軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第84話 城塞都市の戦い8

桟橋に戻ってすぐ、ミアが子供たちにいくつか訊ねる。

現在の状況について、もう少し聞きだす必要があるのだ。

ぼくはその間、ケンタウロスナイトの背から降りて、周囲を警戒する。

って、この場所は守りにくいな……。

白い部屋で打ち合わせをしていると、こういう待機場所についての認識はおろそかになりがちだ。

「どこか建物のなかに移動しないか。頑丈そうな建物とか……」

といってから、ジャイアントたちのパワーを思い出す。

あの馬鹿力に耐えられる建物なんて……ないよなあ。

「どこでもいい、目立たない建物に入ろう。敵に見つからないうちに……」

「見つかったぞ、主よ」

ケンタウロスナイトが告げ、ぼくの命令を待たず矢を射た。

ホブゴブリンが一体、二十メートルほど先の物陰で倒れる。

仲間が殺されたのを見て、残る三体がいちもくさんに逃げていく。

うわあ、よく統制されているなあ。

こいつら、偵察隊なんだ。

無理せず、本隊に報告を持っていこうとしている。

どうする、追うべきか。

ほんの少し迷ったすえ……。

「追わなくていい。さっさと移動しよう」

ぼくはそう告げる。

追撃で時間を食うより、その間にさっさと隠れてしまった方がいいという判断だ。

逃げるホブゴブリンたちが、逃走経路の先に罠を張っているという可能性も考慮している。

子供たちを連れて、少し離れた二階建ての家に入る。

出入り口が表と裏にあることが決め手だった。

屋根裏から飛行魔法で逃げるという手も使える。

ミアが子供たちにいろいろ訊ね、わかったことは以下の通り。

・この町の名前は、ヘシュ・レシュ・ナシュ。これは白い部屋で聞いたものと同じだ。

・モンスターたちの軍隊は、魔王軍といわれている。魔王とはなにか、という質問には、モンスターの王さまじゃないの? と疑問形で答えられてしまった。つまりよく知らないのだろう。翻訳ミスがあるのかどうか、微妙なところである。

・この国のこと、世界のことについてはよく知らないらしい。ついでにいえば、学校に通っているわけでもないらしい。無学かー、まあそりゃそうかー。

・この一年ほどで、あらゆることが変わったという。ひとの行き来が少なくなり、隊商が少なくなったから物資が値上がりした。モンスターが増えた。そしてついに、この町をモンスターの集団が襲った。なるほど、この世界、最初からこんな状態じゃなかったってことか。

・昨日、この町の兵士のうち、二十名ほどが残った。残りは領主と共にいなくなった。領主は外に打って出てモンスターを迎撃する、と残った兵士の指揮官から説明があった。その後、モンスターの集団がやってきた。町の人々は、自分たちが囮にされたことに気づいた。

・町に残った兵士は、領主から遠ざけられていた派閥の者たちらしい。まあそうだよなー。ちなみに隊長は、壁面を巡る攻防戦で戦死したようだ。いまは指揮を執る者もいないとか。まあ、いたとしてもなんの役にも立たないだろう。で、隊長が死んで士気の落ちた兵士のひとりが領主の作戦について漏らしているところを、子供たちは立ち聞きした。

・子供たちの親は、すでに戦死しているという。だから、ほかの大人には相談せず、自分たちだけでも逃げようとした。でもすでに、町のなかのあちこちにホブゴブリンがいた。たまたま通りがかったミアが彼らをさらわなければ、とっくに殺されていただろう。

・領主の屋敷は町のなかにおける簡易な砦となっているため、残った住人すべてがそこに集められている。町に残った、というのは、モンスターの集団の姿が見えたとき町から逃げ出した者が相当数いたから。彼らがどうなったかは誰も知らない。

・いま領主の屋敷に残っている住人は百人以下。ほとんどは女と子供、あと老人。動ける男は町を守るための戦いに駆り出されたからだ。ぼくがカラスによる偵察のときに見た、不揃いの装備を持った者たちが、こういった臨時の兵士だったのだろう。そうして水増しして、百名とちょっとの軍隊ができあがり……そして全滅した。

