軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 城塞都市の戦い1

相変わらず、といってはなんだけど、ぼくは飛行が下手だった。

旋回すれば方向を見失う。

ふらついて、まともにまっすぐ飛べない。

見かねたミアが、ぼくの手をとって、引いてくれた。

「すまん」

「ん。適材適所。カズっちに運動神経を期待してはいけないかっこ戒め」

なんといわれても仕方がないほど、ぼくの飛行は頼りなかった。

いやほんと、目立つこととMPが心もとないことさえ考えなければ、グリフォンを召喚したい。

いくらぼくでも、使い魔の背に乗っていればだいじょうぶだろうから。

……だいじょうぶ、だよな?

そう思いたいところだ。

それはさておき、ぼくたちは車がゆっくり走るくらいのスピードで、高度を下げて、草原の少し上、高度一メートルくらいを滑るように飛んでいく。

背の高い草が、まるで波濤のように波打っていた。

こんなときでなければ、この飛行を楽しむこともできるのだけれど。

ウィンド・エレメンタル二体とカラスが、ぼくについて飛んでいる。

視線を前に移す。

ぼくたちはいま、南側の丘から北に向かって飛行しているから、敵にとっては逆光となる。

こちらの姿を発見するのが難しいだろう。

そしてぼくたちにとっては、敵の様子をとても観察しやすい。

ぼくは片手で双眼鏡を使って、町の付近の様子を観察する。

壁が破られたのは、町の西側だ。

ジャイアントが壁面にとりつき、よじのぼり、壁の向こう側へ消えていく。

そのついでとばかりに、壁面の周囲にいた兵士を手で払い、地面に叩き落としていた。

六体のジャイアントが通り過ぎたあと、壁面を守る兵士の姿はひとつもなかった。

全滅したのか、逃げていったのか。

あのまま守っていたとしても無駄死にするだけだから、たぶん逃げたのだと思いたい。

好機とばかりに、緑の肌の人型生物が壁面にとりつく。

縄梯子をかけ、垂直な壁面を協力して登っていく。

緑の肌のやつらは、互いに手を貸して、抜群のチームワークを発揮していた。

こいつら、オークよりずっと頭がいい。

まずいな、とぼくは思う。

これまでは、向こうの頭の悪さを利用するかたちで、戦力差を覆してきた。

今回は、いつもと同じとはいかないかもしれない。

いや、いつもと同じ感覚では、間違いなく手痛い反撃を食らうことだろう。

「チュートリアルは終わり、って感じかね」

昨日までの激戦がすべてチュートリアルだったなどと思いたくはないが、いやしかし、それくらいの気構えでいるべきだろう。

いまぼくたちは、ふたりしかいない。

しかも前衛が薄い。

アリスやたまきという切り札がない以上、これまでよりさらに慎重な行動が求められる。

それは必要ならば、戦果を捨てるという判断もする、ということだ。

最悪の場合、この町は見捨て、尻尾を巻いて逃げだすのである。

もちろん、そうはならないよう動いてはいくが……。

「カズっち、少しおおまわりしよう」

ミアが進路をわずかに右へ変えた。

壁の崩落部分からは見えない場所で、外壁にとりつくつもりなのだろう。

見た感じ、もはや壁の上のどこであれ、兵士の姿など見られない。

総動員体制で、内部に侵入した敵を迎え撃っているのか。

それはじつに無謀で、絶望的な戦いだ。

でも彼らにとっては、自分たちの家を守るための戦いである。

