軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第99話 世界樹の森の戦い3

「アラクネの経験値はオーク5体分で確定、かな」

経験値を検算し、ぼくたちはうなずきあう。

やー、つまりエリート・オークと同じってことですかい。

エリートよりは弱い……のかなあ。

いや、ぼくたちが強くなりすぎてて、もはやエリートがどれくらいだったか思い出せないんだけど。

昨日のいまごろだと、まだそこそこ怖い敵だったんだけどなあ。

ルシア:レベル11 火魔法5→6 スキルポイント7→1

ルシアの白い手が、ぎこちなくエンターキーを叩く。

ぼくたちは白い部屋を出る。

たまきの背中をファイア・エレメンタルが守り、たったのひとりと一体が、アラクネたちの集団で暴れまわる。

地形もたまきたちの味方をしていた。

狭い橋の上では、前後一体ずつしか襲って来られない。

アラクネの下半身は蜘蛛だから、人間よりだいぶ横幅が広い。

そのせいで、二十体以上いる敵の間で渋滞が起こっていた。

よし、この調子なら……。

「楽勝ね!」

たまきが叫ぶ。

おい、それはフラグだ。

はたしてフラグを立てたのが悪かったのか、ちょうどそのタイミングだったのか。

アラクネたちは、一度、潮が引くように後退する。

「え、あれ?」

たまきが戸惑った、次の瞬間。

周囲の橋に散ったアラクネたちが、一斉に糸を吐き出す。

粘性の幅広い糸ではない。

太く長い糸が、たまきの頭上を抜けて対面の樹に張りつく。

直後、アラクネたちが跳躍する。

ワイヤーアクションのごとく、糸をロープとしてターザンジャンプする。

十メートルから、個体によっては二十メートルもの距離を飛び、四方八方からたまきに襲いかかる。

これは……まずい。

「ミア、ルシア!」

「ん。リヴァース・グラビティ」

「ファイア・ストーム」

ミアの風魔法ランク7によって、たまきの周囲で重力が消える。

たまきは、フライのちからでくるんと一回転、左手で橋の縁にしがみつく。

重力を考慮して斜め上に跳躍したアラクネたちは、目標となったたまきの頭上を通過する。

そこに、ルシアの火魔法ランク6、炎の嵐が襲った。

アラクネたちは、荒れ狂う炎に糸を焼かれ、さらに全身を業火にあぶられ、悶え苦しむ。

そのまま、たまきの頭の上を越えて対面の木々に激突する。

ちからなく、地面まで墜落していく。

落下したのは、全部で四、五……六体か。

そいつらは地面に衝突し、息絶え、青い宝石に変化する。

かろうじて三体が樹の幹に張りつく。

「ライトニング・アロー」

「フレイム・アロー」

ミアとルシアのつくり出した雷と火の矢が、それら瀕死のアラクネに次々と突き刺さる。

トドメを差されたアラクネたちは、順番に地面に落ち、仲間と同様の運命をたどる。

たまきが橋の上に戻る。

「うっわー、びっくりしたーっ」

「すまんな、たまき」

