作品タイトル不明
第80話 城塞都市の戦い4
ひとまずは状況の確認だ。
ぼくとミアは二階建ての建物の屋根にあがり、遠くを観察する。
残る四体のジャイアントが、さきほどまでぼくたちがいたあたりに進撃していく。
邪魔な建物を破壊し、道幅を無理矢理に広げている。
おそらくは、あのジャイアントたちの足もとで、ホブゴブリンたちが整然と隊列を組んでいるのだろう。
「あのまま迎撃を続けなくて、よかったな」
「ん。一撃離脱。移動し続けないとダメ」
ぼくたちはひとまず安堵し、では、と次の作戦を考える。
「できれば分断して各個撃破、といきたいところだけど」
「現地のひとたちが、無謀な突撃をしてくれれば……」
ミアが物騒なことをいう。
さっき、英雄になりたい、といってたひとがコレですよ。
いやまあ、彼女の場合、いざ作戦立案となるとゲームっぽい合理的思考がそれまでの感情的な思い入れにとってかわっちゃうんだろうけど。
じつに頼もしいことではある。
彼女が行きすぎた合理的思考に堕するなら、ぼくが声をかけてやればいいだけのことだ。
ぼくたちは、お互いに互いの欠点を補える。
「でもたしかに、現地のひとたちと協調できれば、少しは楽になりそうだね」
「そのためにも、メニー・タンズ。……あとは、わたしがレベルアップするだけ」
ミアベンダーを使えるのはレベルアップして白い部屋に行ったときだけだ。
次にレベルアップが近いのは、ミアである。
ざっと経験値を計算した限りでは、あとホブゴブリン三、四体程度だろうと思われた。
と、敵軍に動きがある。
狼の遠吠えがあがり、狭い路地を抜けて、なにか灰色の生き物がものすごいスピードでこちらに近づいてくる。
「遠くでちらりと見た、あの獣か」
ぼくとミアは迎撃態勢を整えるべく、一度、地上に降りる。
狼らしきあのモンスターが臭いでこちらを追跡してきたというなら、ここで確実に全滅させなければ、今後の作戦行動に支障をきたすだろう。
さっき呼び出したばかりのケンタウロスナイトにキーン・ウェポン、フィジカル・アップ、マイティ・アームの三種の付与魔法をかける。
キーン・ウェポンに関しては、槍と剣と弓の三つすべてだ。
なおQ&Aによれば、弓矢の場合、矢ではなく弓にキーン・ウェポンをかけることで、そこから発射される矢がすべて強化されるらしい。
本当はハード・ウェポンやハード・アーマーもかけてあげたいところだが、ここはぐっとこらえてMP温存だ。
状況によっては、もう一体、このケンタウロスナイトを呼び出すかもしれないし。
はたして、建物の角を曲がって現れたのは、二体の、灰色の毛を持つ狼のようなモンスターだった。
ぼくの使い魔であるグレイ・ウルフよりひとまわりおおきな体躯。
爛々と輝く赤い双眸。
二体が、おおきく吠えて、毛を逆立てる。
そして……。
彼らの全身が、青白く輝く。
あ、これなんかヤバい。
ぼくはとっさに、ウィンド・エレメンタルを前面に立てる。
次の瞬間。
二体の狼型モンスターがウィンド・エレメンタルに衝突していた。
瞬きする間もなく、十五メートルほどの距離を詰められたのだ。
体当たりされたウィンド・エレメンタルが女性の声で悲鳴をあげる。
使い魔たちは、しかしそうして体当たりしてきた狼型モンスターを両手で捕まえている。
おおきなダメージを受け、それでも主人を守るべく、身を呈して狼たちを拘束する。
狼たちの全身が、パチパチと音を立てていた。
静電気、なのか?