慎重に飛んでも、飛行時間は、十分に満たないくらいだった。

ぼくたちは、ついに壁面に辿り着く。

石造りの壁面は、だいぶおんぼろに見えた。

蔦がからみつき、苔むしている。

メンテナンスがしっかりされていなかったのだろうか。

メンテナンスなんて概念すらないのかもしれない。

昔からそこにあって、利用し続けてきただけかもしれない。

近くで見てみれば、壁面のそばは、空堀となっていた。

壁が崩落したあたりでは、事前にジャイアントが投石かなにかで堀を埋めていたのかもしれない。

モンスター軍団はだいぶ計画的にことを進めていたということになる。

さて、壁の向こう側がどうなっているか、だけど……。

一度、カラスとリモート・ビューイングで簡単な偵察を行う。

壁の内側を調べてみる。

ぼくたちがいる壁からすぐ向こう側は、完全に無人だった。

戦いが行われている場所から、かなり遠いせいだろう。

どうやらこちら側には、なんの人員も配置されていないようだ。

これ、敵が陽動とか使ってきたら、どうするつもりだったのだろう。

それとも、陽動なんて絶対にない、という確信があったのだろうか。

「まったく余裕がない、のかも」

ミアが呟いた。

なるほど、その可能性もあるか。

実際、さきほどカラスが鳥瞰偵察をしたときも、兵士の数はそう多くなかったように思う。

具体的に何人、とかはさっぱりだったし、一般人なのか兵士なのかわからない人も多かったけれど……。

というか、兵士たちも服装とかがバラバラだったように思うのだけれど……。

百人以上、二百人以下。

その程度だと思う。

まあ、いまウダウダと考えていても仕方がない。

ミアが自分とぼくにフライをかけなおしてくれた。

ぼくたちは、壁面の上まで飛ぶ。

壁の上につくられた通路に立ち、町を見下ろす。

高い位置から、壁が崩れた方面を見渡す。

そこで、虐殺が行われていた。

六体のジャイアントが、家屋を叩き壊し、バリケードを破壊し、その後ろにいる兵士たちを吹き飛ばしている。

兵士たちも黙っているわけではない。

十数本の矢がジャイアントの一体に集中する。

ジャイアントは、うざったそうに片手で顔をかばう。

けむくじゃらの手の甲に突き刺さったかにみえた矢は、巨人が片手を軽く振ったとたん、ぱらぱらと地面に落ちる。

皮膚をまったく貫通できていなかった。

圧倒的なまでの戦力差に、建物の上から射かけていた弓兵たちがひるみを見せる。

そこに、緑の皮膚の兵士たちが矢を射かけた。

人間の弓兵は、ばたばたと倒れていく。

「ジャイアントが盾になって、緑のやつが周囲を倒す。いい連携だな……」

「ホブゴブリン」

ぼくは、ミアに「へ?」と聞き返した。

「ホブゴブリン。ゲームでは、よくゴブリンの上位種、オークと同格の兵士として出てくる」

「あれが……そのホブゴブリン、なのか。というかゴブリンとか出てきてないだろ」

「あくまで仮称。ゴブリンは小柄な鬼として描かれることが多いから、そぐわないっぽい」

たしかに、そういわれればそうか。

どうせ仮称だ、適当につけておこう。

うまくすれば、白い部屋で名前を聞けるだろうし。

もっとも、白い部屋では、ヘルハウンドやジャイアント・ワスプの現地での名前は教えてくれなかった。

いや……違うのか?

ぼくたちが先に名づけてしまったから、教えてくれなかったのか?

