるで読んだかのようにトラヴィスは微笑む。

「ああ、それでか」

「?」

「これは告げるべきではないと思ったんだけど……初めに能力鑑定をしたとき、セレスティアの聖属性魔力に混ざってトキア皇国の大神殿の星空が見えたんだ」

「それって……」

「たぶん、俺も 二(・) 人(・) と同じものを見た。セレスティアが人生をループしたことに……俺も感謝したいな」

「?」

首を傾げた私にトラヴィスがふっと微笑む気配が届く。

なんとなく意味がわかって、目頭が熱くなって視界が滲んだ。

「―― 最(・) 初(・) の(・) 俺(・) も、きっと君が好きだった」

そ(・) の(・) と(・) き(・) 私(・) の(・) 隣(・) に(・) い(・) た(・) 彼(・) が呑み込んだのであろう言葉に、私は涙をこらえて空を見上げる。今日は雲ひとつなくて、気持ちがいい。

きっと、今夜の星はあの時みたいに綺麗に見える気がした。