軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第89話 神話の怪物を討伐せよ

ぼくはミアと別れ、ケンタウロスナイトを駆って、地面に墜落したアリスのもとへ向かう。

というか、ケンタウロスナイトの胴体にしがみついて、急降下する彼にすべてを任せるんだけど。

ウィンド・エレメンタル二体もぼくについてくる。

ミアは、孤軍奮闘するたまきの援護だ。

まずは念のため、とばかりに地魔法ランク1のアース・バインドを放ち、草を生き物のように動かしてメキシュ・グラウの足首を絡め取ろうとするが……。

メキシュ・グラウが、咆哮を放つ。

たまきの身体が、鞠のように跳ね飛ぶ。

蠢いていた草はすべて、一瞬にして吹き飛ばされた。

ああ、やっぱり持ってるか、アレ。

解呪の咆哮。

しかもメキシュ・グラウの咆哮は、かつてなくすさまじかった。

かなり離れていたぼくですら、耳鳴りがするほどだ。

これ、間違いなくジェネラルやジャイアントより強力な解呪……だよなあ。

具体的にこの能力がどこまで効果を及ぼすのかは、わからない。

ジェネラルは風魔法ランク2のサイレント・フィールドを打ち破っていた。

ジャイアントも似たようなことをやっていたけれど、地魔法ランク4のストーン・バインドは、あれだけじゃ破れなかった。

このメキシュ・グラウにストーン・バインドをかけてみたいところだけれど、あいにくと周囲は一面の草原だ。

試すなら、風魔法ランク5のポイズン・スモッグとかなんだろうけど、あれは周囲を巻き込む。

いまはたまきが接近戦を挑んでいるから……。

あ、いや、そのたまきは遠くに吹き飛ばされていたんだっけ。

「ポイズン・スモッグ」

ミアはここぞとばかり、敵の周囲に毒の雲をつくり出した。

メキシュ・グラウの身体が気味の悪い煙のなかに埋もれ……。

ケンタウロス型の巨人が、咆哮を放つ。

毒雲は、一瞬にして四散した。

やっぱり、これも効かないか……。

ランク5でも効果がないとなると、もうなにをやっても無駄だろう。

ミアは仕方なく、ライトニング・アローによる直接攻撃やエレクトリック・スタンによる補助に切り替える。

そうこうするうち、ぼくはアリスのもとへ辿り着いた。

アリスの落下地点は、そこだけ地面が深くえぐれ、黒い土が露出している。

少女は半身を起こし、腕と足に治療魔法をかけていた。

ジャージがあちこち破けている。

上半身も、下半身も。

ひどいありさまだった。

ぼくはアリスのそばにケンタウロスナイトを着地させる。

ケンタウロスナイトの背から飛び降り、アリスに駆け寄る。

「もうだいじょうぶです、カズさん」

アリスはぼくを見上げて、申し訳なさそうにする。

「ちょっと、足の骨が折れて、飛び出ちゃって……。すごく痛くて、まずは治療しないと足手まといになるって思ったので」

「そういうのは、さっさと治療していいから!」

あと、リアルに描写しなくていいです。

聞いているだけで痛々しいよ……。

見れば、たしかにジャージで破けている部分は、腿のあたりだった。

当然、血まみれである。

しかし、複雑骨折とか……ヤバいな。

邪雷斬。

名前の通り、まともに食らうと壮絶な威力のようだ。

アリスに命があって、本当によかったと思う。

薄いバリアとはいえ、とっさに張れたのはよかった。

とにかく、このメキシュ・グラウというモンスター、これまでとは火力が桁違いである。

まだリフレクションとかは試してないけど、タイミングを外したらと思うと、ちょっと試す気力もなくなる。

そもそも、リフレクションで弾き返せるかどうかもわからないし。

しかも、でかいくせに動きが素早い。

瞬時に後ろへ跳躍し、一気に突進してアリスを吹き飛ばしたときには、心臓が止まるかと思ったほどだ。

四本足だから、突進の勢いにはとてつもないものがある。

あげく、腕が四本もあるから、遠近両対応である。

とにかく隙がなく、決定打を叩きこむのが難しい。