そんな仮説について、ミアに披露する。

ミアは「かも、しれない」と呟いたあと、ぼくを見上げる。

「でもいまは、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない」

「あ、ああ、そうだな」

「アトリームにだって、モンスターくらいいましたよ。もっとすごいモンスターがね」

「ネタを入れたい気持ちはわかるけど、ごめん、よくわからない」

ミアはしょぼんとした。

それから、首をぶんぶん振る。

おい、英雄志願者、ネタに生きてどうする。

「ん。気を取り直して……どうする、カズっち」

ぼくはもう一度、戦場となっている町の西側を見渡した。

ジャイアントのうち一体が、主戦場から外れて、逃げる人間の兵士を追いかけだしていた。

チャンスだ、と思う。

「あっちのはぐれたやつを叩こう」

「人助けもできて、一石二鳥?」

「感謝はアテにしないでいこう。万一、人間からも攻撃されるという可能性も考慮したうえで」

ミアは、一瞬、きょとんとしたあと、ぽんと両手を打ち鳴らした。

「奇怪な術を操る、あやしいやつめ。さては魔女だな、的な」

「そうでなくても、ぼくたちの格好は……」

ぼくたちはいま、ジャージの上下に、リュックサックを背負っている。

日本人からすれば普通の学生に見えても、この世界の住人にとっては、どうだろう。

ぼくがちらりと見たこの町の住人は、粗末な一枚布の服を着ていた。

腰もとで紐を結んだ格好で、男性でもスカートを穿いているように見える。

いま逃げまどっている兵士の場合、その上に皮鎧だ。

ぼくたちの格好は、どこからどう見ても異質だろう。

異端審問にかけられても文句はいえない。

いや、文句をいう前に逃げるけど。

「それに、ほら。ぼくはモンスターにしか見えない使い魔を連れているし」

後ろを見る。

ウィンド・エレメンタルは、風でできた半透明の裸の女性だ。

ぼくだって、なんの知識もなしに見たら、モンスターだと思うだろう。

そんなものを複数体従えているぼくなんて、怪しいことこの上ない。

かといって、ウィンド・エレメンタルなしでジャイアントを倒せるとも思わない。

使い魔による護衛は、絶対に必要なのだ。

そして、この戦い、所詮は前哨戦だ。

MP消費はなるべく少なくして勝ちたい。

「ん。カズっちのMP温存は賛成。召喚を7にして、新しい使い魔、呼びたいところ」

召喚で呼び出す使い魔の強さは、おおむね武器スキル持ち生徒のマイナス2ランクあたりだ。

召喚ランク7で呼び出せるようになるケンタウロスナイトなら、槍術ランク5時代のアリスと同程度の強さ、ということである。

いやもちろん、アリスの方がずっとクレバーで、上手な戦い方をすると思うけれど。

あのジャイアントの強さについては、さっきから見ている限り、槍術ランク5時代のアリスなら、なんとかできる……そんな気がする。

無論、パワーはジャイアントが圧倒的だろうし、リーチでも負けているから、相応の戦い方は必要だろう。

でも、それはこれまでの戦いでも同じだった。

エリート・オークだって、ジェネラルだって、体格では圧倒的に上だった。

アリスやたまきは、その圧倒的なパワーの差を理解した上で戦った。

ときにいなし、ときには強引に懐に入り込むことで、身体的な劣勢を跳ねのけてきた。

ジャイアントが相手でも、その差がいっそうおおきくなっただけのことだ。

いや、その「だけのこと」が至極厄介であることは理解しているけれど……。

おおむね、方向性としてはそういうことだ。

そして、敵が単純バカなら、いくらでもやりようはある。

「まずは、一戦交えて、だな」

ミアはぼくと自分にフライをかけなおし、ウィンド・エレメンタル二体と共に町の内部へ侵入する。

建物の陰に隠れて低く飛び、南方、こちらの方に移動してくるはぐれジャイアントに接近する。

ジャイアントは逃げる兵士を追うのに夢中になっているようで、いまのところこちらに気づいた様子はない。

しかも、かなり本隊から離れてくれていた。

「ミア、まずはストーン・バインドでいけ」

地魔法のランク4、ストーン・バインドは、石に対してかける魔法だ。

幸いにして、この町の通りの一部は、石畳で舗装されている。

いまジャイアントが向かっているあたりもそうだ。

ストーン・バインドをかけた石は、強い粘着力を持つ。

石畳にかければ、ジャイアントの足の裏を地面に張りつけることができるはずだ。

うまくかかってくれれば、あとはもう、ミアが攻撃魔法の連打で仕留める。

無理なら、ウィンド・エレメンタルが足止めしている間に、やはり攻撃魔法の連打で仕留める。

どっちにしろ、ミアの攻撃魔法頼りになるが……。

ぼくがランク7の使い魔を呼び出せるようになるまでは、仕方がないところだろう。

幸いにして、足止めされた相手を効率よく殺せそうな魔法はあるのだし。

角を曲がったところで、ジャイアントの姿が見えた。

醜い顔の巨人は、ちょうど目当ての兵士を見つけ、これを踏みつぶしたところだった。

ケチャップのパックが潰れたように、赤黒い液体が飛び散る。

いまさら、これくらいの光景で動揺したりはしないけど……。

怒りは、沸く。

ぼくは拳をかたく握る。

「ん」

ミアがきゅっと口を引き結ぶ。

ぼくと同様、ミアだって怒っているのだ。

ジャイアントの近く、十五メートルほど離れた建物の陰で、着地。

顔だけ出して、巨人を見上げる。

ここに至っても、向こうはぼくたちの存在に気づいていない。

兵士を踏みつぶしたまま、満足そうにニタリと笑っている。

近くで見ると幼児のような顔をしていた。

ネオテニー、といえばいいのだろうか。

醜悪な顔だ、とぼくは思った。

「いくよ」

「ん。任せて」

戦闘、開始。