「ううん、助かったわ。ナイス判断、カズさん!」

残るアラクネは十体と少し。

こいつらは、さすがに恐れをなして後退する。

いまのうちに、とぼくたちもたまきのもとへ赴く。

少し服を焼け焦げさせつつも、たまきはニカッと笑ってぼくを迎える。

「やったわ!」

「がんばったな。だけど、まだ……」

「来ます」

アリスが鋭く叫ぶ。

彼女の視線の先を見れば、目深に緑のローブをかぶった二体のアラクネが、木のうろから出てくるところだった。

この二体が、一斉にたまきを指差す。

「え? あ、あれ……」

たまきの目が、うつろになる。

白い剣を橋の上に取り落とした。

「たまきちゃん!」

それだけではなく、身体をふらつかせ、樹上の橋から落ちかける。

駆け寄ったアリスが、かろうじてたまきの身体を支える。

まあ、たまきはフライがかかっているから、落ちてもだいじょうぶのはずなんだけど。

いや……そうでもないかな。

飛ぶちからすらなくなったように思えた。

でも、いまのは。

ぼくは緑のローブのアラクネたちを睨む。

魔法か。

「アリス、たまきにキュア・マインド! ミア、ルシア、あのメイジに……」

ぼくが命令をいい終える前に、ミアとルシアは「ライトニング・アロー」「ファイア・ストーム」と攻撃魔法を連射する。

だがメイジ・アラクネは、ほぼ同時に両手を前に突き出す。

彼らの前面に虹色の膜のようなものが出現する。

って、あれは。

背筋に鳥肌が立つ。

リフレクションだ!

まずい。

ぼくは咄嗟に、一行の前に出る。

ライトニング・アローとファイア・ストームが反射され、ぼくたちに襲いかかってくる。

こうなったら、ぼくだって!

「リフレクション」

ぼくが出現させた虹色のバリアによって、もともとはミアが放ったライトニング・アローが、ふたたび反射される。

さすがにファイア・ストームは防ぎようがなく、正面からまともに食らうが……。

こちらは、レジストのおかげで髪がチリチリと焼ける程度で済む。

二重反射された電撃の矢だが、メイジ・アラクネを襲う。

今度はさすがに反射できなかったようだ。

二体のメイジ・アラクネの全身に突き刺さる。

メイジ・アラクネたちは身をよじり、苦悶の声をあげる。

あ、あぶねーっ。

それにしても、モンスターがリフレクションを使ってくるなんて……。

その前にたまきがぼうっとなったのは、あれもやっぱり、なんかの魔法だよな。

火魔法ランク4のキャンドル・デイズ、という相手を幻惑させる魔法に、症状が似ていた気がする。

キャンドル・デイズは見たものをぼうっとさせる炎を出す魔法だ。

今回、たまきのまわりに炎とかは見えなかったから、実際には違う魔法なんだろう。

たぶん、ぼくたちが覚えられるスキル・システムの範囲外に存在するなにか。

付与魔法と、もうひとつ別系統の魔法を使うのか?

いや、独自の魔法系統、たとえていうならアラクネ魔法、みたいなものを持っているのか?