いやー、さすがに神話に出てくるだけある。

というか、その神話とかで、どうやってこいつを倒したんだろう。

あの兵士に聞いておけばよかった。

いや、倒し方とかがあれば、教えてくれているか。

詳しく記されていないか、あるいはちから押しで英雄とか勇者とかそういう奴が倒しちゃうのか。

どちらにしても、いまの役には立たないことなのだろう。

そう割り切ることにして……。

さて、ならばぼくたちなりの攻略法を編み出さなきゃいけない。

「もう痛みはないか」

「は、はい。ほとんど、だいじょうぶです」

ぼくはアリスの瞳をじっと覗き込む。

あ、わずかに怯んだ。

「痛みが消えるまで、ヒールして。それまでの間にやせ我慢したら、あとで罰ゲーム」

「え、あの、その……っ、罰ゲーム、ですかっ」

アリスは慌てる。

なぜ顔を朱に染めますか、お嬢さん。

きみまでミアのようになったら、お兄さん泣いちゃうよ。

それはそれとして、彼女の身体が万全であるというのは、作戦を立てる上で最重要のことだ。

いまばかりは、しっかりと治療に専念してもらう。

そのうえで、ぼくの言葉を聞いてもらおう。

「実は、ミアは切り札を隠し持っている。一度しか使えない奇襲になるけど、でもその一度で、勝負を決めたい」

ちらりと戦場を仰ぎみれば、たまきが傷だらけになりながら、メキシュ・グラウに必死で食らいついていた。

もうじき、ヘイストが切れるかもしれない。

フライはまだだが、それも遠くないだろう。

最悪でも、フライが切れるまでに決着をつける必要があった。

一度集まって、再度、これらをかけ直すような暇はないだろうし、敵がそうさせてはくれないに違いない。

ぼくは淡々と、アリスに作戦を説明する。

といっても、やることは単純だ。

ミアの魔法で不意を突く。

相手の体勢が崩れたところで、一気呵成に攻め立てる。

ただそれだけである。

アリスが、治療魔法をやめ、「もうだいじょぶです。……本当に」と立ち上がる。

ぼくは、彼女の目を見て、よしとうなずいてみせる。

ああ、なんでぼく、こんなに偉そうなんだろう。

いや単純に、アリスが無茶しないか心配なだけなんだけど。

いまこの瞬間にも、たまきが傷ついている。

ミアが懸命に戦っている。

アリスは、彼女たちが心配で気が気じゃないのだ。

いまも、ぼくを見ながらも、そわそわしている。

はやく戦いに復帰したいのだろう。

「ケンタウロスナイトの背に乗って。近くまでは一緒の方がいい」

「は、はいっ」

ぼくはアリスと共に、ケンタウロスナイトに騎乗する。

ぼくが前で、アリスが後ろだ。

この方が、いつでも彼女が離脱できるからだ。

アリスは胸をぎゅっと押し当て、しがみついてくる。

豊満な胸もとが、ぼくの背中を圧迫して……いやほんと、それはどうでもいい。

もう一度いおう、それはどうでもいい。

念のため、ということでぼくはアリスにヘイストをかけなおす。

ケンタウロスナイトが空に舞い上がる。

「タイミングは一瞬、機会は一度だけ。それでダメだったら、一度撤収だ、いいね」

「で、でも、それじゃ、丘の向こうにいるひとたちは……」

「見捨てて逃げる」

ぼくは、はっきりとそう宣言する。

アリスが息を呑む。

でもこれは、譲れない。

勝ち目がないのにこれ以上、戦う意味はない。

だから一度だけ、博打を仕掛けて、それでダメならいかなる犠牲を払ってでも逃げる。

ぼくはもう、仲間の誰ひとりとして傷ついて欲しくない。

ましてや、死ぬなんてもってのほかだ。

そのためなら、赤の他人をいくらだって生け贄に捧げてみせよう。

アリスはためらったあと、うなずいた。

ぼくの気持ちを汲んでくれたのだろう。

「勝てばいい、ってことですね」

「いや、うん、まあ、そうだけど」

あんまり汲まれていなかった。

まあ、いい。

彼女のいう通り、勝てばいいんだ。

ケンタウロスナイトが、連続して攻撃魔法を撃ち出すミアのそばを通り過ぎる。

かなり顔色が悪い。

