軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第82話 城塞都市の戦い6

メイジは仕留めたものの、あちこちに分散したホブゴブリンたちは、完全にぼくらに狙いをつけていた。

四方八方から、矢が飛んでくる。

しかもぼくらは、現在、分断されている。

「いちど、下に! エレたちはミアを守って、彼女の命令を聞いて! 合流は……」

ぼくはケンタウロスナイトの背中から、ちらりと周囲を見渡す。

ぱっと目に入ったのは、町の反対側、北の端にある桟橋だった。

つーか、あれ、川なんてあったっけ。

と思ってよく見てみれば、川が流れていたのはだいぶ昔のようで、いまは桟橋の向こう側に外壁が建てられている。

北の壁だけ、苔の量が少ないように思えた。

あそこが一番新しいのか。

なら、あっちは防備もいちばんしっかりしていたのだろう。

だからこそ、ホブゴブリンたちもあちら側から攻めなかったのか。

合流地点は、あそこでいいか。

とはいえ、いまはメニー・タンズがかかっている。

具体的に単語を叫ぶと、敵にも気づかれる。

「ミア、集合場所は、レベルアップしてから伝える!」

「ん、りょーかい」

ウィンド・エレメンタルたちがミアのもとへ飛んでいく。

彼女たちには、ミアが詳細を話すだろう。

ぼくはケンタウロスナイトに指示して、適当な路地に着地させる。

「北へ。ついでにホブゴブリンを二体ほど、倒したい」

「了解した、主。振り落とされぬよう」

いわれた通り、ぼくはケンタウロスナイトの背にしがみつく。

ケンタウロスナイトが猛然と走り出す。

角を曲がり、そこそこ広い通りに出る。

ホブゴブリンの一体が、ちょうど屋根の上でぼくたちに背を向けていた。

こちらの動きが素早すぎて、対応しきれていないようだ。

ケンタウロスナイトは、ランスを腰のフックにひっかける。

ぼくは素早く、背中の弓と矢を渡す。

「感謝を、主」

半人半獣の戦士は、弓弦を引き絞り、矢を放つ。

その矢は、ようやく振り向いたホブゴブリンのかぶとの奥、左目のなかに吸い込まれた。

一撃で絶命させる。

「お見事!」

思わず、叫んだ。

ケンタウロスナイトは少し誇らしげに鼻を鳴らしたあと、矢筒から矢を一本抜いて、加速する。

ぼくは彼の背中にしがみつく。

通りひとついったところで、十メートル先の物陰に隠れていたホブゴブリンが姿を見せ、矢を放ってくる。

だが高速で走るこちらに対して、おおきく狙いがそれた。

ケンタウロスナイトの反撃の一射が、このホブゴブリンの兜を弾く。

ホブゴブリンがあおむけに倒れる。

ケンタウロスナイトはそのまま突進し、ホブゴブリンの頭を前脚で踏みつぶす。

骨が砕ける音と共に、身体がふわりと浮く。

ケンタウロスナイトは勢いを落とさず、駆け抜けていった。

ぼくが振り返ると、致命傷を負ったホブゴブリンが消えるところだった。

白い部屋へワープする。

ミアがレベルアップしたのだ。

この白い部屋でなら、誰に内緒話を聞かれることもない。

ぼくはミアに、集合場所は桟橋だと告げる。

「桟橋……」

ミアは小首をかしげた。

「川がなくなったのに、町は存続している?」

「鳥瞰偵察のとき、もっと北の方に川があったと思う。ひょっとしたら、川の流れを変えたのかもね。川があると守りにくいとかで」

「籠城したとき、水に困るよ?」

うーん、そうだよなあ。

なんでだろう。

ぼくは首をかしげ、ひとつの可能性に思い至る。

「水を召喚できるとか?」

「あ、そか。魔法」

うん、ぼくたちの世界の常識で測っちゃいけないこともあるかもしれない。

ぼくが水や食糧を召喚できるんだ。

この世界のひとが召喚できてもおかしくない。

東に山があったように思うから、以前はそこから水が流れてきたのだと思う。

なんらかの段階で、それがいらなくなったとか、だろうか。

全部推測にすぎないけど。

「ときに、カズっち。いまさらだけど、使い魔、出して。いろいろ聞きたい」

「あー、そうだなあ。話は聞いておきたいなあ」

どの使い魔を召喚するか、考えたすえ、ぼくは覚えたばかりの召喚魔法ランク7、サモン・サーヴァント・チームを唱える。

執事やメイドの一団を召喚する魔法だ。

はたして、ピシッと燕尾服を着こなした初老の執事たちと、英国風メイド服を着た若いメイドたちが姿を現す。

あわせて百人。

「多すぎだろ!」

ぼくは思わず叫んだ。

白い部屋のおおきさは、だいたい教室ひとつ分くらいだ。

さすがに百人も入ると、手狭である。

幸いにして、必要な人数を残して送還できるらしい。

せっかく来ていただいて申し訳がないけれど、執事とメイド、それぞれ三人ずつ残し、還ってもらった。

