作品タイトル不明
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「ねえ、マティ。サラ様たちが言っていたことなんだけど……」
マティたち侍女は私たちの後ろで控えていたのでもちろん内容は知っている。
お茶会で夫人たちと楽しく過ごした後、自宅へ戻り、今は夕食前のひと時を自室ですごしていた。
「サラ夫人が仰っていたことは最もだと思います。我が家でも記録を取っておいた方がよさそうですね。新たに人を雇いますか?」
「そこまでのものなの? そうね、考えておきましょうか。あと、ジルのお父様にも連絡をしておいて」
「畏まりました」
「リアーヌ王女様、ねえ。とっても美人だっていう噂よね。男性自身も彼女に気に入られたくて取り巻きになるっていう話も聞いたことあるし。世の男性はああいう女性が好みなのかな」
確か、リアーヌ王女様は細身で艶やかなシャンパンゴールドの髪に白磁器のように白くて滑らかな肌を持っていて、王宮の舞踏会では妖精姫と謡われていた。
私も当時は子爵令嬢だったから遠くからリアーヌ王女を見るくらいしかできなかったけれど、遠くからでも美人だったわ。
「ジルもああいう美人がいいのかしら」
私はマティの淹れるお茶を飲みながらぽつりと呟いた。
自分で呟きながら少し落ち込む。
「シシュカ様、それは違うと思いますよ。ジルベール様は今も昔もこれからもシシュカ様命だと思います。リアーヌ王女がいくら美人でもお嬢様の魅力には勝てないと思いますよ。ジルベール様は暑苦しいくらいの愛情をお嬢様に向けておられます。不安になる要素など一つもございません」
「マティ、私はもうお嬢様じゃないわ。ジルが帰ってきたら聞いてみようかな」
「それが良いと思います」
「そういえば、家からそろそろ連絡が来る頃だと思うんだけど」
「シシュカ様がお茶会に出かけている間に、マレス子爵家から手紙が来ていたと聞いています。すぐにお持ちしますね」
マティはそう言うと、エドの所へ行って私宛の手紙を持ってきた。
手紙は父と兄からの二通が届いていたようだ。私はペーパーナイフで封を開け、父の手紙を読む。
いつものように父からは領地の話や母の話が書いてあり、孫を楽しみにしていると綴られている。
兄からは私が元気でやっているか、病気になっていないかと心配する手紙だった。
「シシュカ様が笑顔になっているということは、何か良いことがあったのですか?」
「マティ、お父様もお兄様も相変わらず私の心配ばかりしているなって思っただけよ」
「そうでしたか。シシュカ様、そろそろお食事の時間になります」
「ジルはまだ帰ってこないと思うし、先に食べるわ」
「畏まりました」
私は従者たちに見守られるように一人で食事を済ませた。ジルは今日も仕事で忙しいのね。
最近は夜遅くに帰ってくるため、ゆっくりと話をする時間がとれない。
まさか、王女様に目を付けられてしまったのかしら。
少し気になったけれど、私は疲れですぐに布団の中で意識を手放した。
翌日もいつもと変わらずジルが出勤する時にしっかりと見送りをする。
「ジル、いってらっしゃい」
「……シシュカ、行ってくる」
深夜に帰ってきて早いうちにまた出かけていく。疲れが出ているんじゃないかしら。
眉間に皺が寄ったままの彼を心配する。
「ふう……」
「シシュカ様、あまり調子が良くないようにお見受けしますが、医者を呼びますか?」
「うーん、どうしよう。最近ジルを待とうと遅くまで起きていたから疲れちゃったのかもしれないわ。寝ていれば大丈夫じゃないかしら」
マティは私がいつもと違う様子に気づいて声をかけた。
「奥様、もし何かあればジルベール様が悲しんでしまいます。一度、しっかりとお医者様に診てもらいましょう」
「……そうね。エド、後で呼んでもらえる?」
「畏まりました」
「念のために今日は部屋で過ごすわ」
ここ最近は忙しかったからかしら?
寝ても寝ても眠いし。あ、それはいつものことね。
自室に戻り、部屋でマティの淹れるお茶を味わいながらゆっくりと本を読んでいると、エドが医者を連れてきた。
「シシュカ様、お医者様をお連れしました」
「フィル先生、お久しぶりです」
「シシュカ様、体調がよろしくないと伺いました」
フィル先生は会話をしながら大きなカバンを床に下ろし、中から聴診器や様々な器具をテーブルの上に並べ、診察の準備をしている。
「ええ、でもほんの少しよ? 邸の者たちが心配しているの」
「それだけシシュカ様は慕われておるのです。では診察をさせていただきます」
フィル先生がそう言うと、マティ以外は部屋を出た。この部屋には私と侍女のマティ、フィル先生とその助手の女性だけだ。
いつものように聴診や触診をして私の体調を探っていく。
すると先生の手が停まり、一瞬考えた後、確認するように再度脈を取ったり、触診して一つ一つ確認している。
その後、助手に何かこそこそと話をしているのが気になる。
「先生、どこか悪い状態なのですか?」