なんにせよ、厄介だ。

さっさと潰したい。

「火エレ、突っ込め! たまき、きみは……」

「もうだいじょうぶ! よくもやってくれたわね!」

たまきが剣を拾う。

ファイア・エレメンタルとたまきは、体勢を崩したメイジ・アラクネたちに突っ込む。

そうはさせじと、ぼくたちに向かって横の橋から普通のアラクネたちが突進してくるが……。

ここは、追加で護衛を呼ぼう。

「サモン・グレーターエレメンタル:ウィンド」

蒼く長い髪をなびかせた半透明の美女が、ぼくの要請に応えて姿を現す。

グレーター・ウィンド・エレメンタルだ。

彼女はぼくの指示に従い、突風を巻き起こす。

ぼくたちのもとへと繋がる橋が、強風におおきく揺れる。

アラクネたちは立ち往生してしまう。

どうせすぐ、太い糸をロープにして脱出するだろうが……。

いまは、その数秒が貴重だ。

ウィンド・エレメンタルは、フライなしで自ら飛べる。

ぼくは彼女に、アラクネたちのもとへ突撃し、混乱にいっそう拍車をかけるよう指示を下す。

ウィンド・エレメンタルが宙を舞い、橋の上のアラクネたちに襲いかかる。

接近してくるウィンド・エレメンタルに、アラクネたちが矢を放つ。

だが次の瞬間、ウィンド・エレメンタルの周囲で突風が巻き起こる。

風の結界によって、すべての矢が軌道を曲げられた。

風の美女には、一本たりとも届かない。

蜘蛛の糸も同様だった。

この風の結界を打ち破ることができず、ウィンド・エレメンタルの左右に白い糸が散る。

アラクネたちとしては不安定な橋の上から離脱したいだろうが、いま下手にジャンプしたら、どこに落下するかわからない。

結果的に、膠着状態が生まれる。

ウィンド・エレメンタルはむやみに接近せず、槍の届かない距離でアラクネたちを手こずらせることに専念している。

よし、賢いぞ。

いまのうちに……。

ぼくは、たまきたちに視線を戻す。

ちょうどメイジ・アラクネのもとに辿り着いたたまきが、白い剣を振るって、このモンスターをローブの上から切り裂くところだった。

メイジ・アラクネは悲鳴をあげ、距離を取ろうとするが……。

「エレクトリック・スタン」

ミアの麻痺魔法が、メイジ・アラクネの動きを拘束する。

たまきは、裂帛の気合のもと、剣を振りおろす。

メイジ・アラクネは、それでも……しぶとく身を転がす。

蜘蛛人間の左腕が飛んだ。

青い血が舞う。

たまきは追撃しようと、剣を折り返し……。

「たまき、リフレクションに気をつけろ!」

ぼくはとっさに、叫ぶ。

ほぼ同時に、メイジ・アラクネが残る右手を前に突き出した。

だが。

「わたしだって!」

たまきは、ほんのわずか、剣を振るうタイミングを変化させる。

踏み込みを半歩、ずらす。

芸術的な牽制動作だった。

たまきの誘いに乗り、メイジ・アラクネが、己の正面に虹色のバリアを出現させる。

ぼくのそれと同様、バリアが出現している時間は、ほんのわずか。

そのわずかを逃してしまえば、メイジ・アラクネにはもはや、身を守る術など残されていない。

たまきの、今度こそ完璧なタイミングで放たれた横薙ぎの一撃が、メイジ・アラクネの首を刎ね飛ばす。

メイジ・アラクネは青い宝石を三個、落とした。

ここで、ルシアがレベルアップしたと告げる。

白い部屋へ赴く。

今回はスキルポイントも温存だ。

とりあえず、たまきを褒めておく。

「もっと褒めていいのよ、カズさん!」

頭を撫でてやると、たまきは陽気に笑う。

「でも、くれぐれも注意は……」

「わかっているわ、気をつける!」

本当にわかっているのかなあ。

……不安だ。

まあ、細かいことを気にしてばかりでも仕方がない。

すぐ白い部屋を出る。

ルシア:レベル12 火魔法6 スキルポイント3

もとの場所に戻ったすぐあと。

ルシアは、もう一体のメイジ・アラクネを追いつめるべく、魔法攻撃でファイア・エレメンタルをサポートする。

フレイム・アローで傷を与え、フレイム・バインドで炎の輪をつくり出して拘束する。

メイジ・アラクネも、こちらに向かって魔法を放つ。

ぼくらの足もとの木の板から影の触手が伸びてくる。

ぼくは慌てて空に舞い上がるが、ルシアは触手に全身をからみとられ、悲鳴をあげる。

悶える姿が艶めかしい……ってそうじゃなくて!

「アリス、ディスペルだ!」

「あ、はいっ」

アリスが、治療魔法のランク3、ディスペルを放つ。

これは場にかけられた魔法を除去するという、いわばカウンター魔法だ。

影の触手は、アリスの放った浄化の光によって消滅する。

さて、と残る一体のメイジに視線を向ければ……。

もはや守る者もなく、孤立したそいつは、ファイア・エレメンタルの攻撃を防ぎきれていない。

「ん。こっちにも、エレクトリック・スタン」

なおかつ、ミアもサポートを入れている。

そして……一体目を倒したたまきが参戦する。

こうなると、増援が足止めされているメイジ・アラクネには、もはやまったく勝ち目がない。

最後には、やはりこちらに対してもたまきがトドメを刺す。

「なんだか、わたし、ほとんど仕事してませんけど……」

アリスが苦笑いする。

「レベルアップです」

「だね!」

「ん」

また三人同時にレベルアップか。