だとしたら、いまのって……。
「雷に変化する的な特殊能力で距離を一気に縮めた、みたいな」
ミアが呟く。
「でも、だとしたら、ウィンド・エレメンタルにはあまり効いてないはず。相性的にラッキー」
そうかもしれない。
ウィンド・エレメンタルは、常時レジスト・エレメンツ:風がかかっているらしいのだ。
これはほかのエレメンタルも同様、属性に対応する耐性を保持しているとのことである。
でも、そんな相性のいいウィンド・エレメンタルが受け止めてなお、かなりのダメージを受けているようだった。
それだけのちからがあるモンスターなのか。
だとすれば……ここで、この機会を逃すわけにはいかない。
ぼくはケンタウロスナイトに素早く攻撃を命じる。
ケンタウロスナイトが抜刀し、すれ違いざま、二体の狼型モンスターを切り裂く。
まさに一撃必殺。
ケンタウロスナイトが剣をひと振りするだけで、狼型モンスターは真っ二つに切り捨てられていく。
おそるべきは、ケンタウロスナイトのあまりにも卓越した剣さばきだ。
いやまあ、ランク5の剣術と同等なんだから、当然ではあるのだが……。
二体の狼型モンスターが、露となって消えていった。
あとには、青い宝石がひとつずつ残る。
「ん。レベルアップ」
ミアが告げる。
※
さて、こうして、ようやく。
ぼくたちはメニー・タンズを購入できるようになった。
「どうしようか。これはミアが覚えるか? MPはまだ、そっちの方が余裕ありそうだし」
四属性のランク2の魔法には、レジスト・ウィンドやレジスト・アースのように、ぼくたちにはあまり必要のない魔法がある。
これを潰してメニー・タンズを入れるべきだ、というのがぼくの意見だった。
だがミアは首を振る。
「カズっちは、わたしたちの、リーダー。この魔法は、カズっちが覚えるべき」
なるほど、それも一理ある。
PCに質問したところ、メニー・タンズの効果時間はまる一日、つまり二十四時間であるらしい。
これはレベルアップやスキルのランクを上げても一定だとか。
ちなみに、リード・ランゲージも同様である。
昨日の夜にかけたぼくのリード・ランゲージはまだ効果が続いているということだ。
あれから異世界の文字なんてひとつも読んでないから、関係ないけど。
さて、ぼくがこの魔法を覚えるとなると、なにを変わりに捨てるべきか……。
「サモン・パペット・ゴーレムとか、もういらないかな……」
「ただ戦うだけの使い魔じゃ、インフレについてこられない。燃費はいいけど」
「ランク2のモンスターはさすがになあ」
ランク1のカラスはいまだに色々使えているんだけどね。
ランク3の狼も、たぶん、使いようはあると思う。
でも、ランク2のこれは……なあ。
「これでいよいよぼくたちも、この世界のひとたちと会話できるようになるってわけか」
「未知との遭遇、相互理解、そして育まれる男同士の愛……ふう」
わざとらしく頬を染めるミア。
ぼくはつとめて無視することにする。
「あと、もうひとつ」
「なんだよ」
「たぶん、次の敵が、すぐ来る。迎撃か逃げるか、決めておこう」
ああ、そうか。
さっきの狼たちが案内していただろうからなあ。
敵軍の本来の予定では、狼たちが先制攻撃でぼくたちの出鼻をくじき、遅れてきた部隊が始末をする、というあたりだったのだろう。
でも、ぼくたちの戦力は予想以上だった。
先に先発隊かつ足止め要員の狼たちを殲滅してしまった。
結果的に……。
「各個撃破できそうだよな」
「かも、しれない」
少なくとも、巨人が近づいてくるような音はしていない。
ホブゴブリンだけなら、多少、数が多くてもなんとかなるだろう。
「わたし、風魔法を上げるから、援護の手段も……増える」
「ああ、風のランク6は、ライトニング・アローがあるか」
ライトニング・アローは、風属性ではランク3のライトニング以来となる、直接攻撃魔法である。
雷の矢をランクにつき一本飛ばすという、火魔法ランク2のフレイム・アローと同じような魔法だ。
ランク6でやっと火のランク2と同様の魔法とは、さすが直接攻撃に長けた火魔法というべきか、風が直接攻撃に向かない属性というべきか。
さすがに矢一本あたりの威力はフレイム・アローよりかなり上で、しかもほぼ必中であるという。
別々の目標に雷矢を向けることもできるというから、雑魚散らしにはおおいに効果を発揮するだろう。
「逃げてもいいけど、削れるときに、削れるだけ敵を削っておくべきかな」
「ん。いまはまだ、余裕がある」
ぼくたちは、綿密に打ち合わせを重ねた。
いろいろなパターンを考え、討論のすえ、取捨選択していく。
敵の出方によって、対応策を変える。
これでだいたいはだいじょうぶだろう、という計画ができたところで、ミアのスキルを上昇させる。
ミア:レベル16 地魔法4/風魔法5→6 スキルポイント7→1
ミアがエンターキーを叩く。
もとの世界に戻る。
※
もとの路地裏に戻って、準備を整え、敵の襲撃を待つ。
狼たちが出てきた道は、狭い。
ここから出てきてくれるなら……。
はたして、二体のホブゴブリンが、盾を構えてその狭い道から飛び出してくる。
十メートルほど離れたぼくたちの姿を見て、警告の声をあげる。
次の瞬間、そのうちの一体が喉に矢を受け、倒れ伏す。
弓矢を構えたケンタウロスナイトの、見事な一矢だった。
ここで、ぼくがレベルアップ。
打ち合わせは特に必要ない。
すぐもとの場所に戻る。
和久:レベル23 付与魔法5/召喚魔法7 スキルポイント3
残った一体のホブゴブリンは、仲間がやられたのを見て、一度、細い道に戻ろうとする。
だが盾を構えてじりじり下がったところで、ケンタウロスナイトのもう一射が、腿の肉を貫いた。
ホブゴブリンは、悲鳴をあげて地面に転がる。
それを聞きつけても、残りの敵は現れなかった。
これは……正面突破が危険と考えたか?
ふと気づく。
さっきの警告の声なんかも、メニー・タンズを使っていれば聞きとれたんじゃ……。
ああもう、ぼくのバカ!
なんでこんな簡単なことに気づかない!
ぼくは唇を噛む。
「カズっち、後悔はあと。いまは戦闘に集中」
ミアの叱咤の声で、理性を取り戻す。
そうだ、反省はあとでいい。
ぼくは自分にメニー・タンズを使った。
その直後。
地面に転がっていたホブゴブリンが、ケンタウロスナイトの追撃の矢を受け、断末魔の声をあげる。
「ガルガ・ニグーに栄光あれ! 魔王軍、万歳!」
死するホブゴブリンは、そう叫んでいた。
魔王……軍?
え、なに、あんたらそういう系?