残った六人に訊ねる。

「あなたがたは、どんな場所から召喚されて、死ぬとどうなるんですか」

「わたくしども使い魔は、いわばかりそめの身体と魂を持つ存在です。普段どこにいる、というわけではございません」

執事が礼儀正しく答えてくれた。

ぼくはミアを見る。

ミアは口もとに手を当て、「フェイトのアレっぽい感じ?」と呟いていた。

アレってなんだ、アレって。

いやだいたいわかるから、説明しなくていいけど。

「わたしも、質問、いい?」

「ああ。みんな、ミアの質問にも答えてやってくれ」

「そこのメイドさん、カズっちがエッチしたいっていったら、性的なご奉仕とかOKなの?」

「はい、もちろん……」

ぼくはミアの頭を軽くコツンと叩いた。

メイドさんには、そういう質問には答えなくていいと告げる。

「おまえは、本当にもう……」

「カズっちが本当に知りたいことを代弁してあげただけなのに」

「あいにくと、そのへんは間に合ってますので」

この場にアリスとたまきがいなくてよかった。

いや、すでに関係を持っている女性がふたりもいる時点で、だいぶアレっていうかソレなんだけど。

というかメイドさんの答えを聞いちゃった時点でちょっと胸が高鳴ったのは自分でも……いやこれは仕方がない。

気を取り直して、本格的な質問に移る。

まずこの世界のことについて訊ねた。

答えは「わからない」だった。

別に生前、この世界で暮らしていた魂がどうのという話ではないようだ。

じゃあ角度を変えて、さきほどミアがケンタウロスナイトから聞きだした専従契約について聞いてみよう。

「専従契約は、個にして集合であるわれわれに特定の人格を与え、使い魔として召喚するための契約です。契約の術式を手に入れ、特別な魔術触媒を用いることで契約が可能となります」

「契約の術式って、どうすれば手に入るのかな」

「それはわかりかねます」

ですよねー。

いやまあ、必要なもの、欠けているものが判明しただけで朗報だ。

つまりこの件に関しては保留にしなきゃいけないってことだけど。

「ちなみに、あなたがた執事やメイドは、戦えたりするんですか」

「いいえ、わたくしどもは、いっさい戦闘術を学んでおりません。お役に立てないでしょう」

まあ、じゃないと一度に百人も召喚できないよなあ。

いちおう、瓦礫を片づけたりするだけのちからはあるらしい。

ちから仕事はできても戦いでは無力っていうのは、なんか違和感があるけど……そういう制約も含めて、使い魔なのかな。

とりあえず、自己申告のまま、戦闘用途では召喚しないことにしよう。

ランク7の使い魔だから、MPを49点も使うしなあ。

じゃあどんな用途なら49点ものMPを使えるのかって話になるけど。

白い部屋で贅沢する用?

マジでそれくらいしか思いつかない……。

いちおうこの魔法、同じランク7のサモン・フィーストとセットになっている。

こちらは、いわば百人分のパーティ・セットだ。

豪奢なテーブルと椅子、料理とお酒、そのほか贅沢なパーティに必要なものがすべてそろったお得な宴会セット、いまならたったのMP7点というわけである。

執事&メイドと宴会セット……。

なんだこの召喚魔法ランク7って……。

ま、まあいいや。

ぼくは執事たちに待機するよう命じて、ミアと今後の相談をする。

まず早急に合流するとして、次にどうするべきか。

「わたしたちを追って、敵の戦線は伸びきっているはず。追いかけて来るやつらから、始末していく?」

「あまり深追いするのはな……。そろそろ残りのジャイアントが来るんじゃないか」

「やってくるジャイアントが一体なら、倒そう。二体なら、片方を足止めする。三体以上なら、逃げる」

まあ、そのあたりが妥当かな。

結局のところ、ゲリラ戦術で時間をかけて間引いていくしかない。

「町の兵士とか、中央の方に集まっていたひとたち、まだ無事かなあ」

「囮として、がんばって欲しい」

見たまえ、諸君。

これがさきほど「英雄になりたい」といっていた者の吐く言葉である。

こいつ、とことんヒーロー性とかに欠けるやつだなあ。

ジト目でミアを見る。

ミアとしても、ぼくの視線の意味を理解したのか、プイとそっぽを向く。

「どうせわたし、品性が下劣」

「いまこの状況で、マキャベリストなのはいいことだよ。少なくとも、それってぼくの命を助けるために全力を振り絞っているってことだ」

ミアは「じゃ、そういうことにしておく」と、はにかむように笑う。

ミア:レベル17 地魔法4/風魔法6 スキルポイント3

ミアがエンターキーを叩く。

ぼくたちはまた、死闘の町に戻る。

互いに別の場所に。