軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.『性悪な異母姉』ですか?

最初の講義が終わった途端、同期の巫女たちに囲まれてしまった私の前に入ってくれたのはバージルだった。

バージルのブロンドヘアは本当にお手入れが行き届いている。今朝、櫛を通しただけの自分の髪が本当に情けない……ではなかった。

背中に突き刺さる視線を感じていた時点から気がついていたけれど、間違いなくこれは平和な場面ではない。

「あの、あなたは?」

「神官のバージルよ」

「ば、バージル様」

突然現れたバージルに、巫女の先陣を切っていた黒髪の少女が驚いている。ついでに野太い声にも戸惑っているように見える彼女の名前は確か……アンナ。

そういえば、こんなこともあった。三回目と四回目のループのときだった気がする。――あ。そうだ、これはよくない。

守るように立ってくれているバージルの隣から前に歩み出ると、私はアンナの手をとってにこりと微笑んだ。

「セレスティア・シンシア・スコールズと申します。神に仕える同士として、どうぞよろしくお願いいたします」

「はっ……?」

予想外だっただろう私の反応に、アンナは言葉を失って顔を赤くしている。

前のループのとき、私はこの場面をうまく乗り越えられなくて大神官様の知るところとなってしまった。結果、数人の巫女が神殿を去った。

その中には平民から巫女に上がり、家族を養うことを期待されていた子もいたらしい。『聖女』がいかに特別な存在なのか、自分の振る舞いひとつで人の運命が変わることを知った瞬間でもあった。だから、ここで事を荒らげてはいけない。

「後ろにいるのは私の妹のクリスティーナですね。みなさん、初日から仲良くしてくださってありがとうございます」

15人の巫女たちがざわりとして、集団の後ろにいるクリスティーナへの道が開く。まさか性悪と評判の姉からこんな淑やかな微笑みと穏やかな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。

空気を読んだバージルが私に相槌を打ってくれる。

「ああ、あの子がアナタの妹なの? ずいぶん華やかでかわいい子じゃないのぉ」

「バージルさん。刺繍が得意で、お菓子をよくくれる子なんです。ね、クリスティーナ」

「! セ、セレスティアお姉さま」

クリスティーナはきれいなブロンドを編み込んでハーフアップにし、アメジストの瞳を輝かせている。さっきのバージルのセリフは絶対に嘘ではないと思えた。胸元で組まれ、小刻みに震える手が少しわざとらしいけれど。

この同期たちは『いくら聖女でもここで妹をいじめることは許さない』と言いに来たのだろう。とても素敵な友情だけれど、いろいろ間違っていると思う。

「ふふっ。クリスティーナ。この前お願いされた件、きちんと仕上げますから安心してね」

「!」

暗にテーブルクロスへの刺繍の話を持ち出すと、クリスティーナは唇を噛んで踵を返した。それを巫女たちがぱたぱたと追っていく。

それを見届けた後で。

「なんか……アナタの妹ってヤバイわね?」

「はい。ルックスは華やかで女の子らしくて天使なのですが。中身に問題があるのです」

「あることないこと言いふらされて、それでもニコニコしてるアナタえらいわぁ。はじめて会ったときには噂通りのイケメン好きが来たと思ったけど」

継母はそこまで言っていないはずで、とんでもない勘違いである。けれど、能力鑑定の日にトラヴィスをじっと見ていたことを持ち出されて私は思い出した。

「そういえば、バージルさん。トラヴィス……って、トキア皇国にお帰りにはならないのですか?」

「あら。それは本人に聞いたらいいじゃないの?」

「私が気安く話しかけていいお方ではありませんから」

「まあ! 二人でお出かけまでしておいて!」

バージルは派手な顔に楽しそうな笑顔を浮かべてから続けた。

「……今日はね。トラヴィス様に頼まれて仲裁に入ったのよ。トラヴィス様、今日の初回講義への出席を大神官様に許してもらえなかったんですって。巫女には王弟ってことを伏せているものね。でもアナタが心配だから、困っていたら代わりに助けてあげてほしいって。まぁ、今の場面なら頼まれなくても助けるけれどね?」

「……!」

やっぱり、トラヴィスはそういう人だ。もし私がお礼を言ったとしても余裕たっぷりにさらっとやり過ごすのだろう。

幸せで、ありがたくて、浮き立つようなくすぐったい気持ち。ループ5回目の私は恋をしてはいけない。けれど大丈夫。過去の恋はどれもこんなに温かな想いからは程遠かったから。

過去に私を死へ導いた人たちの顔を思い浮かべて、私は息を吐いた。