そうとうに魔法を連発しているから、疲れが出ているのだろう。

どのみち、この戦い、そう長くは続けられないということか。

「ミア!」

たまきの斜め後ろ、五十メートルほどの位置を維持する彼女を追い抜きざま、ぼくは叫ぶ。

「やるぞ、タイミングを合わせろ!」

「ん!」

たまきは、ぼくたちの声が聞こえていたのだろう、なにかすると確信したように、いっそう激しくメキシュ・グラウに剣を打ちおろす。

四本腕の巨人は、激しい反撃でたまきの身体を吹き飛ばし……。

いまだ。

「ミア!」

「グラビティ」

ミアが、風魔法ランク7、グラビティをメキシュ・グラウめがけて放つ。

いわゆる重力魔法だ。

この大型モンスターの周囲で、重力が変化する空間が生まれる。

メキシュ・グラウの体重が。一気に十倍以上となった。

巨人の動きが鈍る。

この魔法、効果は十秒ほどしかないが……。

草が地面にべったりと貼りつく。

周囲の地面が陥没する。

メキシュ・グラウは低く呻き、そして……。

咆哮をあげる。

身も凍えるような巨人の雄たけびは、しかし、超重力になんの影響も及ぼさなかった。

よしっ、ランク7のこれは解呪できない!

それでもメキシュ・グラウは渾身のちからを振り絞って、ちからの圏内から離脱しようと暴れ……。

もうすぐ、十秒。

「いまだ、ミア!」

「ん。リヴァース・グラビティ」

グラビティと対になる風魔法ランク7、リヴァース・グラビティが放たれる。

こちらの効果は、グラビティとまったく逆の空間を生み出すというものだ。

つまり……。

メキシュ・グラウの巨体が、ふわりと浮きあがる。

全力で超重力の戒めから逃れようとしていた巨人は、おおきく体勢を崩して、空中で回転をはじめる。

「アリス!」

「はいっ!」

ケンタウロスナイトから飛び出したアリスが、槍を構えて矢のように突進する。

彼女には、あらかじめこれらの魔法について教授してあった。

飛行魔法による三次元移動もあっという間に身につけてしまったアリス。

彼女だからこそ信じられる、この特異空間、重力異常空間での機動。

向かってくるアリスに対し、メキシュ・グラウは炎の矢を放つ。

だが、いまこの大型モンスターの身体は、複雑にスピンしている。

狙いはおおきく外れた。

ぼくたちのはるか背後で、大爆発が起こる。

ならばと、巨人は剣に雷撃をまとわりつかせ、一閃する。

さきほどアリスにひどい怪我をさせたその一撃は……。

「テンペスト」

ミアが、スピンするメキシュ・グラウめがけ、暴風を放つ。

普段ならば、そんなものを受けても微動だにしないはずだが、いまこのモンスターのまわりは無重力になっている。

メキシュ・グラウの身体が反転し、雷撃は見当違いの方向にいってしまう。

無論、近くのアリスも暴風の煽りを受けるが、少女はちょっと体勢を崩しただけですぐ持ち直し、やや下方から巨人に突っ込む。

そして。

アリスは裂帛の気合のもと、矢のように、一直線に突き進む。

身体と槍を一体として、メキシュ・グラウの剣を持つ腕の付け根に、体当たりする。

巨人が、苦痛の呻き声をあげる。

剣を取り落とす。

「たまき!」

「うん、任せて!」

アリスが一撃を与えたことで、敵の攻撃が止む。

この隙にたまきが肉薄し、白い剣でメキシュ・グラウの胸をおおきく切り裂く。

青い鮮血が飛び散る。

それからは、一方的だった。

メキシュ・グラウは接近したふたりに対し、満足に身動きもできないまま一方的に斬られ、突かれて……。

そのころにはリヴァース・グラビティの効果はとっくに切れていたのだけれど、地面に転がってもなお、敵は混乱から立ち直れなかった。

何度目か、あるいは何十度目かの傷が、致命傷となった。

断末魔の悲鳴をあげ、巨大なモンスターは地面に倒れる。

そのまま動かなくなり、すっと身体が消えていく。

あとに残ったのは、黄色い宝石が二個。

同時に、ぼくたちは白い部屋に移動する。

どうやら、アリスとたまきが同時にレベルアップしたようだ。