ざっとこんなものか。

ぼくは、ちらりと腕時計に視線を移す。

洞窟のなかからこの地方に転移してから、すでに一時間と二十分が経過していた。

まだ八十分、というべきか。

召喚魔法で援軍を呼ぶにしても、あと四十分。

それまで、領主の屋敷は保たないだろう。

となると、それまでに洪水作戦が行われるだろう。

執事とメイドを使って住民を助けるとしても、領主の屋敷に迫るモンスターたちをなんとかする必要がありそうだ。

そのうえで、空を飛んで逃げる。

モンスターたちは濁流に呑まれ、囮役たちは生き延びる。

上手くいけば、の話だ。

そもそも、住民を説得しなきゃいけない。

子供たちは、ぼくのことを「モンスター使い」と呼んでいた。

まだちょっと、ビビられている。

領主の屋敷に兵士がいるとして、その兵士に話を通せば……できるかなあ、うーん。

いや、考えてばかりでも仕方がない。

こうしている間にも、モンスターたちは町の奥に向かって進軍しているはず。

いくら屋敷の守りが堅牢でも、町の外壁すら壊したジャイアントの前には、ひとたまりもないだろう。

カラスを偵察に放ち、外にホブゴブリンがいないことを確認して全員で飛びだす。

すでにフライは切れているから、ウィンド・エレメンタルが周囲を偵察して、敵がいないことを確認しながら進む。

それでも、町にあふれたホブゴブリンとの遭遇戦は避けられなかった。

やむをえず、二度ほど戦う。

合計で五体のホブゴブリンを倒し、ミアが一度、レベルアップする。

スキルポイントは温存して、もとの場所にすぐ戻る。

ミア:レベル18 地魔法4/風魔法6 スキルポイント5

幸いにして、この二度の遭遇戦で逃がしたホブゴブリンはゼロ。

ケンタウロスナイトが一気に距離を詰めてくれるおかげで、非常に助かっている。

彼、剣や弓の腕もたしかにすごいけど、なにより機動力が最大の武器だ。

そんなこんなで、慎重に進むこと五分ばかり。

町の中央よりやや東よりに存在する広い屋敷の壁が目の前に現れる。

もっとも、その壁はすでに崩壊していた。

なかを覗けば、先走ったジャイアントが二体、屋敷の庭で生き残った兵士に襲いかかっている。

幸いにしてホブゴブリンの姿がない。

これは……チャンスか?

「仕留めよう」

「ん。任せて」

ウィンド・エレメンタル二体には、周囲の警戒を任せる。

ぼくはケンタウロスナイトにヘイストをかけた。

「頼んだぞ」

「任せられよう、主」

ケンタウロスナイトが、兵士の身体をふたつに引き裂いたばかりのジャイアントに突進する。

ほぼ同時に、ミアが魔法を放つ。

「ストーン・バインド」

庭に敷き詰められた置き石に、一体のジャイアントの足が縛りつけられる。

その間に、ケンタウロスナイトが別の一体と接触。

ランスの穂先がジャイアントの足首に深く突き刺さる。

ジャイアントは苦悶の声をあげ、めちゃくちゃに手を振りまわす。

しかしこのときすでに、ケンタウロスナイトは素早く離脱している。

反対側にまわりこみ、さらに一撃。

ジャイアントが、がっくりと膝を折る。

その首筋に、鋭い突進から、ランスの一撃が突き刺さる。

間違いなく致命傷だった。

ヘイストやほかの付与魔法の効果があるとはいえ、圧倒的なちからの差でもってジャイアントを屠り去る。

そこで、もう一体のジャイアントが咆哮をあげる。

無理矢理に置き石を引きずりながら、ケンタウロスナイトとの距離を詰める。

ケンタウロスナイトは、まだ一体目のジャイアントからランスを引き抜けていない。

「ミア、援護」

「ん。ライトニング・アロー」

雷の矢が六本、ジャイアントの身体に吸い込まれる。

ジャイアントの全身が痙攣する。

強い痛みに、一瞬、ひるんだようである。

その一瞬で充分だった。

ケンタウロスナイトは巨人の死体からちからずくでランスを引き抜き、一度距離をとる。

ジャイアントは追いすがろうとするが、その前にケンタウロスナイトの突進が始まる。

彼我の距離は一気に縮み、交差。

ジャイアントは、ランスが刺さった膝を押さえて地面に倒れる。

ケンタウロスナイトは引き返してきて、うつぶせのジャイアントの背に飛び乗り、首筋に剣で一撃。

ジャイアントは、断末魔の悲鳴をあげる。

戦闘終了だった。

だいぶ手際がよくなったなあ。

手近な建物の上から周囲を観察していたウィンド・エレメンタルがぼくのもとに戻ってくる。

「残る二体のジャイアントが、きます」

「ホブゴブリンの姿は」

「どうやら周囲に散っていたようです。隊長らしき者が、通りふたつ先で部下を集合させています」

ああ、そうか。

敵にとってぼくたちは、ジャイアントすら刈るおそるべき正体不明の相手、である。

部隊を集合させ、組織的にぼくたちに当たろう、ということだろう。

だけどジャイアントは、そこまで考えていない。

完璧に連携が取れているわけではないのだろう。

これはチャンスだ。

「先にジャイアント二体を仕留める。ウィンド・エレメンタルは、ホブゴブリンがきたら合図を」

と、そのジャイアント二体の動きが止まる。

ウィンド・エレメンタルによれば、隊長ホブゴブリンのそばにいたメイジが、なにやら魔法を行使したという。

「たぶん、ウィスパー・サウンド」

ミアがいう。

ウィスパー・サウンドは、風魔法ランク3だ。

離れた相手に言葉を届ける魔法だが……。

なるほど、軍隊にとっては非常に便利な意思疎通手段か。

携帯電話みたいな使い方ができるもんな。

今回はそれで、ジャイアントに隊長の命令を伝えたか。

って、それ、すごいヤバいんですけど……。

「カズっち、すごい、ヤバい。どうする?」

「わかってる。ミア、子供たちを連れて、兵隊さんでも住民のまとめ役でも、とにかく交渉できる相手を見つけて」

最悪、彼らは見捨ててぼくたちだけ逃げた方がいいかもしれない。

そう思ってしまうくらい、このホブゴブリンの軍隊ってやつは……危険だ。

「きみが説得するんだ」

ミアは少しためらったあと、「ん」とかたい表情でうなずいた。

子供たちと共に、かけ足で領主の屋敷の敷地内に入っていく。

さて、こうなると……。

ぼくだけで、少し時間を稼ぐ必要がある、かなあ。